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巻ノ弐百弐 アポ無し訪問!聚楽第 の巻

 聚楽第までのラストワンマイルを徹底的な牛歩戦術で乗り切る。そんな大作の浅はかなプランは突如として現れた謎の男によって脆くも打ち砕かれてしまった。

 いやいや、謎の男じゃないぞ。何だか見覚えがあるような無いような。それっていったいどっちだよ~! 大作は自分で自分に激しく突っ込みを入る。そして卑屈な笑みを浮かべながら揉み手をした。


「え、えぇ~っと。何処かでお会いしましたでしょうか?」

「は、はぁ? 何を呆けたことを申されまするか。今朝、儂の屋敷からお見送りしたばかりにございますぞ?」

「今朝? 今朝? 今朝…… 思い出した~! 大岡越前、じゃなかった。遠山左衛門尉殿ではござりませぬか。いやいや、男女七歳にして…… じゃなかった、男子三日会わざれば刮目して見よなどと申しますが見違えましたぞ。孫にも衣装ですな」

「大佐、それってこれっぽっちも誉めていないわよ。って言うか、正しくは馬子にも衣装だわ」


 呆れた顔で横からお園が突っ込みを入れてくるが軽くスルーだ。それよりも何でこの爺さんが聚楽第にいるんだろう。

 そんな大作の心を見透かすしているのだろうか。酒井忠次はちょっと意地の悪そうな笑みを浮かべると口を開いた。


「左京太夫様が申しておられた『のうぷらんのあぽなしほうもん』とやらが何とも気に掛かりましてな。賢しらとは思いましたが聚楽第への先触れをと罷り越した次第にございます」

「おお、これは有り難きことにございます。勢いだけで聚楽第までやってきてしまいましたが玄関チャイムが見当たらずに難儀しておりました。正直言ってこのままバックレようかと迷っておったところでしてな」

「それはようござりました。ささ、こちらへ」


 そう言うと忠次は先に立って歩き出した。その歩きっぷりは小性に付き添われているとはいえ堂々としたものだ。とても目が不自由だとは思えない。って言うか、この小姓はいったい何処から沸いてきたんだろう?

 そんなことを考えている間にも一行は南外門に近付く。そこで忠次は居並ぶ門番たちに向かって鷹揚に頷いた。すると門番たちも深々とお辞儀を返してくる。

 大作は妙な居心地の悪さを感じずにはおられない。引き攣った愛想笑いを浮かべながら米搗飛蝗(こめつきばった)のように頭を下げて通りすぎた。

 それはそうと、これってもしかして顔パスって奴なんだろうか? 何だか芸能人になった気分だ。って言うか、聚楽第のセキュリティって思ったより雑なんだなあ。大作は心の中で嘲り笑うが決して顔には出さない。


 金魚の糞みたいに忠次の後ろにくっついて南外門を潜る。すると目の前には何もないだだっ広い空き地が広がっていた。その向こう側はまたもや堀があるが、その幅は外堀ほどではないようだ。

 対岸には五メートルくらいの石垣があり、左右には白壁の大きな櫓が建っていた。屋根の上に並べられた瓦は眩いばかりの金色に光り輝いている。

 不意に忠次が立ち止まり、自信満々のドヤ顔で顎をしゃくった。


「左京大夫様。此方が南二之丸にございます。見事な物にござりましょう?」


 何でこんなに自慢気な態度を取られなきゃならんのだろう。って言うか、お前が建てたわけじゃないだろ~! 大作は内心の激しい突っ込みを必死に抑え込みながら愛想笑いを浮かべる。


