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考えながらゆっくりと歩いていた速度を上げる。急にそんな動きをしたからか、籠を持つ女性と衝突してしまった。咄嗟に抱きかかえ、立つまで支える。
「すまない。怪我はないだろうか」
「は、はい」
「そうか。それは良かった」
女性の無事を確認してオネット商会へ向かおうとすると、服の裾を掴まれてしまった。
「あ、あのっ、サフィール様っ」
「どうかしたか? やはり、怪我を?」
「い、いえっ、違うんですっ……お、お口に合わないかもしれませんが、精一杯作りました! 食べていただけないでしょうか」
緊張しているような様子で、女性が紙に包まれた菓子を籠から取り出した。包みを開いて中身を確認する。小麦粉とバターを合わせて作るもので、花弁を模したものが四つあった。
「ああ、これは美味しそうだ。ありがとう。頂戴する」
「あ、ありがとうございますっ!」
女性は頬を赤らめ、風を切るように頭を下げた。
--怪我はないと言っていたが、もしかして体調が優れなかったのか? だから俺がぶつかっただけでよろけてしまったのかもしれない。いや、男がぶつかればご婦人は誰でもよろめいてしまうか。気をつけなければ。
もらったばかりの菓子を持ち、石段を降りる。すると今度は、大きな布を持った女性がサフィールの前に立った。
「サフィール様! 丹精込めて織り上げました! もらってください!」
菓子を小脇に抱え、渡された布を広げる。サフィールの髪の色に合わせた肩掛けだ。
「良い色だ。これからまだまだ寒さも厳しくなるだろうから重宝する。ありがとう、頂戴した」
「はい!」
サフィールが受け取ったことを確認した女性は頬を赤らめ、熱っぽく潤んだ瞳をしていた。
--今年の冬は、どうやら相当寒いらしい。体調を崩さないよう、一度注意喚起しておいた方がいいかもしれないな。
自分が慕われているなどと微塵も考えないサフィールは、肩掛けと菓子を持って目的地を目指す。
天幕が続く広場まで来た。野菜や穀物を売る露店や、商店が集まっている。オネット商会は、ぐるりと円状に並ぶ露店の中心にあった。目的地までもう少しだと思っていると、パン屋の前で店内を覗く少女を発見する。
「もらいもので申し訳ないが、これを食べるといい」
「サフィール様!」
もらった菓子を、少女に渡す。すぐに包みを開き、口にする。
「美味しいです! ありがとうございます!」
「礼には及ばない。そろそろ昼食の時間になるんじゃないか? 早く家に帰って空腹を満たすといい」
頭を下げた少女に手を振り、露店の方へ目を向けた。すると、野菜の露店で値段交渉をしている女性を見て、建物の影から枝を持ってにやついている少年達を発見する。何かする前に声をかけておこうとしたが、間に合わなかった。
「へっへーん。どんなもんだい!」
あろうことか持っていた枝で女性の服を裂いていった。露わになってしまった脚を隠すため、急いで駆け寄り肩掛けで覆う。
「サ、サフィール様? どうかされましたか」
公衆の面前で辱めを受けてしまった女性だけに聞こえるよう、声を潜めて服のことを伝えた。
「少年達には俺から注意をしておこう。家までこの肩掛けを使うといい」
「ですがこれは、サフィール様が頂いたものではないでしょうか。私なんかが使わせていただくなんて、いけません」
「ご自分を卑下してはいけない。肩掛けはまたお願いできるかもしれないが、今は熱があるような顔をするあなたの体調を優先するべきだ。今年の冬は特に冷えるようだ。気をつけておくにこしたことはない」
「は、はいっ。ありがとうございますっ」
何度も頭を下げる女性に目礼で返し、露店の横を歩く。どの店からも威勢のよい客引きの声が上がっていた。




