巻ノ弐百伍拾伍 開けろ!鶺鴒の眼 の巻
「アッ~! アッチッチィ~~~!」
大作は犬のように舌を伸ばしてハアハアと荒い息を付く。
田村安斎(栖)とかいう待医だか侍医だかに麦門冬とかいう謎の熱湯を無理矢理に飲まされたのだ。
勘弁して欲しいぞ。俺は猫舌だっていうのにもう。
だが、そんな大作の惨状を歯牙にも掛けずといった顔の大有康甫とかいう坊さんが大作に詰め寄ってくる。
「して、北条左京大夫様。我が殿へのご返答は如何に?」
「いや、ちょ、おま…… もうちょっとだけシンキングタイムを頂けますかな? って言うか、まだお手紙に目を通しておりませんので」
そんなことを言いながら大作は伊達政宗からの書状とやらを拾い上げるともう一度じっくりと目を通す。通したのだが…… さぱ~り分かんないんですけど。
読めない、読めないぞ! こればっかりはム○カ大佐でも読めそうにない。
いつもに…… じゃなかった、いつにも増して達筆すぎる崩し字はミミズがのたくっているようにしか見えん。と思わせて、実はプレスしたミミズを糊で貼り付けてあったら怖いなあ。例に寄って大作は自分自身の妄想のおかげで気持ち悪くなってしまった。
「うぅ~ん…… 時に一風軒殿、この端っこでグルグルってなってるのが有名な政宗殿の鶺鴒の花押にございますかな?」
「如何にも、伊達左京大夫様の花押にございます。其れが如何致しましたかな?」
「然れどこの花押、鶺鴒の眼が開いておりませぬぞ。もしやこれは僞書って奴ではござりませぬか? だとしたら有印私文書偽造みたいな? 何かそんな罪に問われかねませんぞ。一風軒殿! 返答や如何に?」
字が読めないことをどうやって誤魔化そうかと迷いに迷った大作は突拍子もない奇策に打って出る。だが、悪戯っぽい笑みを浮かべたお園が鋭い突っ込みを入れてきた。
「大佐、もしかして字が読めないんじゃないでしょうね? 良かったら私が読んであげましょうか」
「いやいや、ちゃんと読めてますから。読めてはいるんだけど内容が内容だけに即答しかねてたんだよ。熟慮に熟慮を重ねる、みたいな?」
「内容が無いよう、ですって? だけど、大佐。その書状、上下が逆さまよ。そんなんで本当に読めるのかしら?」
「さ、逆さまだって? いやいやいや…… そ、そう言えばそうかも知れんな。これはアレだぞ、アレ。ほら、ひふみんが良くやってた将棋盤を引っ繰り返して見るみたいな? 視点というか着眼点を入れ換えると違った物が見えてくるんじゃないのかなあ」
この言い訳ならば何とかなるかも知れん。何とかならんかも知らんけど。大作は無理矢理な屁理屈で強行突破を図る。しかしまわりこまれてしまった!
