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巻ノ参拾四 僕たち男の娘 の巻

 大作とお園は満面の笑みを浮かべて藤吉郎、サツキ、メイたち三人の待つ部屋に戻った。

 タカラ○ミーのせ○せいに『勝訴』と書いて高々と掲げる。

 纏まった資金さえ手に入ればあとは楽勝だ。とはいえ何処に落とし穴があるか分からん。大作は(はや)る気持ちを抑える。


「先ほどの評定にて海上保険と先物市場に銭二万貫文の出資が認められた。だが俺の本意は別にある。ここから先はこの五人以外には一切他言無用。もし話せばファミリー追放だ。心して聞け」


 大作は精一杯の凄味を効かせた声を出す。しかしお園と藤吉郎はまた何時ものが始まったのかといった顔をしている。

 だが続く大作の発言で四人の表情が真剣な物に変わった。


「俺とお園は銭千貫文を持って筑紫島に渡り新規事業を立ち上げる。こっちが本命なんだ。海上保険も先物市場もダミーに過ぎん。バカどもにはちょうどいい目くらましだ。藤吉郎は堺に残って時間を稼いでくれ」

「某一人にてでございますか?」


 藤吉郎が情けない声を出す。気持ちは分かるがもう少ししっかりして欲しいと大作は思う。とは言え、十三歳の子供一人には荷が重すぎるだろうか。

 だが、護衛を二人とも手放しては意味が無い。性格に難ありのメイを残すのも心配だ。


「サツキ、一緒に残って手伝ってやってくれ。過去十年分くらいのデータ集計を二人でのんびりやって時間を稼げ。そうだ、ネオジム磁石を預ける。これで方位磁針を作って売れ。なんでも良いから目立つことをして俺たちから注意を反らすんだ。お前たちだけが頼りだ。頑張れ! 頑張れ! 出来る! 出来る! 二人なら絶対出来る!」


 藤吉郎とサツキが不安で一杯の目をしている。何がそんなに不安なんだと大作は思う。金山開発さえ成功すれば銭千貫文どころか銭二万貫文だって端金だ。

 とはいえ今それを言うのは不味いだろう。どこから秘密が漏れるか分からない。みんなを信用していない訳では無いが無駄なリスクを冒したく無い。Need not to know.なのだ。


「お前らは俺を信じられないか? 夢にまで見たラピュタのお宝が手の届くところにあるんだぞ。いいからみんな、俺を信じろ! Trust me!」


 決まったか? 駄目か? お園は一緒に行動出来ると知ってにこにこしている。メイは相変わらず固い表情だ。

 藤吉郎とサツキも腹を括ったようだ。随分と真剣な顔つきになった。


「某を信じて大役をお任せ頂いたのです。命を捨ててもお役目努めさせて頂きます」

「大佐にお仕えせよと命じられた日から元より命を捨てる覚悟にございます」

「命は捨てなくて良いぞ。ヤバくなったら伊賀に逃げろ。俺が筑紫島に行くことはサツキから丹波様にお伝えしてくれ」

「御意」


 あとは宗達をどうやって騙すかだ。大作はしばらく考えた末に軍事転用に向かない知識を切り売りするしかないと諦めた。




「津田様に折り入ってご相談がございます。保険も先物も膨大な量の計算が必要となります。そのためには是非とも算盤が必要です。明の算盤は不必要に巨大なうえ天二珠で地五珠。遠くから運んで来るのも手間です。手に合わせて小さめに。珠の形も角を尖らせた菱形に変えて天一珠で地四珠にした物を堺にて作られては如何でしょうか。ちなみに軸は真竹、珠は柘植か樺でお願いいたします」

「手前どもは算盤とやらを誰も見たことがございません。それほどまでに素晴らしき物にございましょうか?」

「一度でも使えば手放せません。必ずや大ヒット、じゃなかった、大当たり? 流行る? 必ずや無くては成らぬ物となりましょう。それと方位磁針の量産を考えております。天王寺屋にて販売して頂けませんでしょうか。海難事故のリスク低減に役立ちます」

