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巻ノ百七拾四 ホームランをかっとばせ の巻

 大作は未唯、藤吉郎、音羽の城戸たちを伴って慎之介の屋敷を訪れていた。

 用向きは祁答院鉄砲隊の門出を祝うお披露目イベントの内容を決めることだ。しかし、そのためのミーティングは今や暗礁に乗り上げていた。

 四人の男女が集う板張りの狭苦しい座敷には重苦しい沈黙が漂う。誰も口を開こうとしないまま、ただ時間だけが静かに流れていた。


 もし、未唯の提案通りに山ヶ野から八十人もの人足を動員するとしたら費用もリスクも大きすぎるんじゃなかろうか。

 とは言え、慎之介にはそんな人数を動員する力は無いらしい。だったらここは恩を売っておくのが正解なんだろうか?

 分からん、さぱ~り分からん! 大作は考えるのを止めた。


「あのさあ、未唯。さっき言ったのはあくまでも最悪の事態を想定した覚悟を言っただけだぞ。二千メートル級の山ならともかく、もうじき初夏なんだ。凍死する危険なんて万に一つも無い。Go for Broke!」

「そ、そうよね。こんな時期に凍え死になんてする筈がないわ。それに、もし死んでも『今日は死ぬには良い日だ』って思えば良いんじゃないかしら」


 未唯は他人事みたいに気楽に言い切ると薄ら笑いを浮かべる。まあ、本当に他人事なんだけど。

 って言うか、スペラ()カーじゃあるまいし。帰り道で雨に遇っただけで死ぬような貧弱な奴は死んでくれて構わん。いや、むしろ死ね。実戦で足手まといになるだけだ。


「だけど、必要以上のリスクを冒す必要もないよな。山ヶ野から出すのは鉄砲を撃つためにハンター協会の十人。それと装填手を三十人で良いだろう。敵役には忍び…… じゃなかった。サポートチームの連中を使えば良い。もしも天候が悪化した場合は材木屋ハウス(虎居)や鍛冶屋、材木屋、轆轤師、窯元なんかに分散してショートステイさせて貰おう。日高様のお屋敷にも何人か泊めて頂きますぞ。土間でも厩でも結構なので宜しゅうお頼み申します」

「大佐殿が鉄砲の撃ち手を出して下さると申されまするか! これは有難きことかな!」


 慎之介がぱっと顔を綻ばせた。だが、その大袈裟なリアクションは何だかとっても嘘くさい。もしかして、まんまと引っ掛かったんだろうか?

 まさかとは思うけど、こいつ最初からこれを狙ってたのかも知れんぞ。大作の心中に微かな疑念が浮かぶ。

 とは言え、今さら無かったことにもできん。『A word once out flies everywhere.』なのだ。なるべく高値で恩を売り付けておくのが吉だろう。


「此度は一つ貸しですぞ。拙僧がタダで人足の湧き出る魔法の壺でも持っているとお思いか? 『世の中に、タダより高い、物は無い』とも申しますぞ。って言うか、五七五の俳句みたいで格好良うござりますな。いやいや、季語が無いので川柳ですかな?」

「せんりゅう? 五七五と申さば発句(ほっく)のことにござりまするか?」


 怪訝な顔で慎之介が首を傾げた。連歌の頭の五七五をそう呼ぶんだっけ? 大作は記憶を辿る。

 たしか、川柳は江戸中期だったような。そもそも、俳句って言葉は正岡子規が大正期に作った言葉だとか何とか。この話は掘り下げん方が無難かも知れん。

 大作は咄嗟に話題の急ハンドルを切る。


「とにもかくにも、イザヤ・ベンダサンこと山本七平が『日本人とユダヤ人』で『日本人は水と安全はタダだと思っている』と書いた五十年前にはそうだったのかもしれませぬ。それもひとえにアジアモンスーンのお陰といえもしょう。なにせ、日本の降水量は世界平均の倍もございます。しかも、梅雨と台風の時期に多く降ります故、稲作には大層と好都合なことですな」

