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巻ノ弐百壱 戻れ!戻橋へ の巻

 何にもない原っぱのど真ん中を東西に真っすぐに伸びる勘解由小路。それほど広くもないその通りを大作一座は西に向かってとぼとぼと歩いていた。

 遥か遠くには聚楽第や大名屋敷が霞んで見える。このペースで進めば十五分もあれば無事に到着できそうだ。とは言え、このまますんなり行ったら面白くも何ともないなあ。

 スカッドの糞馬鹿野郎は巻いて行けなんて言っていた。だからといって『はいそうですか』と素直に引き下がれるほど大作は人間ができていないのだ。

 例えるならブッチキャシディとサンダンスキッドみたいな? 『ゆっくりしていってね!!!』って頼まれれば巻いてあげなくもないんだけどなあ。

 それに考えてみればア()ギの鷲巣○雀編なんて一晩の話を二十年もやっていたんだ。四捨五入殺人事件どころの騒ぎじゃあないぞ。今さら京の都を百話や二百話くらい歩き回ったからといって何だというんだ。

 とにもかくにも、こうなったら聚楽第へのラストワンマイルを取って置きの牛歩戦術で出来得る限り引き延ばしてやろうじゃないか。突如として大作の悪戯心に火が点いた。


「なあなあ、みんな。とっても月が青いから、ちょっくら遠回りして行かないか?」

「えぇ~~~っ! お月さまが青いってどういうことかしら?」


 今日はひたすら笛を吹き続けていたメイが目を丸くして話に食い付いてきた。もしかして、なかなかセリフが貰えなくて焦っていたんだろうか。


「気になるのはそこかよ~! きっと大気の影響なんじゃね? ミー散乱だかレイリー散乱だか知らんけど」

「それか、青方偏移かも知れないわね。高速で近付くとドップラー効果で光の波長が短くなるじゃない」

「ナイスアシスト、萌! まあ、そのことは一旦置いとくとしよう。それより俺はどうしてもみんなに見てもらいたい物があるんだよ」

「何それ! 美味しいの?」


 今度は急にお園が目の色を変えて話しに食い付いてくる。

 だが、大作は今や定番となったお園の名セリフを華麗にスルーした。


「いやいや、期待させて悪いんだけど食べ物じゃ無いんだな。でも、せっかくはるばる京の都まできたんだぞ。定番の観光スポットくらいチェックしときたいじゃん。みんなだって京の都は初めてだろ? 次にこられるのはいつになるか分からんのだし」


 急に話を振られたサツキ、メイ、藤吉郎が期待と不安の入り雑じったような表情を浮かべる。京都なんて何度も行ったことのある萌は相変わらずのアルカイックスマイルだ。

 お園はそんなみんなの顔を見回しながら暫しの間、逡巡している。

 それを見かねたのだろうか。それまで黙って話を聞いていた氏政がちょっと遠慮がちな顔で口を開いた。


「お督殿よ、実を申さば儂も京の都は初めてなのじゃ。新九郎が見ておいた方が良いと申す物があるならば足を運んでみては如何じゃろうかのう」

「御義父様がそう申されるならしょうがありませんね。一つ貸しにございますよ」


 貸しとか借りとかじゃないんだけどなあ。大作は心の中で小さく呟くと肩をすくめる。そして無理矢理に笑顔を浮かべると二人に向かって精一杯の謝意を示した。


 そのまま町小路との交差点まで進んだところで右へと進路を変える。相も変らぬ寂しい一本道を北に向かって数百メートル進むと土御門大路の辺りに上京惣構(かみぎょうそうがまえ)が広がっていた。この辺りから北が上京の市街ってことらしい。建物も徐々にその数を増してくる。


