巻ノ百九拾弐 吉村と村田、二人は仲良し の巻
日が西の空に大きく傾いたころ、大作たちの乗った船は伊勢湾の入り口にある小さな島に近付いた。
「あれってもしかして、神島なんじゃね?」
「かみしま?」
「まあ、普通はIsland of Godsっていうとバリ島のことを指すんだけどな。んで、地上最後の楽園っていえば普通は北朝鮮のことだ。とにもかくにも、田辺湾の神島とはこれっぽっちも関係ない。あっちはあっちで南方熊楠の保存運動とか昭和天皇の行幸とかで有名なところだぞ」
「ふ、ふぅ~ん。んで、その神島っていうのはどんなところなのかしら」
あまり興味なさそうな顔で未唯が相槌を打つ。感心が無いんなら無理に聞いてくれなくても良いのに。もう適当に誤魔化しちゃおうかな。
大作がそんなことを考えていると不意に背後から声が掛かった。
「三島由○夫の潮○の舞台になった島よ。吉永小○合や山口○恵で五回も映画化されてるの。『その火を○び越して来い』って名シーンのロケに使われた監的哨は昭和四年に建てられたんだけど老朽化が酷かったんで平成二十五年に耐震補強されたんでしょう?」
「大昔には歌島とか亀島とか甕島とか呼ばれていたそうね。作中では歌島って呼ばれているわ」
大作が振り返るとそこにはお園と萌が並んで立っていた。いつの間にこの二人は仲良くなったんだろう。その顔はちょっと寝ぼけているように見えなくもない。
「なんだ、お前らかよ。悪いけど黙って俺の後に立たんでくれるか。間違ってお前らを殺したくないからな」
「言ったわね。やれるもんならやってみなさいよ」
「大佐って本当に口ばっかりよね」
「いやいや、こう見えて俺は平和主義者なんだぞ。それに不言実行? 饂飩屋の釜って奴だな。分かるか? 『湯ばかり』と『言うばかり』を掛けてるんだぞ。あは、あはははは……」
良く見ると二人の傍らにはまるでオプションのように童女がくっ付いている。確かこいつの中身はほのかなんだっけ。
大作がそんなことを考えながら三人を観察していると不意にほのかと視線が交差する。その途端、童女がにっこりと微笑んで口を開いた。
「じきに日が沈むから神島に泊まるって吉良様が申されてたわ。梶原備前守様とかいうお方のお尻あい…… じゃなかった、お知り合いのところで夕餉を頂くんですって。そこでしばらくお休みして、月が昇ったら出港するそうよ」
「そいつはラッキーなことだな。あんまり言いたくはないけど船の御飯は酷かったんだもん」
「じゅるる~~~! 私、楽しみで矢も楯も堪らないわ。早く船が島に着かないかしら」
「だからってあんまり期待し過ぎない方が良いぞ。裏切られた時のショックが大きいからな」
口ではそんなことを言っているが大作も内心では楽しみでしょうがない。必死に我慢するが思わず顔がにやけてしまう。
そんな話で時間を潰しているうちにも船は島の東側を回って北西の砂浜に乗り上げる。
水主たちが忙しそうに走り回り、浜でも島の男たちが現れて船の固定を手伝い始めた。大作たちは邪魔にならないように隅っこで大人しく待つことしかできない。
ようやく作業が一段落すると梯子を伝って船を降りる。丸一日ぶりに降り立った地面はゆらゆらと揺れているようで気持ち悪い。
「左京大夫様。この島の名主で網元の宮田照兵衛にございます。此度は斯様な小島にお立ち寄り頂き恐悦至極に存じます」
「うわらば! で~す~か~ら~~~! 申し訳ございませんが黙って後に立たないでいただけますかな? 間違って人を殺したくはありません」
大作が慌てて振り返ると吉良殿の隣で見知らぬ爺さんが跪いて頭を下げていた。誰だっけ、この爺さん? いやいや、名主だって言ってるじゃん。って言うか、宮田だと!