「五月雨と野分のことだったかしら? だけど、夏の盛りに雨が降らないのは困ったことだわ。あっ! それで大佐は灌漑設備を作るって言ってたのね!」


 未唯が一人で勝手に納得すると嬉しそうに頷いた。こいつ、もしかして一を聞いて十を知る早合点な奴だったのかな。まあ、別に良いけど。

 とりあえず、貸しについてはこんな物で良いだろう。

 人に金を貸す時は返済なんて期待しない方が気楽なのだ。大作は今回の借用書を心の中のシュレッダーに放り込む。


「さて、これで此度のお披露目は何とかなりましょうな。されど、我らはいずれ訪れるに違いない戦に備えて鉄砲隊を作らねばなりませぬ。日高様には具体的なプランは無いのでしょうか? ぼ~っとしておっては三年なんてあっという間ですぞ。夏休みの宿題みたいにならぬよう、きちんと計画を立ててコツコツ進めて参りませぬか?」

「こつこつ? そうは申されますがな、大佐殿。某も初めは足軽どもを弓組の如く用うることで何とでもなると思うておりました。されど千ともなれば足軽だけでは足りませぬ。雑兵にまで遍く配らねば事足らぬのではありますまいか? 斯様に大儀なこと、如何様にすればできうるのでございましょう?」

「はぁ? 一月前からそう申しておりませなんだかな? できうるかじゃねぇよ、やるんだよ! いやいや、思わず熱くなってしまいました。ご無礼の段、平にご容赦のほどを」


 深々と頭を下げながらも大作の脳内には竹串がチラついてしょうがない。

 元ネタを知らない慎之介は訝し気な顔をしている。だが、それ以上は突っ込む気もないようだ。


「ほほう、『できうるかじゃねぇ、やるんだ』にござりまするか。お言葉、肝に銘じまする。仰せの通り、これは大殿から命じられた大事なお役目。何としてもやり遂げねばなりませぬ。大佐殿、どうかお知恵をお貸し下さりませ」


 そう言うと若い侍は糞真面目な顔で深々と頭を下げた。どうやら本気の本気で困っているようだ。

 もしかして、もう一つ恩を売らないといけないのかな? 大作は『本日の営業は終了しました』という看板を出すか迷う。

 とは言え、さっきから音羽の城戸がチラチラと目線を送ってくるのが気に掛かる。こいつの前で格好悪いところは見せたくないなあ。大作は切れかけた集中力を心の中のガムテープで補強した。


「それで? 何故に首尾良く行かぬのでありましょう。妨げとなりたる物は如何なることで?」

「実を申さば見知れる者に鉄砲を勧めたることは幾度もございました。さりながら、みながみな思いのほかに嫌うておるようで。故に難儀いたしておる次第にございます」

「抵抗勢力とか既得権益いった輩にござりますな! やはり戦の折りに首を上げられなくなるとか、人に手柄を取られるとか申しておられるのでしょうや?」

「まあ、左様なところにございます。某も、その気持ちが分からぬことも無い故、余り強うも申せませぬ。して、何ぞ良い遣り様はありませぬでしょうかな?」


 ほとほと困ったといった顔で慎之介が弱音を吐く。まあ、鉄砲伝来から七年しか経っていないのだ。冷静に考えれば鉄砲の大量導入なんて拒否反応が出ても不思議は無い。って言うか、素直に受け入れる奴の方がよっぽど変人かも知れん。

 だけど反対派に対して『排除いたします』なんて気軽に言える立場でも無い。マスコミとかに叩かれて次の選挙で大敗したら嫌だし。


「変化という物に対して抗おうとするのは人の持って生まれし業でありましょう。変革の成功には、その心理面への配慮が肝要にございます。iPh○neが発売された折、とあるS○NYの社員が申されたそうな。『あんな物、うちでも簡単に作れる』とかなんとか。じゃあ何で作らなかったのか? 経営陣の理解を得ることが叶わなんだそうな。考えてみますればバブル崩壊後の日本企業ってそんな話ばっかりでしょう? ウォー○マンやCDで大成功したのにデジタルオーディオでは完全に周回遅れ。任○堂だってスマホゲーをライバルだなんて考えず、積極的に取り込んでおれば今ごろ市場を支配しておったのではありますまいかな?」

