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巻ノ五百拾弐 開け!大本営政府連絡会議を の巻

 焼け野原となった旧伊東領の復興援助をすべく緊急援助隊が派遣されて一週間が経った。経ったのだが……


「藤吉郎からの報告は何とも要領を得ないなあ…… 本当に上手く行ってるんじゃろか?」


 大作は薄っぺらいA4縦くらいの紙に乱雑に書かれた文字から視線を上げるとお園の顔を見やった。


「どうなのかしら。大佐がそう思うんならそうなんじゃない? 大佐ん中ではねえ……」


 急に話を振られた美少女は一瞬だけ視線を向けてきた。だが、すぐに小首を傾げると干し柿を小さく齧ってほうじ茶を一口飲み込む。その顔には我関せずという文字が極太明朝体で書いてあるかのようだ。

 まあ、それはそうなんだろう。俺だって本当を言う佐土原がどうなろうと知ったこっちゃない。

 大作も禿同といった顔で小さく頷くと藤吉郎からの日報をバインダーに仕舞い込んだ。


「さて、今日の予定はどうなってたっけかなあ? 美唯、スケジュールの確認を……」


 その時、歴史が動いた! 何の前触れもなく襖が開くと見知った顔が姿を表す。


「大佐! まだ着替えていないの? もうすぐ評定の刻限よ。遅れたら皆に示しがつかないわ。早く支度して頂戴な!」

「ああ、おはようサツキとメイ。今日も朝から元気だな。ところで評定だって? 俺、そんなの聞いていないぞ? 美唯、スケジュールの確認を……」

「いいから早く着替えて! まさか寝巻きで出るつもりじゃないでしょうね? それこそ下の者に笑われちゃうわよ。お園もぼぉ~っとしてないで手伝って頂戴な。ささ、帯を解いて寝間着を脱いで……」


 まるで着せ替え人形のように衣服を取り替えられた大作は布団を畳むのもそこそこに寝室を後にする。

 サツキとメイに両脇を抱えられるようにして連行される姿はさながらエリア88で捕獲されたエイリアンの如しだ。


「違うわ大佐。それはエリア51でしょうに」

「はいはい、ツッコミご苦労さん。知っててわざとボケたんだよ」

「しょうがないわねえ。そういうことにしといてあげるわ」


 そんな阿呆な話をしながら歩くこと暫し。だだっ広くて殺風景な座敷に辿り着く。

 輪を描くようにずらりと並べられた座布団のほとんどは埋まっていた。

 桜や楓、菖蒲、桔梗、紅葉、エトセトラ、エトセトラ…… その殆どが十代後半の美少女だ。

 女の園というか男子禁制というか。これじゃあまるで大奥に迷い込んだ茶坊主だな。とっても居心地が悪くなった大作は小さく縮こまってしまう。


「えぇ~っと…… ここに座らしてもらおうか、お園」

「あのねえ、大佐。二人は上座よ。こっちこっち」


 またもやサツキとメイに引っ張られて大作は半強制的に座敷の奥へと追い立てられる。


「何だよ? 俺は好きな座っちゃいかんのか?」

「指定席なんだからしょうがないでしょう。さっきの席だって座る人が決まってるんですからね」

「そ、そうなの? そいつは済まんこってすたい。っていうか丸座になってるのに上座なんてあるのかなあ?」


 二人が席に着いたのを見計らうように襖が静かに閉じられる。

 一瞬の間をおいて大作から見てお園の反対側に座ったサツキが口を開いた。


「それでは定刻となりましたので只今より大本営政府連絡会議を始めます。まずは統帥部より薩摩と日向の現状報告をお願い致します」

「統帥部次長の山茶花よりご報告します。お手元の資料をご覧下さい。薩摩における備蓄米の配布は予定通りに三回目を完了しました。これにより当面の食料不足はほぼ解消したと考えております。今後は各地の出張所にて個別対応を取る予定にございます」

