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巻ノ弐百拾参 栄光の北条空軍 の巻

 わけの分からない夢を見ていた大作はお園に乱暴に叩き起こされた。何だか頭がズキズキして吐き気がするんですけど。寝ぼけ眼を擦りながら目を瞬くと徐々に視界がはっきりしてくる。そこにあったのはもうすっかり見慣れた船の艫屋倉の天井板だった。


「知らない天井だ……」

「阿呆なこと言ってないでそろそろ起きて頂戴な。もうじき小田原に着くわよ。みんなもう降りる支度をしているんだから」

「慌てない慌てない、一休み一休み」

「大佐の阿呆っ! 何よ根性なしっ! 一人で起きられないのを二日酔いのせいにして。二日酔いはちゃんと治ってるわ! 大佐の唐変木! 腑抜け! 根性なし! どうして起きられないのよ! そんなことじゃ一生起きられないわっ! それでもいいの? 大佐の根性なし! あたしもう知らない! クララなんかもう知らない!」


 これぞ人間瞬間湯沸かし器の面目躍如だな。言いたいだけ言うとお園はスッキリしたといった顔で足早に走り去った。って言うか、何でクララなんだろう。謎は深まるばかりだ。

 まあ、どうでも良いや。とにもかくにも起きなきゃならん。このまま船に住むわけにも行かんしな。

 うかうかしていて海自の護衛艦乗りみたいに住民票が船になっちゃったら大変だ。連中は運転免許証の住所から投票用紙の配達先まで護衛艦にされちまうそうな。

 いやいや、正確には投票用紙じゃなかったっけ。アレは投票所入場券なんだ。ちなみに、もしアレを忘れて行っても投票所で宣誓書に記入すれば投票することはできるらしい。そう言えば……


「大佐、本当に置いてっちゃうわよ! 後で泣いたって知らないんだからね!」

「はいはい、いま行きますよ。行けば良いんだろ、行けば! そんなに生き急いでどうするって言うんだよ」

「大佐こそ、そんなにのんびりしていてどうするのよ」

「いや、別にどうもしないけどな」


 二人揃って艫屋倉から出ると船はもう小田原の砂浜に乗り上げていた。道理でちっとも船が揺れないはずだ。どうやら他の奴らは待ちくたびれて先に行ってしまったらしい。

 氏政、氏直、督姫たち英雄の帰還とあって浜は出迎えの人々で大層な賑わいを見せている。見せていると思われたのだが……

 まるでお通夜みたいじゃんかよ! 模様のない萌黄色の地味な着物を着た人たちが鎮痛な面持ちで立ち竦んでいる。みんな口数も少なく表情も虚ろだ。

 いったい小田原を不在にしていた二週間で何があったっていうんだろう? もしかして浦島太郎みたいに七百年もの年月が流れていたりして。だったらここは二十三世紀なのか? 大作は知った顔を探してキョロキョロと辺りを見回す。

 だが、ここ小田原にそんな奴がいるはずも無い。諦めそうになった時、急に背後から声が掛けられた。


「御本城様! 御本城様ではござりませぬか! 生きておられたのでございますな! あな嬉しや!」

「うわらば!」


 油断しきっていた大作は思わず悲鳴を上げる。恐る恐る振り返ると見たことあるような無いような少年が立っていた。こいつ誰だっけ?


「おお、ナントカ丸じゃないか! どしたん? 俺は生きてるぞ。森は生きているみたいにな。足だってちゃんとあるだろ? まあ、幽霊に足が無くなったのは江戸時代からなんだけどさ。だけど何で俺が死んだと思ったんだ?」

「昨日、小田原の彼方此方で俄に妙な噂が流れたのでございます。御隠居様と御本城様が豊臣の卑怯な騙し討に遭い身罷られたと。某は斯様な噂など信じてはおりませぬ。されど御本城様のお顔を拝見するまでは生きた心地がしませんでしたぞ」


