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巻ノ参拾伍 ほのか襲来 の巻

 夕飯を頂きながら大作はさっき見た夢をみんなに話した。みんな笑ってくれると思っていたのに何故だか気まずい沈黙に包まれる。

 藤吉郎は耳まで真っ赤になって目尻に涙を浮かべ小刻みに震えだす。残り三人も明らかに挙動不審だ。

 何か知らんけどまた地雷を踏んだのか。とりあえず謝った方が良さそうだと大作は思う。だが一瞬早くお園が口を開いた。


「大佐は気付いていなかったの? 藤吉郎はおん……」

「お待ち下され、お園殿。某からお話致します」


 藤吉郎がお園の言葉を遮る。何この展開? 俺が藤吉郎を泣かせたみたいじゃないか。大作は一発ガツンと言ってやろうと口を開く。


「俺は藤吉郎を馬鹿にしたんじゃないぞ。憲法第二十四条二項に書いてある。『配偶者の選択、財産権、相続、住居の選定、離婚並びに婚姻及び家族に関するその他の事項に関しては法律は個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して制定されなければならない』と。男女両性の本質的平等を謳った条文だ。男と女で五十万周期も戦争してるわけじゃないんだし仲良くやろうぜ」


 久々に全員がぽかーんとしているのを見られただけでも弁舌を振るった甲斐があった。大作は十分に満足したので食事に戻る。

 一同に笑顔が戻り、藤吉郎も何かが吹っ切れたようにはしゃぎだした。




 夕食の後、若い女が部屋まで宗達からの言付けを伝えに来た。背はお園より少し低いが胸がメイより二回りは大きい。

 こいつ本当に人間か。何を食ったらこんなに育つんだろう。優しそうでおっとりした感じだが、かなりの美人だ。お園には負けるけど。


(わたくし)めは大佐様のお供を申しつけられました、ほのかと申します。お見知りおきを。明朝の船が手配できました。銭もそれまでに用意するとのことにございます」

「拙僧のことは大佐で結構です。まさかお供が女性(にょしょう)とは思いもよりませなんだ。随分とお若いようですな」

「十八になります。大佐は珍しき異国の言葉をご存じとお聞きしました。もし船の上で(いとま)があれば是非とも私めにもお教え下さりませ」

「Trust me! 俺に任せろ」


 筑紫島に船で行くって言ってるのにお供が女だと。しかも巨乳格ゲーキャラだとは。宗達の奴は何を考えてるんだろう。俺のラピュタ王国を格ゲーで乗っ取るつもりなのか?

 かすみ、あやねは無理やり名前を変えさせたけどこいつは無理だよな。そうだ、ほのかはほのかでもこいつは学生アイドルの方だ。大作はそう思い込むことにした。


 なんだかんだで女を三人も連れて二週間も船旅をする羽目になってしまった。仮面を被った好色皇じゃあるまいし勘弁して欲しい。まあ、ほのかは仲間じゃ無いから用が済んだらおさらばだ。一緒にいる間にせいぜい楽しいイベントを発生させようと大作は割り切る。


 ほのかが立ち去ったのを確認した後にサツキが口を開く。


「大佐。あの女、恐らくは伊賀のくノ一にございます。服部の手の者かと」

「やはり津田様も伊賀と繋がりがあったのか。まあ、利害は一致しているんだ。過剰に警戒する必要もあるまい」

「もし大佐に(あだ)なすようなことがあれば容赦しないわ。無限天津流の名にかけてあの女を倒す」


 メイが鋭い目をして訳の分からんことを呟いたのが大作にはとても頼もしく聞こえた。


 睡眠不足で船旅は辛いだろうからお園とメイは早目に寝てもらう。

 藤吉郎とサツキには少し夜更かししてもらって可能な限り質疑応答を受ける。

 次に会えるのはいつになるか分からない。手紙を出しても往復どれくらい掛かるのか、そもそも無事に届くかすら分からない。下手したら二度と会えないのだ。最悪、二人だけでも海上保険や先物市場が上手く行くようにだけはしておきたい。