「あれを当店にて商うことが叶うとは有り難きことにございます。これはいろいろと忙しゅうなりますな」


 効いてる効いてる。このタイミングなら行けるかも知れん。大作は覚悟を決める。


「過去のデータ集計を行うためには算盤が必須。さらにデータ集計にも月日が掛かります。それを待つ間を使って筑紫島にて市場調査を行いとうございます。向こうの商人に話を聞いてもらうため見せ金が必要にて銭千貫文ほどお借りできますかな?」


 大作があまりにも何気ないことのようにあっさりと言ったため、宗達は呆気に取られて二の句が継げなかった。


「この期に及んで拙僧が持ち逃げするとでもお思いにござりましょうか?」


 大作はあえて宗達が一番気にしていることをピンポイントで突く。はいそうです、とは宗達としても言いにくかろう。


「拙僧の半身とも言える愛弟子の藤吉郎と手伝い女を一人残して参ります。もし拙僧が帰らねば二人を煮るなり焼くなりご随意にどうぞ。この大佐、こと金に限り虚偽は一切言いませぬ」


 言いながら走れメロスかよと大作は自分で自分に突っ込んだ。宗達の顔に諦めの色が浮かぶ。


「いまさら疑うなど滅相も御座いません。ただ大佐殿に万一のことがあってはなりませぬ故、手代を一人お供にお連れ下さいませ」

「お気遣い頂き有り難きことにございます。ご迷惑ついでに日向国(ひゅうがのくに)に向かう船があれば乗せて頂けるよう口利きをお願いできませぬか? 博多商人の息の掛かっていない筑紫島の南に新たな貿易拠点を開き、瀬戸の海を通さず堺と直接やり取りします」

「これはまた驚かしきことをお考えで。大佐殿と女子二人でございますな。お安い御用にござります。しからばこれにて」


 拍子抜けするほど簡単に話が進んだので大作は反って不安になる。きっと宇宙人か未来人の干渉だろう。大作は考えるのを止めた。

 護衛の名目で見張りを一人押し付けられてしまった。付け馬みたいで嫌だけどこっちには忍者がいる。ロリコン伯爵じゃないけど道中で蒸発するなんて珍しくも無いのだ。




 大作は急いで部屋に戻って新たに決まったことを情報共有する。


「藤吉郎には算盤作りもやってもらうことになった。時間が無いから集中して勉強してもらうぞ」

「心得ました。ですが算盤とはどのような物にござりましょう」


 残念ながら流石の大作のスマホにも算盤の作り方は入っていない。三国志の関羽が算盤の生みの親だなんて説があるくらい昔から存在しているので油断していたのだ。

『空から日本を○てみようplus』だか何だかで算盤を作っているのを見たことがあるくらいだ。


 まず板材に錐で穴を開ける。穴に合わせて片側から珠の形に削る。ひっくり返して反対からも珠の形に削るという方法だった。

 別の番組では棒材を輪切りにしてから削っているのも見たことがある。一見すると棒から切り出す方が簡単そうだけど棒を作るのも結構手間だ。どっちが効率良いのか良く分からん。


 とりあえず轆轤(ろくろ)を手配しよう。轆轤は古代メソポタミアで発明され、日本でも奈良時代に百万塔を作るのに大量に使われたはずだ。

 はずみ車付き蹴り轆轤ならこの時代にもあるだろう。どうせならクランク機構を使った足踏み轆轤を作ろう。


 大作はタカラト○ーのせん○いにクランクとコネクティングロッドの絵を描いて往復運動を回転運動に変える原理を説明する。さすがは藤吉郎、理解が早くて助かる。藤吉郎が利口者って話は伝記物なんかで読んだことがあったが大した物だ。お園には負けるけど。


「こんな簡単な仕掛けにて板を踏むだけで轆轤を回すことが叶うとは。算盤とは素晴らしき物にございますな」

「いやいやいや、これはクランクの説明だから」


 しまった。算盤の話から完全に脱線してしまった。大作は気を取り直して算盤の説明に戻る。

 藤吉郎の飲み込みの早さはこちらでも如何なく発揮された。現物が無いにも関わらずあっと言う間に使い方をマスターしてしまう。

 後は藤吉郎の指導の下、職人にでも依頼して作ってもらうしか無いだろう。


 例に寄ってフェルミ推定だ。轆轤の使い方にさえ慣れれば珠一つを一分で作れるだろうか。一桁に珠五個必要なので二十三桁の算盤を作ろうと思ったら珠が百十五個必要になる。一日八時間労働で算盤が四個分は作れる計算だ。いや、算盤は面とか挺って数えるんだった。

