巻ノ百伍拾四 通貨の価値は の巻
洪武通宝の私鋳銭を作ってはどうだろうか? そんな衝撃の提案を発した今井宗久は真剣な顔で返事を待っている。
一方、ようやく衝撃から立ち直った大作は顎に手を当てて頭をフル回転させていた。
これって刑法第百四十八条の通貨偽造罪とかに触れないんだろうか? あれは無期または三年以上の懲役という重犯罪だ。
いやいや、皇朝十二銭が途絶えてから慶長通宝が発行されるまで六百年もの長きに渡って日本では公鋳貨幣は作られていない。ありもしない物を偽造したとか言われても知らんがな。
とは言え、刑法第百四十九条の外国通貨偽造及び行使等罪とかならヤバいかも知れん。こっちは二年以上の有期懲役だ。
だったら宋銭にしとけば大丈夫なのか? 何だか駄目な予感がするな。宋は滅びてるけど宋銭自体は日本国内で普通に流通しているし。
そんなことを考えていると遠くの方から断続的に小さな爆発音が聞こえてきた。どうやら向こうでは射撃訓練が始まったらしい。
あっちは真面目に頑張ってるみたいだ。こっちも遊んでいないで話を進めるか。大作は小さくため息をつくと目をウルウルさせて精一杯の残念そうな表情を作る。
「真に無念ながら私鋳銭は止めておいた方が宜しゅうございましょう。そもそも貨幣を鋳造する理由は何かあるんでしょうか? 鍛造じゃだめなんでしょうか?」
「たんぞう?」
「冷えたままの金属を強い力で銭の形にする技にございます。虎居に安部青左衛門殿と申す鍛冶屋がおられましてな。このお方がお持ちの圧延機を用うれば金属を薄板に加工することが叶いまする。それを打ち抜き加工してから模様の刻印を施せばあっというまに硬貨のできあがり。めでたしめでたし」
大作は簡単に言ってのけるが本当にやるとなれば大仕事だろう。とは言え、実際の作業は青左衛門に丸投げするから何の問題も無い。
宗久の様子はといえば話の続きを待っているようだ。ここはもうひと押ししてみるか。大作は上目使いで宗久の顔色を窺いながら言葉を選ぶ。
「そもそも、昔の貨幣の劣化コピーなんてやってもしょうがありませぬぞ。やるならオリジナルで勝負致しましょう。今井様は地域通貨という名を聞いたことはござりませぬか?」
「おりじなる? ちいきつうか…… にござりまするか?」
「その前に一度、現状の問題点を整理してみましょう。拙僧は貨幣が一文銭という少額硬貨しか無いことが最大の問題だと考えまする。これって給料を百円玉で貰っているようなものですぞ。すぐに財布の中がパンパンになっちゃいませぬか? みんな、よくこれで文句を言いませぬな」
おサイフケータイとか無いのに給料も買い物も全部が百円玉なんて想像すらできん。レジとか死ぬほど混雑しそうだ。まあ、そのために銭九十六文を紐で繋いだ銭緡なんてのがあるんだけど。
とは言え、アレの紐を解いて真ん中の銭を鐚銭にすり替えるなんて小狡いことを考える奴もいるから要注意らしい。
やはり、抜本的な解決を図ろうと思ったら高額の紙幣か貨幣を発行するしかないだろう。
ちなみにニ十一世紀ではマネーロンダリングや不正蓄財に対応するために高額紙幣廃止論が高まっている。だが、そんなことができるのはキャッシュレス社会が浸透してきているからだ。やはり戦国時代の今、まずやらねばならぬことは高額通貨の発行だろう。
しかし、宗久には意味が通じていないのだろうか。怪訝な顔をして首を傾げるばかりだ。