 はっきり言って二人には金山開発の捨て石になってもらうような物だ。その罪悪感もあって大作は珍しく真剣に説明した。


 夜も更けたころ三人は床に就いた。




 翌朝、朝食を終えると宗達とほのかが連れ立って部屋にやって来た。

 ほのかが大きめの弁当箱くらいの木箱を部屋の真ん中に置く。見掛けとは裏腹に非常に重そうだ。

 宗達が勿体ぶった仕草で蓋を開けると中には金色をした様々な形の小さな塊がぎっしりと詰まっていた。


 まだ貨幣体系が成立する以前の戦国時代なのでインゴット的な秤量貨幣しか無いらしい。竹流し金、蛭藻金(ひるもきん)、甲斐の碁石金など雑多な金塊がごちゃまぜになっている。


「十人衆で二百匁ずつ。手前はさらに二百匁で二貫目二百匁になります」


 宗達と大作以外の全員、こんな大金見たこと無いって顔をしている。

 大作は土肥金山資料館にある世界最大の二百五十キロ巨大金塊を見ただけでなく、直接手で触ったこともある。

 なので『たったのこれだけ?』と言いそうになったが辛うじて我慢した。

 なにせ金は重いのだ。体積は五百ミリリットルの牛乳パックくらいしか無いけれど重さは八キロくらいあるはずだ。

 って言うかこれ誰が運ぶんだ。まあ良いか、九州に着いてから考えよう。


 証文に署名を求められたので大作は精一杯達筆に見えるよう頑張って大佐と書いた。




 そのまま全員で船着き場まで移動する。重たい金は交代で運ぶ。九州に着いたら何日も山道を歩かなければならないことを考えると大作は早くも嫌になってきた。


 宗達に連れられてたどり着いたのは伊勢湾で乗ったのより二回りくらい小さな船だった。細長い船体と鋭くとがった船首が特徴的だ。三本の着脱式の帆柱と十丁の艪を備えている。


 これって江戸時代の押送船(おしおくりぶね)なんじゃね? 時代考証のミスなんだろうか。まさか宇宙人か未来人の干渉ではないだろうな。焦る大作をよそに宗達は若い男の前まで進むと振り返って言った。


「こちらは回船問屋河内屋さんの船長(ふなおさ)、五郎大夫殿にございます。まだお若いが腕は確かにございます」

「津田様の大事にしたまいしお客様にござります。何ほどのことかましまさむ。小さき船なれど大船に乗りたるつもりでご安心下さりませ」

「珍しい形の船にございますな。さぞかしスピード、じゃなかった速い船にござりましょう」


 大作は気になっていたことを遠回しに聞いてみる。よくぞ聞いてくれましたとばかりに船長が答える。


「河内屋の主人が作りし船にございます。帆を三つも備えており、風がある時でも艪で漕ぎます。風の如き速さにござりますぞ。風向きさえ良ければ十日で日向国まで辿り着いて見せましょう」

「これは頼もしきお言葉。日向国まで宜しくお願い申し上げます」


 大作たちは深々と頭を下げた。海の上では船乗りだけが頼りだ。ご機嫌を取っておいて損は無い。

 単純に帆を三本立てて艪で漕いだら早いという力業な発想らしい。押送船と似ていたのは偶然なんだろう。大作は考えるのを止めた。


 海に落としたら大変なので慎重の上にも慎重を期して金を船に積み込む。

 大作たちが先日作った羅針盤も積み込まれる。今回の航海で実用化に向けた実証試験を行うつもりなのだろうと大作は推測した。


 出航までの僅かな時間に大作は藤吉郎との別れを惜しんだ。


「藤吉郎とは出会ってたったの十日だが本当にいろんなことがあったな。熊とか船が沈みそうになった時は怖かったけど楽しいことも沢山あった。お前と知り合えて幸せだったぞ。そうだ、俺の一番好きなカロリーメイトフルーツ味を預かってくれ。もし再び生きて会えたら生き残った者で分けて食べよう」

