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巻ノ百六拾七 黄昏の美女 の巻

「いちえん? いちえんって銭何文くらいなのかしら?」


 七輪に対する未唯の激しい追及はなおも続く。大作は分かりやすく説明するために必死に言葉を選んだ。


「確か明治政府は一両を一円と交換したんだっけ。当時の一両は四千文だな。ってことは七厘は銭二十八文ってことだ」

「それって人足の方々の日当より高いじゃないの! ちっとも安くないわよ。炭を使う理由は何があるんでしょうか? 薪じゃあ駄目なんでしょうか?」


 見たこともないようなドヤ顔をしながら未唯が顎をしゃくる。

 何て反論すれば良いんだろう。大作は苦虫を噛み潰したような顔で呻く。

 ところで、苦虫ってどんな虫なのかな? もしかして特定のモデルとかいるんだろうか。その虫を特定することさえできれば大きなチャンス?

 いやいや、それは後でゆっくり考えよう。今は何とかして木炭の有用性を理解して貰わなければ。大作は首を傾げながら頭をフル回転させる。


「え、えぇ~っとだなあ。物価変動とかもあるから値段の話は忘れてくれ。重さ七厘だとすると3.75グラムの千分の七だから約二十六ミリグラムだな。木炭のグラム当たり発熱量は七千カロリーくらいだから…… たったの百八十カロリーかよ。二ミリリットルの水を沸騰させるのが関の山だぞ。やっぱ、誇大広告みたいだな」

「やっぱりね。そんなことだろうと思ったわ!」


 まるで勝ち誇ったかのように未唯がふんぞり返る。

 うぅ~ん。何でこいつに偉そうにされにゃあならんのだろう。大作は反撃の切っ掛けを探して必死に頭を捻る。


「そうは言うがな、未唯。炭には他にもメリットが山ほどあるんだぞ。まず、薪みたいにメラメラと炎を上げない。あんまり煙も出ない。簡単に火が消えず、長いこと安定して燃えている。それに風量で温度調整もできる。竹筒でふうふう吹いたり団扇でパタパタ扇ぐだろ」

「うちわ?」

「お前は団扇も知らんのかよ! 高松塚古墳の連中ですら持ってるっていうのに。まあ、当時は顔を隠すためのアイテムだったらしいけどな。でも、室町時代には普通にあったんじゃないのか? と思いきや、庶民に普及したのは江戸時代なんだっけ」


 いかん、またもや話が脱線しかけているぞ。今日は本当に時間が無いのだ。大作は強靭な精神力で話の軌道修正を図る。


「確かに木炭は薪より値段がお高うございますな。されど、単位体積や重量で比較すると木炭の方が随分と熱量は大きくなりまする。先ほど木炭のグラム当たり発熱量が七千カロリーと申しましたな。それに比べると薪はたったの四千カロリーしかありませぬ。さらに木炭からは二~五マイクロメートルくらいの遠赤外線がたくさん出ておりますぞ。燃焼ガスに含まれる水分も少ないそうな。鰻の蒲焼や焼き鳥なんかを作るのにも向いてるってグルメ漫画で申されておりました」

「然れども、炭の火起こしは大層と難儀ですぞ。かと思えば消すのも一苦労。ちょっとした煮炊きには使い勝手が悪すぎましょう」


 どこか上の空の顔で窯元が相槌を打つ。その表情には話を早く打ち切りたいと書いてあるかのようだ。

 ギブアップするなら早い方が良いのか? でも、ここで折れたら格好悪いなあ。それに、今までの説明が無駄になってしまう。誰が何と言おうとコンコルド効果は絶対なのだ。

 何とかしてお互い傷付かずにナアナアで済ます方法は無いもんじゃろか。大作は必死に頭を捻る。閃いた!