ちょっと話の方向を変えてみるか。大作はスマホにクルーガーランド五十周年で発行された五十分の一オンス金貨を表示する。
直径八ミリ、重さは0.7グラムにも満たない小さな小さな硬貨だ。
「南蛮には二千年もの昔から金貨という高額貨幣がございました。とても小さくて軽いですが地金が金なので素材自体に価値がございます。これを百文銭として流通させては如何にござりましょう」
「百文銭ですと! されど、金で作るとなると随分と小さな物になりまするな」
「大きさ二分、重さは一分といったところでしょうか。嚔をすれば飛んで行きそうですな。ちなみに嚔という漢字はJIS第二水準ですぞ」
「値打ちに見合った大きさや重さが無いと人は得心致しませぬ。それに、あまりに小そうては失くしてしまうやも知れませぬぞ」
初っ端から不発かよ! いきなり宗久から否定的な言葉をぶつけられた大作の心は折れそうだ。
助けを求めるようにお園の顔色を窺ってみる。だが、相変わらず脇目も振らずに望遠鏡を覗いていた。
「だったら…… だったら平べったく大きくしてみては如何にござりましょう。紙みたいに薄っぺらくして一文銭くらいに広げてみては?」
「余計に飛んで行きやすくなりますぞ。それに容易く折れ曲がってしまうのではありませぬか?」
「う、う~ん。残念!」
ここは素直にギブアップした方が良いかも知れん。だが、ワシの通貨発行プランは百八式まであるぞ! 大作は心の中で絶叫する。
いやいや、そんなには無いんだけどな。気を取り直して財布から百円玉を取り出すと宗久に手渡す。
「なれば潔う百文金貨は諦めまするか。代わりに目方を十倍に増やして一貫文金貨にしては如何にござりましょうや。これなら百円硬貨くらいの重量感が得られますぞ」
「定まった重さの金があらば重宝するやも知れませぬな。されど、人足どもにとっては二月分の日当。斯様な大金、縁がござらぬことでしょう」
「いやいやいや、そう頭から否定ばかりされておっては話が広がりませぬぞ。反論するなら対案を出して下さりませ!」
さっきから聞いてれば言いたいことばっか言いやがって。あまりにも否定的なことばかり言われてさすがの大作もちょっと頭に血が登る。
そんな大作の気迫に気圧されたのだろうか。暫しの沈黙の後、宗久が遠慮がちに口を開いた。
「昨夜、銭十貫文の割符のことを申し上げましたな。それならば、銭百文の割符を刷ってみては如何にござりましょう?」
「なん…… だと……?」
伊勢国で日本最古の紙幣と言われる山田羽書が発行されるのは半世紀以上も先の話だ。
割符がヒントになっているとはいえ、紙切れを貨幣として流通させようだなんて画期的なアイディアといえるだろう。
そんなことを一瞬で閃くなんて大したもんだ。この時代の人間としては飛び抜けた経済センスを持ってるんじゃね?
さすがは俺の見込んだ男。大作は心の中で宗久の評価を二段階ほど引き上げる。
そして、得意の卑屈な笑みを浮かべるとスマホにハンガリーの十垓(十の二十一乗)ペンゲー紙幣を表示させた。1946年に発行されたこの紙幣は人類史上最高額の紙幣らしい。
「素晴らしい、今井様! つまるところは紙幣のような物を刷れと申されておられるのでございますな? 宋では今より五百年もの昔に交子と申す紙の貨幣が使われておったそうな」
「ほうほう、宋では斯様な古から紙の銭を刷っておったとは。これは魂消り仕りました」