「そのような悲しきことを申されますな。大佐は死にません、某がお守りします。遠く離れた堺から旅のご無事を毎日祈っております」

同志(タワリシチ)藤吉郎!」


 大作は感極まって思わず藤吉郎を抱きしめた。よほど驚いたのか藤吉郎が身体を固く強ばらせる。だがすぐに藤吉郎も腕を背中に回して抱きしめ返してきた。何だか柔らかくて良い匂いがするぞ。

 恥ずかしそうに頬を染める藤吉郎が妙になまめかしい。思わず勢いでキスしてやろうかなどと馬鹿な考えが一瞬頭をよぎる。

 そう言えばロシア人は男同士でもキスするんだっけ? ブレジネフとホーネッカーの熱いキスを思い出して大作はちょっと気持ち悪くなった。

 お園が鬼の形相で睨んでいるのに気が付く。何だってんだ。せっかく男同士で別れを惜しんでいたのに。


「サツキ、俺が帰るまで藤吉郎の警護を頼む。あと仕事も出来るだけ手伝ってやってくれ。お前だけが頼りだ」

「心得ました。ご心配めさるな」


 あの巨乳とハグしたらどんな感じなんだろう。お園の視線が怖いのでサツキには手も触れられなかった。


 いよいよ出航の時が来た。みんなの顔が曇る。このまま別れるのは寂しすぎるぞ。何でも良いから威勢の良いことを言わねばと大作は思う。


「我々は今、別れの時を迎えようとしている。これは革命の終了を意味するのか? 否! 始まりなのだ! 我らラピュタは未だ五人。社会保険未加入の零細企業に過ぎない。にも関わらず今日まで頑張って来られたのは何故か! 諸君! 我らラピュタの目的が正しいからだ! 明応の政変により戦乱の世が始まって五十余年、どれだけの無辜の民が戦の犠牲となったことか。だが、ラピュタの掲げる民草(たみくさ)一人一人の自由のための戦を御仏が見捨てる訳が無い。民草よ立て! 悲しみを怒りに変えて立てよ民草! 革命はまだ始まったばかりなのだ。ジーク・ラピュタ!!」


 大作は握り拳を天に突き上げて絶叫する。例に寄ってみんなぽか~んとしている。大作は何だか快感すら覚えてきた。変な性癖に目覚めそうだ。

 まあ、悲しい雰囲気は吹っ飛んだ。結果オーライだ。いよいよ船が動き出す。大作は親指を立ててとっておきの一言を発する。


「I'll Be Back! 戻ってくるぜ!」


 本当にどうでも良いおばあちゃんの豆知識だがシュワルツェネッガーは『I'll be back』より『I will be back』の方が良いとキャメロン監督に何度も何度も頼み込んで断られたそうだ。どっちでも大して変わらないんじゃないかと大作は思った。


 船長が自慢するだけのことはあって船はあっという間に加速する。必死に手を振る藤吉郎たちの姿がたちまち小さくなる。

 大作も藤吉郎もお互いの姿が見えなくなるまで手を振っていた。


 大作が誰に言うともなく呟く。


「津田様のタダ飯は本当に美味かったな。五日も食費が浮いたし」

「筑紫島にはどんな美味しい物があるのかしら」


 お園が大きな瞳をキラキラさせている。もう食いしん坊キャラが完全に定着しちまったな。ゲロ不味い雑炊を黙々と食ってたのと同一人物だとはとても思えん。

 もう出会って二十日近くだ。藤吉郎やサツキとの別れもあって大作はちょっとセンチメンタルな気分になった。


 それはそうと九州名物って何だろう? 豚骨ラーメン、皿うどん、長崎ちゃんぽん、佐世保バーガー、馬刺し……

 こりゃまた無理難題を仰る。


「半月くらいは船旅だ。しばらくは碌な物が食べられんぞ」」

「私が作ってあげるわ。港ごとに珍しい食べ物があるかも知れないわよ」

「お園は本当に食いしん坊だな」


 大作とお園が笑い合っているのをメイとほのかは物珍しそうに見ていた。


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