 枠や芯を作ったり組み立てたりを考えると一人で二面くらい作れるだろうか。材料費は見当も付かない。轆轤や刃などの初期投資も必要だ。

 販売価格は一面百文くらいだろうか。加減算にしか使わないなら二十三桁も要らないから十桁くらいにして単価を下げた方が良いかも知れない。


「算盤の開発、製造、販売の一手を藤吉郎に託す。算盤は大ヒット間違いなしだ。我らの子の世代は商人も百姓も読み書き算盤が必須になっていることだろう。近代的算盤の発展と普及に尽くした藤吉郎の名は全国に轟くぞ。心して掛かれ」

「お任せ下され」


 こっちはこんな物で大丈夫だろう。所詮は目くらましのダミー計画だ。

 むしろ厄介なのは気難しそうなくノ一妹の方だ。大作は恐る恐る声を掛ける。


「メイ、筑紫島まで船で二週間、じゃなかった、半月くらい掛かるけど船酔いとか大丈夫か?」

「伊賀は盆地ゆえ川船にすら乗らぬれば……」

「心配無いよ。昨日までのデータ集計でも判ったろ。船が沈む確率なんて一パーセントより低いんだぞ。それより金が心配だ。護衛をしっかり頼む」


 思いっきり不安そうな顔をしているけど海難事故に関しては台風シーズンでも無いので大丈夫だろう。船酔いに関しては慣れるしかない。


「我が名はあやね、じゃなかったメイ、無限天津流の名にかけてあんたを守る!」

「その意気や良し、でもあんたじゃなくて大佐って呼んでくれると嬉しいぞ」

「相、分かった」


 メイの表情はまだ固いままだがしっかりした返事だ。大作は安心して良さそうだと判断した。




 サツキは伊賀に連絡を取るためと言って出掛けて行った。お園とメイは連れ立って長旅に必要と思われる物を買いに行った。藤吉郎は算盤の勉強をすると言って部屋に残った。


 大作は昨晩に寝付けなかったせいで酷く眠かったので少しうたた寝をした。




 妙な気配を感じて大作が目を開けると藤吉郎が着物の上半身をはだけて手ぬぐいで体を拭いている。

 そういえばここ何日か忙しくて時間が無かった。俺も女性陣がいない間に体を拭いておこうと大作は体を起こす。


「俺も身体を拭こ……」

「きゃあ! 見ないで!」


 藤吉郎は短い悲鳴を上げると必死で手ぬぐいで胸元を隠そうとする。しかしお園以上、サツキ未満の胸がそこにあるのは隠しようが無い。


「藤吉郎は男の娘だったのか?」

「そ、そ、某は……」


 いやいや、全然違うぞ、これは男の娘じゃ無い。全く逆だ。男装女子って奴だろう。

 藤吉郎は顔を真っ赤にして、伏し目がちにもじもじとしながら言う。


「大佐とお会いしてから段々と胸が膨らんで参りました。それに股の間も女子のようになってしまいました。某は病を患うたのでありましょうか? お助け下さりませ」


 もしかしてTSって奴なのか? 大作にとっては興味が全く無いから専門外も良いところだ。もしかして宇宙人か未来人の介入なのか?

 これはかなり不味い状況だぞ。ヒロイン四人は明らかに過剰だ。誰かリストラしなきゃ。

 お園は鉄板だ。素直で可愛げのある男装女子の藤吉郎は結構な萌キャラだぞ。気難しいメイを切るか? でもああいうツンデレも捨てがたい。ツンがデレる瞬間は最高だ。だったらメイがデレるまでイベントを進めて藤吉郎とコンバートか?

 大作の灰色の脳細胞がフル回転を始める。




「そろそろ起きて大佐! 夕餉よ」


 お園の声で大作は夢から目覚めた。


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[一言] 何で藤吉郎をTSさせたのか理解不能
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