無知な犬ほどよく吠える
「でね~、私のネコが超可愛いの! 私の足の間に顔を入れてね、じーっと私を見つめてくるの!」
「へぇ~」
二人の女性が話しながらこの店から出て行った。
「さて、始めましょうか」
もんじゃ焼きを食べながら、彼女は初めからエンジンが全快だった。
「もしかして、さっき隣にいた二人組のことか?」
「そうよ」
彼女はもんじゃ焼きをまた一口頬張り、話を続ける。
「まず、あのトークマシン女。まあ、ほとんどあのトークマシン女のことなんだけどね」
「それはマシンガン女と理解していいのかな」
「そうね。もう女とつけるのもめんどくさいから、マシンと呼びましょう」
こりゃ相当頭にきているな。繁盛する店内の中、僕はラムネを飲んで彼女の声に集中する。
「もんじゃ焼きを作るとき、店員さんが『こちらでお作りしましょうか?』って聞いてくれるじゃない」
「そうだな。このもんじゃ焼きも、店員さんに作ってもらったしな」
「そう、美味しく食べることに関して言えば私たちの選択はアリ。それに、手馴れた人が自分で作るのもまたアリだと私は思うの」
それは僕も同じだと頷いた。
「でも、あのマシンはそのどちらでもなかった」
「どんな対応したっけ?」
「あのマシンは店員の誘いをまず断った。ここまでは別にいいのよ。だって、自分で作る人もいるから」
「ふむふむ」
「店員がいなくなってから、あのマシンはこう言ったのよ。 『で、これどうやって作るの?』って!」
「そうだったか」
「そうだったのよ!」
彼女はラムネをぐいっと飲んで、言葉を放つ。
「そうしたらマシンの友達が、豚肉を最初に焼いてから他の具材を炒めて手際よくもんじゃ焼きを完成させたのよ。ただただその様子をコーラを飲みながら『へぇ~』とか言いながらね」
よくこんな賑わっている店内でそこまで言葉を聞くことができたなぁ、と思いながら僕はもんじゃ焼きを口にする。
彼女はもう一度ラムネを勢いよく飲み込んだ。
「もう一つ、いいかしら?」
「気の済むまでどうぞ」
彼女は「どうも」と呟いて、もんじゃ焼きを一口入れてから話をはじめた。
「あの二人の会話、気づいた?」
「いや、何も」
「それは嘘ね。だって、さっき自分で言っていたじゃない」
「さっき……」
もんじゃ焼きを一口食べて考えてみる。
「ああ、そういうことか」
「そう。あの二人の会話の九分九厘がマシンによるものなのよ」
彼女は話を続ける。この鉄板よりも熱い感情が言葉にこもっている。
「私はマシンの話を一部覚えているわ。確か……」
『最近コーラをいっぱい飲んでいる。そうしたら家で母親が私のコーラを飲んでいて、あまりにも久しぶりでとてもおいしいとガンガン飲んだ。そうしたら変なところに入って、鼻から吹き出した』
「よく覚えてるな」
「いやでも覚えるわよ。あんな話」
じゃあ、僕は一体何なのだ?
「それに対して友達は何て答えたか知ってる?」
「いや、それは分からないな」
「『私、コーラ嫌い』よ」
僕は思わず噴き出してしまった。
「最高だ」
「最高よね」
鉄板に広がっていたもんじゃ焼きがなくなったタイミングで店員がやってきた。
「お待たせしました、広島風お好み焼きです! こちらでお作りしましょうか?」
「いいえ、大丈夫です」
彼女は微笑んで断り、腕まくりをした。
「作ったことあるのか?」
「いいえ、ないわよ」
「まさか、作るのか?」
「もちろん。マシンとは格が違うわ」
大きな器の中身や卵、麺を確認しながら彼女は喋る。
「見た目なんて気にしなくてもどうにかなるわよ。食べてしまえばどうにかなる」
そう滑らかに言って、彼女は焼きそばを作りはじめた。最初に生地を作るはずなのに。
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