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森守り姫と狩人王子の仮婚約  作者: いとう 縁凛
第一章 森守り姫の生活
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「さて、イリゼちゃんの入会も決まったことですし、歓迎会を開きましょうか」


 前と同じじゃつまらないわね、どうしましょうかと上機嫌の会長を見て、近くにいた人に歓迎会のことを聞く。


「あの、歓迎会というのはどういったことをするんでしょうか。わたしも何か準備した方がいいですよね」


「どんな内容であれ、イリゼ様は身一つで来てもらえればいいと思いますよ。会長が好きでやっていることなので」


「そうですよー。イリゼさんは招待される側なんですから、気にしなくていいですー。それよりも、今回は何をやるんでしょう?」


「お泊まり、肝試し、舞踏大会。ああ、そういえば馬車を何台も出して、参加可能な会員全てで旅行なんてものもありましたね」


「えっ……そんなに大きな行事なんですか」


「今の季節を考えると、肝試しは除外されると思いますー。夜中に城内を歩いたら、風邪を引いてしまいますー」


「そうですね、そうすると旅行も可能性は低いですか。今は新年を控えているから、何かと忙しい時期ですし」


「となると、お泊まりか舞踏大会かのどちらかですかねー」


「あの、それはどういったことをするんでしょうか」


「そんなにかしこまることはないですよー。お泊まりはその名の通り、お城に二晩泊まって親睦を深めるだけですー」


「ふ、二晩も?」


「舞踏大会も、会長が選定された曲に合わせて、体力が続く限り踊り続けるだけです」


「そ、それは、また……疲れそうな内容ですね」


「意外と、そうでもないですよ。限界まで踊った後は、何だか妙な一体感もあります。一番仲良くなれる方法かもしれません」


「は、はあ、なるほど……」


 --歓迎会か……疲れそう。別に、そんな大々的に迎えてもらわなくても、逃げたりしないのに。あ、そーだ。屋根を壊して強制入会なら、直せばいいんじゃないかな? 踏み抜いちゃった感じだと、木の骨組みに雨避けの細工をしたもので葺いたみたいだったし……。形さえわかれば、あとは粘土を窯に入れて焼き上げるだけ。うん、できそう。


 考えた策を早速会長に伝えるため動こうとすると、歓迎会について教えてくれた二人に肩を掴まれた。どうやらイリゼが考えに没頭していた間に議論が交わされていたらしく、目がぎらぎらと輝いている。


「イリゼ様は、もちろんサフィール様ですよね?」


「もちろん、なんて決めつけはよくないですー。オパル様の方が素敵ですー」


「えーと、何がですか。すみません、ちょっと考えごとをしていたので、話がわからないんですけど……」


「ああ、そうか。イリゼ様は森で暮らしているからご存じないですよね。ヒューツニビレーには、王子様が二人いらして」


「あ、いえ、その二人はわかります」


「わぁっ! 普段街にいないイリゼさんにも知られているオパル様の魅力! 素晴らしいですー」


「ちょっと、それは聞き捨てなりませんね。イリゼ様は、二人、と仰ったんです。サフィール様が素晴らしいという話です」


「それこそ、勝手なことを言っているのではー? オパル様は溢れ出る大人の魅力がありますー。第二王子は、人からもらったものをそのまま流すような方ですよねー」


「いいえ、そうではありません。それはサフィール様の良いところを見ていない凡人が仰る言葉です。いいですか、サフィール様は人から頂いたものをそのまま横流しするのではありません。そのとき偶然困っている方を見つけて、助けるのです。異性と見ればすぐに声をかけるような、軽いお方ではありません」


「そんなことを言うのは、オパル様から声をかけられたことがない人だからですよー」


 イリゼの存在を忘れ、目の前で口論している二人。会長は歓迎会のことで頭がいっぱい。もしかしたらこのまま出れば逃げられるのではないかと、思う。白熱しているところで水を差してしまうと正気になりかねない。なるべく音を立てずに移動しようとして、がっしりと両肩を掴まれる。


「さあ、イリゼ様はどちらの王子を推しますか!」


 鬼気迫る表情が怖い。どちらの名前を挙げても、結果は変わらないような気がした。


 --サフィールとオパル。どちらかを選ばなければ命がないというのなら、断然サフィール。でも、そういうわけでもないから、どうにかごまかせないかな。


 黙るイリゼに、二人は爛々と目を光らせる。


 --ダメだ! どちらを選んでも後が怖い! だ、だったら、一方を選んでおけばその人とは円満な関係になれるかも……?


「さあ、イリゼさん。選んでくださいー」


 両肩に置かれた手の力が込められる。


「サ、サフィール派ですっ……!」


 早くこの場から去りたい一心で、名前を叫んだ。すると二人は、わかりやすい態度で哀歓を示した。サフィール派の彼女は力強く握った拳を掲げ、オパル派の彼女はこの世の終わりだと言うように、四つん這いになって絶望している。


 どんな言葉をかければいいかと思っていると、考えごとが終わったらしい会長が近づいてきた。


「グラァス、アッシィ。遊んでいないで手伝って頂戴。イリゼちゃんの歓迎会のために準備を急がないといけないわ」


「わかりました」


 それまでの態度が嘘のように、二人はしゃきっと立って会長の後に続いた。


 --じ、自由だなぁ……。それにしても、仮面をしているのに、名前を呼んじゃうんだ。じゃあ、なんでしてるんだろう。


 歓迎会のときにでも聞いてみようかと、一人残されたイリゼは思った。


 ようやく様々なことから解放されたと、空腹を知らせる声が鳴く。


「……お父さんのところ、行こうかな」


 街へ来るというだけで、なぜこれほどまでに疲れるのか。こんなことなら、やはり森の中で過ごしていた方がいい気がする。


 周囲を窺うように、外へ出た。


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