 そこからさらに北へと一ブロック進むと正親町小路との交差点に差し掛かった。そこで今度は左へと進路を変える。


 東西に伸びる道沿いには誓願寺、革堂(行願寺)、百万遍(知恩寺)といった寺院が建ち並び、その隙間を町屋が埋めていた。

 振り返ってみれば東の方には室町小路の辺りから禁裏に向かってそれなりに立派な街並みが広がっている。その家々は下京とはがらりと変わって閑静な住宅街といった趣だ。

 どうやら公家みたいな連中の居住空間となっているらしい。屋根も板葺きではなく、桧皮葺きみたいな高級感溢れる作りが見てとれた。


 今まで通ってきたどの道よりも立派に整備された通りは綺麗に掃除されていてゴミも落ちていない。道幅も広々としていて幹線道路といった感じだ。


「この道は禁裏から聚楽第へと真っ直ぐに伸びる直通ルートなんだ。秀吉が再開発した後には中立売通と呼ばれるようになるらしいな。嘘か本当か知らんけど後陽成天皇の二回の聚楽第行幸はこの通りを通ったとか通らなかったとか」

「いったいどっちなのよ? まあ、最短ルートなんだから普通にこの道を通ったんじゃないかしらね。だけれど、この道の何処が観光スポットだっていうの?」

「まあまあ、そう慌てなさんな。もう少しで見えてくるはずだぞ。って言うか、見えてこないと困る。見えてきたら良いなあ」

「だからいったい何が見えてくるっていうのよ。言っとくけど、もしも文無き物だったら承知しないんだからね」


 そういうとお園がにっこり微笑んだ。だが、その笑顔にはちょっぴり邪悪な気配が含まれているようないないような。


「ほら、もう見えてきたぞ。母さん、あれが戻橋よ。記念の写真でも撮りましょうか? ちなみに平安時代や二十一世紀には一条戻橋なんだけど、この時代には正親町小路に架かっていたらしいな」

「もどりばし? いったい何が戻るっていうのかしら。アッー! もしかして浄蔵貴所様の御父上が常世から現世へ戻られたっていう橋じゃないの?」


 口元を嬉しそうに綻ばせたお園が急に詰め寄ってきた。それを聞いた周りのみんなも興味津々の顔で一斉に聞き耳を立てている。やはり死者蘇生のような禁断の秘儀には誰しも興味を惹かれてしまうんだろうか。


「相変らずお園は物知りだなあ。まあ、死人が蘇ったっていう事例は後にも先にも一回こっきりだから再現性に難ありなんだけれどさ。その後は無事に戻ってこれるっていう験担ぎで活用されたらしいぞ。戦時中にはこの橋を渡って出征すれば生きて帰れるって大勢の兵士や家族が通ったんだとさ。どうせみんな死んじゃったんだろうけど。言ってみりゃ、トレヴィの泉の日本版みたいな?」

「朝鮮出兵に赴く伊達政宗も兵を連れてここを通ったそうね。その反面、出戻りにはなりたくないってことでウエディング関係の人たちには避けられていたみたいよ。まあ、徳川和子が入内する時には橋の名前を万年橋に変えさせるなんて裏技を使ったそうなんだけど」


 萌がちょっと小馬鹿にしたような半笑いを浮かべながらここぞとばかりに無駄蘊蓄を傾けてくる。だが、大作はそんなことに付き合うつもりは毛頭無い。意味深な笑みを浮かべると強引に話を方向転換させた。


