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巻ノ百七拾九 開け!閉じた宇宙 の巻

「そんじゃあ藤吉郎、お前はこの紐の端っこを持ってここに立っててくれるかな。俺とお園はあっちの部屋に戻って反対の襖を開けてみるから。もしも俺の予想が当たっていたらその向こう側はここに繋がってるはずなんだ」


 そんな阿呆な話をしながら大作はバックパックを漁ってテグスを取り出す。その端っこを押し付けられた藤吉郎の顔にはさぱ~り分からんと書いてあるかのようだ。

 お園は隣で退屈そうに黙って話を聞いている。と思いきや意地の悪そうな半笑いを浮かべながら鋭い突っ込みを入れてきた。


「それは宇宙が閉じていたらっていう話よね。もし平坦な宇宙や開いた宇宙だったら別の部屋がある筈だわ」

「って言うか、そうじゃなかったら夕飯も望遠鏡も手に入らんよな。そうじゃないことを祈っててくれ」

「え、えぇ~~~っ! そんなっての無いわ! 望遠鏡はともかく、夕餉を食べないとお腹が減っちゃうでしょうに。もしも夕餉が食べられなかったら……」


 顔を真っ赤にしたお園が腕を振り回しながら声を荒げる。こうなったら手が付けられん。って言うか、つまんないことを言うんじゃなかった。大作は激しく後悔するが例に寄って後の祭りだ。


「どうどう、落ち着いて。だったら賭けをしないか? ホーキング博士はブラックホールが存在しない方にペントハウス一年分を掛けたって話を知ってるだろ。それって自分の考えが間違っていた場合のリスクヘッジなんだ。ってわけで、もし宇宙が閉じていた場合は俺が見たこともないほど超豪華な夕飯を奢ってやるよ。約束する。絶対にだ!」

「超豪華な夕餉を一年も食べられるの! だったら私、そっちの方が嬉しいかも知れないわね」

「いやいや、それはさすがに欲張り過ぎだろ。一週間で勘弁してくれるかな~?」

「随分と短いわね。まあ良いわ、その代わり朝餉も超豪華にしてね。確と約したわよ。もし破ったら決して許さないんだから」


 渋々といった顔でお園が引き下がる。だが、その瞳の奥にはメラメラと怒りの炎が揺らめいているような、いないような。

 宇宙が閉じていませんように。大作は心の中で何度も何度も念じた。


 ふと視線を感じて藤吉郎の顔を見てみればとっても不安そうに目をウルウルさせている。

 大作はその肩を軽く叩いてにっこり微笑む。そしてお園を引き連れて最初の部屋を目指して戻って行く。


「私はもう二度も襖を開けているから今度は大佐が開けて頂戴な」

「何だよ、急に怖くなったのか? どうせ向こうに居るのは藤吉郎さ。怖くない、怖くない」

「わ、私はちっとも怖くなんか無いわよ。ただ、ちょっと夕餉のことを憂いているだけなんだからね」

「はいはい、分かってる分かってる。んじゃ、開けるぞ」


 恐る恐る襖を開けてみるとそこにはド派手な色の肩衣袴(かたぎぬばかま)を着た少年の後姿があった。やけに個性的なヘアースタイルもさっき見たまんまだ。

 大作は込み上げてくる笑いを無理矢理に抑え込んでその背中に声を掛ける。


「ご苦労、藤吉郎。やっぱり宇宙は閉じていたみたいだったな」

「えぇ~~~っ! だったら夕餉はどうなるのかしら!」

「どうどう、落ち着いて。帰ったら超豪華な夕飯を奢るって約束しただろ。戦いっていうのは常に二手三手先を読んで……」


 だが、ゆっくりとこちらに振り返った少年の顔はさっき見た小姓とは違っていた。その手にはテグスも持っていない。それに向こう側の襖も締まっている。

 別人や~ん! 大作は心の中で絶叫するが決して顔には出さない。って言うか、冷静に考えたらこの世界が三部屋で閉じているなんて考える方がどうかしている。そんなに狭かったら呼吸に必要な酸素はどこから供給されてるんだよって話だ。

