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巻ノ百九拾七 探せ!池田屋を の巻

 北条の先代当主にして御隠居様、相模守氏政は矢橋の渡しで転覆事故に遭い非業の死を遂げた。

 そんな大作の冗談を真に受けた相州乱破たちは血相を変えて慌てふためく。忍びの癖になんてメンタルの弱い連中なんだろう。大作は心の中で嘲り笑うが決して顔には出さない。

 それとは対照的に女性陣や藤吉郎は呆れ顔で聞き流している。まあ、だからといってこいつらのメンタルが特に強いってわけでもないんだろうけど。


「泣き言なんざ聞きたくないぞ、何とかしろ!」

「何とか? 何とかって、いったいどんなことなのかしら?」


 例に寄って大作は無茶振りをする。だが、お園は慣れた物といった顔だ。薄ら笑いを浮かべると大作の言葉を真正面から打ち返してきた。

 その余りにも堂々とした態度に大作は一瞬だけ怯む。


「え、えぇっと…… それはだなあ。う、うぅ~ん。分からん。いや、閃いた! フィクションだと死の瞬間が明確に描写されていない場合、本当は死んでいないってことが多いだろ? なので、氏政が死んだって思い込んだ俺たちは喪服を着て秀吉を訪問するっていうのはどうじゃろう? そこに氏政が颯爽と現れてみんなの度肝を抜くっていう展開に持って行くんだ。トム・ソーヤの名場面の再現みたいだろ?」

「私たち、お義父様と何も示し合わせていないのよ。なのに、そんなに上手く行くものかしら?」

「上手く行くのかなじゃねえ! 行くんだよ! って言うか、行ったら良いなあ。まあ、駄目で元々だ。気楽に行こうや。ってことで、まずは宿を決めようじゃないか」


 そんな阿呆な話をしている間にも一行は橋を渡り切って対岸まで進む。鴨川さえ渡れば洛中ってことなんだろうか。

 さっき萌が言ってたように三条大路は東京極大路までしか整備されていないようだ。道が変に歪んでいるし不思議な高低差がある。しかも微妙にぬかるんでいて何だか歩き辛い。

 それはそうと、この時代にはまだ洛中を取り囲む御土居(おどい)も作られていない。あれが造られるのは天正十九年(1591)の始めごろとされている。秀吉が洛中の寺院を東京極大路に沿って一極集中させ、寺町通と名を変えるのだ。そのタイミングで京の都は大改造される。東山大仏の建立を始めとしてあちこちで建築ラッシュだったそうな。


 段々と家が増えてきて、人通りも徐々に多くなってきた。さすがはこの時代の日本の首都だ。

 行き交う人々の着物もそこはかとなく雅で垢抜けているような、いないような。分からん。さぱ~り分からん。大作にはファッションセンスなんて物は皆無なのだ。


「さて、京都三条で有名な宿屋といえば池田屋だな。今から二百七十五年後、尊攘派の連中は御所を焼き討ちしようとするんだ。そして奴等を一網打尽にした新選組の名は一気に天下に轟く。そんな一大イベントがあった…… あるであろう由緒正しき宿屋なんだぞ」

「でも、アレってきっと新選組のでっち上げよね。京都大火計画、松平容保暗殺、天皇拉致、エトセトラエトセトラ。唯一の証拠は激しい拷問で無理矢理に吐かせた証言だけなんですもの」


 忌々し気な顔をした萌が吐き捨てるように呟く。もしかしてこいつ、攘夷派なのか? 佐幕派の大作は漠然とした不安感に襲われる。そう言えば、毛利贔屓だって言ってたような気がしないでもない。まあ、どっちでも良いんだけれども。


「やっぱ、取り調べの可視化って大事なんだなあ。それはともかく、アレってナチスに例えれば国会議事堂放火事件と似てなくもないだろ? 最大の敵だった共産党をでっち上げの事件で非合法化。関係ない政党まで次々と潰しちまったんだもん」

「池田屋事件でも攘夷派の大物が大勢死んでるわね。ところが長州はこの事件を切っ掛けにタカ派が暴走して禁門の変を引き起こしちゃったのよ。結局、この一件って明治維新を早めたのか、遅らせのか。あるいは事件が無ければ明治維新が起こらなかったのか。永遠の謎よね」