「いま、宮田殿と申されましたか? それって潮○に出てくる島一番の金持ちと同じ名前ではござりませぬか。これって凄い偶然ですな」
「偶然って言えば主人公の名前が新治っていうのもエ○ァと同じよね。不思議な縁を感じるわ」
「いやいや、それは全然関係ないんじゃないかな。まあ、それはともかくとして早速にも豪華なディナーをご馳走になりましょう。Let's go together!」
大作は言うが早いかみんなの先頭に立って歩き出そうとする。だが、名主は申し訳なさそうな顔でそれを押し止めた。
「左京大夫様、真に申し訳御座いませぬ。只今、急ぎ支度しておるところにございます。恐れながら半刻ばかりお待ち下さりませ」
「さ、左様にござりますか。まあ、良い料理には時間が掛かると申しますな。楽しみに待たせて頂くと致しましょう。ただし、拙僧の嫁は料理に関しては些か厳しゅうございますぞ。とにもかくにも、本日はお世話になります。それではまた後ほど!」
そう言いながら大作は頭を深々と下げる。そして、そのままの姿勢で後退りしながら足早にその場を立ち去った。
日が暮れるまでの残り時間は僅かだ。思い出を作るなら急がねばならん。って言うか、ちゃんとみんな付いてきているんだろうか。
不安に駆られた大作は振り返って顔触れを確認する。冥府からエウリュディケを連れ帰ろうと思ったオルフェウスもきっとこんな気分だったんだろう。
「萌、お園、藤吉郎、サツキ、メイ、ほのか、未唯。どうやら生き残ったのは俺たち八人だけらしいな」
「そうみたいね。って言うか、みんな揃っているんじゃないかしら」
「夕餉の支度には半時も掛かるって申されていたわね。それまで島を見て回りましょうよ。今度は私たちも一緒に行ってあげるわ」
「そんな恩着せがましく言われてもなあ。俺、ちっとも嬉しくなんてないんだからね!」
そんなことを言いつつも内心では大作も嬉しくて堪まらない。精一杯の難しい表情を作ろうとするが自然と頬が緩んでしまう。
「ところで、さっきみんな揃ってるって言ってたけどナントカ丸はどうしたんだ?」
「小田原でお留守番組よ。誘ったんだけど何だかんだと言い訳をして付いてこなかったわ。もしかして船に乗るのが怖かったんじゃないかしら」
「何だそりゃ、口ほどにもない奴だな。帰ったら思いっ切り揶揄ってやらにゃあならんぞ」
「そんなことないわよ、大佐。誰かが残って鉄砲やテレピン油のことを進めておかなくちゃあいけないんでしょう。もしかして、一番の苦労を背負ってくれたんじゃないかしら。何かお土産を買ってあげないといけないわね」
八人はそんな阿呆な話をしながらゾロゾロと鄙びた漁村を進んで行く。
突如として現れた謎の美女軍団は村人たちの注目の的みたいだ。みんな物陰に隠れるようにして好奇の視線を向けてくる。だが、好奇心より警戒心が勝っているんだろうか。誰一人として近づいてくる者はいない。
狭くて魚臭い路地を暫く歩いて行くと急に開けたところに出た。目の前には高い山に向かって長い長い階段が伸びている。
どこまでも果てしなく続く石段はまるで天国まで伸びているかのようだ。
「たぶんこれが八代神社に続く二百段の階段らしいぞ。それはそうと、どうして神社って揃いも揃って高いところに建ってるんだろうな? 昔の人はバリアフリーとか気にしなかったのかなあ」
「きっと山岳信仰とかそんなのじゃないかしら。山高きが故に貴からず。馬鹿と煙は高いところへ上るのよ」
「どしたん? 今日の萌は何か変だぞ。嫌なことでもあったのか?」
「これが私の平常運転。って言うか、階段を昇るのに疲れたのよ!」
やっとの思いで階段を昇り切ると狭い平地に石の鳥居が建っていた。