 取り敢えず華麗なトークスキルでこのピンチを乗り切らねば。大作は馬鹿の一つ覚えのように手のひらを見せてひらひらさせた。


「せ、せ、拙僧は決して怪しい者ではござりませぬぞ。ちょっとトイレをお借りして……」

「おお、御本城様。此方におられましたか。御裏方様もご一緒で如何なされました?」


 小姓っぽい少年は素早く跪くと頭を下げたまま話し掛けてきた。良く見てみると歳は藤吉郎より少し下くらいだろうか。

 何だか分からんけどこちらに敬意を持って接してくれているようだ。ってことはあんまり遜らない方が良いのかも知れん。

 それはそうと、ごほんじょうさま? なんじゃそりゃ? あんまり格好良くないなあ。大作はそんなことを考えながら言葉の接ぎ穂を探る。


「え、えぇ~~~っと? せ、拙僧の名前は何だったかな? 度忘れしちゃったんで教えてく……」

「拙僧ですと? 何を申されておられるのでございましょう、御本城様?」

「いや、あの、その…… アレだな、アレ。そうだ! 今現在、敵の間者が侵入している恐れがあるらしい。だもんでお前が本物かどうか確かめなきゃならないんだ。それで、お前の名前は何だっけ? あとついでに、俺の名を言ってみろ!」

「は、はぁ~? 其は真にござりまするか? 某は宝珠丸にございます。新九郎様の仮名は新九郎様でございましょう?」


 思いっ切り怪訝な顔をしながらも小姓っぽい少年は真面目に答えてくれた。取り敢えずのところは相手にしてくれているらしい。

 とは言え、新九郎って誰だっけ? 大作はスマホを取り出すと検索する。検索したのだが…… なんじゃこりゃ~!


「何…… だと……!? 北条で新九郎っていうのは歴代当主で使い回ししてる仮名じゃんかよ。これって何の手掛かりにもならないんじゃね? って言うか、よりによって北条の当主だと!」

「だったら妾は誰なのかしら、宝珠丸殿?」


 混乱してパニックになりかけた大作をフォローするかのようにお園が会話に割って入った。

 幼い小姓は首を傾げながら上目遣いで答える。


「恐れながら御裏方様は御裏方様ではござりますまいか?」

「いやいや、いくら裏方さんだって名前くらいあるだろ? もしかして知らんのか? まさか、お前こそ長寿丸の偽者なんじゃあるまいな?」

「宝珠丸にございます! そう申される御本城様こそ偽者ではござりますまいな?」


 小姓の顔に僅かに疑惑の色が浮かぶ。まだギリギリで敬意は払ってくれているようだがこれはヤバいかも知れん。

 どげんかせんと、どげんかせんといかん! 焦った大作は後ろを振り返るとテグスを軽く引っ張った。


「お~い、藤吉郎! こっちへきてくれ~!」

「藤吉郎ですと? 其は何者にござりましょう、御本城様?」

「いやいや、それはアレだなアレ。お前が本物の昭寿丸かどうかテストするためにカマを掛けたんだよ。どうやらお前は本物で間違いないらしいな」

「で~す~か~ら~~~! 某は宝珠丸にございます!」


 何だか本気で怒ってるみたいなんですけど。どうしてみんなこんなに沸点が低いんだろう? もう本気でどうでも良くなってきたぞ。

 どうせ夕飯を食ったらすぐにお暇するんだ。もうどうとでもなれ~! 大作はあっさりとリミッターを解除した。


「どうどう、落ち着いて。折角の美人…… じゃなかった、殊更に天離(あまざか)益荒男(ますらを)が台無しだぞ。さて、紹介しよう。彼は藤吉郎だ」

「な、何を申されまするか御本城様。あれはお小姓頭の松千代殿にござりましょう」

「いやいや、お前は信頼できる奴だから特別に話しておこう。実を言うと俺は二十一世紀からやってきた未来人なんだ。このままだと日本は四百年後の戦争で三百万人の犠牲を出して敗北する。同じ失敗を繰り返さないためには歴史の流れを変えなきゃならん。そのためには米寿丸、君の協力が必要なんだ!」

