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巻ノ百伍拾参 巫女に自由を の巻

 大作は巫女軍団やチーム桜と一緒に作業場の外れにある山の斜面を目指して歩く。その後ろには二百人の人足たちが金魚の糞のようにゾロゾロとくっ付いてくる。

 本体の五倍もある糞って凄いな。大作は想像して吹き出しそうになったが空気を読んで我慢した。


 ところで、これって軍隊で言えば中隊規模に相当する人数だろうか。一人の指揮官が目視や音声でコントロール可能な最大人数かも知れん。

 対島津戦においては数千人規模の部隊を運用する見通しだ。そうなると大尉クラスの部隊指揮官が十人くらいは必要になる。

 まあ、これは伊賀から忍びがきたら丸投げすれば良いや。だって連中は戦のプロだもん。そんなのに素人が敵うわけがない。


「大佐、今度はいったいどんなことを考えているの?」


 例に寄って妄想世界に逃避していた大作の意識が不意に掛けられた声に呼び戻される。振り向くとお園が興味津々の表情で首を傾げていた。


「アレだよ、アレ。人足の方たちはみんな、着の身着のままの適当な格好をしているだろ。大体は草鞋履きだけど中には裸足の方もいらっしゃるみたいだ。尖った石で足を怪我したりしなきゃ良いけどな~って思ってたんだよ。安全靴とは行かんけど草鞋くらいは経費で落とせるようにしよう。そのうち、ゼロ災運動とか危険予知活動トレーナー研修会でもやろうな」

「ふぅ~ん。それだって、どうせ人任せなんでしょうね」

「そりゃあ、しょうがないだろ。リーダーは個別の案件に深入りしちゃダメなんだ。いや、それよりも気になるのは衛生状態だな。みんな何だか薄汚れてて臭いだろ。風呂とか毎日ちゃんと入ってんのかな?」


 大作は人足たちの方を振り返って顔を顰める。さっきから濡れた犬みたいに変な臭いがして凄い気になるんですけど。

 刑務所受刑者でも週二回、夏場は週三回も入浴してるんだそうな。海自の潜水艦だと三日に一度、シャワーが浴びられるんだっけ?


「何を言ってるのよ、大佐。こんな草深い山奥にお風呂なんてあるわけ無いわ」

「あるのか無いのかどっちだよ~! いやいや、無いんだよな。そもそもこの時代には入浴なんて習慣が無いんだし。でも、もうすぐ夏だぞ。とりあえずは川の水で体を洗って頂くしかないか。それより深刻なのは着物や下着だよ。ちゃんと毎日洗濯してんのかな?」

「どうなのかしら? きっと洗っていないと思うわよ。だって、着物ってとっても高いんですもの。そんな物を何枚も持ってたらこんなところで働いていないんじゃない?」


 ですよね~! 大作は心の中で禿同する。だが、これでは話が終わってしまう。何か面白い話題は無いのか? どんな些細なことでも良いんだけどなあ。

 閃いた! 高くても買わないといけない理由は何かあるんでしょうか? 借りちゃあダメなんでしょうか?

 貸衣装屋の歴史は明治以降と言われている。だけど、江戸時代にも物凄い商売があったんだそうな。


「だったらレンタルビジネスなんてどうかな? 歴史鑑定だったか何かで田辺誠(いち)が言ってたぞ。江戸時代にはレンタル褌が独身男性の生活を支えていたとかいないとか。たったの銭六十文で綺麗にクリーニングしてアイロンの掛かった褌が借りれる…… 借りられるんだ。凄い商売だと思わんか?」

「阿呆じゃないの? 銭六十文といえば人足の方々の日当の三日分よ。そも、新しい褌が買えるんじゃないかしら」

「どれどれ、新しい褌は銭二百四十八文って書いてあるぞ。う~ん、レンタル料としては高すぎる気がせんでもないな。だけど、褌クリーニング屋だと考えたらこんなもんなのかも知れんぞ。とにもかくにも、江戸時代にはそれでビジネスとして成立してたんだから需要はあったんじゃね?」

「え~~~! 銭二百四十八文の褌ですって! 何なの、その阿呆みたいに高い褌は! 羽二重ででも作られてるっていうの?」


 お園の口から怒りのこもった言葉が次々と飛び出す。その度に瞳が鋭く細められて行く。氷のように冷たい視線に睨みつけられた大作は背筋がぞくぞくっとした。


「よ、良く分からんけどこれって江戸後期の話なんじゃね? だって、銭六十文=千二百円って書いてあるんだもん。戦国時代とは貨幣価値が一桁くらい違うみたいなんだけどなあ……」