「現地の要望を聞き逃さぬよう用心して頂戴ね。間違っても放ったらかしになどしないよう用心するのよ」

「心得ましてございます。続きまして日向の復興住宅の建築状況は……」


 大作はレジュメに視線を落として書いてある文章を読んでいるふりをするが退屈で退屈でしょうがない。

 助けを求めるようにお園に視線を送ってみるが真剣な顔で発表に聞き入っているようで気付いてすらもらえない。

 これはもう駄目かも分からんな。だったらもう、だったらもう……


「では続いて作戦部から今後の国策遂行要領に関してご説明を申し上げます。お手元の資料の……」


 妄想の世界に逃避しようとしていた大作の意識が突如として現実に引き戻された。


「国策遂行要領ですと?! とうとうシベリアに出兵するのか? シビル・ハン国を救うには一日でも早い方が良いもんなあ。んで? 派兵の規模は? 指揮は誰に任せるんだ? 早く教えてくれよ」

「どうどう、餅ついて大佐。シビル・ハン国は時期早時…… じゃなかった、時期尚早よ。今日の議題は薩摩と日向を治める私たちが次に攻める先についてなの。手近な大隅を先に攻めるか。あるいは大隅を後回しにして肥後を平らげるか。それを決めようって話なの」

「あのなあ、お園…… どっちみち両方とも攻めるんだからどっちが先でも良いじゃんかよ。コインでも投げて決めたらどうなんだ? それか両方同時っていうのもありかもな」


 真面目に考えるのが阿呆らしくなってきた大作は唇を尖らせて吐き捨てる。

 だが、この言葉に刺激を受けたのだろうか。車座に加わった少女たちが声高に叫びだした。


「畏れながらお園様。陸軍総司令部(OKH)としては土佐の一条を攻めるのが宜しかろうと存じ奉りまする。これは前に大佐も申しておられたお考えにございます」

「いやいやいや! 瀬戸の海を押さえる事こそ先決ではござりますまいか? 海軍作戦部(SKL)といたしましては村上海賊を討ち果たすべきかと存じます」

「何を戯けたことを申すか、山吹。海軍の現有戦力で斯様な事が叶う筈もなかろう。まずは地続きの大隅か肥後の何れかを攻めるのが上策かと。此れが国防軍最高司令部(OKW)考えにございます」

海軍最高司令部(OKM)からも加えて言上仕る。此度の佐土原城攻めは伊東殿と事を構えること必ずしも本意ならず。次なる戦においてはその義お汲取りの上、ご勘定在らん事を請い願い奉る」


 さっきから何だか話の流れが変な方に向かっているようないないような。聞けば聞くほど嫌な予感がしてしょうがない。

 こういう時はちゃぶ台返しに限るぞ。大作は両の手を大きく打ち鳴らして全員の注目を集めた上で宣言した。


「だったらもう全部乗せだ。陸軍は大隅、肥後へ同時侵攻。海兵隊は土佐の一条を攻める。海軍は村上海賊の征伐だ」

「然れど大佐。薩摩と日向の平定から日も浅い今、大隅、肥後を一度に攻めるには兵が足りませぬ」

「予備役を動員して薩摩、日向に回せ。土佐への兵力移動と補給は東郷の水軍に協力を求める。村上海賊討伐は我々の海軍だけで事足りるだろう? 一度に潰さなくてもヒットアンドアウェイでチクチクと戦力を削っていくだけの簡単なお仕事だ」

「そ、そうは申されますが…… 東郷に借りを作る事にはなりますまいか?」


 眉間に皺を寄せた海軍作戦部長の睡蓮が不安そうに小首を傾げる。


「あのなあ…… 貸し借りで言ったらどう考えても俺たちの方が一方的に貸し付けてるじゃろが。東郷が債務超過で倒産しちまうんじゃないかと心配だぞ。兎にも角にも大隅、肥後、土佐への侵攻と村上海賊の討伐を同時に行う。これは決定事項だ。反対意見は受け付けん!」

「……」


 その場に集った全員が全員、黙ったまま目を伏せる。座敷はまるでお通夜のように静まり返ってしまった。


「お呼びでない? お呼びでない? およびでな~い! こりゃまった失礼いたしました!!!」


 言うが早いか大作は脱兎の如くその場を後にした。


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