「常住ならんことを思ひて、へんげの理を知らねばなり。にござりまするな。ただ、此度の鉄砲は大殿や若殿のお下知による物。なればこそ、面と向かいて立て合ふ者は少のうございます。されど、腹の内ではみな何を思うておりまするやら」


 そう言うと慎之介が肩を落として小さくため息をついた。大作は心の中で人差し指と中指をクロスさせる。

 どうやらこいつだって何もしていなかったというわけでは無いようだ。孤軍奮闘? というか無駄な努力をしていたらしい。ただ、あまりにも抵抗勢力が強くて事業展開に行き詰まっていたということなんだろう。


 鍛冶屋たちはノリノリで刀から鉄砲へ事業を転換させたのになあ。地侍って輩はどうしてこんなに保守的なんだろうか? 大作も困った顔で目の前の若い侍を見つめ返す。

 まあ、鍛冶屋たちにとっては新たな製品展開とか事業拡大にすぎないんだろう。ぶっちゃけ商売のネタが増えるにすぎん。もし失敗しても先行投資を諦めれば済む話だ。

 それに比べれて侍たちは戦場で命を賭けている。負けたら領地や領民を失うことになりかねん。土地を失った地侍なんて落選した議員みたいな物だ。必死さが違うんだから慎重にもなるだろう。


 ここはどういう方向で攻めたら良いのかなあ。大作は無い知恵を絞って頭をフル回転させる。だが、マトモなアイディアが何一つとして浮かんでこない。

 せめてここにお園がいてくれたら良かったのに。恨めしそうな目線を未唯に送ってみるが返ってきたのは人を小馬鹿にしたような半笑いだった。

 これは駄目かも分からんな。いや、まだだ。まだ終わらんよ。鉄砲の力こそ人類の夢だからだ!

 とりあえずは時間稼ぎだ。大作は無駄蘊蓄の不良在庫を蔵ざらえすることにした。


「そうは申されますがな、日高様。新規参入によって既存の勢力が壊滅させられるのは世の習いにございますぞ。鉄砲を拒絶する奴らは敵の鉄砲の的になるだけのこと。とは申せ、製品が優秀ならば必ずや市場で受け入れられるわけでもござりませぬ」

「そういう物にございますかな? 優れたる者が勝つとは限らぬと申されまするか」

「そういう物でございます! 大事なることはベネフィットと思召されませ。日高様はビヨンドマックスと申す軟式用野球バットをご存じかな? バット市場では五千本も売れればヒットと言われるそうな。ところが何と三万円もするこのバットは五十万本以上も売れたのでございます」

「ご、五十万本ですって! ばっとが如何なる物か知らないけど大層な数よ。確か、ばっととぼ~るのせっとが一どる十せんとだったわね?」


 さっきから暇そうにしていた未唯が目ざとく話に食い付いてくる。もしかして、よっぽど退屈していたんだろうか。


「あれは例え話だぞ。普通の軟式バットは一万円くらいじゃないかな。にもかかわらず三万円のバットが飛ぶように売れたのは何故か? それはレビットの螺子の穴と同じだ。みんなはバットが欲しかったんじゃない。軟球でホームランをかっ飛ばしたかったんだ。その欲望が三倍も値段のするバットに手を出す原動力となった。何せ軟球は硬球と比べたら全然飛ばないからな」

「鉄砲にはその…… べねふぃっと? それがあると申されまするか」

「う、うぅ~ん。問題はそこにござりまするな。槍や弓を鉄砲に持ち代えるだけのメリットが提示できるとか言われると…… 微妙ですな」


 そう言うと大作は首を傾げて視線を反らした。場が沈黙に包まれ、重苦しい時間が流れて行く。

 何でも良い、何でも良いからそれっぽいアイディアは無いのか? 閃いた!