「真にごもっとも。何なら記念の写真でも撮りましょうか?」

「そうね、大佐。折角だから撮りましょうよ」

「冗談を真に受けるなよ。お上りさんじゃあるまいし、こんなところで記念写真なんて格好悪いぞ」

「いいえ、撮るって言ったら撮るの! 早く支度して頂戴、大佐」


 ここまで強引なお園は珍しいな。これに逆らうのは阿呆のすることかも知れん。大作は早々と心の中で白旗を上げるとバックパックからスマホを取り出した。




 記念写真を撮った一同は東に向かって歩き出す。百メートルほど向こうには巨大な豪邸が建っているのが見える。

 スマホにあった地図によるとどうやら豊臣秀長の屋敷らしい。もしかして秀吉の前に秀長に会わなきゃならんのだろうか。

 大作は何だか急に面倒臭くてしょうがなくなってきた。だが、今さら帰りたいなんて言える雰囲気でもなさそうだ。腹を括って大人しく忠次の後ろにくっ付いて歩く他はない。


 と思いきや、屋敷を目の前にして忠次は進路を北へと変えた。もしかして秀長はスルーなんだろうか?

 そう言えば、奴は一年数ヶ月後には病気で死んじまうんだっけ。小田原征伐にも病欠するとかしないとか。案外、体調不良で寝込んでいるのかも知れん。

 大作は心の中で秀長をシュレッダーに放り込んだ。


 巨大な秀長の屋敷を通り過ぎると外郭に開いた門から外が見えている。これがさっき外から見た東外門なんだろう。大作は頭の中の地図と照合しながら推測した。

 金ぴかの磔柱を担いだ氏政&氏直と謎の美女軍団は門番の連中からも注目の的だ。みんなが揃いも揃って好奇の視線を向けてくる。

 大作は例に寄って愛想笑いを浮かべながらペコペコと頭を下げた。


 東外門より北に並んでいる屋敷は秀長の物と比べるとずっとコンパクトに見える。例に寄ってコロボックルでも住んでいるんだろうか。大作がそんな阿呆なことを考えていると忠次が急に振り返った。


「こちらは堀左衛門督殿のお屋敷にございますぞ」

「ほ、ほぉ~っ! 堀殿も左衛門督なんですか。こいつは凄い偶然。何だか親近感が沸きますな」


 まあ、実際のところ左衛門尉なんて六位相当の官職だ。源義経とか楠木正成、佐々木道誉、エトセトラエトセトラ。掃いて捨てるようなありふれた官職なんだからしょうがない。

 だが、そのことについて忠次は何の興味も持ってくれなかったらしい。大作の言葉は完全スルーされてしまった。


「その向こうにあるのが羽柴東郷侍従殿や常陸介殿のお屋敷にございます。みな、そろって東御門番を務めておられますぞ」

「へ、へぇ~っ。仕事場が近いと通勤が楽で良いですな。昼御飯とかも家に食べに帰れそうですし」

「あちらのお屋敷は生氏飛騨守殿、その先は浅野弾正少弼殿ですな」

「さ、さいですか……」


 黙っていると間が持たないとでも思ったんだろうか。忠次が聞いてもいないことを得意気に解説してくれるが大作としては有難迷惑も良いところだ。右から左へと話を聞き流しつつも何とかして話の流れを変えようと頭を捻る。


「時に大岡様…… じゃなかった、遠山様。この辺りは二十一世紀だとハローワークが建っておりましてな。仕事を探す人が列をなしておるのですぞ。ちょっと想像が付きませんでしょう?」

「しごと? ほほう。此処でしごととやらを商うと申されまするか。其は良うござりましたな」

「あ、いや、その…… 話は変わりますが大岡…… 遠山様。聚楽第ってまだ完成して三年しか経っていないそうですな」

「左様にござりまするな。ご覧下さりませ。何処もかしこもまだ真新しゅうござりましょう」


 例に寄って忠次が自分のことのように誇らしげなドヤ顔を浮かべて偉そうにふんぞり返る。

 この聚楽第がたった六年後には破却されてしまうとは勿体無い。この時点ではそんなことは誰一人として夢にも思っていないんだろう。

 ちなみにその後、聚楽第の跡地は歌舞伎や能の興行なんかに使われていたそうな。それが江戸前期には農地になり、それも江戸中期には耕作放棄地として空き地になる。その後は大正くらいまでゴミ捨て場くらいにしか使われていなかったんだとか。

