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森守り姫と狩人王子の仮婚約  作者: いとう 縁凛
第一章 森守り姫の生活
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「なんでぇぇっっ!」


 砂塵を上げながら床にたたきつけられた。もうもうとした煙に視界を遮られる。今度はどこに落ちてしまったのかと、目を凝らす。


 先程は誰もいないと思ってオパルと遭遇した。今度はそんな油断はしないぞと、少しずつ落ち着いてきた部屋の中を見回す。


「えっ……」


 イリゼの視界に入ってきたのは、鳥のくちばし、鹿の角、そして白塗りの無表情。驚いてよく見てみると、それらは全て仮面だった。動物を模していたり、きらきらと輝いていたり、全身を布で覆っている人もいる。


 そう、何人もの人がいた。その誰もが、目元を隠している。なんて変な場所に落ちてしまったのだと思う。


 少し離れた場所から、イリゼを探すような声が聞こえた。この場にいる人のことはともかくとして、まずは隠れようと立ち上がる。すると、大きな鹿の角がついている仮面をした人が、安心させるように口角を上げた。


「大丈夫よ。ここは、魔物が出る場所だと噂されて誰も近づかないから」


「ま、魔物……?」


 確かに、この場所を知らずに偶然見かけたら、そんな思いにもなるかもしれない。捻れた角を持つ人も、本物の動物を凌ぐほどの迫力がある人もいる。


「魔物だなんて、失礼しちゃうわよね」


「そうよね、ここにいるのは全て女の子だけなのに」


 はぁーと頬に手を当ててため息をこぼす二人を見る。無表情に見えた仮面をつけた人と、捻れた角がある仮面をした人だ。そんな二人がさっと横に避け、その中心を鹿角の仮面をした女性が歩いてくる。


「それで、あなたはどうして上から落ちてきたのかしら」


 口元だけ見えるその人は、にっこりと微笑んでいるように思えた。オパルのときに感じたような身の危険を覚える。あのときは一瞬でも躊躇ってしまったがために、身の毛もよだつような思いをした。


 だから今度こそ、と立ちあがる。しかし、目の前の女性に道を開けていた二人に、両側からしっかりと押さえられてしまった。


「あ、あの……?」


 女性達は無言のまま、イリゼと同じぐらいの身長の人を呼ぶ。そして続けて太もも、ふくらはぎ、足首を両手で包まれた。何事かと思っていると、右側の一人が前に出る。


「会長。完璧です」


「そう。惜しい子は何人もいるけれど、こんなところに逸材がいたのね」


「今は服を着ていて確かではありませんが、恐らくソラムゥ(美乳の会)への入会の資格も十分かと思います」


「そう! 胸も脚も良いなんて、もしかしたら初めてじゃないかしら」


「か、会長……この子はもしかしたら、あの方の子孫かもしれません!」


 部屋の中にいた誰かが発言すると、一斉にイリゼに注目する。飛びこんできてからずっと見られてはいたが、さらに強い視線を感じた。


「だとしたら、ロンゴサニ(美脚の会)、ソラムゥだけでなくオモプラーツ(美背の会)も……っ!」


 興奮冷めやらぬといった様子で言う人に、周囲のざわめきが大きくなる。


 --ろんごさに? そら、何? 呪文みたいな……本当に変なところへ来ちゃったみたい。早く、逃げないと……。


 イリゼが逃げる算段をしていると、突然首から腰まで指を動かされた。


「ひっ」


「会長! 背中も、余分な脂肪がついていません!」


 イリゼの動揺なんて構わず、興奮している彼女たち。そんな彼女らを、会長が落ちつかせるために手を二度叩いた。


「皆さん! メートメート(極美の会)を創設してから初めての逸材です! 丁重にお迎えしましょう!」


「はい、会長!」


「えっ、なに? なに?」


 会長の命を受けた人たちが、イリゼを壁際の椅子へ座らせる。肘置きがあるその椅子は、まるでイリゼが座るために作られたと言っても過言ではないほど座り心地がいい。座面の大きさ、背もたれの絶妙な角度。どれを取ってもイリゼの体に合っている。


 足下で二人、膝を折った。おかしな雰囲気に、この場で使う言葉づかいを意識させられる。


「さあ皆さん。まれに見る逸材を……ごめんなさいね。まだお名前を伺っていなかったわ。なんておっしゃるのかしら」


「イリゼです」


「お年は?」


「今年十六になりました」


「お住まいは、どこに?」


「ノール森林です」


 イリゼの答えを聞き、また周囲がざわついた。


「その鮮やかな緑の髪を見たときからそうではないかと思っていたけれど……ウルチーモ様はまだご存命かしら」


「おばばを知ってるんですかっ?」


「やっぱり。イリゼ様は緑髪の美脚魔女のお孫さんだったんですね!」


「この完璧な体つきを見て下さいー。身長から割り出した脚の理想的な太さや、贅肉のない引き締まった背中。これほど素晴らしい方なのだから、お孫さんと知って納得ですー」


 恍惚とした表情を浮かべて足下に座る一人に、脚をなぞられ背中に指を這わされ、また逃げ出したくなる。しかし左側の女性がじっと見上げてくるから、そんな隙は作れなかった。ただただ、怯えながら話を聞くしかない。


「皆さん。少し落ちつきましょう。イリゼちゃんが困るでしょう」


「はい、会長」


 一声かけるだけで場が落ちつく。会長の統率力の高さがわかる。


「ごめんなさいね、イリゼちゃん。あらやだ。ウルチーモ様のお孫さんをそんな風に呼ぶなんて、ダメね」


「い、いえ……呼び方は、どうとでも……」


「まあ、本当に? ありがとう」


 両手を顔の前で合わせ、喜んでいる会長に、状況の説明を求める。


「あの……ここにいる方々は、どういう人なんでしょうか」


「ここにいるのは、皆さんこの街の女性たちよ。今日はソラムゥの集まりだったけれど、ロンゴサニもオモプラーツもあるから、もっと人がいるのよ。今日は用事があって来られなかった方もいるの」


「その、そらむぅ? とかろんごなんとかっていうのは、なんなのでしょう」


「あら、そういえば説明していなかったわね」


 会長が部屋の真ん中へ移動する。それに合わせ、イリゼの足下で座っていた人たちも体の向きを変えた。ザッと音を立て、会長が肩幅に足を開き、高らかに拳を掲げる。


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