「これってやっぱ、白色テロって奴なのかな? まあ、そんなん言い出したら西郷が江戸でやらせたテロなんてもっと酷いんだけどさ。敬天愛人が聞いて呆れるぞ。とにもかくにも、あのタイミングで朝敵とされた長州を滅ぼせなかったのが徳川最大の失敗だな。ダンケルクで英軍を逃したくらいの大チョンボだぞ。一旦やると決めた以上はどんな犠牲を払ってもやり遂げなきゃならん。絶対にだ! 奴等は禁門の変を起こしたテロ集団の朝敵だぞ。それが、どうしてたった四年後には官軍になってるんだ? 幕府は徹底的なネガティブキャンペーンをやれば良かったんだよ。俺ならマスメディアを総動員させて国中にあることないこと撒き散らしてやったのになあ」


 自分の世界に入り込んだ大作は一人で長弁舌をふるう。だが、ふと女性陣に目をやるとみんな揃って死んだ魚のような目をしている。

 もしかして話を脱線させ過ぎたのか? 反省、反省。大作は唐突に話を打ち切るとお園に向き直った。


「んで、話を戻すけど木村屋…… じゃなかった、池田屋ってどこにあるんだろうな? 三条木屋町ってことはこの交差点の近所のはずだぞ。三条小橋っていうのが高瀬川に掛かったこの小さな橋のことなんだもん」

「見たところこの辺りには宿屋なんてどこにも無いみたいよ。そのお宿って今もそこにあるのかしら?」

「普通に考えたら無いでしょうね。幕末に下級武士が出入りするような安宿なのよ。とてもじゃないけど三百年の歴史があるとは思えないわ」


 薄ら笑いを浮かべた萌が他人事みたいに気軽に言い捨てる。まあ、完全に他人事なんだけれど。いやいや、もし野宿になったらお前らも一蓮托生なんだぞ。大作はツルツルのスキンヘッドを抱えて小さく唸る。


「だ、だったら…… だったら、寺田屋はどうじゃろうな? あそこでも何か事件があったはずだぞ。だって、寺田屋事件っていうくらいなんだもん」

「久光の命令で用済みになった薩摩の尊皇派が粛清されたのよ。ナチスでいうところの長いナイフの夜かしら。それと、坂本龍馬が伏見奉行に殺されそうになったのもそこだったわね」

「そうそう、何かそんなのあったよな。だんだん思い出してきたぞ。やっぱ拳銃は剣よりも強いんだからしょうがないか。確かS&WのModel.2 Armyを持っていたんだっけ。高杉が上海で買ったのを貰ったとか何とか。んで、寺田屋で無くしちゃったんでModel.1 1/2 First Issueを自腹で買いなおしたとか薩摩に貰ったとか言われてるんだったかな?」

「当時、Model.2は製造が追い付かないほどの大人気だったそうよ。だから高杉が上海で買えたとは思えないんだけどね。それはさておき、節子でなくても『なんでみんな拳銃すぐ落としてしまうん?』って言いたくなるわ。信繁といい、デッカードといい何でランヤードで繋いでおかないのかしら」


 そんな阿呆な話をしながら一行は三条木屋町を練り歩く。練り歩いたのだが…… 寺田屋は見つからなかった!

