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『長男だから、王位を継ぐか継がないかは、僕が決めていいんだよね。もちろん、そんな面倒なものはやるわけないよね』
振り返れば、サフィールが七歳のときにオパルが言った言葉で、その先の未来が決められたのかもしれない。三つ年上の兄は、そのとき十歳。既に何人も恋人を作っていた。
サフィールが狩りをし始めたのは、十歳頃。ヒューツニビレーの裏にあるノール森林は、鴨、鹿、猪など、様々な獣肉が獲れる場所だ。
祖父の祖父頃から、狩りをする王子が王位を継ぐという流れになっている。そんな決まりがなかったとしても、幼い頃すでに、サフィールの心は決まっていた。
現王より狩りを教わり、二十歳となった。今ではかつて師にしていた父を凌ぐほどの腕前となり、街にある酒場や城の炊事場にも獣肉を卸している。
十年も狩りをしていれば、どの獣がどの場所を好んで生息しているか、把握しているつもりだった。
--今まで、レオンを見たことがなかった。どこにいたのだろうか。
「んっん」
レオンと一緒にいた少女、イリゼのことを考えているとき、すぐ横で咳払いが聞こえた。今自分がどこにいたのかを思い出し、背筋を伸ばす。
「すみませんな、愚息が上の空だったようです。もう一度お聞かせ願えますか」
年に一度、新年を迎える一月前に来る宝石商に頭を下げる。
「はい、申し上げます。一年ぶりにヒューツニビレーで取引をしたところ、どうも硬貨が違うような気がするのです」
「違う、というのは?」
「はい。何が違うかと言われると、明言はできないのですが……手触りや重さが、少し違うような気がするのです」
「手触りと、重さか」
ヒューツニビレーは、首都エーレチノの郊外にある。東西南北別に認められている硬貨鋳造元の北支部を任されていた。
国内で使用されている硬貨は六種類。一モネ、五モネ、十モネ、五十モネ、百モネ、五百モネだ。その内の十モネ硬貨だけは、各支部を象徴する建物が裏に描かれている。とは言っても、北部以外でそれが使えないというわけではない。国内であればどこでも使える。
そんな、硬貨の鋳造を任されているヒューツニビレーの金に何か問題があれば、今後の存亡に関わる大問題だ。築き上げた信用を失い、街を潰されてしまうかもしれない。そうなってしまうと、ここで生活している街の人達が路頭に迷ってしまう。
「して、件の硬貨は持っておられるか」
「いいえ。手に持ったときに少し違和感があったのですが、とても些細な感覚だったので、気のせいかと思ったのです。しかしそれから少し時間が経過して、やはりおかしいと思い直しました。もう手放した後だったので、回収はできていません」
「そうか。実物があれば少しは何かわかったかもしれないが……ないのであれば、問題の硬貨を探すしかあるまい。サフィール、ここへ」
「はい」
王の横にいたサフィールは、玉座の前で膝を折る。
「普段から街を見回っているお主であれば調べられるはずだ。疑いたくはないが、もしかしたら街中に硬貨に細工をした者が潜んでおるかもしれん。内々に捜査せよ」
「はっ。かしこまりました。では早速、行って参ります」
「うむ。頼んだぞ」
王に一礼し、宝石商にも目礼をする。謁見の間を出て街へ急ぐ。門をくぐる頃、冷静さを欠いてはいけないと思い歩調を緩めた。
「サフィール王子。見回りですか」
「ああ、そうだ。何も変わりはないか」
「はい。全く問題はありません」
「そうか。では引き続き、よろしく頼む」
「はい。かしこまりました」
街と城の境目になる門兵には、住民に何かがあったときに報告を受けるという任務がある。その兵士が何も聞いていないということは、少なくとも住民はいつも通りの生活を送っているということだ。
門を抜け、街を下る。石畳の坂道と石段で成り立つこの街は、特殊な作りをしていると言えよう。丘陵に築かれたこの場所は、元の地質がとても頑丈だ。
天幕が並ぶ場所は開けているが、それ以外はどうにか住居を建てている状態になっている。屋根が繋がっていたり、他人の家を通らないと奥へ行けなかったり、梯子で繋げている場所もあった。
今は新年を控えている時期のため、一年で一番忙しい時期かもしれない。新しい年を迎えるにあたり、服や宝飾品を新調したり、旅行へ出かける準備をしたり、人が少なくなる前に店の在庫を売り切ろうとしたりしている。
謁見の間に来ていた宝石商のように、他の地域から訪れる商人や旅人も多い。金の流れが最も活発な時期でもある。
--内々に調査せよ、と命を受けたのはいいが、どうすればいいのだろうか。
今は、どの店でも金は動く。その中でも最も活発なのは三つ。街一番の商店であるオネット商会、両替商、そしてユージィだ。そこへ行けば、何か情報が得られるかもしれない。




