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3:案外嫌いじゃないらしい

「納得いかねぇなぁ」


 ぶつぶつと独り言、ではなくなった愚痴を吐きながら未開の地、東方面へと歩みを始めた俺達。ふわりふわりと俺の周囲を浮遊してみせるもう一人の俺は、ニコニコ顔で呑気なものである。


「納得いかねぇ」

「もぅ、いつまで言ってるの相棒? ほら、あそこなんて涼しくてよさそうよ!」


 納得いかねぇ。なんで姿形、顔までまんま俺の幽霊みたいなやつが女言葉なのか。自分自身が女口調、仕草をしている姿を想像するだけで吐き気がする。いや既に自己嫌悪である。


「あんな意味のわからん洞窟に入れるか! なんで密林地帯の一部が陥落して洞窟が出来るよ? 明らかに怪しいから却下だ」

「ふふっ、怖がりさんめー」

「うるせっ! 普段ならともかく明かりを灯す魔力すらねぇんだよ、あんな場所を拠点にできっか」

「そうだね、ごめんね?」

「なんだよ全く、無駄話で足を止めてる余裕なんかねぇんだ、行くぞ」


 傍から見れば独り言を続け、ジェスチャーを交え喜怒哀楽をみせるナイトゥは異常な姿であったが、それを突っ込む者は誰も居ない。勿論ナイトゥ本人も、この異常性に気付くだけの余裕は無かった。 


「ほら、今度こそベストポジション!」


 もう一人の俺が指さす先へ半信半疑で視線を移す。すると、木々の生えていないエリアがひっそりと広がっていた。丁度正午ごろなのか、まっすぐに日の光を受け入れる大地は輝いて見えた。


「ああ、よさげな場所だな」


 思わず良くやったという時の癖が出る。ハイタッチを交わそうと手を挙げた俺だったが、相手がキモイ俺自身だと思い手を引こうとするが、途端パチン、という破裂音が手のひらから鳴り響く。


「くっ……」


 瞬間、足が折れそうになるほどの疲労感に見舞われる。だが、かろうじてその場で踏みとどまる。


「一体何が?」

「大丈夫? 早くいこっ」

「ちっ、俺の苦労も知らずに呑気な奴め」


 俺を引っ張るかのように先導するもう一人の俺について、日差しを一身に浴びることのできるエリアの真ん中にたどり着く。何気なく大地に背を預けると、久々の食事に丁度良い温度を保ったぽかぽか芝生に体は沈み込み、俺の意識は深い眠りへと誘われるのだった。


「おやすみ相棒、起きたら……」


 俺が眠る前に、もう一人の俺が何か言っていたようだが、俺の耳には最後までその言葉は届くことはなかった。




「ん、寝ちまったか?」


 体を起こすと、周囲は暗闇が包み込み開けた場所で眠りについたはずなのに、一切周囲の情報を視野情報から取り込むことが出来なかった。


「曇ってるのか、くそっ! おいっ、俺!? どこだ!」


 手を伸ばし辺りを探るも、何も触れるものはない。無暗に歩みを進めるわけにもいかず、一人縮こまりながら声を張り上げる。


「聞いているんだろう? おいっ、俺は起きたぞ! いい加減出て来いよ!」


 俺の声は暗闇に吸い込まれるだけで、一切の反応は帰ってこない。夜目が徐々に効いてくるも、俺がみた周囲の景色は孤独が渦巻いていただけであった。


「何、だよ……どこいっちまったんだよ! おいっ! 答えろよ! おいっ! なぁ、実はどっかで聞いてんだろ? ああ、なるほどな! こうやって時間差で驚かす作戦だな? 残念だったな! キモイお前なんか居なくて結構! あーあー! すっきりしたぜ! ああ、ああ……本当に、すっきり、したぜ……なぁ?」