「考えてみますれば木炭は煙を出さず、長時間エネルギーを放出致します。されど、これは木炭を製造する段階で煙を出しているってだけかも知れませぬな。そもそも、薪を木炭にする時点でエネルギーの七、八割もが無駄に捨てられているとかいないとか。これって膨大な資源の浪費にござりますぞ」

「だと思ったわ。私の言った通りじゃないの」

「はいはい、未唯は賢いなあ。でも、悪いけどちょっとだけ黙っててくれるかな。さて、そこで窯元殿に提案でございます。おが屑を固めたオガライト? いや、もっと細かく成形してペレット燃料を作ってみませぬか? 炭より着火性に優れ、グラム当たり発熱量は薪と然程は変わりませぬ。その上、細かな粒であるが故に嵩張りませぬ。よって運ぶ手間や蓄える場所にも不自由しませぬ。如何にござりましょう?」

「その、ぺれっとねんりょうとやらを儂らに作れと? お戯れを申されますな。そのような話ならば炭焼きにでもお持ち下さりませ」


 けんもほろろといった顔で窯元が首を振った。ですよね~! 大作も心の中で禿同する。

 とは言え、ほんの一ミリで良いから奴から譲歩を引き出さねば。大作は決死の思いで窯元の喉元に食らいつく。


「だったら…… だったら薪七輪! アフリカとかの支援活動でも薪七輪を作って森林資源保護に努めているってネットで見ましたぞ。虎居と山ヶ野の間の辺りに珪藻土と申す土が採れ申す。これを用いて薪で使える七輪を作って下さりませ」

「ならばまずはその珪藻土とやらをお持ち下さりませ。話はそれからにございましょう」


 まるで養豚場の豚を見るみたいな目付きで窯元が冷たく言い放つ。

 大作は何か反論できないかと懸命に知恵を巡らせる。巡らせたのだが…… 何も思い付かなかった!