 ナントカ丸は嬉しそうな笑顔を浮かべながら纏わり付いてくる。だけど、これって本心なんだろうか。内心では『生きてたよ…… 短ぇ夢だったなぁ』とか思ってるんじゃなかろうな。まあ、別にどうでも良いけど。大作は考えるのを止めた。


「それにしても誰がそんな無責任な噂を流したんだろうな。犯人を見付けたらとっちめてやらにゃあならんぞ」

「嫌だわ、大佐ったら。言い出しっぺは大佐じゃないの。トム・ソーヤみたいに死んだって話を広めておいて、ひょっこり生きて帰ってみんなを驚かせるんだって。そのために相州乱破の方々に私たちより一日早く小舟で小田原に帰って頂いたんだから。後でちゃんとお礼を言うのを忘れないでよね」

「そ、そうなんだ。俺、そんなことさぱ~り忘れていたよ」

「……」


 氷のように冷たいお園の視線を大作は鉄の心臓で受け流す。過ぎたことを気にしても始まらん。それよりも今は未来にこそ目を向けなければ。


「ナントカ丸。今すぐ、はちょっと無理かな。明朝、小田原評定を緊急招集する。朝飯を食べたら登城するようメンバー全員に通知してくれ。急なことなんで出られない奴もいるかも知れんが、その場合も次官を代理に出席させるよう伝えるんだ」

「じかん? だいり?」

「名代? ピンチヒッター? スタンドイン? 何でも良いから代わりに誰か顔を出せってことだ」

「御意!」


 真剣な顔でナントカ丸が頷くが本当に分かってるんだろうか。怪しい物だな。まあ、どうでも良いけど。


「されど御本城様、其の頭は如何なされました。随分と涼し気にございますが」

「これか? これはアレだな、アレ。イメージチェンジだよ。父上も頭を丸めておられただろ? 京の都ではこのヘアースタイルがトレンディみたいだぞ。ネオナチみたいで格好良いじゃん。な? な? な? 何だったらお前もやってみるか?」

「いやいや、御隠居様や御本城様と同じ頭など某には恐れ多きこと。ご遠慮仕ります」

「そうかなあ? 似合うと思うんだけどなあ。気が変わったら何時でも言ってくれ。俺が断髪式を取り仕切ってやるからな」


 引き攣った笑顔を浮かべたナントカ丸がさり気なく離れて行く。そんな顔をされると無理矢理にでも丸坊主にしてやりたいな。大作は邪悪な笑みを浮かべると心の中のメモ帳にナントカ丸スキンヘッド計画を書き込んだ。




 砂浜から少し内陸に入ると遥か彼方まで延々と続く総構えにぶつかった。深い空堀と急傾斜の土塁が一同の行く手を阻む。中に入るにはどうすれバインダ~? と思いきや、良く見てみれば総構えから飛び出すように丸馬出しみたいな曲輪が幾つも構築されている。

 大作とお園はナントカ丸の後ろに金魚の糞みたいにくっ付いて一番近い曲輪へと向かった。

 出入り口には門番みたいな人たちが暇そうにたむろしている。と思いきや、大作たちの姿を見た途端に弾かれたように立ち上がって頭を下げた。

 大作は愛想笑いを浮かべながら手を振ってやり過ごす。曲輪を通り抜けてやたらと頑丈そうな門を潜る。総構えの中には整然とした街並みが地の果てまで広がり、いろんな身なりの人々で賑わっていた。


「御本城様! 良くぞご無事にもどられましたな」

「妙な噂を耳にして肝を冷やしましたぞ」

「其の頭は如何なされました?」


 会う人、会う人みんなから同じようなことを言われた大作は面倒臭くてしょうがない。だが、どこからどう見ても完全に自分で蒔いた種だ。卑屈な愛想笑いで誤魔化すより他は無い。

 ぺこぺこと頭を下げながら西に向かって通りを五百メートルほど歩いて行く。それほど広くもない水壕と巨大な大手門が見えてきた。脇にある警備員詰め所みたいな小屋からモブみたいな門番がゾロゾロと現れて整列する。どうやらようやくマトモな出迎えをしてもらえるらしい。