「ハロー効果ってご存知でしょうかな? CMで有名人が使っているというだけで商品のイメージが良くなることにございます。たとえば…… 健さんは若いころヘビースモーカーだったそうな。ところがタバコをきっぱり止めて長い年月が経った後にLarkのCMに出ることになりました。すると健さんはいつも胸ポケットにLarkを入れていたそうですぞ」

「は、はぁ……」

「そう申さば、ポッカのミスターっていう缶コーヒーのCMにも出ておられましたな。コーヒー大好きな健さんですが、CMに出ておる間はずっと缶コーヒーを飲んでおったそうな。いかにも健さんらしいエピソードにございましょう?」

「さ、左様にございますな……」


 は、話が広がらないぞ。この方向は駄目だな。早々と見切りを付けた大作は撤退を決意する。


「ちなみに『不器用ですから』っていう有名なセリフは日本生命のCMが元ネタですな。さて、話は変わりますが日高様はイノベーター理論をご存じでしょうか? ガ()ダムやダ()ボール戦機とは関係ありませぬぞ。普及率十六パーセントの論理とも申します。新しい商品やサービスが世に受け入れられる過程を示した物にございます」


 そこで大作は一旦言葉を区切ると一同の顔をゆっくり見回した。

 へんじがない。ただのしかばねのようだ。

 やっぱダメなのか? だけど、こんな人たちに負けるわけにはいかない!


「新しい物に真っ先に飛びつく人を革新者(イノベーター)と申します。日高様の如き時代の変化に敏感なお方にございます。斯様な御仁が百人に二、三人はおるそうな」

「は、はぁ。某は『いのべ~た~』にござりまするか」

「それに続くのが初期採用者(アーリーアダプター)と申す利に聡い方々にございます。百人に十三、四人はおられるそうな。まずは、イノベーターとアーリーアダプターを足した十六パーセントの方々に鉄砲を普及させること。これが肝要と思召されませ」

「う、うぅ~む。して、如何にしてその方々に広むることが叶いましょうや?」


 は、話がループしとるやん! 大作は頭を抱えたくなるが未唯や音羽の城戸の手前、格好悪いところは見せられない。空っぽの頭を振ってなけなしの無い知恵を絞り出す。


「だ、だったら、だったらもう…… 恐怖に訴える論証! これで行きましょう。去年、加治木城の戦において伊集院は鉄砲を使ったそうですな? その後も島津の軍備拡張は止まるところを知りません。奴等が開発中の大量破壊兵器により、数年を経ずして地域の軍事バランスは危険な状態に陥ることでしょう」

「そは真にございますか? 島津殿が鉄砲を揃えておるとの噂は耳にしておりましたが、まさか斯様なことになっておろうとは」


 急に血相を変えた慎之介が詰め寄ってきた。その瞳は驚愕したように見開かれている。

 ちょっと近いって。女の子だったら嬉しいけどこいつに寄り添われても気持ち悪いんですけど。大作は失礼にならない程度に腰を引く。


「いやいや、そういう体で行こうと申しておるだけでございます。かつての冷戦時代にもソ連脅威論を利用して西側は軍拡を図りました。そして東側もそれに乗っかったのです。我らも同じことを致しましょう。U-2を撃墜した対空ミサイル網を突破するためにXB-70バルキリーが作られ、それを迎撃するためにソ連はMig-25を作り、それに対抗してF-15が作られる。こうして果てしなく軍拡競争は続いて行くのです」

「は、はぁ。左様にござりまするか」

「我らの場合は…… まずは四十丁の鉄砲によるデモンストレーションで威力を誇示致します。次に島津は数年先を見据えて急ピッチで鉄砲を揃えておると驚かせましょう。そして、もしも島津の千丁の鉄砲が火を噴けば祁答院は五分で壊滅するといった極端な悲観論で怖がらせます。まあ、これで初期採用者(アーリーアダプター)は乗ってくるでしょうな」

「そんなに上手く行くのかしら?」


 いつものお園のセリフを未唯が代わりに言ってくれた。大作は軽く頷いて謝意を示す。


「これだけ言っても危機感を持たないような平和ボケ野郎だったらもう用は無い。その時は入来院か東郷に鞍替えだな」

「ちょ、お待ち下され、大佐殿。まさか、祁答院を見捨てると申されまするか? 某は如何致せば宜しゅうございましょう?」

「天は自ら助くる者を助く。神にでも縋るが宜しかろう。拙僧はお手伝いすることはできても責任までは取れませぬ。鉄砲競争で島津に遅れを取るようなことあらば祁答院は滅びる。お披露目においては、そこのところを徹底させましょう」