「だ、だったら…… だったらもう……」

「ねえ、大佐。急がないと日が暮れちゃうわよ」


 その瞬間、無情にも未唯からタイムアップが宣言された。何だか負けた気がするのは気のせいだろうか。いやいや、これは引き分けだ。

 首の皮一枚で繋がっている。ゴングに救われたってことにしておこう。


「では、次回訪問時に珪藻土をお持ち致しましょう。その折りには宜しゅうお頼み申します」


 そう言うが早いか、大作は未唯と牡丹を引き連れて逃げるように窯元を後にした。




 大作、未唯、牡丹の三人は轆轤師を目指して足早に通りを進む。って言うか、これは撤退ではない。転進っていう奴だ。

 ネガティブな気持ちを引きずっても碌なことは無い。気持ちを切り替えなければ。大作は必死になって平静を装う。


「あと、借銭を返さないといけないのは轆轤師だけだよな。それと酒屋にも顔を出さないといけないんだっけ」

「まだ蒸留塔ができていないわよ。だから、酒屋には行ってもしょうがないんじゃないかしら?」

「そ、それもそうだな。だったらもしかして、もしかしなくても急がなくても良くなったんじゃね?」

「そうかも知れないわね。そうじゃないかも知れないけど」


 未唯が苦笑を浮かべながら相槌を打つ。牡丹もなんだか呆れたような顔でニヤついている。

 まあ、遅刻して怒られるよりかはよっぽどマシか。さっさと片付けて青左衛門のところに戻ろう。大作はほんの少しだけ歩を緩めた。


 ようやく轆轤師の屋敷に辿り着くころには日がかなり傾いていた。

 轆轤師はといえば相変わらず忙しそうに働いているようだ。大作はちょっと遠慮がちに声を掛ける。


「精が出ますな、轆轤師殿」

「これはこれは、大佐様。されど、轆轤師殿はご勘弁下さりませ。儂にも小椋孫太郎という名がござりますれば」


 むすっとした顔の轆轤師が不満気に返事をする。もしかして怒らせちゃったんだろうか。とは言え、こいつの名前なんて聞いた覚えが無いんだけどなあ。

 大作は馬鹿にしていると思われない程度の笑顔を浮かべる。そして手のひらを下に向けてひらひらさせた。餅つけというジェスチャーのつもりなのだ。

 だが、まったくと言って良いほど大作の意図は通じていないようだ。轆轤師は険しい表情を崩そうとはしない。


「いやいや、そんなことを申されるなら拙僧だって大佐ではござりませぬぞ」

「左様にござりまするか。存じ上げぬこととは申せ、それは失礼仕りました。して、今日は何用で?」


 名前のことはどうでも良かったんだろうか。轆轤師は仕事の手を休めると軽く首を傾げた。

 それはそうと、何しにここへきたんだっけ? そんなこと急に言われてもさぱ~り重い打線。大作は上目使いで未唯の顔色を伺う。


「え、えぇ~っと。何だっけ?」

「しっかりしてよ、大佐。借銭をお返しするんでしょう」

「そうそう、それそれ。轆轤師殿、じゃなかった、何とか左衛門殿?」

「孫太郎にございます!」


 額に青筋を立て、眉を吊り上げた轆轤師が声を荒げる。

 名前のことはどうでも良かったんじゃないのかよ! 大作は心の中で逆切れするが決して顔には出さない。

 余裕の笑みを浮かべながら懐を探ると金塊を取り出した。


「そうそう、孫太郎殿。これをお受け取り下さりませ。二百匁ほどござりますれば銭百五十貫文にはなりましょう。御手数ですがご自分で替銭屋にお持ち頂けまするか?」

「おお、これはこれは。確と頂戴致しました。されど、まさか金でお持ち下さるとは思うてもおりませなんだ。何故にお坊様が金など……」

「ストーップ! それはNeed to Knowでお願い致します。ついでと言っては何ですが、この鍬に柄を付けて頂けませぬか? なるべく堅い樫みたいな木でお願い致します」

「樫? 樫にござりまするか…… 生憎と手元にはござりませぬな。材木屋に参られては如何にござりましょう?」


 さっきの仕返しだとでも言いたそうな邪悪な笑みを轆轤師が浮かべる。

 まあ、人生なんてこんな物かも知れん。思い通りに行かないのが当たり前なんだろう。大作は小さくため息をつくと轆轤師を後にした。




 三人は今きたばかりの道を本気の急ぎ足で戻る。もう、ロスタイムくらいしか残っていないはずだ。何が何でも夕飯までには絶対に帰らなければ。絶対にだ!

 駆け込むように材木屋に辿り着く。番頭に一声掛けてから山積みの木材と端材を手分けして抱えた。


「みんな、重いけどもうちょっと頑張ってくれ。俺たちの努力が明日の日本を作るんだ」

「ねえ、大佐。はねくり備中は置いて行けば良いんじゃないかしら。どうせ今日中に柄を作っては貰えないんでしょう?」

「そ、そうだな。完全に忘れてたよ。ありがとう、未唯」


 大作はオーバーリアクション気味に感謝すると未唯の頭をわしゃわしゃと撫でる。そして、材木屋に戻ると大声を張り上げた。


「番頭殿! 一つお願いして宜しゅうございますか? この鍬にT字型の柄を付けて頂きたいのですが」

「てぃ、てぃ~じがた? これはまた、珍妙な格好の鍬にございますな? どのようにして使う物にござりましょう?」

「そこはNeed to Knowでお願いできまするか? って言うか、今日はもう時間がございません。完成したらお見せいたしましょう」

「そうは申されまするが、大佐様。使い方も分からぬ物を作り様がありませぬぞ」


 材木屋は迷惑そうな顔を隠そうともせず不満を口にする。

 気持ちは分からんでも無いがやって貰うしか無い。大作は無言でバックパックから紙を一枚取り出すと物凄い勢いで下手糞な絵を描いた。


「T字型っていうのは丁字型のことにござります。横向きの棒は一尺、縦向きの棒は三尺くらいで結構。全体重を掛けてもポッキリ折れたりしない程度の強度でお願いします」

「きょうど?」

「強さということにございます。まあ、適当で結構ですので見栄えの良い柄を作って下さりませ。材木屋殿のセンスに期待しておりますぞ。それでは、柄のこと返す返すお頼み申す……」


 大作は力なく材木屋の手を握って弱々しい声で囁く。

 不承不承といった顔で材木屋が頷いてくれたのを確認した大作はBダッシュで材木屋を後にした。




 徐々に薄暗くなってきた虎居城下を大作、未唯、牡丹の三人が足早に歩く。

 材木や端材の重さは手に食い込むようだ。早く帰りたいという一心だけが三人の足を動かしていた。

 途中まで進んだ辺りで通りの向こうから二人の娘が小走りで駆けてくるのが目に入る。だが、距離があるうえに逆光気味なので顔までは良く分からない。

 それを目にした大作の脳裏に突如として天啓の様に蘊蓄が浮かんだ。これは是が非でも話しをしてやらねば。妙な義務感に突き動かされた大作は勿体ぶった笑顔を浮かべる。


「知っているか、未唯? なんで黄昏時(たそかれどき)っていうのか。夕方、薄暗くなってくると人の顔が分かりにくくなるだろ。昔の人はそれを誰そ彼時って言ったんだってさ」

