表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
155/516

巻ノ百伍拾伍 ハッピーバースデー、ミス・アイリス の巻

 大作たちは時が経つのも忘れて通貨のデザインに没頭する。どうせ暇で暇で他にすることもないのだ。お陰で山のようにデザイン案を生み出すことができた。


「随分と沢山のあいであが出たわね。大佐はどれが良いと思うの?」

「俺が決めても仕方ないだろ。実際に使う人たちの意見を広く募集しよう。そんでもってさらにブラッシュアップするんだ」

「私、早く新しい銭を見てみたいわ。金でできた銭なんて心ときめくわね」


 日が傾いてきたころ、遠くから聞こえてくる銃声が一段と激しくなった。

 一日の訓練の総仕上げに全力射撃でもやっているんだろうか。


 装填に時間が掛かる前装銃でも四十丁も揃えば毎秒二発くらいの発射間隔だ。

 千丁の鉄砲が一斉に火を吹けばさぞかし壮観な眺めかも知れん。大作は想像して一人ほくそ笑む。


「まるで戦が始まったみたいな大騒ぎだわ。みんな大事無いかしら」

「こっちまで煙たくなってきたわよ。喉が痛くなりそうね」


 女性陣には鉄砲の評判はイマイチのようだ。二人とも眉をひそめて怪訝な顔をしている。

 これはサウンド・サプレッサーとか作った方が良いかも知れん。それに無煙火薬の開発も急がねば。硫酸や硝酸、それにワセリンやアセトンなんかの開発はどうなってるんだろう。