「宝珠丸にございます! さ、御本城様。夕餉の仕度が調うておりますればお出で下さりませ」


 意を決して切り出した大作の話は完全にスルーされてしまった。小姓の顔には『こいつとうとうボケやがったか』と書いてあるかのようだ。


「お前、本気にしていないな? それだったら証拠を見せて……」

「大佐、その話は後で良いんじゃないかしら。先に夕餉を頂きましょうよ」

「そ、そうだな。お腹が空いてたら良いアイディアも出ないか。そんじゃあ、Let's go together!」


 大作、お園、藤吉郎のポンコツトリオはナントカ丸に金魚の糞みたいにくっついて座敷を後にした。




 四人は廊下に出ると左に向かって歩き出した。外にはそれほど広くもない殺風景な庭が広がっている。


 大作はナントカ丸の顔色を伺いながら遠慮がちに声を掛けた。


「食堂ってここから遠いのかな? もしかして、だいぶ歩くのか? まあ、食前の適度な運動は健康に良いっちゃあ良いんだけどさ」

「しょくどう? 其は如何なる物にござりましょうや?」

「えぇ~~~っ! 食堂を知らないって? dining hall? cafeteria? canteen? てか、お前ら普段いったい何処で飯を食ってんだよ?」


 ナントカ丸の予想外の発言に思わず大作の声が裏返る。

 だが、幼い小姓は人を小馬鹿にしたような薄ら笑いを浮かべて鼻を鳴らした。


「某どもは大広間にて食しております。されど、御本城様の夕餉は座敷に運んでおりますればそちらでお召し上がり下さりませ」

「えぇ~! みんなで一緒に食った方が楽しいのに。何でそんなことになってんだ?」

「妾の夕餉もそこに運んで頂戴な。一緒に頂くことにするわ」


 お園が横から口を挟むとナントカ丸が畏まった顔で深々と頷いた。

 ふと視線を感じて隣を見ると藤吉郎が仲間になりたそうにこちらを見ている。

 大作は小さくため息をつくとニヤリと微笑んでウィンクした。


 御本城様の座敷とやらは目と鼻の先だった。さっきの部屋と比べると随分と広々している。それに掛け軸やら襖絵やらといった調度品がとっても豪華なようだ。

 座敷の奥は一段高くなっていて肘掛けみたいな物が置いてあった。大作はナントカ丸の顔色を伺いながらそこに座る。

 部屋の隅に渦巻き状に藺草を編んだ座布団が置いてあった。お園はそれを一枚持ってきて大作の隣に座る。ナントカ丸と藤吉郎は部屋の隅っこで小さく縮こまった。




 待つこと暫し、若い男が二人現れて一の膳を運んできた。

 湯引きした蛸、蕪と芹の味噌汁、おそらく鯛と思われる焼き魚、何かの膾、鮒寿司、香の物。ちょっと変な色をした御飯はどうやら玄米らしい。

 良く分からんけど凄まじい量だ。注文する時にご飯少な目ってお願いすれば良かったな。

 大作は激しく後悔するが、これぞまさに後悔先に立たずんば虎児を得ずだ。


 って言うか、二人分しかないんですけど? なんとなく予想していたけどナントカ丸と藤吉郎は員数外ってことらしい。


「藤吉郎、ナントカ…… じゃなかった、お前の名前はなんだっけ?」

「某は宝珠丸、此は松千代殿にございますぞ! いったい今日は如何なされました御本城様? もしや狐にでも憑かれたのではござりますまいな?」

「それって何気に酷くね? ってか、これはコードネームって奴だよ。仲間内だけで通じる符丁を使うことで敵を惑わすんだ。俺のことは大佐、こいつはお園。そんでお前は今日からナントカ丸だ。太陽()ほえろの新刑事のニックネームみたいで格好良いだろ?」