「そうかしら。まだ、そんなに暗くなっていないわよ。(あれ)(たれ)(どき)くらいなんじゃないかしら?」

「ふ、ふぅ~ん。そうなんだ~ 未唯は賢いなあ」


 大作は『彼は誰時』なんて言葉を聞いたこともないので曖昧な笑みを浮かべて誤魔化すしかない。ちなみに『()(たれ)(どき)』だと明け方限定なので要注意だ。

 それにしても、まさかこんなチビッ子に言い負かされることになろうとは。情けなくて死にそうだが決して顔には出さない。意味深な笑みを浮かべて見返すのが精一杯の反抗だ。

 そんなことをしている間にも二人の娘が近付いてくる。良く見るとそれは楓と紅葉だった。


「よっ! お二人さん。今日はまた一段と美人だな」

「今日は、でございますか?」

「昨日までは美人では無かったのでござりましょうか?」


 大作の何気ない一言に楓と紅葉が猛然と噛み付いてくる。その瞳は怒りに燃えているように見えなくもない。


「どうどう、落ち着いて。一段とって言っただろ。more beautifulってことだよ。お前らが美人じゃなかったら他の奴らは何だってんだ?」

「それってどういうこと、大佐? 未唯や牡丹は美人じゃないのかしら?」

「いやいや、もしも美人じゃなかったらっていう仮定に基づいた推論だよ。その前提が間違っているんだから考えても意味が無い。金子みすゞ(1930年没)だって『みんな違っているけど、みんな良いんだよ』的なことを申されているぞ」

「的なってどういうこと。本当は何て申されたのかしら?」


 未唯が大作の言葉尻を捕らえるかのように些細なことに食い付く。

 気になるのはそこかよ~! 大作は心の中で絶叫するが決して顔には出さない。


「それはアレだよ、アレ。金子みすゞの作品は五百十二編もあるんだけど、その八割以上が生前未発表だったそうな。んで、JULA出版局ってところがそれを世に送り出したのは自分達だって主張しているんだ。さっきのも『私と小鳥と鈴と』って未発表の詞の一部なんだよ」

「それって著作権を主張できる物なのかしら?」


 首を傾げながら未唯がちょっと不満そうに相槌を打つ。

 って言うか、さっきから未唯の突っ込みが随分と鋭いな。大作は心の中で未唯の評価を一段階引き上げた。


「法的には無効だろうな。たとえばどっかの誰かがショパンの未発表曲を発見したとして著作権を主張できると思うか? とは言え、危ない橋は極力渡りたくない。だからちょっとだけ言い換えたんだよ」

「ふ、ふぅ~ん。分かったわ。それはそうと楓と紅葉にも荷物持ちを手伝って貰っても良いかしら。もう腕がくたくたよ」

「そうだな。疲れてるところ悪いけど頼むよ。美人のお二人さん」

「御意!」


 二人のくノ一は荷物を受け取ると嬉しそうに微笑んだ。




 大作たち五人は滑り込むように青左衛門の鍛冶屋に辿り着く。すでに辺りは真っ暗になっていて足元も覚束なくなっていた。

 すでに鍛冶屋の人たちも作業を終えて戸締まりを始めているようだ。人影の中から青左衛門を見つけた大作は近くまで寄って声を掛けた。


「青左衛門殿、遅くなりました。作業の方は如何な案配にござりまするか?」

「おお、大佐様。暗うなって参りましたので案じておりましたぞ。へるめっと鍋と金の薄板にござりましたな。ほれ、この通りにございます」


 そう言いながら若い鍛冶屋は作業場の隅に置かれた台の上を手振りで指し示す。そこには鈍い光沢を放つシュタールヘルムもどきと葉書サイズの金色の板が雑然と放置してあった。