「将棋って盤の上で駒を動かす遊びでしょう? 盤を引っくり返したら駒が散散になっちゃうんじゃないのかしらねえ」
「それはその、何だな…… 二十一世紀には駒が磁石になっている将棋盤があるんだよ。だから引っくり返してもちゃんとくっ付いているんだな、これが。とっても便利…… 使い勝手が良さそうだろ? これってもしかしてビジネスチャンスなんじゃね? 揺れる電車やバスの中でも将棋が指せるんだもん」
「そんな物が何処にあるっていうのかしら。だったら先に電車やバスを作らなきゃならないわよ」
「いやいや、揺れる船の上とかでも使えるだろ。それに歩きながらとかでも安定して指せるんじゃね? な? な? な? 取り敢えずは試作品を作ってみようじゃないか。確か磁石の担当は藤吉郎だったよな。藤吉郎、藤吉郎! カムヒア~!」
「北条左京大夫様。我が殿へのご返答は……」
大はしゃぎする大作の耳には大有康甫とかいう坊さんの切実な訴えは届かない。未唯に頼んで食器を下げて貰うと一同はマグネット将棋盤の開発に勤しんだ。
気が付けば清水康英の姿は消えていた。もう一人の爺さんは誰だっけかな。まるで大作の心を読んだかのようにお園が答える。
「梶原景宗備前守様ね。生没年不詳の長浜城主だったかしら。伊豆水軍を率いるお方のはずよ」
「ふ、ふぅ~ん。そうだったんだ。俺、また一つ賢くなっちゃったな。だけども清水康英も伊豆水軍を率いてたんじゃなかったっけ? とにもかくにも伊豆水軍のツートップが揃い踏みだったわけか。アッ~! だったら女子挺身隊と国防婦人会を小田城まで運ぶ件の見積もり…… 見積り? 見積? この場合の送り仮名はどれが正しいんだ?」
「積もるなんだから本来ならば『見積もり』が正しいわね。だけども読み間違える恐れが無い場合は送り仮名を省くことができるのよ。たとえば積りってね。んで、『見積』って書いてあっても読み間違えることはないでしょう? だからこれも許されるのよ」
「ようするにどれでもOKってか? 随分といい加減…… っていうか大らかなんだな。とにもかくにも見積もりを取れば良かったなあ。この件ってあんまり遅らせると不味ぞ。ナントカ丸、悪いんだけど一っ走り頼めるかな? 越前守…… じゃなかった、吉良殿? 上野介! そうそう、上野介殿を呼び戻してきてくれるかな~?」
「いいとも~!」
ちびっこ小姓は風のように走り去った。バカどもにはちょうどいい目くらましだ! 大作は心の中で嘲り笑うが決して顔には出さない。
静けさの戻った座敷の中、一同は再びマグネット将棋盤の製作に戻る。スマホを弄ってそれっぽい情報を漁ると適当に読み上げた。
「何はさておき、まずは強力な磁石が必要だな。鉄材を磁化、っていうか着磁しようと思ったら…… キュリー温度以上に加熱してから磁界を掛けながら冷やせば良いのかな? 鉄のキュリー温度って七百七十度くらいだから真っ赤に焼かないといけないわけか。んで? 『この方法で強力な永久磁石を作ることはできません。一般的な鉄材の保持力を一とするとフェライト磁石は三千、ネオジム磁石は一万一千にも相当するのです』だと! なんじゃこりゃぁ~!」
「全く以て駄目じゃないの。いったいどうする積りなのよ、大佐。磁石がなければマグネット将棋盤は作れないんでしょう?」
「うぅ~ん。そうは言うがな、お園。フェライト磁石を作ろうと思ったらバリウムやストロンチウムが必要になるんだぞ。バリウムは札幌の松倉に日本最大の鉱山があるんだっけ? でも、真空管の時に調べたけど単離するのは死ぬほど手間が掛かるんだよなあ。ストロンチウムは天青石だとさ。島根県の鵜峠鉱山から採れたって話なんだけど遠いな。ネオジムを手に入れよう思ったらモナズ石が必要だ。香川の金山鉱山ってところが国内唯一の産地らしいんだけどこれも遠いぞ。うぅ~ん。いきなり計画が暗礁に乗り上げちまったな」
「何ぞ磁石に頼らない上手い遣り様はないのかしら。要は盤を引っ繰り返しても駒が落ちなければ良いんでしょう? 例えば盤や駒を膠か糊でベトベトにしてくっ付けちゃえば良いんじゃないのかしら」
根っからの自由人なお園の口から奇想天外というか摩訶不思議なアイディアが飛び出した。
この独創的な案を一笑に付すべきか。あるいは真剣に検討するべきか。それが問題だ。
大作はリア王だかマクベスだか分からんがお得意のポーズを取って大いに悩む。
いやいや、ブレインストーミングでは批判厳禁なんだっけ。だったらこのアイディアに乗っかった方が良いな。そうなると…… 閃いた!