「ただ、そうなると紙幣類似証券取締法と申す法律の制限を受けることになりますな。我らが地域通貨を運営するためには有効期限を付けるとかメンバーだけが使えるといった体裁を取り繕った方が宜しゅうござりましょう。それに文とは違った通貨名を付けた方が良いかも知れませぬな。たとえば字をちょっとだけ変えて紋にしてみるとか」
宗久がさぱ~り分からんといった顔をしている。大作はタカラ○ミーのせん○いを取り出して『紋』という字を書いた。
「文ではなく紋でござりまするか。これはまた、驚かしきことを」
「この百紋紙幣は銭百文と交換することはできませぬ。されど、銭百文に相当する金や銀となら我が寺が何時如何なる時でも望みのままに交換を保証致しまする。パチンコ屋の景品交換所の如き抜け道を用うるのでございます。これが世に言う兌換紙幣でございまする」
「だかん?」
ちなみに兌という字もJIS第二水準だ。大作は一瞬、どんな字だったか度忘れしそうになったが危ういところで思い出した。
「拙僧も詳しくは存じませぬが兌って漢字には取り換えるって意味があるそうですな。言ってみれば金や銀の商品券みたいな物にござります」
「なれば、商う品である金や銀も確と形にした方が信が増すやもしれませぬぞ。僅かでも良いので一貫紋金貨や百紋銀貨などを作ってみませぬか? 物があるのと無いのとでは大違い。無い物をやると言われても誰も信じませぬぞ」
結局は作るのかよ~! 大作は心の中で絶叫するが決して顔には出さない。ただ、黙って得意の卑屈な笑みを浮かべると揉み手をした。
でも、何だかアレだな。『手術は成功しましたが患者は死にました』みたいな? そんな虚しさで胸が一杯だ。精神的に物凄く疲れたぞ。
ちょっとここらで一息入れよう。って言うか、お園と未唯は何をやってるんだ? そう思って二人の方を振り返るといまだに望遠鏡を覗いている。
「なあ、お園。いい加減、未唯にも代わってやったらどうだ?」
「……」
「お園、聞いてんのか? お園!」
「お園様、大佐がお呼びよ」
未唯に肩を揺さぶられたお園が眠そうな顔でゆっくりと振り向いた。寝てたのかよ~! 大作は心の中で激しく突っ込む。
「なに、大佐? もう夕餉なのかしら」
「悪いな、起こしちゃったか?」
「ね、寝てなんかいないわよ。ちゃんと見張ってたんだからね!」
お園がぷぅ~っと頬を膨らませる。いつ見ても可愛いなあ。大作のささくれ立った心が少しだけ和んだ。
「そ、そうか。でも、疲れただろ? ちょっと交代しないか。って言うか、交代してくれ。そもそも今日、今井様や山師の方々にご同行頂いたのは水銀を蒸発させて金を回収する手順を覚えて貰うためだったんだ。いやいや、今まで忘れてたんんじゃないぞ。今、思い出したんだ」
「それって、忘れてたのとは違うの?」
「そ、そうとも言うな」
大作はお園から望遠鏡を受け取るとそのままスルーパスした。年配の山師はそれをおっかなびっくりの手付きで受け取る。何だか怖くて見ていられないぞ。
「ちゃんとストラップを手に巻いて下さりませ。落として壊したら弁償して貰いますぞ」
「心得ております。ここを覗くのでございますな。おお、なんとやら! あれほど遠くにある物が斯様に大きく見えるとは。何と面妖な」
「五郎太殿、儂にも早う覗かせてはくれませぬか」
「ええい、暫し待たれい。彦三」
こいつらにも名前があったんだ。当たり前のことに大作はちょっと感動する。
って言うか、このコンビってどっかで見たことなかったっけ? 背の低い上司と背の高い部下。何だか見覚えがあるような無いような…… 分かった!
