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その勇者、魔王と共に在り  作者: 八納
序章 「一緒に首謀者を殺そう」
1/1

第00話 真実、提案

純愛とか溺愛とかも大好きだけれど、狂愛のが好きなんだよなー(恍惚

 瞬。

 

 まるで処罰を下すかのように、上から振り下ろされる白い細光。

「――――ッ!!」

 〝マズい〟。

 本能的にそう察した少女は線上から飛び退いた。

 途端、爆ぜた。

 目も眩むような光が生じ、線上どころかその周辺の物全てを吹き飛ばさんと風が迸る。

 数秒遅れて空間を、大気を震撼させるような爆音が轟いた。

(アレが今代の勇者だと……。最早魔人じゃあないか)

 顔を顰め、唾を吐き捨てる。

 だが此処で諦める訳にはいかない。

 諦めようものなら、きっと正眼で今も猶気怠そうに詠唱(スペル)を口ずさむ男は、魔族の全てを鏖殺する事だろう。

 そう言う男だ(・・・・・・)

 出会って、刃を交えてまだ数十分だが、解る。

「なぁ」

 そこで唐突に男が口を開いた。

 手にしていた魔道書を閉じ、溜め息を吐くと、


「止めようぜ。もう」


 そう、言った。

「何……?」

「だから、飽きた。止めようぜ。殺し合いなんてさ」

「どう言うつもりだ。動揺でも誘っているのか?」

「いやいや」首を左右に振って「飽きたんだよ、もうさ」

「飽いた、だと……?」

「あぁ」

 極めて素直に、それでいて率直に男は頷いた。

「貴様、ふざけるなよ!」

 少女は、拳を握り締め叫んだ。

「何が飽いた、だ。どれだけの同胞を殺した。吊るし上げた。晒し者にした!!」

 少女を中心に、石畳の路面がへこんだ。

 怒りに、恨みに、辛みに同調するようにして。

 だが男はそれを笑うと、

「それはお互い様だろ?」

 と首を傾いだ。

「じゃあ逆に聞くけどさ、お前ら魔族はどれだけの人を殺した。舐った。犯した?」

「何だと……?」

「殺し殺され、侵し蹂躙し――いやいや、これじゃあ終わらないじゃないか」

 呆れたように肩を竦めて男は言った。

「延々と、永遠と、続けるのか? 阿呆臭い。なら俺が纏めて消してやるよ。人間も、魔族も」

 ひひ、と正真正銘のヒールの如し笑いを零せば、

「まぁ、しねえけど。面倒臭いし」

 手をひらひらと振って続けた。

「で、此処からは提案なんだがね――」そう羽織っている奇妙な生地のコートのポケットに手を突っ込み、少女へと男は歩み寄る。「構えんなよ? 構えたら迎撃せにゃならんしな」

「……――」

「そうそう。それで良い。――でだ、俺は今回の騒動、つまり〝魔王を殺さなきゃ世界が終わる〟って言うのの首謀者が誰か大体分かってるんだ」

「何!?」

 それは本当か、と逆に少女が男へと歩み寄った。

「アンタも気づいてたろ。俺の術の殆どが躱し易いものだと」

「あ、嗚呼。直線上だったり、薙ぎ払いだったり可笑しいなと思っていたが……」

「それは単純だ。アンタを殺す気なんて最初からなかったんだよ」

「ふむ……」

「で、此処からが提案だ」

 両手を大きく広げ、


「一緒に首謀者を殺そう」


 歳相応のあどけない表情をした男――いいや、青年は、清々しく、それでいて狂人極まりない事をあっけらかんと言い出したのだった。


 ***


 大峠久人(だいとうひさひと)


 第十九代勇者として召喚された彼の力は、たった一人で百の魔族の軍勢を葬れる程の物であった。

 真正面から立ち向かったところで勝目のない相手、または最早人ではないとすら形容される久人だったが、三年前、単独で魔王城へ攻め込んだ後、その消息が途端に途絶える事となる。

 曰く、魔王と相討ちになった。

 曰く、魔王との戦闘中に崩れた城の下敷きとなった。

 教本や歴史書に載った逸話の殆どが正確なものではあるが、そのどれもこれもが死に様だけは曖昧であり、妄想から描かれた産物であった。

 今も猶彼が生きていると信じている者達も居るようだが、その狂信ぶりも三年と消息が解らないままであるために、着実に廃れつつある。

 

 そうしてついに十年の時が経った。

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