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森守り姫と狩人王子の仮婚約  作者: いとう 縁凛
第二章 狩人王子の仕事
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 露店の中心、オネット商会に到着。店内へ入る。


 街一番と言われるのは確かで、日常生活を送るために必要な品々が揃っていた。生もの以外は全て取り扱っている。仕立屋に行けば初めから作れるが、すでに形ができている服も置いていた。棚ごとに品物が分けられていて、客として来ると探しやすい。広い店内を、よく一人で切り盛りしている。


「サフィール王子。よくぞお越し頂きました。今日は何用でしょうか」


「いや、申し訳ないが、今日の目的は買い物ではないんだ」


「では、何を?」


「お耳に入れておいていただきたい話がある。誰かに聞かれては困るので、少しだけ店を閉めていただけるか」


「はい、わかりました」


 サフィールの指示に従い扉を閉めてきたオネットに、宝石商から聞いた話を伝える。初めて聞いた話だと、目を見開いた。


「偽造、でしょうか」


「まだわからない。ただ、金を扱っていていつもと違う感覚になったら、問題の硬貨を手もとに残しておいてほしい」


「わかりました。気をつけるようにします」


「それと、わざわざ言わなくてもわかっていると思うが……」


「誰にも言いません。心得ています」


「すまない。まだ疑いのある硬貨が出回ってから間もない可能性もある。どこからかその話が漏れてしまうのは、首謀者を捕まえられなくなってしまうかもしれない」


「何かに気づき次第、ご報告します」


「そうしてくれると助かる。店を閉めてもらってすまなかった。ご協力、感謝する」


 オネット商会を出て、次の目的地である両替商のイニオンの元へ行く。


 新年を控える今、家具や服など新調する人が多い。そのときに重宝されるのが、品物と金を交換する両替商だ。オネット商会のように、商いをする者は大抵人通りがある街の中心に店を構える。しかし常に金を絶やしてはいけない両替商があるのは、ユージィに一番近い街の西端だ。


 店の中を通って行ける裏手には、ユージィへ続く石段がある。そこから降りていけば、道なりに街を下るよりも遙かに早く硬貨の補給ができるのだ。イニオンに話をした後その石段を使わせてもらえれば、シカトリスにも早く伝えられると思っていた。


 しかし店に行ってみると、昼食中と貼り紙があり不在。酒場へ行けばいるかもしれないが、多くの人がいるところでできる話ではない。頃合いを見て一人のときにすればいい。


 先にユージィのシカトリスと会うことにした。


 街の入口を守る兵士に頭を下げられ、手を振る。


 街を出ると、ミラという名の実をつける果樹園が街道沿いに続く。今はすでに収穫時期が過ぎてしまっているから、近くを歩いても甘酸っぱい香りはしない。


 しかし酒場へ行けばミラを使った果実酒もあるし、肉の味を引き立てる調味料になることもある。身を丸ごと使って焼き上げる菓子にもなり、様々な使い方ができる万能果実だ。


 街道を挟んで果樹園の反対にあるのは、ボナリーベ畑。夏と冬に旬を迎える野菜で、まさに今が収穫時だ。茎が赤く、葉も少し赤みがかっている。もう少し時間が経つとクセが強くなってしまうが、旬の時期ならば実だけでなく葉や茎も食用可能だ。


 畑で収穫作業をしている住人の様子を見ながら、西へ進む。ヒューツニビレーの土台になっている丘陵沿いに進んでいくと、ユージィがある。住居も隣接されていて、そこで働く人間は必要なものを買うときしか街に来ない。


 冬でも熱い作業場で働く職人たちに、シカトリスの居場所を聞きながら場所を移動する。住居として利用されている建物の、一番大きな部屋に求める人物がいた。奥の壁には、小ぶりの弓が飾られている。手の空いたときに狩りをするのかもしれない。機会があれば、その腕前を見てみたいものだ。


 イニオンと二人きりで何か話している。話しかけていいかどうか確認するため、扉を叩く。音に気がついたシカトリスが出迎えた。剃り上げた頭と、左目に傷。特徴のある顔だ。


「これはこれは、こんなところまでご苦労様です。何かあったのでしょうか」


「イニオンも、一緒に話を聞いてもらいたい」


「了解したっす」


 奥にいたイニオンがシカトリスの隣に立つ。


「硬貨を鋳造する責任者のシカトリスと、硬貨に触れる機会が多いイニオンに伝えておきたいことがある」


「なんでしょうか」


「つい先程、一年に一度だけ来る商人からある証言を得た。今年来たときに、どうも感触が違う硬貨があったという。去年はそんなことはなかったようなので、年が明けた頃から今頃までに、疑わしい硬貨が流通しているようだ。現物を確認していないから詳しくは伝えられないが、その商人曰く、重さや手触りに違和感があるらしい。二人とも忙しいとは思うが、疑わしい硬貨があったら、すぐに城まで知らせにきてほしい。頼めるか」


「はい、お安いご用です」


「イニオンはどうだ?」


 話の流れで自然に問うと、一瞬イニオンの目が泳いだような気がした。それを確認するよりも先に、シカトリスが彼の前に出る。気のせいだったかもしれないと思い、話を続けた。


「噂が本当なら、今後硬貨を鋳造できなくなるどころか、ヒューツニビレー自体も危うくなる。街を潰されてしまうと、二人も職を失ってしまうだろう。そうならないためにも、他言無用だ」


「了解っす」


 今度はイニオンの了承も得られ、安心した。


 ユージィを出て、街へ戻る。


 --オネット商会、両替商、ユージィ。この三つを押さえておけば、自ずと真相が明らかになるはずだ。


 ヒューツニビレーはサフィールが産まれ育った場所で、なくてはならない場所だ。それは街で育った誰にでも言える。


 --兄上、またご婦人に声をかけているな。腕を組む癖があるから、今日はクード嬢か。


 城へ戻る道すがら、オパルが女性に迫っている姿を目撃する。少年達は元気に駆け回り、パン屋の前では数人の子ども達が中を覗いていた。露店の前では、それぞれより安く品物を手に入れようと交渉している人が何人もいる。


 --平和、というのはこういうことかもしれない。いつもと変わらない日常を過ごす。それこそが最大の幸福で、王族の義務だ。


 硬貨偽造の件が本当で、それがもしヒューツニビレーでされているのだとしたら、大変な事態になる。食糧は、備蓄しているものがあるからしばらくは持つだろう。しかしそれも時間が経てば無くなる。問題が起きた街から出荷される品物は信用を無くすだろうし、取引もできなくなるかもしれない。


 平和な日常を守る。そのためには、早くこの一件を解決しないといけない。ただ待っているだけではいけないとわかっているが、その方法がわからない。どうするべきかと考えながら、謁見の間へ行った。


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