 ちょっと嬉しくなった大作は立ち止まると背筋をピンと伸ばして挙手の敬礼を…… いやいや、日本の自衛隊や警察なんかでは無帽の時には挙手の敬礼をしないんだっけ。


「お園、俺の観音帽子(かんのんもうす)ってどこにあるのかな?」

「さ、さあ? 他の荷物と纏めて誰かが運んでくれてるんじゃないかしら。運んでいないかも知れないけど」

「しょうがないなあ。確かタオルがあったっけ」


 大作はバックパックからタオルを取り出すと風呂上りの女性のように頭に巻こうとする。巻こうとしたのだが……

 なぜだかサザ()さんに出てくる泥棒の()(かむ)りみたいになってしまった。

 いまどき、こんな泥棒がいるかよ~! 大作は心の中で絶叫するが決して顔には出さない。まあ、こんなんでも無帽では無いろう。

 気を取り直して再び背筋を伸ばすと挙手の敬礼をビシッと決める。


「生きては戻らぬ決意で出掛けましたが図らずも生き残ってしまいました。何かのお役に立つやも知れぬと思い、恥を忍んで帰って参った次第にございます。そうそう、京の土産に羊羹を貰ってきましたので後で届けさせましょう。みなでお召し上がり下され」

「へ、へえ……」


 わけが分からないよといった顔の門番たちを放置して大作は大手門を潜る。だだっ広い三ノ丸の向こうには幅の広い外堀が水を湛えていた。

 本当に広々としているなあ。こんだけ広いと凍ったらスケートリンクにできるかも知れん。とは言え、凍ってしまたら堀として役に立たんけど。

 大作は不意に冬戦争のエピソードを思い出す。凍った湖の上を退却していたソ連軍がフィンランド空軍の爆撃を受け、氷が割れて湖に沈んでしまった話だ。

 なんて痛快な話なんだろう。思い出しただけで頬が緩んでしまいそうだ。

 とは言え、小田原征伐は春から夏に掛けての話だっけ。残念ながら参考にはならんな。大作は心の中のソ連軍をシュレッダーに放り込んだ。


 左の方に歩いて行き、木製の橋を渡って馬出曲輪に入る。少し進んで右に曲がり、また橋を渡ると広大な二ノ丸に出た。緩い傾斜を延々と登って行き内堀に掛かった橋を渡る。急な坂を登るとようやく本丸に辿り着いた。

 無駄に広い城っていうのも困ったもんだな。大作は小さくため息をつくとナントカ丸に向き直る。


「夕飯前に軽く現状を確認しておきたい。ミニエー銃やテレピン油、無線とかの開発責任者を集めてくれるかな~?」

「そう仰せになると思い、予め声を掛けておきました」


 ナントカ丸がドヤ顔で胸を張る。こいつこんなに気が利く奴だっけ。男子三日会わざればって言うけれど、二週間も会っていないとまるで別人だな。大作は嬉しいような寂しいような微妙な気分になる。

 例えるなら新人のころから目を付けていた無名の声優が急に主役を獲ったみたいな? 身近に感じていた人が遠くへ行ってしまった。そんな気がして素直に喜べないのは何故なんだろう。


 本丸の中に入った後も延々と廊下を歩く。歩き疲れたころ、ようやく御本城様の座敷と思しき部屋へと辿り着く。そこでは女性陣と藤吉郎が待ちくたびれたといった顔で車座に座っていた。


「遅かったわね、大作。もしかして、また迷っていたのかしら?」

「迷ってない迷ってない。ちょっと寝坊しただけさ。んで、スタッフはどこかな? ナントカ丸」

「こちらに控えておりまする」


 ナントカ丸が襖を開けると隣の部屋に十人ほどの男たちが頭を垂れていた。


「お忙しいところ、急にお呼び立てして申し訳ありませぬな。面を上げられよ」

「御本城様、本日は御尊顔を拝し奉り恐悦至極に……」

「面倒臭い挨拶は無用にございます。硫黄島で栗林中将も申しておられましたでしょう。作業中は敬礼不要とかなんとか。僕にはもうガロアよりも時間がありませんのでな」

「へ、へえ。畏まりましてございます」


 男たちが深々と頭を下げる。敬礼不要だって言ってんだろが~! 大作は心の中で絶叫するが決して顔には出さない。

 そもそも敬礼なんてせいぜい数秒しか掛からない。そんな物を省略したくらいで何とかなるんなら誰も苦労しないのだ。って言うか、結局のところ硫黄島守備隊だって玉砕しちゃったしな。あんな事例を参考にしたってどうにもならん。