 例に寄って大作は慌てふためき、全員が半笑いを浮かべている。だが、萌だけはちょっと呆れたような顔つきだ。そして何となく言い辛そうに口を開いた。


「聞かれなかったから言わなかったんだけど寺田屋は1597年頃に創業されるらしいわよ。って言うか、そもそもあれって伏見にある船宿なんだけどね」

「伏見だと? 歩いて二時間は掛かるぞ。そんな遠いところに宿なんて取れるかよ。行き帰りだけで小旅行じゃんかよ……」

「そも、寺田屋ができるのは八年も先のことなんでしょう? だったら伏見に行ったからって寺田屋はまだ無いはずよ」


 お園が激しく不満気な顔をしながら横から口を挟んでくる。

 大作も心の中で『ですよね~』と禿同するが決して顔には出さない。その代わりに意味不明の不敵な笑みを浮かべながら顎をしゃくった。


「そ、そうだな。今、お園から素晴らしい意見が出たぞ。我々は決して伏見には行かない。絶対にだ!」

「それで? だったら今晩はどこに泊まるっていうのかしら。まさか、こんな寒い冬の最中に野宿とは言わないわよね?」

「やっぱ野宿は嫌だよな? う、うぅ~ん。閃いた! 近江屋事件ってあっただろ? 龍馬が暗殺された例の宿屋はどうじゃろな。河原町通り蛸薬師にあるって書いてあるぞ」


 何でそんな縁起の悪いところに泊まらなきゃならんのだろうか。大作としても疑問に思わないわけではない。だけど、京都で有名な旅館なんてそれくらいしか知らないんだからしょうがない。必死になって理論というかナニをナニする。

 しかし萌は一段と挑発的な笑顔を浮かべると冷たく言い放った。


「落ち着いて聞いてね、大作。とっても残念な話なんだけど、まだこの時代には河原町通その物が無いのよ。それと、近江屋っていうのは宿屋じゃないわ。土佐藩御用達の醤油商なのよ」

「そ、そういえば命の危険が危ないんで匿われていたんだっけ。だ、だったら近江屋の前に泊まっていた酢屋っていうところは…… 材木商だと! 材木商の屋号が酢屋?! わけがわからないよ……」

「大作、悪いことは言わないから幕末の名所は避けておきなさいな。今はまだ戦国時代の末期なのよ。幕末まで続く宿屋なんてあるわけがないわ」

「あるのか無いのかどっちだよ~! いやいや、無いんだよな。う~ん、どうすれバインダ~!」


 大作は奥義、捨てられた子犬のような目を使った。しかしなにもおこらなかった!

 と思いきや、不意に背後から人の近付く気配を感じる。慌てて振り返った大作の目に飛び込んできたのは意外な人物だった。


「これはこれは氏政…… じゃなかった、父上? 父上ではござりませぬか! 琵琶湖で海の藻屑と消えたのではなかったのですか?」


 あまりにも予想外の出来事に思わず大作の声が裏返った。だが、氏政は馬鹿にしたような薄ら笑いを浮かべている。その顔を見ていると大作はイラっとしたが強靭な精神力でそれを抑え込んだ。

 だが、一瞬の沈黙の後にお園が言葉尻を捕らえるように話に割り込んでくる。


「琵琶湖って近淡海のことだったわね? だとすれば日本一(ひのもといち)の大きな淡水湖のはずよ。海の藻屑っていうのはおかしくないかしら?」

「気になるのはそこかよ~! ってか、近淡海っていうんだから海でも良いんじゃね? それに湖の藻屑って語呂が悪いじゃん」

「まあまあ、良いではないか。こうして再び親子で相まみえることができたことじゃ。しかし、逢坂関とはいったい何処にあったのであろうな。儂らはちいとも気付かんかったぞ」

「う、うぅ~ん。それは公衆トイレの…… それはみんなの心の中にあるのではありますまいかな? サン=テグジュペリは申された。大事な物は肉眼で観測することができないとか何とか。ところで父上、京の都にどなたかお尻あい…… じゃなかった、お知り合いはいらっしゃいませんかな? 今晩の宿を探しておるのですが」


 大作は無理矢理に話題を転換させ、気になっていたことの丸投げを試みる。氏政はまんまとそれに嵌ったらしい。暫しの間、眉間に皺を寄せて考え込むと小首を傾げて話し始めた。


「そうさのう…… 左馬助が上洛した折には徳川の屋敷に泊めて貰うたのではなかろうかな」

「お前はマシュー・カスバートかよ! それはそうと、左馬助って誰でしたかな?」

「美濃守、北条氏規のことよ」


 大作のさぱ~り分からんという顔を見るに見かねたのだろうか。萌がすかさず耳元でフォローを入れてくれた。大作はアイコンタクトで素早く謝意を表す。


「ナイスアイディア、父上! そう言えば、お園って督姫なんだから家康の娘なんじゃね? だったら俺たちも親類なんだから頼み込めばタダで泊めて貰えるかも知れんぞ。そうなると膳は急げだ」