 そんな話をしながらも大作はバックパックからチタン製クッカーを取り出す。そして適当に料理を取り分けて藤吉郎とナントカ丸に配った。

 藤吉郎が満面の笑みを浮かべ、ナントカ丸は怪訝な顔をしながらもそれを受け取る。


「お前ら知っているか? 北条ではご飯に汁をかけて食うらしいな。大河ドラマでやってたぞ」

「別々に食べてもお腹に入ったら同じじゃないかしら。私は代わる代わる食べるわよ」


 何だか知らんけどお園には食べ方に確固たるポリシーがあるらしい。昭和の小学生みたいに三角食べしながら美味しそうに舌鼓を打っている。


「どうだ、お園。言ってた通りのご馳走だっただろ?」

「味はともかく、長靴一杯食べたいわね」

「そ、そうなんだ。そりゃあ良かったな」


 一の善を食べ終わると僅かなインターバルを置いて二の膳が運ばれてきた。

 鮑とかホヤの汁物、さっきとは違う魚の焼き物、鯉の汁。どうやら魚介類で統一されているらしい。

 海が近いと鮮魚が手に入るから良いなあ。大作は素直に感心する。


 三の膳も魚が中心だった。茹でた蟹、貝の壷焼き、これまた別の種類の魚の汁物。それに味噌味の焼き鳥もあった。

 って言うか、これってまだまだ出てくるんだろうか。藤吉郎やナントカ丸とシェアしていなければ食べきれなかったかも知れん。大作は心の中で二人に感謝した。


 与の膳は巻き鯣、鮒汁、椎茸に茄子の田楽、茄子の鴫焼き、大根の味噌漬け。

 五の膳は真魚鰹の刺身、生姜酢、椎茸の煮付け、けずり昆布、鴨汁だった。


 これじゃあ、まるでフードファイトじゃんかよ! もう限界、ギブアップ。

 と思いきやこれでお仕舞いらしい。膳が下げられるとお茶が出てきた。

 何とか無理して食べ終わったけど、もうお腹がはち切れそうなんですけど。もしかしないでも栄養過多なんじゃね? 人間ドックでヤバい結果が出なければ良いんだけどなあ。

 って言うか、もしかしてこれはアレか? 偉い人が食べ残した料理は家来たちの食事になるってパターンだったのかも知れん。だとすると悪いことしたんだろうか。

 そう言えば、膳を下げにきた人たちが目を丸くして驚いていたような、いなかったような。

 大作はそんな阿呆なことを考えながらお園の様子を横目で伺う。その顔はどこからどう見ても満足そうな満面の笑みを浮かべていた。


「さて、腹も膨れたようだな。一息付いたら望遠鏡を探しに行こうか」

「私、望遠鏡も欲しいけれどここの料理も気に入ったわ。ずぅ~っとここで暮らすことはできないのかしら?」

「うぅ~ん、さすがにそれは無理なんじゃね? ってか、そもそも今って何時代なんだろうな。ナントカ丸、今年って西暦何年だ?」


 大作は時そばで『今、何時だい?』と聞くように気楽な調子で話しかける。

 だが、急に話を振られたナントカ丸はちょっと狼狽えた顔で首を傾げた。


「せ、せいれき? 其は如何なる物にございましょう?」

「え、えぇ~っと…… Anno Dominiだっけ? ラテン語で主の年って意味だな。まあ、本当にイエス・キリストが生まれたのは紀元前四年頃らしいんだけどさ」

「年ですと? もしや暦にござりましょうか? さすれば今年は己丑の年にございますが」


 ナントカ丸が怪訝な顔で答える。って言うか、あんな説明で良く分かったもんだ。絶対に分かっていないと思っていたのに。

 もしかしてこいつ、見た目よりずっと鋭いのかも知れん。大作は警戒レベルを一段階だけ引き上げた。


「そんなんじゃ分からんよ。ほら、ナントカ何年とかあるじゃんか? 文禄とか慶長とかさ」

「ぶんろくもけいちょうも存じませぬが、もしや元号のことにござりましょうか? されば、天正十七年にございますが」