大作はバックパックから一人用テントを取り出すとグルグル巻きにしているベルトを外した。
「知っているか、お園? こいつはマジックテープっていう魔法のベルトなんだぞ。アメリカではベルクロって言うんだけど一般名詞だと面ファスナーだな。だからNHKとかではそう言うだろ? ちなみにマジックテープっていうのは株式会社クラレの登録商標だったりするんだよな」
「知っていたわよ、大佐。んで、ジッパーやチャックが線ファスナーなんでしょう? セロテープやホッチキス、バンドエイドなんかと同じことね」「(株)クラレのホームページに書いてあるんだけどジョルジュ・デ・メストラルとかいう狩猟が好きなスイス人が発明したらしいぞ。あるとき犬と一緒に山に行ったら服とか犬に牛蒡の実がたくさんくっ付いてたそうな。んで、これってビジネスチャンスじゃね? と思ったジョルジュさんは苦労の末にマジックテープを発明しましたとさ。どっとはらい」
「ふ、ふぅ~ん。牛蒡ってあの食べる牛蒡よね? 確かにアレの実なら着物や獣の体にくっ付きそうだわ。それはそうと牛蒡なら汁物、和え物、煮物、香の物、エトセトラエトセトラ。様々な食べ方があるわね。じゅるる~」
どうして何でもかんでも食べ物の話に結び付けちゃうんだろう。謎は深まるばかりだな。大作は心の中で小さくため息をつくと頭を振った。
「それはそうと牛蒡って抗酸化作用で有名なポリフェノールがたっぷり含まれてるって知ってたか? ただし水に晒すとどんどん溶けちまうから、皮はむかない、水に晒さない、すぐに料理する、細切れにしないってことが大事なんだ。ここ、試験に出るから覚えとけよ」
「はいはい、分かりましたよ。それじゃあ、ざっくり切って和え物か香の物にするのが良さそうね」
「ちなみに戦時中、牛蒡を食わされた欧米人捕虜が虐待だっていちゃもんを付けて大勢の日本人が戦犯として処刑されたって俗説があるな。何だかムカつく話だろ? 民間人に対する無差別爆撃や原爆投下した連中が良く言うよなあ」
「牛蒡の美味しさが分からないなんて欧米人っていう連中も大したこと無いわねえ。まあ、欧米人の話はどうでも良いわ。それじゃあ早速、美味しい牛蒡の食べ方でも研究するとしましょうか。あら、未唯。丁度良かったわ。悪いんだけどもう一度台所まで行って牛蒡を何本か貰ってきて頂戴な。なるはやで頼むわよ」
こうして今日も大作たちは行き当たりばったりな日常を謳歌していた。どっとはらい……
「って、ちがうだろ! ちがうだろ! ちがうだろ~~~!」
「いきなり大声を出さないで頂戴な。いったい何が違うって言うのよ、大佐?」
「俺たちが今、やらなきゃいけないのは牛蒡のレシピ作りなんかじゃないんだ! アレだよ、アレ…… 何だっけ?」
「分かってるわよ、マジックテープ将棋盤の開発でしょう? 本に大佐は忘れっぽいんだから。困った子ねえ。うふふふふふ……」
悪戯っぽい笑みを浮かべたお園が茶化すように突っ込む。どうやら完全に揶揄われていたらしい。
相手が冗談だって言ってるのに本気で怒るのは格好悪いなあ。大作はお園のおでこを人差し指で突っ突きながら笑みを浮かべる。
「やっぱ記憶力じゃお園に敵わないなあ。あははははは……」
「未唯、未唯! さっきのは取り消しよ。代わりに牛蒡の実を貰ってきて頂戴な。お椀に一杯くらいで良いわ。なるはやでね」
「はい、お園様!」
「ナントカ丸。将棋盤の表面に貼り付ける布切れを探してきてくれるかな~? 牛蒡の実がくっ付くような毛羽立った布が良いな。それと膠も頼む」