 まあ、製造法方は分かっているんだ。人、物、金を惜しげもなく注ぎ込めば数年で完成するだろう。そんなに焦らなくても敵が先に開発成功なんて心配も無さそうだし。


 そんなことを考えていると年嵩の山師が興奮気味に声を掛けてきた。


「大佐様、水銀の湯気が止まったようにございますぞ!」


 差し出された望遠鏡を受け取って覗いてみる。四口の鉄瓶から延びたパイプの先端に泡は見えない。


「そろそろ頃合いのようですな。大変お待たせ致しました。さすれば金をご覧に入れましょう」


 大作たちは風上から鉄瓶のところまで歩いて行く。適当な板切れで扇ぎながら蓋を外して中を覗きこんだ。

 これで中が空っぽだったら面白いのになあ。一瞬、そんな馬鹿げた考えが頭を過る。だが、さすがにそんな安直な展開は許されないらしい。

 そこには潰れた卵くらいの大きさの固まりが金色の輝きを放っていた。見た感じでは前回と同じくらいの大きさに見える。ただし、今回はそれが四個あるのだ。

 まだ、かなりの高温らしい鉄瓶に川から汲んできた水を入れる。大きな音を立てて水が蒸発した。手で持てるくらいに冷めた鉄瓶を盥に浸けてさらに冷ます。

 水の中に手を突っ込んで取り出した金塊はまだ生暖かかった。


「ささ、お手に持ってみて下さりませ。遠慮は要りませぬぞ」


 そう言いながら大作は宗久や山師に金塊を一つずつ手渡す。余った一個はお園に渡した。


「こ、これを頂けるのでございますか!」

「斯様な物を頂戴しても宜しいのでございましょうか?」

「未唯には? 未唯には無いの?」


 みんな口々に好き勝手なことを言っている。夢を壊すのはちょっと可哀想だがここはガツンと言ってやらねば。大作は心を鬼にする。


「いやいやいや、持たせてあげただけですぞ。今井様、明日にでもこれを銭に替えて借銭(しゃくせん)をお返し致します」

「この辺りで纏まった銭はもう手に入りませぬぞ。大佐様さえ宜しければ相応の金でも結構でございますが?」

「それは有り難きことにございます。宜しゅうお頼み申します。ところでお園、未唯にも持たせてやってくれるかな?」


 名残惜しそうな顔をしながらお園が金塊を未唯に手渡す。その予想外の重さに未唯が目を見張った。


「今ごろ気が付きましたが、先に水銀の重さを計っておけば金の重さも推測できたのですな。拙僧ともあろう者が、ついうっかりしておりました」

「大佐様ほどのお方でもそのようなことがござりまするか。弘法も筆の誤りですな」

「さて、それでは本日の作業は終了と致しましょう。盥から水銀を鉄瓶に回収して下さりませ」


 大作たちは小屋への帰路に就く。荷物の重さは朝と同じ筈だ。しかし、金塊だと思うと余計に重く感じるのは気のせいだろうか。小さな満足感に思わず頬が緩む。




 作業場に鉄瓶や水銀を返してから山裾に戻るとすでに射撃訓練は終わっていた。

 巫女やくノ一たちがお湯で鉄砲の銃身を洗いながら人足たちに説明しているようだ。

 銃身を乾燥させ、薄く椿油を塗り、きちんと元通りに組み立てて行く。

 大作の顔を見つめながら桜が無言で軽く頷いた。どうやら完全に終わったってことらしい。

 なにか総括的なことを話した方が良いんだろうか。大作はおっかなびっくりの足つきでみんなの前にしゃしゃり出る。


「え~っと。初めて鉄砲を撃った感想は如何でしたかな? ストレス解消には持ってこいにござりましょう? また撃ってみたいかな~?」

「……」


 そこは『いいとも~!』だろ~! 大作は心の中で絶叫するが決して顔には出さない。


「まあ、今後も定期的に訓練を続けて参りますので宜しくお願い致しまする。なお、本日の成績優秀者には後ほど、臨時ボーナスをお支払いたします。楽しみにしていて下さりませ。そうそう、近くの村に鹿や猪が現れて田畑を荒らしておるそうな。鉄砲の上手いお方には害獣駆除のアルバイトをお願い致すやも知れませぬ。日当は普段の倍額をお支払致しますので何卒宜しゅうに。それでは解散」


 大作は言いたいことだけ話すと一方的に話を打ち切った。




 小屋に戻ると夕餉の支度を待つ間、大作は重嗣(しげつぐ)の相手をして時間を潰した。

 遊んでいると思われたら食事の支度を手伝わされそうだったのだ。


「如何にござりました、加賀守様。四十丁の鉄砲の力、とくとご覧頂けましたかな?」

「儂も鉄砲のことは存じておった。じゃが、四十もの鉄砲を一列に並べて撃ち掛けるとはな。和尚は真に驚かしきことをお考えになられたものじゃ」


 へぇ~! 全然期待していなかったけど好評だったんだ。大作は失敗する予感しかしていなかったので意外な成功に大いに驚いた。

 とは言え、やったのは巫女とくノ一たちだ。自分が何の役にも立っていない自覚はちゃんとある。そんな大作は一応は謙遜しておくことを忘れない。


「いやいや、あれは弓の戦法をそのまま鉄砲に置き換えただけのこと。何のオリジナリティもござりませぬ」

「それが驚かしきことじゃと申しておる。あの人足どもはみな、鉄砲を持つのは初めてじゃと申しておったであろう。弓ではあのようなこと、出来よう筈も無いぞ」


 口ではそんなことを言っているが大作には重嗣の真意が読めない。

 もしかして弓との比較検討をしているんだろうか? それとも弓部隊が失業することを心配しているのかも知れん?

 大作はとりあえず言葉のジャブを放つ。


「アーチェリーならともかく、巨大な和弓を扱うには高度な訓練が必要となります。ちゃんとしたサイトが無いから初めは的に当てるのにも一苦労にござりましょう。風にだって流され易いのではありませぬか? 矢は鉄砲玉よりずっと遅いので動く的に当てるのも随分と難しゅうございますぞ」

「うむ、和尚の申される通りじゃな。弓を扱うには長い修練を要するのう」

「さらに申せば弓を番えたまま的を狙っておると腕が疲れてしまいまする。こればっかりは弩でも作らないとどうにもりませぬ。そして弩は発射速度が火縄銃にも負けるくらいに遅うござります」


 大作はここぞとばかりに弓の悪口を言う。別に弓に恨みは無いんだけどなあ。

 もし、弓の名手でもある祁答院の大殿が聞いたら怒りだしそうな話だ。決してあのおっさんには聞かせられん。


「だったらコンパウンドボウを作ったら良いんじゃないかしら」

「うわらば!」


 急に背後から掛けられた声に思わず飛び上がる。振り返るとお園が首を傾げて不思議そうな顔をしていた。


「お前、なんでそんな物を知ってるんだ?」

「スマホで読んだのよ。弓を引いている間の力が軽くて済むんでしょう」


 お園は気軽に言ってのける。って言うか、俺が一生懸命に鉄砲の優位性をアピールしてるのに何で弓を押してくるんだよ。大作は心の中で悪態をついた。


「そうは言うがな、お園。アレが発明されるのは1966年のことなんだぞ。核兵器が作られるより二十年以上も後の話なんだ。つまり、コンパウンドボウは核兵器開発より難しいってことだ。あんな物を作るくらいなら核開発に全力を傾けた方がよっぽどマシだろ」