「時空警察! ジェイデッ○ーだかヴェ○カーだか忘れたけど、あんたらあの時の凸凹コンビだろ!」
「な、な、何をいきなりおっしゃいまするか?」
「儂らには何のことやらとんと分かりかねまする」
怯えた顔の二人は嘘を言っているようには見えない。って言うか、アレが夢だったのかすら今となってははっきりしない。
まあ、いまさらどうでも良い話か。大作は考えるのを止めた。
水銀の監視を山師コンビに任せた大作はお園や未唯と世間話をして時間を潰す。と言うのも、とにもかくにも時間が掛かり過ぎるのだ。
もっと火力を上げてガンガン炊けば良いのか? でも、万一にも鉄瓶とパイプの接合部が破損したら大惨事&大損害だ。もう少し金山経営が安定するまで極力リスクは避けた方が良いだろう。
「それで? 大佐は紙幣っていう紙の銭を刷るつもりなのね。でも、只の紙切れを銭百文だって言われてもみんな得心が行くのかしら」
思いっきり怪訝そうな顔をした未唯が首を傾げる。保食神社で紙幣を見たことは覚えているようだ。しかし、あれが金銭だとは思っていなかったらしい。
「ジョン・スチュアート・ミルは申された。社会経済において本質的に貨幣以上に無意味なものはあり得ないってな。そもそも貨幣自体には何の価値も無いんだ」
「かちが無いですって? それって、値打ちが無いってことよね。でも、みんな銭を欲しがってるわよ」
未唯が不服そうに唇を尖らせる。こいつも可愛いって言えば可愛いんだけどお園には負けるよな。まあ、平均以上には可愛いんだけど。
大作はそんな失礼なことを考えるが決して顔には出さない。
「たとえば人足の方々はみな、それぞれがいろんな物を欲しておられるんだろう。それが何かは人によって違うだろうけどな。でも、すべての人に望みの物をやることはできん。だから銭を払うことで各々に自分で欲しい物と交換して頂くわけだ。つまるところ、貨幣は時間と労力の節約のためにある。それと、経年劣化しないってメリットもあるな」
「それってどういうことなのかしら? 私、ちっとも分からないわ」
「みんながみんな、納得の行く物なら何でも良いってことだよ。ヤップ島の石貨、貝殻、鯨の歯。俺たちはそんな物を貰っても嬉しくも何とも無いだろ? でも、それでみんなが納得するならそれで良いんだ。紙切れだって同じことさ」
それでも合点が行かないといった顔で未唯がお園の顔色を伺う。
庶民代表みたいな未唯が理解できないってことは人足たちの賛同も獲られないんだろうか。大作は何だか急に計画に暗雲が立ち込めてきた気がした。
いやいや、愛・舞・未唯の三姉妹って神社に預けられていた孤児だっけ。これってもしかすると庶民とは掛け離れた存在なんじゃなかろうか?
「お園はどう思う? 紙幣って庶民に受け入れられるかな?」
「私は働いて銭を貰ったことなんてないから人足の方々のお気持ちなんて分からないわ。でも、数多の金があることを見せておけば信を得られるかも知れないわね。得られないかも知れないけど」
「それって、さぱ~り分からんってことだよな?」
「そ、そうとも言うわね」
そう言うと、お園ははにかむように微笑んだ。結局のところ情報ゼロか。こうなったらサンプルでも作ってアンケート調査でもするしかなさそうだ。大作は心の中のメモ帳に書き込んだ。
その後はいつ終わるとも分からない退屈な時間が延々と続く。時たま竈に薪をくべたり、桶に水を足す他には何もすることがないのだ。
しかたがないので大作たちは金貨や紙幣のデザインを考えて時間を潰す。
「どうせなら祁答院だけじゃなく、入来院や東郷でも使えるようにしたら良いかも知れんぞ。スカンディナヴィア通貨同盟みたいに渋谷通貨同盟を締結して域内の経済活動を活性化するんだ。次にお訪ねする時にサンプルを持って行って売り込もう」
「それならば民草からの信も得られるわね。祁答院様の重ね二枚扇、入来院様の丸に十字、東郷様の蔦の葉に六つ丁子。御三家の家紋を組み合わせるとこんな具合かしら」
お園がタカラ○ミーのせん○いにそれっぽい絵を描く。なんだかとっても楽しそうだ。まあ、実作業は銀細工職人にでも頼めば良いだろう。
それとは対照的に未唯は退屈そうな顔でスマホに表示された金貨を睨み付けている。いまだに金貨の価値に納得が行かないらしい。暫しの沈黙の後、眉間に皺を寄せながら忌々し気に呟いた。