「いいとも~!」
元気の良い返事とともに幼女と小姓が足早に走り去った。二人の帰りを待つ間、大作とお園は手分けして墨を磨ったり紙を切ったりといった細々した作業を行う。
「北条左京大夫様。我が殿へのご返答は……」
大有康甫とかいう坊さんの切実な訴えは誰の耳にも届いてはいなかった。
待つこと暫し。どこから持ってきたのか分からん襤褸切れと大きな碗に一杯の牛蒡の実が一同の眼前に並べられた。
堆く積み上げられたトゲトゲは見る者を威圧するかのようだ。例に寄って芥川龍之介の芋粥を思い出した大作は見ているだけでお腹一杯になってしまう。まあ、牛蒡ならともかく牛蒡の実なんて食べるはずもないんだけれども。
「それじゃあ藤吉郎。その襤褸切れの表面を何か硬い物で擦ってくれ。適度に毛羽立たせて牛蒡の実がくっ付く最適解を探るんだ。これは北条の運命を決する重要なプロジェクトなんだぞ。俺の期待を裏切らんでくれよ」
「ははぁ~! この命に代えても必ずや期待にお応えいたします!」
藤吉郎が糞真面目な顔で答えた。だが、その瞳の奥が笑っている。どうやら真面目にやる気はこれっぽっちもないらしい。まあ、こいつが本気かどうかなんて死ぬほどどうでも良いんだけど。
「未唯はこっちで牛蒡の実からトゲトゲの皮を剥いてくれ。将棋の駒って四十個だったっけ? そんだけ頼むな」
「分かったわ、任せて頂戴な!」
ドヤ顔の未唯が顎をしゃくる。その根拠の無い自信はいったいどこから湧いてくるんだろう。失敗したら責任を取れるのかよ! 大作は心の中で激しく突っ込むが決して顔には出さない。
「それで? 私は何をしたら良いのかしら、大佐」
「お園は、お園は…… アレだな、アレ。俺が紙を切って将棋の駒を作るからそれに字を書いてくれるか。飛車とか角みたいにかさ。明朝体の読みやすい字で頼むぞ」
「将棋の駒ってどんなのがあったかしら。教えて頂戴な」
「えぇ~っと…… 玉将と王将が一枚ずつ。飛車と角行が二枚。金将と銀将、桂馬、香車は四枚。歩兵が十八枚だな。合計で四十枚にもなるな。ちゃっちゃとやろう」
みんながそれぞれ割り当てられた作業に勤しむ。
ただ一人、放置された大有康甫とかいう坊さんが壊れたNPCのように同じセリフを繰り返した。
「北条左京大夫様。我が殿へのご返答は……」
そろそろ相手をしてやらんと拗ねちまうかも知れんな。大作は坊さんの顔を上目遣いに窺うと声を潜める。
「急いては事を仕損じる。慌てる乞食は貰いが少ない。美味しい料理には時間が掛かるのです。今暫しお待ちいただけますでしょ……」
大作の言葉を遮るように廊下側の襖が勢いよく開いてナントカ丸が顔を覗かせた。背後には見覚えのある二人のおっちゃんが並んで立っている。
「備前守様と上野介様をお連れいたしました」
「御本城様、先ほどお目通りしたばかりにございますが何用にござりましょうや?」
「火急の御召しと伺うて取る物も取り敢えず掛け付けましてございます」
な、何だっけ? 何か用があって呼んだはずなんだけれどさぱ~り重い打線。腕にでもメモしておけば良かったなあ。例に寄って後悔先に立たずんば虎児を得ずだ。大作は話をはぐらかせようと咄嗟の機転を利かせた。
「実はお二人に是非ともお目に掛けたい物がございましてな。我が北条の誇る研究開発チームの成果物をご覧下さりませ。引っくり返しても駒が動かないマグネット、じゃなかった。マジックテープ将棋盤にございます。ほら、こうやると駒がくっ付くんですよ。不思議だなあ。不思議でしょう? 不思議ですよね? ね? ね? ね?」