「ふ、ふぅ~ん。そうなんだ。それより夕餉の支度ができたわよ。加賀守様、大変お待たせ致しました」

「お、おう。馳走になろう」


 重嗣が鷹揚に頷く。ところでこいつ、いつまで居候してるつもりなんだろう。大作は心の中で大きなため息をついた。





 自称、精進料理の夕飯は重嗣たちにそこそこ好評だった。大作はまたもやレシピを書くことを安請け合いする。

 食器を片付けると間を置かずに誕生日パーティーが始まった。今日は菖蒲の誕生日なんだそうだ。


 宴会部長のお菊が手回しオルゴールを床板に当てる。勿体ぶった顔でゆっくりハンドルを回すとhappy birthday to youが部屋中に響いた。

 巫女とくノ一たちが声を揃えて歌うと菖蒲が心底から嬉しそうに微笑む。重嗣と弥助だけが輪に入れずに孤立していた。


「なあ、菖蒲。誕生日で幾つになったんだ?」

「なった? 歳は十八にございますが?」

「いやいや、満年齢では誕生日に一つ歳を取るんだよ。1533年生まれだから満十七歳ってことじゃね? ってことはお姉さんだったんだ! じゃなかった、お姉さんだったんですね?」


 まさかこいつが年上だったとは! 大作は慌てて卑屈な笑みを浮かべる。だが、菖蒲は呆れた顔で苦笑した。


「大佐、タメ口で結構にございます」

「そ、そうか? じゃ、そうさせてもらうよ。それにしても菖蒲って良い名前だよな。英語だとアイリスだって前に話したよな? そういや、タクシードライバーって映画でジョディ・フォスターがアイリスって女の子を演じてたっけ。それはそうと、あの映画で一番の見どころはスリーブガンだよな。さっと腕を振るだけで拳銃が手の中に飛び込んでくるんだぞ。余裕ができたらすぐにでも開発しなきゃならんな」

「けんじゅうって小さな鉄砲よね。そんな物が手に飛び込んできて何の得があるのかしら」


 横からお園が話に割り込んできた。せっかく菖蒲とのイベントが進行しかけていたのに。大作はちょっとイラっとしたが無理矢理に笑顔を作る。


「あれは男のロマンなんだよ。仕込みiPhoneとか格好良いじゃん」

「格好良いじゃんとか言われても分からないわよ。まあ、大佐がそう思うんならそうなんでしょう。大佐ん中ではね」


 みんなで干し柿を食べながら歌ったり踊ったりといった賑やかな時間が過ぎて行く。場に加わってはこないが重嗣も楽しそうにしている。

 こっちは放って置いても良さそうだ。大作はそろりそろりと目立たぬようにパーティーの席から離れると宗久のところを目指す。

 若い商人は部屋の隅っこで小さく縮こまっていた。某は何の因果でこんなところにいるんだろう。しょぼくれた表情から、そんな心の声が聞こえるようだ。


「楽しんでおられますかな、今井様?」

「は、はあ。これだけ若い娘御が集まると華やかでございますな。さても、おるごーると申されましたかな。あの珍妙な物の()を奏でる鳴物も南蛮渡来の品でしょうか?」

「アレは自鳴琴(じめいきん)? とか何とか申す物にござります。萌が北海道に遊びに行った時、小樽のオルゴール堂でお土産に買ってきてくれた物でしてな。箱に三協精機って書いてありましたから国産ですな」


 昔は世界シェアの八割を誇るオルゴールのトップメーカーで東証一部にも上場していたんだが。盛者必衰は世の習いとは言え、あれほど隆盛を誇っていた会社が今では日本電産サンキョーオルゴール株式会社になってしまうとは。