「ナントカ丸。取り敢えず茶でも入れてくれるかな~? 一番安い焙じ茶で良いぞ」

「いいとも~!」


 大作はお土産の羊羹をナイフで切り分けるとみんなに一切れずつ配る。

 茶碗は本能寺から盗って…… 保護してきた茶器を使った。


「まずはミニエー銃の件からお聞きしましょうかな。進捗の方はどうなっておりましょうや?」


 大作の問い掛けに対して厳つい顔をした職人風の中年男が居住まいを正した。着物や髪型からすると武士ではなく職人らしい。


「お預かりしたノギスを用いてゲージとやらを作り、小田原衆と御馬廻衆で用いておる鉄砲の筒の寸法を調べておるところにございます。大方の鉄砲は調べが済んでおりますれば、明日には全てを調べ終わることにござりましょう。長ネジは出来上がっておりますがスライドレストとやらの精度が出せず旋盤の方は難儀しております。今暫くお待ち下さりませ。ライフリングマシンの絡繰りは大方は仕上がっておりますがフックの硬さが足りず、思うたように溝が彫ることが叶いませぬ。今は鋼の鍛え方や焼入れを工夫しておるところにございます」

「さ、左様にございまするか。まあ、大体は上手く行っておるようですな。宜しゅうお頼み申します」


 特にアドバイスできることは無さそうだな。素人が口を出しても碌なことにはならん。大作はこの件を心の中のシュレッダーに放り込んだ。


「して、テレピン油の方は如何にございますかな?」


 今度は骨と皮みたいに痩せた老人が口を開いた。きっとニックネームは骨皮筋右衛門だな。こいつも人相風体から見て何らかの職人のようだ。


「蒸留容器は先日、試しに作りし物に湯気を溜めておったところ破裂してしまいました。幸いなことに誰も手傷を負わずに済みましたが真に危うい物にございますな。今は頑丈な物を作り直させておりまする。そうそう、切り倒した松は国中から次々と届いておりますぞ」

「怪我人が出なかったとはいえ、それは重大インシデント寸前ですな。直ちに安全管理者に再発防止策の検討をさせて下さりませ。それと事故調査報告書の提出をお願い致します」

「心得ましてございます」

「いやいや、これは寸前じゃなくて立派な重大インシデントでしょうに! 一歩間違えば開発者や研究設備に大ダメージが出るところだったのよ。ちゃんとした調査委員会を立ち上げるべきね」


 それまで黙って話を聞いていた萌がここぞとばかりに割り込んでくる。とは言え、冷静に考えればテレピン油の大量生産なんて物騒なことこの上ない。下手したらアポロ一号どころの騒ぎでは済まんな。


「そんじゃあ、萌。言い出しっぺのお前がやってくれるかな~?」

「はいはい、やればいいんでしょう。いいとも~!」


 萌がちょっと焼け糞気味に返事をした。この件も一件落着。大作は心の中のシュレッダーに放り込む。

 ふと視線を感じて隣を見るとお園が退屈そうにしている。これはフォローが必要かも知れん。大作は咄嗟に話題を反らした。


「ところで望遠鏡の方は如何な塩梅でしょうかな? そうそう、堺でレンズを大量に買い付けてきておりますぞ。後でお届け致しましょう。これで望遠鏡の開発を一気に加速することが叶いましょうな」