「此れは何と! 如何にも面妖な絡繰りにござりまするな。御本城様の思い付きにござりましょうや?」
清水康英が大袈裟に驚いた顔をしてくれたので大作はとっても良い気分になった。
だが、梶原景宗が眉を顰めながら突っ込みを入れてくる。
「然れど御本城様。是を儂らに如何せよと申されまするか?」
「いや、あの、その…… 長い船旅では娯楽が重要にござりますよね? だけど人間、暇だと碌なことをせんでしょう? 彼のバートランド・ラッセルも幸福論で申しておられますぞ。人類が犯した罪悪の半分くらいは退屈のせいで起きたとか何とか。小人閑居して不善をなす、と申しますでしょう? 船乗り達に健全な娯楽を提供する。北条水軍の福利厚生を画期的に向上させる妙手だと思われませぬか」
「左様かも知れませぬな。そうではないかも知れませぬが。然らば清水殿、某と手合わせ願おうか」
「おお、心得ましてございます」
何だか知らんけど突如として清水康英と梶原景宗の対局が始まってしまった。
何やら熱戦が繰り広げられているような、そうでもないような。将棋のルールなんてさぱ~り分からん大作にはどっちが優勢なのか見当も付かない。
へぼ将棋王より飛車をかわいがり。素人の指す将棋なんてぶっちゃけどうでも良い。それよりも本来の目的を忘れちゃならんな。大作は眼前に片手を翳すと遠慮がちに声を掛けた。
「御免なすってお二人様。ちょっくら失礼をば致しますよ」
大作は唖然とする二人を完全に無視して将棋盤を引っ繰り返す。軽く揺さぶったり傾けたりして駒が落ちてこないのを確認した。盤面に確りとくっ付いた駒は微動だにしていない。
「此れはなんと! 逆さまにしても駒が落ちてこぬとは魂消り仕りました」
「何とも驚かしきことじゃて。然れど御本城様、駒が成った折は如何致せば宜しゅうござりましょうや? 駒をひっくり返すことが叶いませぬぞ」
折角のお目出度い雰囲気が清水康英の鋭い突っ込みによって一瞬でぶち壊されてしまった。このおっさん、何て空気の読めない奴なんだろう。大作は頭を抱えて小さく唸る。
「ぐぬぬぅ~、それはその…… 考えておりませんでしたぞ。うぅ~ん、別の駒を作っておいてその都度差し替えるしかしょうがありませんかな?」
「一回り大きな紙の駒を作って上から被せるようにしてはどうかしら。端っこを引っ掛けてこんな風にするのよ」
「ナイスアイディア、お園! 君は英雄だ! 大変な演奏だ! バンバンバン、カチカチ、あら?」
そんな阿呆なことを言いながらも大作とお園は紙を切って「と」と書き、端っこを折り畳んで歩兵の上に被せた。
「おお、此れならば成駒を使うことも叶いまするな。さて、越前守殿。如何なさいましょうや?」
「うぅ~む、そう参られたか。然れば儂は此方を攻むると致そうか」
「いやいや、其れはお待ち下さりませぬか?」
「何も申される。待った無しじゃ!」
観戦者を置き去りにして二人のおっちゃんのボルテージが上がって行く。
うぅ~ん。これで今日のミッションはクリアってことで良いんだろうか。大作は記憶を辿るが例に寄って記憶に靄が掛かったようにハッキリしない。
「北条左京大夫様。我が殿へのご返答は……」
声のした方を振り返ってみれば座敷の隅っこで大有康甫だか一風軒だかいう坊さんが焦点の定まらぬ目で壁を見詰めている。
怖っ! 大有康甫だか一風軒だか怖っ! 大作は黙って視線を反らすと清水康英vs梶原景宗の対局観戦に戻って行った。