「その他にもあの橋には変てこな話が山盛りなんだぞ。まずは橋占の名所として有名だな。高倉天皇が中宮の建礼門院を産んだ時、母の二位殿が橋占をやったんだとさ」

「高倉天皇は産んでいないと思うわ。って言うか、高倉天皇の御台様が建礼門院様でしょうに。それでお生まれになったのが安徳天皇よ」

「それって謎の海底都市伝説の人だよな。海底都市っていえばジェームス・キャメロン監督のアビスって映画に……」

「どうどう、大佐。それより戻橋の話をもっと聞かせて頂戴な。わざわざ遠回りしたくらいなんだから、さぞかし面白きことなんでしょう?」


 お園が挑発的な目をしながら小首を傾げた。その口元は何だか笑いを堪えているように見えなくもない。もしかして思いっきりハードルを上げられてしまったんだろうか。

 遠回りなんてするんじゃなかったなあ。今さら激しく後悔するが後の祭りだ。取り敢えず予防線だけでも張っておこう。大作は卑屈な愛想笑いを浮かべながら揉み手をする。


「面白いか面白くないかなんて人それぞれだぞ。お互いに多様な価値観を認め合ってこそ豊かな文化が生み出されるんじゃね? それはともかく、安倍晴明は十二神将の式神を戻橋の下で飼ってたそうだ。家で飼おうとしたら奥さんにそれだけは止めてくれって泣き付かれたんだとさ。やっぱ、天才陰陽師も奥さんにだけは頭が上がらなかったのかなあ?」

「どうなのかしら。まあ、私だって家で十二神将の式神なんて飼って欲しくはないわねえ」

「他にもまだまだあるぞ。頼光四天王筆頭の渡辺綱。あのおっさんが鬼の腕を切断したっていう傷害事件の現場でもあるんだ」

「それって松浦党の御先祖様だったわよね。ところで切られたのは右手だったの? それとも左手かしら?」


 さすがは目の付け所がお園だな。普通、そんなことを気にする奴はいないんじゃなかろうか。

 とは言え、こいつはヘビーな質問だぜ。散々偉そうに無駄蘊蓄を傾けておいてここで外したら格好悪いなあ。大作は内心の動揺を抑えながら二分の一の確率に賭ける。


「やっぱ人間って本能的に利き腕を庇うじゃん。だから咄嗟に左手でガードしようとして切られたんじゃないのかなあ? エ○ァ初号機だって第十四使徒ゼルエルに左腕を切られただろ」

「でも、エ○ァはゼルエルの腕であっと言う間に再生しちゃったのよね。それと、鬼は人とは違うと思うわよ。詮ずる所、鬼の腕は太刀に切り落とされるんでしょう。だったらそれを腕で受けようなんてしないんじゃないかしら」

「だったら右手で攻撃しようとして反撃されたって可能性もありか。っていうか、あの時の鬼って素手で戦っていたのかなあ? 金棒とか持ってたかも知れんぞ」

「だったら腕なんて切られないんじゃないかしら。鬼だって阿呆じゃないんだから」


 下手な考え休むに似たり。真面目に考察するには情報が少なすぎる。呆れ顔のお園に見詰められた大作は悔しそうに唇を噛み締めることしかできない。

 だが、捨てる神あれば拾う神あり。今度は萌がちょっと遠慮がちに口を挟んできた。


「二人の夢を壊すようなことを言いたくないんだけど『事件は一条戻橋で起きてるんじゃないわ。北野神社で起きてるんだ!』よ。綱の鬼退治は屋代本平家物語の剣巻に出てくるの。一条戻橋は女装した鬼の出現ポイントだけれど本性を現して襲ってきたのはずっと南に行ってからね。鬼は綱の(もとどり)を掴んで空に飛び上がる。綱がその腕を切断したら北野天満宮の廻廊の屋根に落下って流れだわ」

「ってことは事件現場は北野天満宮の上空ってことじゃん! ここからだと西北西に一キロ半ってところか」

「ちなみに、月岡芳年や豊原国周の絵だと右腕を切られたことになってるわね。きっと利き腕の右手で髻を掴んだんでしょうね。それはそうと、大作。渡辺綱が女装した鬼を馬に乗せたのは平安時代の一条戻橋よ。私たちが今いる正親町小路の戻橋とは別物だわ。百五十メートルくらい北かしら」


 萌は人を小馬鹿にしたような薄ら笑いを浮かべながら大作の目を真っ直ぐから見詰めてきた。

 が~んだな。まさか話が根本から間違っていたとは。大作はあまりのショックで暫しの間、ツルツルのスキンヘッドを抱え込む。だが、すぐに立ち直ると無理矢理に余裕の笑顔を浮かべた。


