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森守り姫と狩人王子の仮婚約  作者: いとう 縁凛
第一章 森守り姫の生活
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「コルセットがなんですか! 底上げがなんですか! どうしてその努力を認めようとしないのですか! だったらそんなもの、必要ありません! 寒い時期、少し気を抜いたっていいじゃない! だって苦しいんですもの! 体を丸めて暖炉の火に当たってもいいじゃない!」


 そうだそうだと、周囲も声を合わせる。


「男は女を守るもの? そんな考えのくせに肝心のことはわからない。守る守ると言うのなら、絞って絞って底上げする苦しみから解放しなさい!」


 会長の言葉とともに、女性達が拳を掲げた。ひとしきり宣言した会長は、少し前の盛り上がりが嘘だったかのように冷静になる。


「とまあ、このように普段思っていることをはき出すところよ。今言ったことは、全ての女性の思いを代弁したの」


「は、はぁ……」


「それで、ソラムゥというのはコルセットの苦しみから解放されて、自由になるための場所でもあるの。まあ、本当の理由は他にあるのだけれど……」


 ちらり、と胸元を見られているような気がした。目元が仮面で隠れて見えないから、真相は定かではないが。


「ロンゴサニは身長と脚の太さの調和がいい人、オモプラーツは背中の美しさを褒め称えるの。そしてメートメートは、その三つをまとめたものよ。わたくしは、その会長を務めています」


「えーと、聞いてもよくわからないですが……つまりは、女性が集まって日頃の鬱憤を晴らそうっていう場だということですか」


「そうね。そんな解釈でいいと思うわ」


「あ、いいんだ。じゃあ、さっきから言っている緑髪の美脚魔女っていうのは……」


「あれは、何年前だったかしら。ヒューツニビレーに、一人の女性が現れたの。その方は一目で性別がわかるほど、素晴らしい体つきだったわ。でも、髪が緑。他所から来たことはすぐにわかった。初めのうちは遠巻きにしていた殿方たちも、あの方に魅せられて思いをぶつけていった。けれどウルチーモ様は、生涯決めた相手がいるのだと言って、誰一人として相手にされなかったの」


「魔女というのは振られた殿方たちがつけた呼び名ですの。ですが私たち女性があの方を魔女と呼ぶのは、その年齢にそぐわない妖美なお姿から。あの方に見つめられたら最後、性別なんて忘れて骨抜きにされてしまうと聞きますわ」


「おばば、そんなにすごかったんだ。足腰が悪くなっているおばあちゃんだと思ってた」


「ウルチーモ様はお体を悪くされているんですの?」


「あ、いえ、悪くって言っても年齢からくるものかと。杖をつきながらでも、薪は何本かまとめて運べるので」


「薪を? ウルチーモ様はどのような暮らしをされているのかしら」


「どのようなって、別に特別なことはしてないですよ。表皮を剥いで得た木の皮を細く裂いて、敷物を織るとか、蔓で籠を作るとか。まあ、さっき伝えた薪を運ぶなんて力仕事は、わたしができないときにやってもらうぐらいですけど」


「えっ……木の皮を剥ぐ? 木の皮で織物? 蔓の籠……?」


「あれ、みなさんはやりませんか? 頑丈だし、もし壊れても材料は森の中にたくさんあるから、すぐに作り直せるのに」


「ちょ、ちょっとそんな野性的なことは……ねえ?」


「え、ええ。私たちがやることといえば刺繍ですとか、織機でする織物ですとか、そういった室内でできることです」


 イリゼが当然のように伝えた日常生活の様子に、その場にいた会長以外の全ての女性が一歩下がった。


「さすがはウルチーモ様のお孫さんですわね。わたくし達も、イリゼちゃんを見習ってもっと逞しく生きないといけませんね」


「はい、会長」


 心理的にも距離が置かれたような気がして、少し悲しくなった。それほど特別なことだったのかと思っていると、会長がまた手を叩く。


「はい、皆さん。本日からわたくし達の仲間になった、イリゼちゃんに拍手を」


「えっ? 仲間?」


「そうです。メートメートにとって、全てを兼ね備えた女性は今までいませんでした。そこへ現れた、緑髪の美脚魔女の孫。わたくし達の美をさらなる高みへ誘うため、ご尽力を賜りたいですわ」


「えー、でもですね、たまたま落ちてきたわたしが、皆さんの崇高な目的を満たせるとは……」


 会長が天井を指さす。そこには、イリゼが入ってくるときに開いてしまった、大きな穴が一つ。


「わ、わぁ、良い天気ですねー」


「ご協力、していただけますわね?」


「はい……」


 オパルに見つかり、サフィールに抱き上げられ、さらには見るからに関わりたくない集まりへの強制入会。悪いことはこんなに続くものかとため息をこぼした。


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