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巻ノ百七拾壱 太陽を盗もうとした男 の巻

「美作国や伯耆国からウランを採る理由は何があるんでしょうか? 余所からじゃダメなんでしょうか?」


 お園の口から発せられた衝撃的な言葉を大作は脳内で反芻していた。


 ちなみに反芻を行うのは基本的に偶蹄目の動物だけだ。

 草の葉っぱなんて禄な栄養は含まれていない。そんな物を餌にして、どうやったらあんな巨体を維持できるのか? その秘密は反芻のお陰なのだ。


 それはそうと、天狗猿は霊長類で唯一の反芻を行うことができる動物なんだそうな。嘘か本当か知らんけど南方熊楠も反芻ができたとかできなかったとか。

 これを何とかして人類全体に応用できれば食料問題が一気に解決できるんじゃね? って言うか、牟田口中将のジンギスカン作戦が一気に現実味を帯びてきたぞ。夢が広がリング!

 実を言うと大作は牟田口中将のことが結構好きなのだ。あんな阿呆みたいな大失敗はマトモな人間にはそうそう真似できないだろう。しかも何の責任も問われず、ちゃっかり戦後まで生き残っているところが凄い。

 あの厚顔無恥ぶりは荒木村重に通じるものがあるかも知れん。ヒトラー総統の潔い最後なんかと比べると偉い違いだ。


 とは言え、大気中のメタンの二、三十パーセントは反芻動物のゲップによる物だという説もある。メタンの地球温暖化係数はなんと二十五にもなるのだ。

 七十億を超える人間がメタンのゲップをしたら地球温暖化の更なる加速が懸念される。

 それに、ゲップとして排出されるメタンのエネルギーは餌として与えられたエネルギーの十五パーセントにも相当するそうな。このエネルギーが何の役にも立たずに大気中に放出されているんだから勿体無いお化けが出そうな話だ。

 しかし、この問題を解消する秘策が近年に発見されたらしい。ある種の海藻を餌に混ぜることでゲップに含まれるメタンを九十九パーセントも減少できるんだとか。


 ってことはアレか? まずは、いろんな種類の海藻を集めなければ。そして量を変えながら牛に食べさせてゲップの量を観察する。集めたデータを分析すれば最適な種類と量が判明するは……


「ねえ大佐、聞いてるの! 美作国や伯耆国からウランを採る理由は何があるんでしょうか? 余所からじゃダメなんでしょうか?」

「え? なんだって?」

「なんだってじゃないわよ! 難聴主人公は嫌われるんじゃなかったの?」

「いやいや、失敬な。こう見えて俺は結構な地獄耳(デビルイヤー)なんだぞ。ただ、集中力が高過ぎるが故に回りが目に入らないってところが玉に瑕なんだ。こういうのを過集中っていうんだってさ。アインシュタインなんて考えに集中すると揺さぶられても反応しなかったそうな。だもんで死んでるんじゃないかって騒ぎになったことすらあるらしいぞ」


 やれやれといった顔で大作は無駄蘊蓄を披露する。アインシュタインにはネタみたいな話がてんこ盛りだ。そもそも、ダヴィンチとかガリレオみたいに天才と評される人たちって発達障害っぽい人が多いんだからしょうがない。

 そんな言い訳でお園は納得してくれたんだろうか。小さく頷くと表情を和らげた。どうやら鉾を収めてくれるらしい。


「ふ、ふぅ~ん。それは大層と難儀なお方ね。でも、大佐はそこまでじゃないから安堵して良いわよ」

「ちなみに俺はアインシュタインも大嫌いなんだ。最初の奥さんに家庭内暴力を振るったらしいぞ。それに、統合失調症を患った次男にも酷く冷たく当たったんだとさ。他にも人間性を疑われるような話がいろいろ残ってるそうだな。まあ、奥さんもちょっとアレな人だったみたいだけど。でも、どんな理由があるにせよ女に暴力を振るう男って印象が悪いだろ? 俺は女に暴力は振るわん! 絶対にだ!」