「まあ、そんな無駄知識はシュレッダーにポイだ。ここからが本題だから耳を掻っ穿って聞いてくれよ」

「かっぽ汁? それって美味しいの?」

「ズコ~! それって未唯が一度使ったネタじゃんかよ。はねくり備中に柄を付けてもらった時だっけ」

「そう言えば大佐ったらあの時、未唯と何か言ひ期してたわよね。あれっていったい何を言ひ期していたのかしら?」


 やはり完全記憶能力者は凄いなあ。今さらながら大作はお園の記憶力に激しく感心する。どうせならこの力をもっと社会の役に立てることができれば良いのに。

 取り敢えず必死になって頭を振り絞ると、その時のできごとを記憶の底から引っ張り出した。


「ああ、あれはだな。未唯が俺と口吸…… いやいや!」


 大作が発した不用意な一言にお園の顔色が急変した。

 怖! ガラスの仮面を被った人の白目かよ。大作は飛び跳ねるようにお園から距離を取ると咄嗟に話を切り替える。


「実はこの橋の上では細川晴元が三好長慶の家臣の和田新五郎を鋸挽きにしたんだ。秀吉も島津歳久や千利休の首を晒したりしてるぞ。わざわざ例の千利休の木像に踏ませて晒したそうだな。それだけじゃないぞ。八年後にはここで二十六聖人の耳を削いで長崎へ送ったりもしている」

「ふ、ふぅ~ん。どうせそんなことだろうと思っていたわ。でもね、大佐。いくら繰り返しがギャクの基本だからといって、これじゃあ阿呆の一つ覚えじゃないの」

「まあ、話は最後まで聞けよ。他の晒し首と違ってここは俺と…… 俺たちと深い縁がある場所なんだ。なんとびっくり、来年の七月十六日には氏政と氏照の首が晒されるんだ!」

「なっ、なんじゃとぉ~~~っ! 儂と源三が晒し首になると申すか! 新太郎や助五郎はどうなったのじゃ?」


 それまで退屈そうに欠伸を繰り返していた氏政が急に眼の色を変えた。いい年をした爺さんが声を裏返えらせて絶叫するとは情けない。大作は吹き出しそうになったが空気を読んで我慢する。

 そうそう、こんなとき肖るのにピッタリの人がいたっけ。大作は「柳田元法相、君に決めた!」と心の中で絶叫しつつも仏頂面で答えた。


「個別の事案についてはお答えを差し控えます」

「な、何を申しておるのじゃ、新九郎。そう申さば其方は如何致した? 大事は無いのか?」

「法と証拠に基づいて適切にやっております」

「じゃ、じゃからのう……」


 いつ終わるとも知れない氏政の追求を大作は二つの言葉を交互に繰り返して切り抜ける。法相は気楽な稼業ときたもんだ。これくらいなら鸚鵡や九官鳥にでも勤められるんじゃなかろうか。

 そんな阿呆な遣り取りをしながら歩いて行くと油小路の辺りで上京惣構の外に出てしまった。すると道の周りは突如として殺風景になる。

 再来年にはこの辺りも再開発で加藤、黒田、伊達、上杉なんかの大名屋敷が建ち並ぶんだけどなあ。もしかしてこれってビジネスチャンス…… いや、止めておこう。大作は頭の大名屋敷を爆破解体した。




 戻橋は思っていたよりずっと小さな物だった。戻橋ショボ! ショボ過ぎるぞ。大作は心の中で嘲り笑うが決して顔には出さない。

 さっき言った手前、大作は一同を整列させてを橋をバックに記念写真を撮る。でも、これじゃあプリントして配ったりできないなあ。

 そうだ! スカッドに頼んだら何とかしてくれないだろうか。覚えていたら次に会った時に頼んでみよう。大作は心の中のメモ帳に書き込んだ。


 橋の真ん中を通って堀川を渡ると川の向こう側には大きな屋敷がたくさん建ち並んでいた。

 そのまま百メートルほど歩いて行くと右側に黒田孝高の屋敷が建っている。この時期の黒田といえば豊前国に十二万石を与えられていたんだっけ。分相応のそこそこ大きな屋敷だ。