「膳じゃないわ。善は急げよ、大佐」

「いやいや、いくら何でも素泊まりってわけじゃないだろ? 嫁に出した娘が婿と舅を連れて里帰りしてきたのに飯も出さんなんてことはないんじゃね?」

「だけど、家康って超が付くほどのドケチだったのよ。汚れが目立たないからって浅黄色の褌を愛用していたそうね」


 またもや萌がわけの分からん話で茶々を入れてきた。イラっとした大作は眉間に皺を寄せ、苦虫を噛み潰したような顔で答える。


「最悪の不潔野郎だな。それってもはやバイオテロじゃんかよ…… やっぱ、褌クリーニング事業の展開を早めた方が良さげだぞ。それはそうとドイツ国防軍戦車兵の黒い制服も油汚れが目立たないからって知ってたか?」

「有名な話ね。さて、それじゃあ徳川の屋敷を目指してLet's go together!」

「そ、それは俺の決めゼリフなんですけど……」


 がっくりと肩を落とす大作を無視して萌が先頭に立って歩き出す。氏政や風魔と合流した一同は金魚の糞みたいに後ろにくっついて京の町を歩き始めた。






 一同は三条通を西へ向かって進む。やっとの思いで京の都に着いたと思ったら、またもや西に向かうのかよ! このままだと今に地球を一回りして反対側から戻ってくるんじゃなかろうか。

 大作は想像して吹き出しそうになったが際どいところで我慢した。


 この通りは平安京の時代には三条大路とか呼ばれた大通りだったそうな。道幅が三十メートルもあり、左右には貴族の豪邸が立ち並んでいたとかいないとか

 だが、度重なる戦火と無秩序な再開発で無茶苦茶になってしまったんだろうか。その道幅はそれほど広いとも思えない。通りの左右には貧乏臭い小さな小屋が犇めき合うようにぎっしりと立ち並んでいる。

 これって庶民か下級武士の住居なんだろうか? 薄っぺらい板葺き屋根の上には丸太や竹が適当に組まれ、風で飛んで行かないように大きめの石が雑に並べられている。

 いやいや、どうやらみんな商家らしい。酒屋、焼物、みすや針、扇、小間物、紙、皮足袋、鋳物、蝋燭、古着らしき着物、蚊帳、エトセトラエトセトラ。

 繕綿(むしりわた)、粉川、鼻革、文字屋…… こいつらいったい何なんだろう? 正体のさぱ~り分からないような物を並べた商家が地の果てまで軒を連ねている。


 大作は途中で見つけた古着屋にぶらりと飛び込む。そこで氏政のためにまあまあ見栄えのする法衣を一着見繕って…… いやいや、着物は一枚って数えるんだっけ。一枚購入した。


 ついでに白装束を探していることを店主に伝えると普通に売っているとのことだ。聞けば白装束は別に死に装束ってことではないんだそうな。

 そう言えば神主や巫女、お遍路さんなんかも着ていたような。って言うか、あれって元々は下着なんじゃなかったっけ?


「さて父上、こうして袈裟も無事に手に入ったことです。そろそろ徳川の屋敷に参りましょうか。ところで、それって何処にあるんでしょうな?」

「知らん! みなの心の中にでもあるのではなかろうかな?」


 そう言うと氏政がこれ以上はないというドヤ顔で顎をしゃくった。大作はその顔を発作的にぶん殴ってやりたくなったが紙一重のところで踏み止まる。


「さ、左様でござりまするか。う、うぅ~ん。だったらその辺の人に聞いて見るか?」

「徳川の屋敷は下立売通と智恵光院通が交わる辺りにあったらしいわよ。織田信雄と宇喜多秀家に挟まれてたみたいね」

「し、知っているのか萌!? えぇ~っと…… 下立売通ってのはこの時代でいうと勘解由小路かしらん? それって二十一世紀の地図だと信愛保育園、下立売交番、中村公園なんかが建っているところだな。取り敢えず堀川通まで行って北に一キロだ」