 ここで甘い顔をしても本人のためにならない。大作はあえて突き放すような言い方をする。って言うか、完全に他人事だし。

 その思いは慎之介にも届いたのだろうか。一段と表情を固くすると思い詰めたように口を開いた。


「祁答院を潰すわけには参りませぬ。そのためには鉄砲を広むるが肝要。そは分かり申した。されど『あありいあだぷた』から先には如何にして広むれば宜しゅうござりましょう?」

「次に対象となるのはアーリーマジョリティにございます。この方々は新しい物事に然程は逆らおうと致しませぬ。ただし、キャズム理論と申す物がございます。アーリーアダプターとアーリーマジョリティの間には深い溝が横たわっておるのだそうな」

「容易には越えられぬということでございますな」


 慎之介が真面目腐った顔で深々と頷いた。

 えぇ~っ! 今の説明で分かったのかよ。大作は驚きを禁じ得ない。

 絶対に分かって貰えないと確信して遊んでいたのに、実は通じていたとは。

 もしかして、こいつの学習能力も馬鹿にした物じゃないのかも知れん。

 大作は慎之介に対する警戒レベルを一段階だけ引き上げた。


「そこで役に立つのがバンドワゴン効果にございます。日独伊三国同盟の時の『バスに乗り遅れるな』っていうアレですな」

「ばす?」

「乗り合い馬車って分かりますかな? 戦国時代にそんな物は無いか…… たとえば人が何十人も乗れる大きな駕籠があったと致しましょう」

「そんな大きな駕籠をいったい何処の誰が担ぐのかしら?」


 間髪を入れず未唯が横から口を挟んできた。

 何か知らんけど突っ込み担当として着々と成長しているような、していないような。

 いやいや、明らかに目覚ましい成長を遂げているな。ちょっとだけ感心した大作は未唯の頭をグリグリと撫で回す。


「良い質問ですねぇ~! 目の付け所がとっても未唯らしいぞ。きっとアトラスみたいな大男なんじゃね? 知らんけど」

「あとらす?」

「世界最初の大陸間弾道ミサイルだよ。あと、地図帳とか。んで、話を戻しますぞ。日本人は基本的に右に倣えの国民性でしょう? 沈没船のエスニックジョークでも言うじゃありませんか。『ほかの人はみんな飛び込んでますよ』って。みんな鉄砲を持っておりますぞ。まだ鉄砲を持ってないなんて恥ずかしゅうござりますな。そんな空気を作り出すのです。そのためにオピニオンリーダー? 影響力を持つインフルエンサーを担ぎ上げます」

「みなの手本となる高名なるお方にござりますな」


 ドヤ顔をした慎之介がまたもや的確な相槌を打ち返してきた。

 もしかして、こいつの学習能力はヤバい何てレベルを超えてるのかも知れん。適当に横文字を並べておけば誤魔化せるって相手じゃなくなりつつあるような、ないような。

 鍛冶屋の青左衛門と違ってこいつは祁答院に忠誠を誓っている侍だ。知識を与え過ぎると碌なことにならんぞ。

 大作は額に流れる冷や汗を手の甲で拭うと慎之介の瞳を見つめ返した。


「そのためにお誂え向きの方がおれらますぞ。三の姫様を鉄砲普及の起爆剤に担ぎ上げては如何にござりましょう? 祁答院鉄砲隊のオフィシャルスポンサー? マスコットキャラクター? みたいな? 姫様が鉄砲を構えて『三の姫様は祁答院鉄砲隊を応援しています!』とかキャッチコピーの入ったポスターをそこら中に貼りまくりましょう!」

「お、おぉ…… そう申さば真に思ふに叶ふ御方にござりまするな。斯様に似つかわしい御方は他にはおられますまい」

「鉄砲の力によって敵を滅ぼした暁には日高様は誰をさておいても一番の大手柄。その功を持ってすれば、三の姫様を娶ることも夢ではありますまいか?」


 大作はここぞとばかりに特大級の爆弾を投げ込んだ。

 その直撃を食らった慎之介は目を白黒させながら仰向けに倒れ込む。そしてそれっきり動かなくなってしまった。


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