 とは言え、こんな話じゃ盛り上がる物も盛り上がらん。そこまで考えたところで大作は頭を切り替えた。


「話は変わりますが大岡…… 遠山様。遠山様が遠江の宇津山城を攻めた折の話を聞かせて下さりませぬか。城主の小原鎮実とか申す輩が城から落ち延びる際に遠山様を殺めんと倉に火薬を仕掛けておったそうですな」

「おお、斯様に昔の話をようご存じで。かれこれ二十年も昔の話になりましょうかな。あの時ばかりは儂も肝を冷やしましたぞ。されど火薬が少のうござったのでしょうな。音ばかり大きゅうて誰も傷を負わずに済んだのが幸いにござりました」

「やっぱそうでしたか。そう申さば、シュタウフェンベルク大佐のヒトラー爆殺未遂もそんな感じで失敗しておりましたっけ。火薬だけ爆発させても音が大きいだけですからな。今度からは釘とかパチンコ玉とかで包んでみられませ。そうそう、ネットで読んだ話だと圧力釜に入れると良いって書いてありましたぞ」

「さ、左様にござりまするか。次からはそう致しましょう……」


 効いてる効いてる。顔を引き攣らせた忠次を見ているだけで大作はもうお腹が一杯になった心地だ。からかうのは程ほどにしておいた方が良いかも知れん。


 ところでこの謎の行進はいった何処まで続くんだろう。バターン死の行進じゃああるまいし。きっと米軍捕虜もこんな気分だったんだろうなあ。

 いやいや、あれは傷病兵を置き去りにして逃げた米軍が悪い。って言うか、生真面目に捕虜にしちゃった日本軍が阿呆なんだな。アイゼンハワーの死のキャンプみたいに武装解除だけやって、後は餓死するまで閉じ込めておけば良かったんだ。

 敵兵という奴は捕虜にしてしまったら人道的な取り扱いをする義務が生じてしまう。だけど捕虜でもない人間の食料や医療の面倒を見る義理なんてないのだ。

 もしも小田原征伐で大量の投降者の始末に困ったら同じ手を使おう。大作は心の中のメモ帳に書き込んだ。


「それはそうと聚楽第ってもっとチンケな城かと思って馬鹿にしてたんですけど歩いてみると意外に広いですな。どれどれ…… 本丸の広さが十二万平米もあるんですと! これって東京ドームの二倍半くらいじゃないですか? バスケットコートだと二百八十五面。チロルチョコを敷き詰めたら一億九千万個にもなりますぞ。そんなに食べたら虫歯になっちゃいそうですな。外堀まで含めたら二十六万八千平米。東京ドームの六倍近いとは恐れ入りました。固定資産税とか大変でしょうな。御見逸れ致しました」

「いやいや、小田原城の総構えは二里半もあると聞いておりますぞ。大阪城より余程大きゅうござりませぬか」


 忠次が『お代官様ほどではござりませぬ』といった口調で意味深な笑みを浮かべた。

 良く分からんけどここは謙遜しといた方が良いんだろうか。大作は慎重に言葉を選ぶ。


「城、広きが故に尊からずと申しますぞ。アレはアレで維持管理が意外と大変でしてな。掃除とか管理費とか」

「さ、左様にござりまするか。過ぎたるは何とやらですな。まあ、儂ごときには縁の無い話じゃて」

「時に大岡様…… じゃなかった、遠山様。拙僧らはどこへ向かっておるのでしょうかな?」

「もう、大岡で結構ですぞ。先ほど申し上げませんでしたかな? ほれ、もう見えて参りました」


 忠次の指し示す方に目をやれば地味というか簡素というか随分とお洒落でシックな屋敷が建っていた。

 って言うか、この爺さんの目が見えないって設定は何処に行ったんだろう。もしかして心の目で見ているみたいな? まあ、どうでも良いんだけれど。


 謎の屋敷の前に辿り着いた忠次は立ち止まると小さく息を吸い込む。そして良く通る声で呼び掛けた。


「利休殿、一智にございます。相模守様と左京大夫様をお連れ致しました」


 それを聞いた大作はちょっとだけイラっとする。

 たしか相模守が氏政で左京大夫が氏直なんだったような。なのに何でその順番で紹介されなきゃならんのだ? 前から気になっていたんだけれど何だか引っ掛かるなあ。北条の現当主は氏直なんですけれど。