「それってどうなのかしら。男には乱暴狼藉を働くけど女には手を出さないってこと? それって性差別じゃないの?」


 横からメイがちょっと不満気な顔で口を挟んだ。周りの女性一同が揃って禿同と言いたげに頷く。

 ジェンダーフリーとは名ばかりの行き過ぎた男女平等だって言いたいのか? って言うか、これって重要なことなんだろうか? 大作は考えるのを止めた。


「差別だろうと何だろうと俺は女には手を上げないの! これは俺のポリシーなんだもん。もちろん生命の危機に晒されたりしたら話は別だぞ。そん時は緊急避難だからしょうがないだろ」


 大作は必死になって独自の理論というかナニをナニする。だが、本音を言えば女に暴力を振るって反撃されるのが怖いだけなのだ。未唯くらいならともかく、くノ一連中なんて怒らせたら怖そうだし。

 こっちからは絶対に手を出さない。だからそっちも手を出さないでねってことなのだ。これってある意味では相互確証破壊の真逆みたいなものかも知れん。

 自分より強いやつとは絶対に争わない。絶対にだ! 卑怯者だと笑わば笑え。これが弱者の生存戦略なんだからしょうがない。


「そ、そうなんだ。それで? 話を戻して良いかしら。美作国や伯耆国の他にウランが採れる国は無いの?」

「えぇ~~~! 俺が悪いのかよ…… うぅ~ん。近場だと朝鮮半島にもウラン鉱山はあると言えばあるな。嘘か本当か知らんけど世界最大級だって噂もある。どうせ嘘だろうけど。中央アジアや東南アジア、オーストラリア北部にもあるけど遠すぎて話にならん。やっぱ人形峠だな」

「だったら今すぐにでも掘れば良いんじゃないかしら。筑紫島を残らず平らげてから長門や周防へ攻め上るなんて悠長なことをやらなくて済むわよ。祁答院様に取り入ったみたいに美作国や伯耆国のお殿様にお願いしてみるの」


 偉そうにふんぞり返ったお園が自信満々といった口調で持論を展開する。

 その発想は無かったわ! まさに目から鱗って奴だな。その、恐れを知らぬ大胆すぎる発想に大作は思わず感動すら覚えていた。


「そうは言うがな、お園。この時代の美作国や伯耆国は尼子の勢力圏なんだぞ。尼子の当主は晴久(はるひさ)とか言ったっけ? えぇ~っと、出雲、隠岐、備前、備中、備後、美作、因幡、伯耆の八カ国を領した守護大名だってさ。百二十万石くらいはあるんじゃね? ざっと祁答院の三十倍にもなるな。それに再来年には従五位下修理大夫に任じられる。しかも自称じゃなくてちゃんと朝廷から賜った本物なんだ。そんな大物、きっと顔を見るだけでも大変だぞ」

「だったら祁答院様に取り入ったように小者から顔を繋いで行けば良いんじゃないかしら」


 大作の控え目な反論に対してお園が執拗に食い下がる。その顔には『押さない! 駆けない! 喋らない!』と書いてあるかのようだ。

 でも、その言い様は弥十郎に失礼なんじゃないかなあ。まあ、小者と言えば小者なんだけど。

 いやいや、大物っていうのはタイム誌の表紙になったりフォーブス誌が毎年発表する『世界で最も影響力のある人物』とかだろう。

 そんなんと比べたら尼子晴久なんて『奴は守護大名の中でも一番の小者。戦国大名の面汚しよ!』とか言われても仕方の無いレベルかも知れん。

 ちょっとだけ自信を取り戻した大作はみんなに向き直って口を開く。


「今現在、美作国や伯耆国を統治しているのは尼子晴久の叔父にあたる尼子国久って奴らしい。刑部少輔で紀伊守を名乗ってるって書いてあるぞ。ベーメン・メーレン保護領副総督のラインハルト・ハイドリヒみたいな奴だったら面白いのにな。ちなみに晴久の後見人だったそうだ。娘を晴久に嫁がせたんだってさ」

「そのお方は小者なの? 取り入ることはできそうかしら」

「いやいや、かの有名な新宮党の頭領だぞ。大永四年(1524)伯耆国への電撃侵攻では大軍を率いたそうだな。尾高城、不動ヶ城、羽衣石城、エトセトラエトセトラ。次々と城を落としたんだってさ」