「凄い階段だったな。本当に二百段くらいあったぞ」
「二百十四段だったわね」
「数えてたのかよ!」
鳥居を潜って参道を進むと脇に手水舎がある。大作は手を清めるために柄杓を取ると水を汲んだ。
「右手を先に洗うんだっけ?」
「先に左手からよ」
「逆だったらどうだっていうのかしら? って言うか、センサーか何かで手を翳せば自動的に水が出るようにしてくれたら良いのにね」
「この時代にセンサーなんて無いんだけどな。でも、足でペダルを踏むと水が出る仕掛けくらいなら作れるかも知れんぞ。これってもしかしてビジネスチャンスじゃね?」
本来なら口も漱ぐところだが大作は手水舎の水に対してそこまで信頼感を持てない。仕方がないのでペットボトルの水で口を漱ぐ。
気を取り直してまたもや石段を登るとようやく拝殿に辿り着いた。
そこには大漁祈願や航海安全を祈ったものらしい絵馬が山のように奉納されている。
いや、絵馬だけではない。船の形をした自作のミニチュアや髷らしき物がところ狭しと並べられていた。
きっと大嵐から生還した船乗りなんかが奉納した物なんだろう。だけど、こんな物を貰っても神様もありがた迷惑なんじゃなかろうか。まあ、神様の気持ちなんてさぱ~り分からないんだけど。
拝殿のさらに先の方に本殿の御門が建っている。塀の奥は見えなかったがこの先に祠があるのだろう。
「ここで新治が初江と結婚したいとか、初江が新治の航海の無事とかを祈ったんだ。その効果は映画でも証明されている。みんなもお願いがあったらお祈りしておくと良いぞ」
「美味しい夕餉が食べられますように……」
「リュートかヴィオラ・ダ・ブラッチョが手に入りますように……」
「また愛姉様や舞姉様と会えますように……」
みんながそれなりに真剣な顔をして参拝している。
って言うか、金でどうにかなるようなことを神に祈ってどうするっていうんだろう。愛や舞に会いたいっていうのはスカッドに頼んだ方が良さそうだし。
だが、祈れって言ったのも大作だ。いまさらそんなことも言えない。
仕方が無いので真面目な顔で黙っているとお園が話しかけてきた。
「やっぱりこの神社は綿津見命を祀っているのかしら?」
「海の神様っていえばそうなんじゃね? わだつみっていうと日本沈没に出てくる深海潜水艇を思い出すなあ。まあ、俺はケルマディック号の方が好きなんだけど。って言うか、神社の縁起なんてどっかに書いてあるもんじゃないのかな」
「あのねえ、大作。八代神社っていうんだから八大龍王が祭神なんじゃないの?」
「う、うぅ~ん。それってそんなに大事な話なのかなあ? 神道って仏教みたいな宗派間対立とか無いんだろ?」
そんなことを言いながらも大作はスマホを起動すると情報を探す。
「えぇ~っと、外宮旧神楽歌の中に『神島のなおしの明神』って名前が出てくるらしいな。志陽略志にも八幡宮神島村に白髭明神、弁財天、風の宮、鎮守社、山神、禿宮在りとか何とか書いてあるんだそうな。それが明治四十年に境内社山神社、同神明社・同津島神社・同秋葉神社・同春日神社・同三社合殿龍山白山富士山神社・同浜宮神社・同住吉神社・同弁財天社・同風宮神社・同金比羅神社・同鎮守神社・字井戸の上無格社八幡神社を合祀して八代神社と単称することになったんだとさ。えぇ~っ! ってことは、今のここは八代神社じゃなかったんだな。まあ、これで納得してくれたかな~?」
「いいとも~!」
無事、みんなの納得も得られたようだ。いよいよ日も沈みかけている。大作たちは急ぎ足で石段を駆け下りた。
「しまった~! 宮田照兵衛の屋敷が何処にあるのか聞いていなかったぞ。どうしよう……」
「安堵して、大佐。宮田様は島一番の徳人なんでしょう? だったらすぐに見つかるわよ」