「それにしても金貨ってとっても小さいのね。嚏をしたら飛んで行きそうよ」
「その話はさっき済ませただろ。いっそのこと、穴を開けて紐で繋いでおいたら良いんじゃね?」
「それは良い考えかも知れないわ。小っちゃすぎるのがいけないなら綺麗な組み紐でも結んでおけば良いのよ」
不機嫌そうな未唯をフォローしようとでもいうのだろうか。お園がその言葉に乗っかって適当な相槌を打つ。
とは言え、アイディア自体は悪い物でも無いかも知れん。なにせ、nano SIMカードの半分より小さいくせに一万円以上の価値を持つ金貨なのだ。
「よし、じゃあ未唯は組み紐のデザインを考えてくれるか。配色とか長さとか太さとか。全体のバランスも考えてくれよ」
「未唯、分かった!」
こっちはこんな物で良いだろう。あとは紙幣だな。紙幣の紙はやっぱり三椏から作るのが良いんだろうか? 戦国時代には既に三椏から紙を作っていたはずだ。
ただ、九州でも入手できるのかは良く分からない。そもそも、この時代の人たちが三椏と雁皮をはっきり区別していたのかすら分からん。
それよりも西ノ内紙を手に入れることはできないんだろうか。常陸国では楮を原料とした頑丈な和紙を古代から作っていたんだそうな。天平時代にそれを使って写経したなんて記録も残っている。
その、驚くべき丈夫さから江戸時代には大福帳とかにも使われていたそうな。火事の時は井戸に放り込んでおけば焼けずに済む。回収して乾燥させれば貴重な記録を失わずに済むという寸法だ。他にも障子、傘、提灯から三行半の去状にまで使われたとか何とか。
この紙に西ノ内紙のブランド名を付けて水戸の特産品にしたのは水戸黄門だって話だ。恐らく多分、戦国時代にだって手に入らんことは無いだろう。
ただ、中世物価データーベースを探しても値段はさっぱり分からない。この時代には西ノ内紙って名前が無いんだからしょうがない。
まあ、原料が楮っていうだけで美濃紙なんかと製造工程が違うわけじゃなし。単価もそんなに大きく違わないんじゃなかろうか。そうなると結局は輸送コストの問題だな。
「今井様、西ノ内紙…… 常陸国においては楮から紙を作っておるそうですな。これを手に入れることは叶いませぬでしょうか?」
「常陸国で作りし楮の紙にございまするか。あったような、無かったような。されど、堺から取り寄せるとなれば一月はかかりましょうな」
アマゾンとか無い時代は大変だな。大作は心の中で小さくため息をつく。まあ、サンプルに関しては手に入る紙で作れば良いか。
大作がそんなことを考えているとお園が悪戯っぽい笑みを浮かべて口を開く。
「ねえ、大佐。紙を使う理由は何かあるんでしょうか? 木じゃ駄目なんでしょうか?」
「それって俺の真似か? それはそうと、木で作るとやっぱり偽造され易いんじゃね? とは言え、紙以外の素材ってアイディア自体は悪くないかも知れんな。戦争末期の日本では金属不足から陶器で手榴弾や貨幣を作ったそうな。海外でも竹や布、革、エトセトラエトセトラ。いろんな物で貨幣を作ったって記録がある。開拓時代のアメリカ西部なんて弾丸が小銭の代わりに使われたらしいぞ。二十一世紀だとプラスチックで作られたポリマー紙幣が三十か国以上で流通しているしな」
「変わった物で作れば良いのね? 食べられるお金なんてどうかしら」
またもやお園が食いしん坊キャラ丸出しのセリフを口にする。散々、忠告したのに路線変更するつもりは毛頭無いらしい。まあ、本人が納得してるんならもう何も言うまい。
「お金じゃないけどスルメイカでできたハガキが和歌山にあったっけ。切手を貼れば定形郵便物として送れるらしいぞ。あとは…… 大昔は塩も貨幣だったんだ。英語のサラリー(salary)の語源はラテン語のsalariumからきてるそうな。でも、お金って人から人へ手渡されるから汚いイメージがあるんだよなあ。もっと違った方向性を目指してみないか?」
「それってたとえばどんな方向性なの?」
「世界には四角や六角、八角、ギザギザ、エトセトラエトセトラ。変てこな形の貨幣がいっぱいあるんだ。そんな風に誰も考えもしない方向に突き抜けてみたらどうかな。変形してロボットになるお金とか、非常時にガスマスクとして使えるお金とかさ」
大作とお園と未唯、そして宗久と山師の凸凹コンビたち六人は、まだ見ぬ夢の通貨を妄想していつ果てるともなく議論を戦わせていた。