「ふ、ふぅ~ん。電撃戦っていうと対ポーランド戦みたいで、いと様好きことね。嘸や厳しき大戦だったのかしら」


 嬉しそうに顔を綻ばせたお園が相槌を打つ。って言うか、こいつの口からその単語が出てくるとは予想外も良いところだ。大作は驚きを隠しきれない。

『男子三日会わざれば刮目して見よ』って奴だろうか。まあ、お園は女子なんだけれど。


「し、知っているのか、お園!? これがいわゆる『大永の五月崩れ』って奴だな。でも、これは今日では明確に存在を否定されているんだってさ。電撃戦でも何でもなかったんだそうだ。何年も掛けて地道に懐柔したり、歯向かう国人を追い払ったりしたので間違いないらしい。それに、南条氏なんかには一定の自治権があったとも書いてある」

「なぁ~んだ。また空言なのね。がっがりさせないで欲しいわ」

「そんなことしている間に羽衣石うえし城の城主南条宗勝って奴は因幡に逃亡したそうな。そんで羽衣石城へ城主として入ったのが国久の嫡男、誠久さねひさなんだ。伯耆三郡を与えられたんだとさ。ちなみに伯耆四郡で六万石あったそうな」


 大作はスマホの情報を適当に拾い読みする。ちゃんと予習しておけば良かったと反省するが時すでに遅しだ。

 くノ一や忍びたちは一言も口を挟むことなく黙って聞いている。って言うか、ちゃんと聞いてるんだろうか? 完全にスルーされてたら嫌だなあ。

 そんなことを大作が考えているとお園がおもむろに口を開いた。


「だったら祁答院様と同じくらいってことかしら? そのお方になら取り入る隙はあるかも知れないわね」

「とは言え、こいつは人格面に難ありなんだよな。嘘か本当か知らんけど誠久は傲慢で暴力的な奴だって逸話がいろいろと残ってるんだ。人の鼻が大きいって難癖を付けてへし折ったり、髭が気に入らんってだけで暴力を振るったとか。とんでもないDQN野郎だろ? 誠久の前では乗馬禁止ってマイルールもあったらしい。それでわざわざ当て付けに牛に鞍を載せて乗った奴もいたそうだ。一休さんのトンチかよ! こんな面倒臭そうな奴、できることなら関わり合いになりたくないなあ。まあ、噂レベルの話なんだけどさ」

「どうせ偽りなんじゃないの? 祁答院のお殿様も童を弓の的にしたなんて全くの虚言だったわよね」


 ほのかが心底から忌々しそうな顔で呟いた。そう言えば、そんな話もあったっけ。大作は忘れかけていた記憶を脳内から掘り起こす。

 だけど、奴の最後は奥さんに刺し殺されるなんてみっともない死に方だ。何か女性関係でトラブルとかあったじゃなかろうか。その謎が解けないとイマイチ安心できんなあ。

 まあ、それは追い追い調べて行こう。大作は考えるのを止めた。


「問題は国久と誠久の親子は新宮党っていう武装集団のトップだってことなんだな。こいつらは強大な武力と広大な領地を持っていた。だから晴久の目の上のたん瘤状態だったのかも知れん。でも、晴久の正室は国久の娘じゃん。それで何とか対立が表面化しないで済んでたんだろうな。だけど、その奥さんも近々、死んじゃうんだ」

「何だかナチスの親衛隊と突撃隊みたいだわ。それで長いナイフの夜みたいなイベントが発生したのね。どっちが勝ったの?」

「天文二十三年十一月一日(1554年11月25日)に予算委員会的な会合が月山富田城であったそうな。国久はそこへ登城するところを襲撃されて殺されたそうだ。享年六十三歳。桜田門外の変みたいだろ? 息子の誠久さねひさは館で自害したらしい。蘇我蝦夷、入鹿の親子とは逆パターンだな。んで、一族も纏めて皆殺しにされちゃった」

「ふ、ふぅ~ん。それで、大佐はどうするの? 井上一族みたいに国久、誠久に手を貸すのかしら。それとも晴久に付くの?」


 お園が小首を傾げるのにシンクロして未唯も首を傾げた。と思いきや、藤吉郎やほのか、メイもそれを真似る。それを見たくノ一たちが即座に首を傾げ、忍びたちもそれに続いた。