 そのまま道を歩いて行くと前方には聚楽第を取り囲む石垣が立ちふさがっている。その表面には結構な大きさの自然石が一見すると乱雑に積み上げられ、まるで小山のようだ。

 アレ? おかしいぞ。Wikipediaによれば黒田も外郭内に屋敷を建ててもらってるってかいてあるのになあ。でも、スマホに入っている地図によれば前田や浅野、蒲生、堀、蜂須賀なんかは聚楽第の中に屋敷を建ててもらっているけど、福島、加藤、黒田なんかの屋敷は外に建ってるんだそうな。これが格差社会って奴なんだろうか。

 何だか急に黒田孝高が可哀想な気がしてきたぞ。って言うか、こんなことするから最後は徳川に付いちゃったのかも知れん。まさに自業自得って奴だな。大作は心の中で嘲り笑おうかと思ったが何となく虚しくなったので止めておいた。


 道を左に曲がると石垣に沿って黒門通を南を目指して歩く。途中にある東外門から石垣の中の様子をチラリと見て取ることができた。


「堀の幅は四十メートルってところかな。この時代の鉄砲の有効射程を考えると十分な幅か。とは言え、守り堅固な城って感じでもないな」

「そりゃそうでしょう。そもそも名前が聚楽城じゃなくて聚楽第なんですもの。これは秀吉の京における政庁兼邸宅なんでしょうね」


 丸っきり興味ありませんといった顔の萌が相槌を打つ。その表情は苦虫を噛み潰したように歪んでいる。もしかして萌ってアンチ秀吉なんだろうか。まあ、大作にとっても秀吉は嫌いな戦国武将の上位打線なんだけれども。


「もしかして小田原で豊臣勢を粉砕したらここを攻めることがあるかも知れんな。まあ、こんなチンケな城なんて瞬殺だろうけどさ」

「面倒臭いからいっそのこと京の都ごと焼き払っちゃえばどうかしら。そうだわ! 五山送り火の時にまとめて焼いちゃいましょうよ。それが良いわ」

「五山送り火って八月十六日だったかな? いやいや、昔は旧暦の七月十六日なんだっけ。山中城が三月二十九日だから日程的にはアリかな? でも、秀吉は大坂城に籠城するんかも知れんぞ。まあ、プランの一つに入れておこう」


 時間潰しの無駄話に興じながら五、六百メートほど歩くと勘解由小路に戻ってこれた。昨日も通った毛利輝元の屋敷の正面で右に曲がる。通りの北側にも巨大な石垣が道に沿って遥か西の方へと続く。

 そのまま宇喜多秀家の屋敷の前を素通りする。徳川家康の屋敷の真正面まで進むと右手には昨日と変わらぬ南外門が建っていた。


 ここまできて何だけれど、秀吉が留守だったら良いなあ。そんな考えが頭の端っこにチラリと浮かぶ。だが、大作は頭を激しく振ってそんな考えを吹き飛ばすと腹の底から大声を張り上げた。


「ここがあの男のハウスね! 頼もう!」


 突如として現れた不審人物に門番たちが一斉に色めき立つ。効いてる効いてる。大作は心の中でほくそ笑んだ。

 それはそうと、もしかしてこいつらは例の落首の一件で処刑された十七人の番衆の交代要員なんだろうか。よくもそんな物騒な職業に就こうと思ったもんだな。俺なら頼まれたってお断りなんだけれど。

 大作がそんなことを考えていると不意に門の方から大きな声が聞こえてきた。


「おお、相模守殿、左京大夫殿。随分と遅うございましたな。お待ち申しておりましたぞ」


 背後から掛けられた声に慌てて大作が振り向く。そこには見覚えのある男がにこやかな笑顔を浮かべて立っていた。


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