「天文十七年だって? それって1548年じゃんかよ。ひょっとして二年も過去にきちゃったってことなのか? わけがわからないよ……」


 もしかすると北条は大金持ちだから1548年に畳を敷き詰めていたんだろうか。

 だとしたら望遠鏡を入手するっていう計画は絶望的だな。そうなるといよいよもって長居は無用だ。大作は心の中で早々と帰り支度を始めた。

 だが、お園がお茶の入った湯飲みをゆらゆらさせながら横から口を挟んでくる。


「大佐、ナントカ丸殿は『てんしょう』って言ったみたいよ。先の世にそういう元号は無いのかしら」

「てんしょうなんて元号あったっけ? てんしょう、てんしょう、てんしょう…… 閃いた! 天正遣欧少年使節っていうのがいたぞ。確かそのメンバーは中浦ジュリアン、伊東マンショ、千々石ミゲル、原マルチノの四人組(カルテット)だな」

「かるてっと?」

「一人だとソロ、二人だとデュオ、三人だとトリオさ。それ以上にも五人がクインテット、六人がセクステット、七人がセプテット、八人がオクテット、九人がノネット、十がデクテットって感じでずぅ~っと続いているんだ」

「ふ、ふぅ~ん。だったら妾たち四人もカルテットなのね」


 そう言うとお園はにっこり微笑んで藤吉郎やナントカ丸の顔を見回す。

 真正面からじっと見詰められた幼い小姓は頬を赤らめて目を伏せた。


「お前なぁ~! こんな子供相手になにを色目なんて使ってんだよ。俺とお前は夫婦なんだぞ!」

「what's the matter? 急にどうしたのよ、大佐。もしかして悋気(りんき)してるのかしら?」

「り、りんき? いやいや、全然りんきなんてしていないぞ。稟議なら知ってるけどさ」


 言葉を知らない奴だと思われるのは避けたい。大作は必死にポーカーフェイスを決める。

 だが、お園はそんなことに一欠片も感心が無いらしい。お茶を飲み干すと小首を傾げて口を開いた。


「そう、良かったわね。それで? 話を戻しましょうよ、大佐。天正十七年って西暦だと何年なのかしら?」

「そ、そうだったな。えぇ~っと、いま調べるからちょっとだけwait a minuteな」


 大作はスマホを取り出すと使い慣れた西暦和暦変換アプリを立ち上げる。

 ナントカ丸はそれを物珍しそうに見詰めているが空気を読んで口を挟んではこない。


「どれどれ、何とびっくり1589年って書いてあるぞ! 三十九年も未来にきちゃったんだな。だったら望遠鏡くらい完成してるかも知れんか」

「でも、大佐。ここって私たちのいた世と繋がっているのかしら。丸っきり違う並行宇宙だったらどうするのよ?」

「どうするもこうするも無いだろ。そん時はそん時さ。なあ、ナントカ丸? 今の九州ってどこの大名が押さえてるんだ?」


 もうすっかり自棄糞になった大作は幼い小姓に向かって疑問をぶつけてみる。って言うか、最初からこうしておけば無駄な時間を使わずに済んだのにな。激しい後悔の念に晒されるが今さら後の祭りだ。


「きゅ、九州にござりまするか? 一時は島津が全てを平らげる勢いにござりましたな。されど、一昨年に豊臣の九州攻めで薩摩と大隅に押し込められたと聞き及んでおりまするが」

「そ、そうなんだ…… ちなみに祁答院って聞いたことないかな?」

「生憎と耳にしたことはございませぬ」


 うぅ~ん。やっぱりこの世界は並行世界で間違いないらしい。望遠鏡は諦めた方が良さげだ。

 大作は中断していた心の中の帰り支度を再開した。


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