お園が根拠なき楽観論を口にする。だが、大作はそんな話に耳を傾けるつもりは毛頭無い。腹を空かせたお園は厄介なことこの上ないのだ。
慎重に周囲を警戒しながら狭い路地を進んで行くと突如、向こう側から人影が現れた。地味な着物を着ているがその風体は明らかに村人とは異なっている。
まさかここへきて暗殺者だと!? 何なの、この超展開は? 大作は得意の名セリフを絶叫しようと大きく息を吸い込んだ。
「そ、総員退……」
「御本城様! 斯様なところにおわしましたか。随分とお探し致しましたぞ」
「へあ? これはこれは、風間殿ではござりませぬか。こんなところでお会いするとは奇遇ですな。いったいどちらへお出かけで?」
「何をお戯れを。皆様方が揃って消え失せてしもうたと大騒ぎにございますぞ」
神社に行くって言わなかったっけ? きっと言わなかったんだろうな。反省するが時すでに遅しだ。次からはちゃんと行先を言ってから出掛けること。大作は心の中のメモ帳に書き込んだ。
大作たちは風魔の小太郎だか小次郎だかの後ろにくっ付いて歩く。するとすぐに周りのボロ家よりちょっとだけマシな屋敷に辿り着いた。
この島には人口数百人の貧しい漁村しか無い。名主の屋敷っていってもこんな物なんだろう。そんなことよりも大事なのは料理なのだ。
「おお、左京大夫様。斯様にむさ苦しきあばら家にようこそお出で下さいました。本日は獲れたての蛸を……」
「御託は結構。みな、腹を空かせて気が立っております。早う食べさせて下さいませ」
「で、ではこちらへ」
一同は殺風景な板の間へと案内された。部屋には当然のことながら畳なんて上等な物は敷いていない。蒲の葉で編んだ丸い敷物が幾つか並べてあるが全員の分は無いようだ。
上座と思われる場所には氏政がちょこんと座って待っていた。
「いったい何処へ行っておったのじゃ、新九郎」
「父上はご存じにありましょうや? 食前の運動は基礎代謝を高めてくれるのです。食事誘導性耐熱産生と申しまして食物を消化し吸収する折の発熱が大層と大きくなるそうな。それに空腹時に有酸素運動することで体脂肪を消費することができるんだとか。一方で食後には無酸素運動が宜しゅうございますぞ。脂肪の合成を促すインシュリンの分泌を抑制いたします。食後一、二時間経って筋トレすれば炭水化物や脂肪が分解されるので体脂肪になり難いとか何とか」
「さ、左様であるか。まあ良い、早う食らうとしようぞ」
その言葉を待っていたかのように家人が膳を運んでくる。
質素な碗に盛りつけられた蛸飯、蛸の吸い物、蛸の刺身、蛸の酢の物、蛸の干物、エトセトラエトセトラ。蛸ずくしかよ! まあ、美味しいから良いけど。
食った食った。もうお腹一杯。と思いきや、新たな膳が運ばれてくる。
貝蛸鮨、焼蛸、桜煎、駿河煮、蛸のなます、エトセトラエトセトラ。ごめんなさい、もうギブアップ。
「ごちそうさん、もう満腹だ。お園、良かったら俺の分も食べてくれるか」
「分かったわ」
「でも、あんまり食べ過ぎんなよ。蛸って百グラム当たり八十二キロカロリーあるって書いてあるぞ」
「食前の運動で基礎代謝やDITが上がってるから大事無いんじゃないかしら」
そうかも知れんな。そうじゃないかも知れんけど。とにもかくにも当分の間、蛸は見たくもないぞ。大作は心の中でため息をついた。
膳が下げられるとお茶とデザートが出てきた。これって幾らくらい請求されるんだろう。まあ、経費で落とすからいいんだけど。
「宮田殿、ご馳走になりました。蛸飯、蛸の吸い物、蛸の刺身、美味しゅうございました。拙僧はもう、走れません。領収書は上様でお願いしますぞ」
「いやいや、御粗末様にございました」