 言ってみれば前社長と現社長みたいな物じゃないか。だったら現社長の方が偉いと思うんだけどなあ。でも、官位とか領地とかアレコレ考えると氏政の方が偉いのかも知れん。まあ、どっちでも良いか。大作は考えるのを止め……


「り、り、利休さんですと! 一休さんじゃなくて? それってもしかして、もしかしないでも茶人の千利休殿のことでございますよね?!」

「如何にも、茶聖と称される当代随一の茶人にございますぞ」


 例に寄って例の如く忠次がドヤ顔でふんぞり返る。だから何でお前が偉そうに! 大作は危うく喉から出掛かった言葉を飲み込む。

 それはそうと何なんだこの変てこな展開は? 大作は心の中の警戒レベルを一段階引き上げた。


 嘘か本当かは知らんけど大友宗麟が秀長を訪ねた時に『内々の儀は宗易、公儀のことは宰相(秀長)相存じ候』って言ったとか言わなかったとか。

 ってことはアレか? 氏政と氏直が揃って上洛するという北条にとっての一大イベントが豊臣にとっては内々の儀だと言いたいんだろうか?

 随分と安く見られた物だな。ちっぽけなプライドを傷つけられた大作の心は怒りに打ち震える。とは言え、こんな敵の真っ只中で怒りを露にすることもできん。『あの葡萄はすっぱい!』と心の中で呟くのが精一杯の抵抗だ。


 大作がそんな益体も無いことを考えていると屋敷の中からゆっくりとした足取りで老人が現れた。

 何だか知らんけどやたらとガタイが良いなあ。身長は百八十センチくらいあるんじゃなかろうか。この時代の人間としては巨人といっても良いくらいの大男だろう。

 鼠色の襲小袖の上から丈の長い濃茶の羽織を着た姿はドラマとかで良く見かける通りだ。

 頭にはネールハットみたいな変てこな帽子を被っている。どうせならアレの前後が尖っていたらサンダーバード救助隊みたいで格好良いのになあ。大作は想像して吹き出しそうになったが空気を読んで我慢する。