 おいおい、こんなんで良いのか? 百匁の金って銭七、八十貫文の値打ちがあるんだけれど。もし盗まれたら責任を取ってくれるのかよ。大作は心の中で激しく突っ込むが決して顔には出さない。


 って言うか、いま鍛冶屋で研究開発して貰っている物って戦略的価値を持つ極秘情報がゴロゴロしているんじゃね? そろそろ真面目に機密情報の管理を考えた方が良いかも知れん。大作は心の中のメモ帳に書き込んだ。


「これはまた見事なヘルメットにござりますな。これまで拙僧も数多のヘルメットを見て参りましたが斯様な物は見たこともござりませぬ。青左衛門殿は三国一のヘルメット職人にござりまするぞ。祁答院様、入来院様、東郷様の御三家に売り込んで参ります故、大量注文を楽しみにお待ち下さりませ。金の薄板加工もありがとうございました。金貨量産の暁にもお手をお借りすることになります故、宜しゅうお願い致します。しからばこれにて」


 そう言いながら大作は金の薄板を懐に仕舞い込んでヘルメットを被る。そして呆気に取られている青左衛門を尻目にBダッシュで逃げ出した…… と思いきや、まわりこまれてしまった!


「いやいや、大佐様。本日はあのように大きな金を頂戴致しました。このままお返しするわけには参りませぬ。心ばかりの馳走を振る舞わせて頂きます故、何卒ご賞味下さりませ」

「ゆ、夕餉をご馳走して頂けるのでございますか! これは忝のうござりまする。されど、このような大人数でお邪魔して宜しゅうござりまするか?」

「大佐、せっかく青左衛門様がご用意下さったのよ。頂かないと勿体ないお化けが出るわ。それに私、お腹が空いて材木屋ハウス(虎居)まで歩けそうも無いわよ」


 目をギラギラさせたお園が横から口を挟む。その口調は大人しいが目の輝きを見ていると逆らうのは危険っぽい。大作は素直にご馳走になることにした。




 青左衛門の鍛冶屋のそれほど広くもない座敷に大作たち十人がひしめき合うように席に着く。

 何でこんな阿呆みたいな大人数を引き連れてきちゃったんだろう。大作は今さらながら激しい後悔の念に駆られる。

 お園、未唯はしょうがない。ほのか、メイ、藤吉郎も幹部要員なのでギリギリありだろう。だが、牡丹、紅葉、菖蒲、楓は連れてこない方が良かったかも知れん。

 出番の少ないキャラに活躍の場を与えようなんて浅はかなことを考えたのが敗因なんだろうか。


 ちょっと困惑気味の表情を浮かべたお園が全員の思いを代表するように呟いた。


「どうしてこんなに窮屈な思いをして夕餉を頂かなきゃならないのかしら?」


 みんな我慢しているのに堂々とそれを言っちゃうんだ~! 大作はお園の正直な感想にちょっと感心する。これは何か適当な相槌を打った方が良いんだろうか。


「そうは言うがな、お園。虎居に活動拠点を移すっていうのは前から決めていたことだろ? 各種プロジェクトを推進するためには仕方の無いことなんだよ」

「それはそうだけど、こんな大勢が一つの部屋に入らなくても良かったんじゃないかしら。肝心の青左衛門様が中に入れないなんてどうかしているわよ」

「そ、それもそうだな。いやいや、人数が増えたのに部屋が狭いのが諸悪の根源なんじゃね? 青左衛門は理化学研究所の所長になったんだ。こんな狭い鍛冶屋ではちゃんとした研究はできないぞ。広くて立派な食堂を備えた研究所を急いで建設しなきゃならんな」

「それは急いだ方が良いわね。私、こんな窮屈な夕餉は二度と御免よ」


 そう忌々し気に吐き出すとお園はこの話題を打ち切った。


 おしくらまんじゅう状態の座敷で大作たちは押し合いへし合いしながら夕餉を頂く。そのメニューは普段より随分と贅沢な内容だ。

 でも、できることなら次はもうちょっと広い部屋で食べたいなあ。そんなことを考えながら大作は理化学研究所建設計画の優先度を最優先に引き上げた。


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