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森守り姫と狩人王子の仮婚約  作者: いとう 縁凛
第二章 狩人王子の仕事
20/52

19

「肉の話はとりあえずいい。違う話を聞いてくれ」


「っ、わ、わかったから、離してっ」


 言葉では拒絶していても、その手に余り力は感じられない。


 --っは! もしかしてこれが、耳つぶ? 確か、兄上は言っていた。何とも思っていない相手なら全力で拒否するが、少しでも気になっているのならそうはしないと。と、いうことは? もしかしてイリゼは、俺のことを?


 脳内を巡るめくるめく思いに気持ちを馳せていると、腕の中のイリゼが身じろいだ。


「サフィール。離して」


「す、すまない。強引だった」


「わたしも、ごめん。一方的に考えを押しつけた」


 --嫌だった、とは言っていないよな? ということは、つまり……?


 イリゼが少なからず思ってくれていると考えると、まるで雲にでも乗っているかのように足下がふわふわした。自然と、口角も上がる。


「……サフィール? さっきから変な顔をしているけど、どうしたの」


「変な顔になっていたか?」


「うん。なんか、物理的な距離を置きたくなるような顔」


「……それは酷い顔だ。そんな醜い顔を見せてすまなかった」


「べ、別にそこまでじゃないけど……それで、話って何?」


「ああ、そのことなんだが……イリゼは、誰か心に決めた相手はいるか」


「いや、いないよ。おばばにも、そろそろ相手を見つけてくれって言われているけど。そういうことってよくわからないから、興味ないし」


「そうか! それなら、一つお願いしたいことがある」


「お願い?」


「そう。内容は……」


 考えなしに話そうとして、思いとどまる。


 --ちょっと待て。街の存亡が関わっているとはいえ、イリゼに硬貨の話をしてもいいんだろうか。しかしそれを話さなければ、仮とはいえ婚約を申し込むなんてできない。いや、硬貨のことは伏せつつ、俺自身の気持ちだと言って申し込めば……? ゼロではない。イリゼが俺のことを少しは思ってくれているとわかって、嬉しかった。だが、そんな中途半端な気持ちでいいのだろうか。イリゼとはまだ交流も少ない。俺の思いより、正直に話した方が協力してもらえるんじゃないか?


 黙ったままのサフィールを、イリゼが窺うように見上げている。


「サフィール?」


 名を呼ばれ、決断した。


「実は、イリゼに協力してほしいことがある」


「うん、別にいいよ。内容は?」


 自分の人生を大きく左右するかもしれないのに、疑いなく聞いてきてくれる。そんなイリゼには、真正面から願いを申し出た方が良さそうだった。


 硬貨のこと、それに伴ってサフィールとイリゼが親しくなり、年が変わらないうちに婚約発表することを伝える。最初は驚きながら聞いていたイリゼは、やがて疑問をぶつけたいというような顔をした。それも当然だ。どうにか知り合い程度の交流しかしていない。


「協力してくれると言ったが、もしかしたらその気は失せてしまったかもしれない。それでも、イリゼに頼みたい」


 頭を下げた。イリゼはサフィールの肩を優しく叩くと、そのまま押して体を起こしてくれる。


「わたしに、ってことなら引き受ける。ちょっと前までだったら、わたしには関係ないって思っていたけど、今は違うから」


「それは、俺がいるから? あ、いや、違う。聞かなかったことにしてくれ」


「サフィールのことは、正直なところよくわからない。でも、会いに来てくれたと思ったら、少し嬉しかった」


 イリゼの言葉に、心が弾んだ。


「それで、婚約のために親しくなっておくっていうのは、具体的にどういうことをすればいいのかな? さっきも言ったけど、わたしそういうことに興味がなかったから何をすればいいのかわからないんだ」


「それなら、任せておけ。事前に知識を入れてきた」


 さあここからが見せ場だと、数少ない知識から今できることを捜す。


 --まず、ドン二種はないな。手を置くスペースがない。背後から抱きつくのも、今はおかしい。腕を引っぱってどこかへ行くのも違うし、肩に頭を置いて甘える雰囲気でもない。だとすると、『顎クイ』ができるのか?


 顎クイ。顎を持って、上を向かせること。


 --身長差を考えると、できなくはない。できなくはないが……。


 イリゼが、サフィールの答えを待っている。これが親しくなる方法だと、示さなければいけない。しかしながら、期待には応えられそうになかった。


「……すまない。持っている知識は、今は使えない」


「そうなの? じゃあどうしようか」


 せっかくイリゼが協力してくれると言うのに、何もできないでは申し訳ない。何かないか。そう思い、足下に落ちたままの鴨を発見して救われた。


「そうだ。イリゼ、良い機会だから鴨を食べてみないか」


「えっ……それは、嫌だよ」


「ちょうど、鴨がある。仕留めてしまったから、今更生き返らせることはできない。弔って埋めてしまうよりも、食べることで俺たちの生きる糧になってもらおうじゃないか」


「……サフィールが食べることは止めないけど、わたしは嫌だ。一度食べたら、レオンと一緒にいられなくなる」


「レオンは、イリゼの相棒だろう。鴨は友達かもしれないが、相棒じゃない。だから大丈夫だ」


「……よくわからない理論だね」


「鹿も、猪もいる。だが、レオンは周りにいる動物達とは姿が違う。レオンは特別だ。そうだろう?」


「それは、そうだけど……。食べたことがないからわからないけど、鴨を食べるときは丸焼きでいいの?」


「丸焼きでも美味いと思うが、切り込みを入れて香草を仕込んで、釜に入れて蒸し焼きにし、食べやすい大きさに切ることが多いと聞く」


「んー……釜はあるけど、どうしようかな」


「釜? 森の中に釜があるのか?」


「森には土と水がたくさんあるから。時間も余るほどあるし、手作りできるよ」


「火は? 釜があるというのなら、火はどうしているんだ?」


「え? 火なんて簡単に起こせるじゃん。やったことない?」


「ないな」


「じゃあ、普段の食事はどうしてるの? 毎日食べるでしょう?」


「出されたものを食べている。城の炊事場には何度も入ったことはあるが、火を使っているところは見たことがない」


「そうなんだ。じゃあ、せっかくだから火起こしからやってみる?」


「そんな簡単にできるものなのか」


「できるよ。まずは材料を集めようか」


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