「そんじゃあみんな、出港まで一眠りしておこうか。食べてすぐ寝ても牛になんてならん。ただし、胃の出口は右にあるから身体の右を下にして横になるんだぞ。それでは吉良殿、時間がきたら起こして下さりませ」
「御意」
布団なんて上等な物は無い。大作たちはその場で筵に包まって適当に雑魚寝した。
その後、京の都における秀吉との会見を終えた大作たちは小田原へと帰った。
火縄銃のミニエー銃への改造とテレピン油の製造。コングリーヴ・ロケット、無線機、トレビュシェット、バリスタ、エトセトラエトセトラ。
僅か五ヶ月ですべての準備を整えた北条は万全の体制で豊臣を迎え撃った。迎え撃ったのだが……
そして本拠地、小田原で迎えた対豊臣戦。
初戦の山中城がまさかの大量失点。頼みの綱のミニエー銃も勢いを見せず惨敗だった。
小田原城下に響く足軽雑兵のため息。どこからか聞こえる『小田原城もあと三月で開城だな』の声。
無言で豊臣方へ投降する足軽雑兵たちが続出する中、北条家当主の氏直(大作)は独り小田原城の天守で泣いていた。
知識チートで行うはずだった歴史改変、美味しい食べ物、リュートかヴィオラ・ダ・ブラッチョ、そして何よりアメリカ日本化計画……
それを今の北条で行うことは殆ど不可能と言ってよかった。
「どうすれバインダ~~~!」 氏直(大作)は悔し涙を流し続けた。
どれくらい経ったろうか、氏直(大作)ははっと目覚めた。
どうやら泣き疲れて眠ってしまったようだ、冷たい板の間の感覚が現実に引き戻した。
「やれやれ、小田原評定の支度をしなくちゃな」 氏直(大作)は苦笑しながら呟いた。
立ち上がって伸びをした時、氏直(大作)はふと気付いた。
「あれ……? 足軽雑兵がいる……?」
天守から飛び出した氏直(大作)が目にしたのは、二ノ丸、三ノ丸から外曲輪まで埋めつくさんばかりの足軽雑兵だった。
千切れそうなほどに旗指物が振られ、地鳴りのように鬨の声が響いていた。
どういうことか分からずに呆然とする氏直(大作)の背中に、聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「新九郎、出陣じゃ、早う支度致せ」 声の方に振り返った氏直(大作)は目を疑った。
「父上?」 「なんじゃ、居眠りでもしておられたのか?」
「お…… 尾張守殿?」 「なんじゃ御本城様、かってに左衛門佐殿を押し込めやがって」
「陸奥守殿……」 大作は半分パニックになりながら陣立書に目を通した。
一番備え:北条氏照 二番備え:北条氏邦 三番備え:北条氏規 四番備え:北条氏勝 五番備え:小笠原康広 六番備え:梶原景宗 七番備え:成田氏長 八番備え:風魔小太郎 九番備え:板部岡江雪斎……
いやいや、どう考えても外交僧なんて戦力外だろ! 大作は心の中で激しく突っ込むが決して顔には出さない。
暫時、唖然としていた氏直(大作)だったが、全てを理解した時、もはや彼の心には雲ひとつ無かった。
「勝つる…… これで勝つるんだ!」
お園からミニエー銃を受け取り、出丸へ全力疾走する氏直(大作)、その目に光る涙は悔しさとは無縁のものだった……
翌日、小田原城天守で冷たくなっている氏直(大作)が発見され、吉村と村田は病院内で静かに息を引き取った。
なんじゃこりゃ~~~! って言うか、吉村と村田って誰だよ! 大作は大声で絶叫する。
「もぉ~う。大佐ったらいきなり大声なんて出してどうしたのよ。また変な夢でも見たのかしら?」
「そろそろ船が出る刻限ね。丁度良かったわ。港へ行きましょう」
眠い目を擦りながら大作は体を起こす。そしてLEDライトで足元を照らしながらお園に手を引かれて船へと急いだ。