 いったいこのパフォーマンスは何なんだろう。大作は吹き出しそうになったが際どいところで我慢する。


「とりあえず弱い方を応援したら良いんじゃないかな。両者共倒れのダブルノックアウトがベストだ。だって、俺たちの目的は核開発だろ? 尼子はその道具に過ぎん。どっちみち、用が済んだら始末しなきゃならんのだし」

「そうじゃないわ。核開発も手段であって目的じゃ無い筈よ。大佐の目的は歴史改変だったんでしょう」

「そ、そうだったな。目的じゃなくて目標だったよ。当面の目標ってやつだ。そんなわけで新宮党とは距離を取った方が良いかも知れんな」


 鋭い突っ込みを受けた大作は内心の動揺を隠しながらスマホから情報を探す。

 何か、何か使えそうなネタは無いのか? ナウなヤングにバカウケしそうなキャッチーなネタは……

 あった! 見つけたぞ! 大作は心の中でガッツポーズ(死語)を取る。


「誠久と一緒に美作国方面を統治した尼子の重臣に牛尾幸清(よしきよ)遠江守って人がいるみたいだぞ。出雲国の牛尾城主で尼子十旗の一角だそうな。備前の内に十万石の知行を持っていたんだとさ」

「どんなお方なのかしら。奴は尼子十旗の中でも一番の小者。尼子重臣の面汚しよ! とか言われてなければ良いわね」

「席次は第三位って書いてあるな。ちなみに例に寄って生没年不詳だとさ。でも、尼子経久のころから家老として重要なポストに就いていたそうな。永正八年(1511)に大内義興が上洛する際にも経久に同行したんだと。船岡山合戦では三好氏とも戦ったっていうから六十は行ってるんじゃね?」


 はたしてそんなお年寄りと話が合う物なんだろうか。大作は古アニメや大昔の映画なんかが大好物だ。ずっと年配のお年寄りから戦時中や戦前の話を聞いたりするも楽しいし。

 だけど、十六世紀の年寄りっていったいどんな話をするんだろう。船岡山合戦の話なんてされても付いて行ける気がしないんだけど。


「どうしたの、大佐? 還暦を越えていたら何か障りでもあるのかしら」

「そんなお年寄りと話が合うのかなって少し心配になっただけだよ。ちなみに、この人は新宮党じゃないから粛清されずに済むらしい。それと、この爺さんの嫡子は久信って奴で伯耆国に禄一万七千石を与えられた御手廻り衆だって書いてあるぞ。この人なら年寄りってことはなさそうだな。まあ、若くもないんだろうけど」

「しゅくせいされないってどういうこと? 死なずにすんだのかしら」

「何のお咎めも無かったみたいだな。その後は永禄五年(1562)毛利の白鹿城攻めに援軍として出るけど負ける。永禄八年(1565)第二次月山富田城の戦では尼子義久と一緒に籠城するけど毛利に糧補を断たれて降伏する。最後は毛利に仕えて安芸国高宮郡深川の院内城主となったそうだ」


 主家が滅んでもちゃっかり敵方に再就職するとは要領の良い奴だな。できることなら俺も見習いたい物だ。大作は心の中で素直に絶賛する。

 それはそうと、やっぱり取り入るとしたら年寄りの牛尾幸清よりも若い久信の方が良いんだろうか。年齢的にみて幸清は十年後にはヨボヨボになってるかも知れんし。


「お二人はどういった心向きのお方なのかしら。もうちょっと役に立ちそうなことは書いてないの?」

「うぅ~ん。人となりまでは書いてないなあ。でも、離反する奴も多いのに最後まで尼子に残ったっていうのは見上げた奴かも知れんぞ。ちなみに牛尾幸清は湯原氏の出身で湯原次郎左衛門尉幸清だったんそうだ。ところが牛尾を治めていた河津氏が第一次月山富田城の戦いで大内側に寝返る。そんで、河津氏が滅ぼされちゃったお陰で幸清が牛尾惣領になれたんだとさ。まあ、こんなこと知ってても何の役にも立たんか」