「って言うか、ネールだって? ネルーじゃないのか? どっちが正しいんだ?」

「急にどうしたの? 大作。そんなのどっちでも良いのよ。ヒンディー語だとネヘルーくらいが一番近いみたいね」


 大作がうっかり溢した独り言に萌がすかさず食い付いた。またもや無駄蘊蓄で一本取られるとは屈辱の極みだ。大作は何でも良いから反論しようと頭をフル回転させる。


「そう言えばアフガニスタンの首都だって現地の人はカーブルって呼んでるそうだな」

「そもそも外国語の発音をカタカナで表現しようとするのに無理があるのよ」

「カリウムやナトリウムだってポタシウムやソディウムって言うしさ」

「いやいや、それはドイツ語と英語の違いでしょうに!」


 目の前に突っ立っている屋敷の主人を無視して大作と萌の無駄蘊蓄合戦はエスカレートして行く。

 そんな二人のやり取りを老人は生暖かい目で見守っていた。見守っていたのだが……

 とうとう痺れを切らしたのだろうか。ちょっとイラっとした様子で口を挟んできた。


「あ、あの…… 相模守様、左京大夫様。宜しいでしょうか? 千利休と申します」

「えっ? 何だって? って言うか、その声はくも()い? いやいやそれとも、く()神様? 何故にあなた様がこんなところにいらっしゃるのでしょうか?」


 突如として降って湧いた謎の展開で呆気に取られた大作の頭がフリーズする。

 だが、それを見かねたのだろうか。萌が即座に的確なフォローを入れてきた。


「大作、これって2014年の軍師勘兵衛じゃないかしら? あの作品では伊()雅刀が千利休を演じていたでしょう?」

「そ、そうだった~! ってことはもしかすると、しょこたんとも会えるかも知れんな」

「いやいや、それはちょっと難しいんじゃないかしら? だって、ほんのちょっとしか出ていなかったでしょう。でも、岡()准一になら確実に会えそうね」

「そ、そうか…… まあ、くもじ()んいちに会えただけでもラッキーだと思っておくか。下を見たらキリがないしな」


 表情をコロコロと変えながら大作は一喜一憂する。その様子を利休は生暖かい目で見守っていた。見守っていたのだが……

 とうとう痺れを切らしたのだろうか。ちょっとイラっとした様子で口を挟んできた。


「あ、あの…… 左京大夫様。そろそろ宜しいでしょうか?」

「えっ? 何だって? アッ~! いやいや、失礼いたしました。拙僧は大佐…… じゃなかった、北条左京大夫だっけ? 何かそんなのでございます。今は出家の身ゆえに大佐と号しております」

「は、はぁ? 左様にござりまするか。では相模守は何と号しておられるのでございましょう?」

「え、えぇ~~~っ! 気になるのはそこにございますか? えっと…… うぅ~ん。何だろう? 帰るまでには考えておきますので後でお教えいたしましょう。ってことで上げてもらって宜しゅうございますか?」


 大作は一方的に話題を切り上げると屋敷に向かって歩き出す。

 それはそうと氏政の法名? 法号? いやいや、臨済宗では戒名で良いんだっけ。それを考えることを心の中のメモ帳に書き込んだ。

 と思いきや、利休がちょっと慌てたように行く手を遮る。


「お待ちくださりませ。遠き東国から遥々と参られたお二方に心許りの持て成しを致しとう存じます。まずは此方へとお出で下さりませ」

「持て成しですって! 何を食べさせて頂けるのかしら? じゅるる~!」

「督姫様は素腹にございましたか。では、此方へ。供回りの方々は彼方へどうぞ」


 そう言うと利休は先頭に立って大作、お園、氏政の三人を屋敷の裏手へと案内する。どうやらその他の面々は供回りの衆という扱いらしい。


 まず一行は殺風景な部屋へと通された。良く分からないけれど、これって寄付(よりつき)とかいう部屋なんだろうか。Wikipediaによればここに手荷物を預け、足袋を履き替えたりといった身支度を整えるんだそうな。

 大作と氏政は張りぼての磔柱を肩から降ろして部屋の隅っこに並べて置く。そして白装束を脱ぐと臨済宗の法衣と袈裟に着替えた。

 だが、七つ道具だけは手放すわけには行かん。これは命の次に大事な物なのだ。決して手放すわけには行かない。絶対にだ!

 大事そうに荷物を抱える大作の様子を見た利休は何も言わずに次の部屋へと案内した。


 これが待合とかいう部屋なんだろうか。Wikipediaによればここで招待客が揃うのを待つんだそうな。ってか、招待客って誰なんだろう? 謎は深まるばかりだ。

 大作がそんなことを考えていると不意に中年男性が姿を見せた。


「相模守殿、左京大夫殿。お初にお目に掛かります。黒田官兵衛と申します」

「な、なんだってぇ~! その声はくも()い? いったいどういうこと?」

「落ち着きなさい、大作。これはきっと1996年の秀吉よ。あの作品では黒田官兵衛を伊()雅刀が演じていたんですもの」

「そ、そうきたかぁ~! このリハクの目を持ってしてもこの展開は読めなかったぞ……」


 だが狼狽える大作の気も知らずに新たな人影が現れる。


「相模守様、左京大夫様。石田治部少にございます。お見知りおきのほどを」

「ま、ま、またもや、くも()いだと! 」

「だから落ち着きなさいってば!。今度は1989年の春日局ね。あの作品だと伊()雅刀は石田三成を演じてたのよ。言わなくても分かってると思うけど」

「も、もうこれ以上は無いよな? 伊()雅刀の大河ドラマって?」

「まだまだあるわよ。だけど花神、徳川慶喜、西郷どんは幕末が舞台だから大丈夫ね。いのちなんて第二次大戦後の話だし。風林火山の大原雪斎も弘治元年(1555)没だから出てくる心配は無いわ」

「良かったあ~!」


 ほっと胸を撫で下ろす大作を黒田官兵衛と石田三成が生暖かい目で見詰めていた。


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