 大作は素早くスマホの地図で確認する。またもや公衆トイレだと! 本当にどこにでもあるんだな。まあ、この時代にはないんだけれど。


「それはそうと、ここから南に三百メートルほど行くと本能寺だぞ。信長が殺されたところだ。ついでに見に行ってみないか?」

「信長は殺されてなんかいないわよ。自害したんだもの。それに本能寺の変から七年も経ってるのよ。たぶん何の痕跡も残っていないと思うわ」

「そ、そうかも知れんな。二十一世紀には特別養護老人ホームになってるくらいだし。んじゃあ、先を急ぐとしようか」


 堀川の手前で右に曲がり東堀川通を北に進む。この道はそんなに広くもない。ちなみに川の向こう側にある西堀川通も同じくらいの幅だろうか。

 西堀川通が現代のような大通りになったのは戦時中の建物強制疎開によるものなのだ。

 こんな感じで出来た大通りは横浜の根岸疎開道路、広島の平和大通り、大阪の上新庄生野線や難波片江線なんかもそうらしい。


「この、大して広くもない東堀川通を昔は市電が走っていたんだぞ」

「昔? それっていつごろのことなの? 平安の御世かしら?」

「いや、ごめん。未来の話だったよ。明治二十八年(1895)開業で昭和三十六年(1961)廃止だな。うぅ~ん。市電が走っていればこんなに歩かなくて済んだのになあ。京の都ってこんなに広かったのかよ……」


 川の向こう側にも住宅が疎らに立ち並んでいる。と思いきや、少し進むといきなり町並みが途絶えて田園地帯になってしまった。どうやらこの辺りはいまだに応仁の乱から復興していないようだ。

 スマホで確認してみると戦国時代の京の都は上京と下京に別れて復興していたんだとか。まあ、大した距離ではないんだけれど。


 この付近の土地は十四年後には家康が二条城を建てるため強制収用されるそうな。

 もしかしてこれってビジネスチャンスじゃね? 将来の値上がりを見越して土地を買い漁っておけば一儲けできるかも知れん。

 いやいや、小田原征伐の結果が変われば二条城だってどうなるか分からん。リスクの高いギャンブルは止めておいた方が良さげだ。大作は小さく首を振って阿呆な考えを頭から追い払った。




 そのまま東堀川通を北上して行くと急に人家が密になってきた。どうやら上京に入ったらしい。暫く進むと東西に延びる勘解由小路に差し掛かる。そこで道を左に曲がり堀川に架かった橋を渡った。

 堀川西通を横切ると勘解由小路の南側に大きな屋敷が建っている。大作が上目遣いに顔色を伺うと萌が得意気に答えた。


「たぶんこれが上杉景勝の屋敷ね。その隣が毛利輝元様のお屋敷よ。一目で良いから会ってみたいわね。まあ、留守なんでしょうけど」

「そういや家康はご在宅なのかな? お留守だったらどうしよう」

「いやいや、駿府左大将が京の都になどおるわけがないであろう。此の頃は国許で五ヶ国総検地でもやっておるのではなかろうか」


 さも当然と言った顔で氏政が口を挟む。ここまできて勘弁してくれよ~! 大作は心の中で絶叫する。

 いやいや、もしかして家康がいない方が泊めてもらうには都合が良いかも知れんぞ。何たって督姫が氏直と氏政を連れてくるんだ。それを留守番の連中に追い返せるとは思えんし。


 さらに進んで宇喜多秀家の屋敷を通り過ぎると同じくらい大きな屋敷が姿を現した。みなさん良い家に住んでいらっしゃるようで。

 それはそうと通りの反対、北側にずう~っと続いている巨大な石垣は何なんだろう。大作は首を傾げる。


「なあなあ、萌。これってどちら様のお宅なんだ? まさかとは思うけど二条城だったりしないよな?」

「何を言ってるのよ、大作。これは聚楽第じゃない。あそこに見えてるのが南外門よ」

「え、えぇ~~~っ! やっぱ南門が正門なんだよな? ってことはその真正面に屋敷のある家康って凄いんだなあ。いやいやいや! こんな秀吉の目と鼻の先に泊まるってか? って言うか、あんな殺人鬼と一緒に居られるかよ~~~!」


 大作の絶叫が辺りに響き渡り、聚楽第と徳川の屋敷の門番が怪訝な顔をする。一行は逃げるようにその場を立ち去った。


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