「そ、そうなんだ。まあ、詳らかなことは末々に吟味すれば大事ないわ。これで核開発に取り掛かれるのね。今から始めれば十年くらいで作れるんでしょう?」

「え、えぇ~~~っと。どうなんだろう? さっき鉱石を二十万トン処理するって言ったよな? ってことは浸出液として濃度二、三パーセントの稀硫酸が鉱石の数倍は必要になるんだろ。これって濃硫酸が五千キロリットルは必要になるんじゃね? それを溶媒抽出するのにアミンやケロシンも必要になる。イエローケーキを二酸化ウランにするには高温の水素で還元しなきゃならん。あいつらは鉄パイプの中の炭素まで獲って行っちゃうから大変だぞ」


 ここで一旦言葉を区切ると大作は一同を見回した。かろうじてお園だけが話に付いてきているが他の面々は目を合わそうともしてくれない。

 どう考えてもこれは時間の無駄にしかならん。今日はやらなきゃならんことも一杯ある。そろそろ話を打ち切った方が良さげだ。


「黒鉛炉でプルトニウム239を作ったら再処理だ。濃硝酸に溶かしてからドデカンとリン酸トリブチル(TBP)の有機溶媒と混ぜるとウランやプルトニウムがTBPに抽出されて油相に移る。こいつを硫酸ヒドロキシルアミンとかを混ぜた水相と接触させればプルトニウムだけが還元されちゃうそうだ。核兵器を一発作るのに五キロリットルくらいのTBPが必要らしい」

「それってどうやったら作れるの?」

「知らん! n-ブタノールをエステル化しろって書いてあるな。だけど、最大のハードルはベリリウムかも知れんぞ」


 n-ブタノールのエステル化に関して突っ込まれたくない大作は慌てて話を反らす。

 そんな意図を汲み取ってくれたのだろうか。お園がベリリウムの話に食い付いた。


「それって原子番号四の第二族元素ね。どうしてそんな物が入り用なのかしら?」

「核兵器の軽量化には中性子反射体としてベリリウムが必須なんだ。とっても軽くてX線の透過率が高いからな。そこで金属ベリリウムの製法だけど…… まずは鉱石を水酸化ナトリウムで溶融してから硫酸ベリリウムの溶液として抽出する。これをアルカリで中和したら水酸化ベリリウムが沈殿するからフッ化アンモニウムと反応させて熱分解するとフッ化ベリリウムが得られる。後はグラファイトの坩堝でマグネシウムと混ぜて千三百度で還元すれば金属ベリリウムのできあがりだ。マグネシウムはどうするって? 海水から塩化マグネシウムを集めて電解だ。一キロのマグネシウムを得るのに十四kWhくらい必要らしいな」


 そんな話をしながら大作はスマホから『広島県三原鉱山のベリリウム鉱床の地質と鉱床の成因』とかいうPDFを探して表示させた。

 お園が不機嫌そうな顔でそれを覗き込む。そろそろ限界が近いのかも知れん。これは急いだ方が良さそうだ。

 その他大勢たちも目に見えて居心地が悪そうにしている。そわそわと落ち着かない様子で気もそぞろといった顔だ。


「広島県三原市宗郷(そうごう)町に三原鉱山とかいう日本有数の蛍石鉱山があったそうな。昭和初期に開発され、戦後まで稼行していた鉱山だ。ここでベリリウム鉱物であるフェナス石やデーナ石が採れるんだとさ」

「しょうわしょき? その鉱山は今はどうなっているのかしら」

「宗郷谷は江戸中期に開墾されて田野浦新開と呼ばれたそうだ。一説によると葉田から逃げてきた平家の落人が銅を採掘していたらしい。もしかするとこの時代にも銅を掘ってるかも知れんな」

「だったらそこのお殿様にも取り入らなきゃならないのね」


 お園が何だかとっても面倒臭そうな顔で相槌を打つ。そして腕組みしながら首を捻った。

 どうやらタイムアップらしい。大作は話の打ち切りを決断する。


「困ったことにそこは毛利の勢力圏のど真ん中なんだ。しかも村上水軍の目と鼻の先ときている。どうしたもんじゃろなぁ~」


 お園が聞いたことも無いくらい深いため息をつきながらがっくりと項垂れる。

 くノ一や忍びたちはみんな揃ってそっぽを向いていた。


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