「レ、レ、レンズを買い付けてこられたですと! わ、わ、我らはこの半月、一日も早うレンズを作らんと死ぬ思いで工夫しておったのですが……」


 神経質そうな若い職人が眉間に皺を寄せ、魂を振り絞るように呟く。その顔色は青白く、握りしめた拳がプルプルと震えている。


「いや、あの、その…… お園! お前も望遠鏡の開発に参加してくれるか。きっと楽しいぞ~! しかしまあ何ですなあ。そ、そうだ! 無線! 無線の方はどうなっておりましょうや?」

「へ、へえ。ダイスとやらは仕上がっておりますが(あかがね)を糸のように引き伸ばすことが叶わず難儀しております。なにせ力加減が難しゅうてなりません。気を抜いた途端に千切れてしまう有様でして。何ぞ良い知恵はござりますまいか?」

「え、えぇ~っと。確か銅って展延性にとっても優れているはずなんですけどなあ。もしかして一遍に引き伸ばそうとされておりませんか? 拙僧が見たテレビでは十一段階にも分けてちょっとずつちょっとずつ細くしておりましたぞ。そうそう、空から日本を見て……」


 そんな阿呆な話をしている間にも夕飯の時間になってしまった。

 まだ話は終わっていないんだけどなあ。しょうがない、食べながら話をするか。大作は台所にお願いして全員の分の夕餉を運んでもらう。

 職人らしき男たちは迷惑そうな顔を隠そうともしていない。きっと早く帰りたくてしょうがないんだろう。


「ところで大筒担当はどなたでしたかな?」

「へ、へえ。山田次郎左衛門にございます」


 恰幅の良い中年男が口の中に入った物を咀嚼しながら答えた。

 食べながら話すのは行儀悪いんだけどなあ。とは言え、例に寄って完全に自分のせいなので文句を言うわけにも行かない。


「おぉ~! 貴方がかの有名な山田さんでしたか。これはこれはお会いできて光栄です」


 史実の北条は天正十七年(1589)十二月、相模国の鍛冶師に大筒二十丁の張立を命じたんだそうな。その朱印状によると北条お抱えの鍛冶師棟梁の山田次郎左衛門に二丁。他の鍛冶師にも大筒一丁から五丁を割り当てて発注したらしい。『御急用の間、一丁七日の日数を持って』作れと書いてあるんだとか。よっぽど急いていだんだろう。

 口径に関する情報は見当たらないが戦国時代の大筒といえば百匁が精々だろう。砲弾が破裂するわけじゃあるまいし、こんな中途半端な物がいったい何の役に立つっていうんだろう。まあ、竹束をふっ飛ばしたりするくらいならできたそうだけれど。


「申しわけ次第もござりませぬが、大筒の件はキャンセルして頂けますかな。代わりに…… スナイパー部隊のために鉄砲の改造を行って頂きたいのです。既存の鉄砲の中から特に精度の高い物を百丁に一丁ほどピックアップしてして下さりませ。んでもってフローティングバレルにするとか、銃口にウエイトを付けるとか。トリガープルを軽くする、肩当て式のストックやフォアグリップ、バイポッドを付ける、エトセトラエトセトラ」

「お、大筒は要らぬと申されまするか? さ、されど既に……」

「心配ならご無用。大筒の代わりならコングリーブロケットやV-1みたいな飛行爆弾で十分にカバーできます。そうそう、V-1を作るんなら空軍を作らねばなりませぬな」

「空軍? それって蒲生で風船を飛ばした時に言っていたわね。また、あれを作るのかしら?」


 お園が言葉尻を捉えて突っ込んできた。例に寄って口いっぱいに食べ物を頬張っている。

 食事しながらの会議なんてやるもんじゃなかったな。大作は激しく後悔するが今となっては手遅れも良いところだ。


「V-1は滑空爆弾って扱いだから空軍の管轄なんだよ。一方でV-2は長距離砲みたいな扱いだから陸軍の管轄なんだ。文句があるんならナチスの方々に言ってくれ。俺が決めたんじゃないんだからしょうがないだろ」


 大作はお得意の責任転嫁で逃げを打つ。

 お園が小さくため息をつき、職人らしき男たちは全員が揃って分かったような分からんような顔で頷いた。


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