 声を張りながら、両手を前に突き出しながら何とか見えた木をとらえ背にやる。何故かファイティングポーズをとりながら、俺はかすれた声を放つ。


「なぁ? 嘘、だよな? 誰も居ないのか? 俺、ここで……くそっ!」


 嘘だよ。お前がキモイのは本当だが、居てくれるだけで俺は俺で居られた。第三位という肩書を背負い、有者の従者になるべく自己鍛錬を続け上を目指し続けた強い俺で居られた。


 蓋をあけてみれば、魔法が使えず一人っきりでは何もできないただの一六歳の少年でしかなかった。そうだ、俺は弱い。だから二位にも、一位にも届かなかった。あまつさえ、格下の魔法使いたちに出し抜かれるのも納得がいく。


「何て、無力なんだ……」


 これが俺の最後の独り言となった。




 結局、日が昇るまで三角座りで数時間を過ごした。その間、もう一人の俺は現れることがなかった。何故か、頭上に俺の姿をしたアイツがいるような気がして、視線を上げた。


 奇跡か偶然か、はたまた気づいて居なかっただけなのか。頭上には赤い果実が大量になっていた。甘い香りが漂い、それがイチゴだという事はすぐに理解できた。


「ハハッ、ハハハ」


 アイツを探そうとしたら、イチゴのなる木の真下まで移動していたらしい。しかし、イチゴが木になるなんて聞いたことがなかったが、そんなことは今はどうでもいい。


 アイツも腹減ってるだろうしな。そう思い木登りをしてイチゴをむしりとっては頬張る。


「あめぇ……」


 途端、体中に魔力の息吹を感じ取る。


「間違いねぇ、魔素がつまってやがる!?」


 魔素の補充が通常の食事よりも出来ると分かった途端、木になるイチゴを一心不乱に摘んでは口の中に放り込んでいく。そして、自然と言葉が漏れ出る。


「ご馳走様」

「ふふ、美味しかったね?」


 期待を裏切らないやつだ全く。こいつ、俺の魔素がなきゃ体を維持できねぇんでやんの。ははっ、燃費の悪いやつだ。


「もう、どこにもいくなよ」


 俺は言いながら、相棒の声・気配のする方へと向く。


「ええ、勿論よ」


 その姿を見た瞬間、太陽を覆っていた雲がはけ相棒の姿は神々しい光を纏っていた。


「お前、その姿……」

「どう? 良いでしょう?」


 短髪だった俺の髪型はセミロングになるほどまでに伸びていた。さらに、青シャツだけだった俺の衣服は跡形も無く、真っ白なワンピースに身を包んでいた。


「……」

「驚いた? キモイキモイいうから、ウィッグとワンピース作るのに魔力、少しもらったから!」

「ちょっと待て」


 俺は色々な節に思い当たる。


「まさかお前、体の維持に魔力を使ってるよな?」 

「ふふん、勿論よ!」

「まぁそこは百歩譲ろう。ハイタッチした時、俺に振れたよな?」

「ええ、勿論」

「あの瞬間、まさか俺の魔力を」

「使ったわ! そうしないとハイタッチできないじゃない?」


 腕を組み、最後の質問である。


「お前、その服とウィッグ」

「ふふ、相棒の魔力って凄いわよね! こんなにもディティールの良い可愛いワンピースに、毛先サラサラのウィッグまで作れちゃうんだもの。よっ! 世界一!」

「てめぇ! 魔力を返せ! そのくだらない物に俺の魔力を使うんじゃねぇぇ!」


 先ほどのイチゴで補充した魔力で、俺は転送魔法を使えたかもしれないのだ。それを、それをコイツはあろうことか……と思うのは一瞬だけで、すぐに俺はもう一人の俺を捕まえるべく追いかけだす。


「きゃっ、そんなに喜ばないでよー」


 決して、似合ってるとは口が裂けても言えない俺は、案外コイツといる時間が嫌いじゃないらしい。俺たちはしばらく、無邪気に追いかけっこを続けるのであった。

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