 まあ、今でも日本最大のオルゴールメーカーではあるんだけど。それはそうと、小樽のオルゴール堂も今はオルゴールギャラリーと名前を変えているそうだ。


「櫛のような形をした薄い鉄の板を棘の付いた筒で弾いてやる絡繰りにございます。左程に難しい仕掛けでもござりませぬ故、そのうちに青左衛門殿にでも作って頂きましょう」

「ほほう、事成りますれば某にも商わせて下さりませ。珍しい物好きの有徳人ならば、きっとみなが欲しがることにござりましょう」


 いやいや、青左衛門は死ぬほど忙しいんだっけ。こんな雑事まで押し付けるわけにはいかん。大作は本来の用事を思い出して咄嗟に話の軌道修正を図る。


「その話はまた今度にいたしましょう。それよりも金は如何にございましたかな?」

「五郎太殿、大佐様に先程の話を申し上げて頂けますかな」

「へえ、ほとんど混じり気の無い金にござりました。四つ合わせて一貫百匁ほどにございます。銭七百五十貫文にはなりましょう」


 約四キロほどあったらしい。もし二十一世紀だったら二千万円くらいにしかならないだろう。だが、銭七百五十貫文は二十一世紀の価値に換算して一億円以上にもなるはずだ。


「されば、大佐様。算用させて頂いても宜しゅうござりますかな。材木、駄賃、大工や石工の日当、米、味噌、塩、薪などで締めて銭二百五十貫文。人足の日当が銭六十貫文。金を四百四十匁ほど頂きとう存じます」

「え~~~! 全部で一貫百匁しかないのに四百四十匁でござりまするか! それって四割にも当たりまするぞ?」


 こいつらに半分近くも持って行かれるなんて想定外も良いところだ。水銀アマルガム法を使ったからこの時代のやり方よりずっと効率も高いはずなんだけど。もしかして当時の方法だったらそもそも利益すら出せないってことなんだろうか。大作は目の前が真っ暗になってきた。


「いやいや、大佐様。ご安堵下さりませ。此度は小屋や作業場を建てるのに金が掛かっておるのです。日当と飯や薪だけなら銭百貫文も掛かりませぬ。この塩梅なら月に銭千貫文の利得となりますぞ」


 宗久は嬉しそうに捲し立てる。だが、それに反比例するかのように大作の気持ちは沈み込む。

 それって一年だと銭一万二千貫文? 三年でも銭三万六千貫文にしかならんじゃないか。前に立てた計画では初年度だけで銭二万貫文の粗利だったような気が……

 いやいやいや、これは現状の二百人で計算してるんじゃね? 人足を千人に増やせば五倍は行けるはず。だったら初年度で銭六万貫文も夢じゃないかも知れん。

 しかも、そのペースで二十年くらいは露天堀りができるはずだ。できないかも知らんけど。

 夢が広がりング! 大作は心の中でガッツポーズ(死語)を取った。




 パーティー会場に戻ってみると宴会は一段落着いているようだった。娘たちは干し柿を食べながら楽しそうに語らっている。

 大作は遠慮がちに菖蒲に近づくと頭の中で『戦場のメリークリスマス』を流す。そしてハラ軍曹になったつもりで優しく微笑み掛けた。


「ハッピーバースデー。ハッピーバースデー、ミス・アイリス……」

「???」


 菖蒲が怪訝な顔で言葉に詰まる。あの名作映画の良さが通じないとは悲しいなあ。大作は心の中で小さくため息をつく。


「菖蒲、もう一度言わせてくれるかな。誕生日おめでとう。これからも山ヶ野のため、その力を活用してくれることを期待しているぞ」

「はい、大佐。気張って御勤め致します」

「宜しく頼むな。さて、宴もたけなわだけど幹部要員とチーム桜はちょっと集まってくれるかな? 大至急、耳に入れておきたい話があるんだ」


 その途端、巫女たちの表情が露骨に急変した。そりゃあ、さっきまで楽しくパーティーしていたのに急に除け者にされたら気になるよな。

 どうフォローすれば良いんだろう。大作は頭をフル回転させる。


「この件はneed to knowなんだ。みんなにも時期がきたらちゃんと話すから。それまで楽しみにしといてくれよな」


 さぱ~り分からんといった顔の娘たち。それを放置して大作は小屋の外へ逃げるように立ち去る。怪訝な顔の幹部要員たちがそれに続いた。




 大作たちは人気の無い作業小屋へと移動する。

 お園、ほのか、メイ、サツキ、桜、愛、藤吉郎たち幹部要員。その後ろには未唯とチーム桜の面々が黙ってくっ付いてきた。


「急に集まって貰ったのは他でもない。って言うか、加賀守様。こんなところで如何なされました?」

「何じゃ? 儂がおっては邪魔か?」


 悪戯っぽい笑みを浮かべた重嗣が答える。邪魔に決まってんだろ~! 大作は心の中で絶叫する。

 だけど、面と向かってそう言われたら何て返したら良いんだろう。本当なら四キロも金が採れたことを発表しようと思っていたのに。ここは適当な話で煙に巻くしかなさそうだ。


「いやいや、邪魔だなんて滅相もござりませぬ。第三者の視点から気が付いたことがありますれば何なりとご意見下さりませ」

「うむ、心得た」


 重嗣が鷹揚に頷く。このおっさん、何処まで邪魔をすれば気が済むんだよ! 大作はイラっときたが決して顔には出さない。

 こうなったらトコトン脱線させてギャフン(死語)と言わせてやろうじゃないか。自棄糞気味の決意を新たにするとみんなに向き直る。


「まず最初に皆さま方に一言、お詫び申し上げたい。昨日が月曜日だと勘違いしていたのは私の不徳の致すところ。重要会議に遅刻した松下幸之助は自分で自分に処分を下したそうな。そんなわけで拙僧は来週一杯、リーダーとしての活動を自粛する。その間のリーダー代行は…… ほのか、君に決めた!」