「そんなの私の知ったことじゃあないわよ! たかが褌に清らを尽くすなんて、それこそ阿呆のすることよ! そんな物に銭二百四十八文も払うなんて!」

「どうどう、落ち着いて。俺はそんな物は穿かないぞ。いや、ちょっと待てよ。褌は巻くなのか?」

「褌は締めるじゃろう。褌を締め直すなどと申すではないか」


 まったく予想外の方向から突如として声が掛かる。慌てて振り返ると重嗣が首を傾げて半笑いを浮かべていた。

 もしかして馬鹿にされてるのか? だが、この生須賀大作。生憎と、このくらいで腹を立てるような安っぽいプライドは持ち合わせていないのだ。ちっとも悔しくなんか無いぞ。

 大作は、こめかみに青筋の立てながらも必死に平静を装う。


「いやいや、加賀守様。そもそも今時、褌なんて履いてる…… 締めておる者などおりませんぞ。世の中はブリーフ派とトランクス派が争っておるうちにボクサーパンツ派が圧勝してしまったようにござりまするな」

「なんじゃと! 褌を締めぬと申されるか? 儂の知らぬ間に世はそのようになっておったとは……」

「まあ、力士なんかは廻しを締めておられますな。そう申さば、褌女子が急増中なんて記事をネットで見かけたことがございますぞ。お園も締めてみたらどうだ?」

「私、締めない。褌、嫌いだもの……」


 お園は吐き捨てるように呟くと頬を膨らませてぷいと横を向いてしまった。どうやらまたもや地雷を踏んでしまったらしい。

 それにしても、お園の逆鱗っていくつくらいあるんだろう。大作は誰にも聞こえないほど小さくため息をついた。




 そんな阿呆な無駄話で時間を潰している間に目的地に辿り着く。


「全隊、止まれ。整列」


 人足たちが適当な行列を作った。さっきの殺し合いしろって話が効いているのだろうか。みんな不安気な顔で瞳を泳がせている。


「さて、今日は皆様方に、ちょっと鉄砲の撃ち方を覚えて頂きたく存じます」


 ざわ、ざわ…… 人足たちの間に一斉に動揺が走った。効いてる、聞いてる。大作は心の中でほくそ笑む。


「これからの時代。鉄砲の普及に伴って射撃スキルの習得は必須となって行くことにござりましょう。鉄砲を制す者は天下を制す。この機会に是非、鉄砲の楽しさを味わって下さりませ」


 それだけ言うと大作は軽く頭を下げる。だが、人足たちはみな怪訝な表情を崩さない。ここは何かもう一つインパクトのある話を…… 閃いた!


「ただ単に鉄砲を撃つだけでは面白くも何ともありませぬな。そこで、成績優勝なお方には賞品をお出し致しましょう。誰でも一人、好きな巫女を選んで一晩自由にできる。そんなところで如何でしょうかな?」

「え~~~! じゆうって勝手次第ってことでしょう? 私、そんなの死んでも嫌だからね!」

「いくら大佐の頼みでもそれだけは聞けないわよ」

「そんな阿呆なこと言うなんて、大佐のことを見落としたわ」


 愛、舞、未唯から一斉に大ブーイングが上がる。その後方に並ぶ巫女軍団の面々も白い目をして睨んできた。

 一方で人足たちも欲望に満ちた視線で巫女たちを舐め回すように見詰めている。


 計算通り。大作は心の中でほくそ笑む。

 だが、それまで沈黙していたお園が鬼のような形相で声を荒げた。


「それって本意で言ってるんじゃないでしょうね? 巫女軍団は私の直轄よ! あんまり阿呆なことばかり言ってると仕舞には怒るわよ!」

「安心しろ。こんな約束を守るつもりは毛頭無い。書面によらない贈与契約は履行が終わっていない分は撤回することができるんだ。民法五百五十条にちゃんと書いてある。そもそも口約束なんて立証するのが不可能に近いだろ?」


 大作は勝ち誇ったように得意気に宣言する。だが、お園は呆れた顔で小さくため息をついた。


「端から守るつもりのない約定を交わすって言うの?」

「これは冗談なんだよ。約束ですらないんだ。テスラとエジソンのエピソードを知ってるか? エジソンは自分の作った直流システムを交流電源で動かせたらボーナス五万ドル払うって言ったんだ。だけどテスラが成功したら『あれはアメリカンジョークだ』とか言って反故にしちゃったんだそうな」