「え~ また、私めなの? たまにはメイとか他の誰かにやって貰えないかしら……」


 ほのかが不満そうに口を尖らせる。まさかとは思うけど、リーダー代行って罰ゲーム的な感覚なんだろうか。

 そうは言っても、対人関係に難ありのメイにリーダー代行なんてできんのか? まあ、ほのかに補佐させれば何とかなるかも知れん。トレーニングだと思ってやらせてみるか。


「そんじゃあ、メイ。君に決めた!」

「わ、私なんかにリーダー代行なんてできるのかしら?」

「take it easy! 『できるのかしら?』じゃねぇよ。やるんだよ! 分かんないことがあれば、ほのかに教えてもらえ。ほのかはリーダー代行補佐だ。それでだな。俺は明日から、また虎居に行かなきゃならん。なので、明日やる予定だった幹部会を今からちゃっちゃと片付けようかと思う。まずはプロジェクトの進捗状況から報告してくれるかな?」


 大作はそう言うとメイの顔色を伺う。暫しの沈黙の後、メイが引きつった笑顔で首を傾げた。

 どうやらこいつに議事進行役は荷が重いらしい。


「え~っと…… 愛、煙硝の生産状況はどうなってる?」

「お、およそ百貫目ほど採れたわ。でも、もう五平どんの村は大方は採り尽くしちゃったの。これからは遠くの村に出向かなくちゃいけないから行き帰りが骨折りね」

「それは大変だな。村の人と交渉してショートステイさせて頂くのが良いかも知れんぞ。このプロジェクトは若殿の肝煎りで始まったって建前になってる。正式な許可証もあるから交渉の余地はあるはずだ」

「分かったわ。私が談じてみるわね」


 愛が自信満々の顔で安請け合いする。任せて大丈夫なんだろうか? 大作は不安で一杯になる。

 とは言え、すでに半月に渡って何の問題もなく業務をこなしているんだ。多分、このくらいの交渉なら大丈夫かも知れん。大丈夫だったら良いなあ。


「次は藤吉郎だな。火薬の製造はどうなってる?」

「か、火薬ですと? 某は足踏み式脱穀機や印刷をやっておりました故、火薬に付きましては……」

「何にも進んでいないのか? 藤吉郎、君には失望したよ」

「大佐ったら、また藤吉郎を虐めるつもり? 仕舞いには怒るわよ!」


 鬼のような形相のお園に睨み付けられて大作は震え上がる。だが、すぐにお園が笑顔を浮かべた。どうやら冗談だったらしい。

 だったらこっちも冗談で流すしか無いな。大作は小さくため息をついた。


「そんじゃあ、鉄砲と弾はどうなってるかな? 担当は茜だったっけ?」

「はぁ?」

「はぁじゃないよ。鉄砲と弾のスケジュール管理は茜だって書いてあるぞ」


 大作はスマホのメモを画面に表示させて指し示す。だが、茜はさぱ~り分からんといった顔だ。


「書いてあるぞと申されましても私はずっと山ヶ野におりました。そのようなこと、分かろう筈もござりませぬ」

「で、でも、そう書いてあるんだけどなあ……」


 大作は悔しそうに唇を噛み締める。


「じゃ、じゃあ、牡丹。蒸留塔とエタノールは…… これも虎居だな。雛菊。アセトンはどうなって…… 進んでない? こりゃまった、失礼いたしました! そうだ! 菫、石炭は手に入ったかな?」

「今井様にお願い致しております。されど、未だ何の便りもございませぬ」


 ですよね~! 大作は心の中で禿同する。あんな物、さすがに一週間じゃ手に入る筈も無い。


「七桁常用対数表も作ってないわよ。だって私、ずっと大佐と一緒にいたもの」


 お園が半笑いを浮かべながら止めを差す。大作はがっくりと項垂れて頭を抱え込むことしかできなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