「子曰く、信なくば立たず。一旦は交わした契りを違えるなぞ、えじそんとは見下げ果てた奴じゃな」


 心底から苦々し気な顔で重嗣が相槌を打つ。隣では弥助が太鼓持ちのように愛想笑いを浮かべていた。


「おお、さすがは加賀守様。見事なご慧眼に感服仕りましてございます。その調子で全体の総指揮をお願い致しますぞ」

「うむ、心得た」


 鷹揚に重嗣が頷き、弥助も隣で神妙な顔で首を垂れる。

 こっちはこんな物で良いだろう。大作は人足の方に向き直った。


「さて、それではみなさん五人の組に分かれて下さ~い! 巫女軍団とチーム桜のみんなはくれぐれも事故の無いように注意してくれ。それと、一人ひとりの鉄砲の腕を見極めてくれ。さっきの巫女の話は冗談だけど上位入賞者には賞金を奮発するぞ。あと、みんな耳栓を忘れるなよ。そんじゃあ、頼んだぞ」

「頼んだぞって、大佐は何をするの?」

「俺には…… 俺たちには大事な仕事があるんだ。今井様、一緒においで頂けますかな。お園と未唯もきてくれ。そんじゃあ、アデュー!」


 巫女軍団やチーム桜の面々が一斉に呆気に取られたような顔をする。大作は手をひらひらさせながら足早にその場を立ち去った。






 大作たち一行は作業場に向かう。今井宗久の後ろには呼んでもいないのに二人の山師がオプションのようにくっ付いてきた。


 それはそうと、アデューっていうのは二度と会うことが無いような時に使う挨拶じゃ無かったっけ。ロシア語のプロッシャイチェとかスペイン語のアディオスに相当したようなしないような。

 こんなことならエルキュール・ポワロみたいにオ・ルヴォワールって言えば良かった。激しく後悔するが例に寄って後の祭りだ。ちなみにロシア語だとダ・スヴィダーニァだな。

 まあ、あいつらと二度と会わないって可能性だって無いとは言えないか。そんなことを考えていた大作の意識がお園の声で呼び戻される。


「それで? 私は…… 私たちはいったい何をするっていうの?」

「俺が…… 俺たちがするのは水銀を蒸発させて金を取り出すっていう最重要作業だ。最高機密が故に人払いをしたんだ。馬鹿どもには丁度良い目くらましだろう?」

「おお、(やうや)うと金が採れるのでござりまするな。こちらへ参って早半月。いまだ一粒の金すら見ておりませぬ故、些か憂いておったところにございます」


 今井宗久がぱっと顔を綻ばせて相槌を打つ。二人の山師も急に真顔になった。

 釣られて大作も思わず真剣な口調になる。


「言うまでもありませぬが水銀から金を取り出す技は極秘事項ですぞ。もし、口外されるようなことあらば不正競争防止法違反で多額の賠償金を払って頂くことになりまする。努々お忘れめさるな」

「某も商人の端くれなれば無論、心得ておりまする。ご安堵下さりませ」


 宗久が真面目腐った顔で返事をするが大作はまったく期待していない。この技術はすでに南米のポトシ銀山では大々的に使われているのだ。どうせスペイン人経由ですぐに日本にも伝わるに決まっている。

 だったら何でこんなことを言ったのか。それは宗久たちとも同じ秘密を共有したかったのだ。それによって仲間意識が強固になれば一石二鳥だろう。


 作業場から十貫目ほどの水銀を回収して四(こう)の鉄瓶に移す。鉄瓶は一口、二口と数えるのだ。その重さは一口当たり十キロくらいだろうか。

 例に寄って阿呆みたいに重いので四人の男が一口ずつ抱える。もし、足の上に落としたら大惨事だ。安全靴を開発した方が良いかも知れん。

 お園と未唯も陶器製のパイプを両脇に抱えて運ぶ。


 重い荷を持った一同は一列にならんでよちよち歩きで遠い川岸を目指す。


「みなさま、くれぐれも落とさぬようお気を付け下され。溢したらどえらいことになりまするぞ。パイプも絶対に割らないでくれよ。予備が無いんだから」

「まだまだ金山は大きくなるんでしょう。ちょっと増やした方が良いんじゃないかしら」


 少し心配そうな顔でお園が首を傾げた。未唯も禿同といった顔で頷いている。


「壊しさえしなければ当分は大丈夫かな。現状では二十日ほど鉱石を処理してから水銀を蒸発させてるだろ? 毎日、水銀を蒸発させれば人足が今の二十倍くらいまでなら対応可能だ。そうなると毎日毎日、金が一貫目は採れるぞ」


 それを聞いた今井宗久と二人の山師が目を丸くして驚く。効いてる効いてる。大作も心の中でほくそ笑む。

 捕らぬ狸の皮算用も良いところだが、そうでも思わんとやってられん。なにせ、もし夕方に鉄瓶の中に金が無かったら破産してしまうのだ。

 人足の日当や小屋の建築費、青左衛門の鉄砲代も払えず自己破産するしかない。給料を払えないとくノ一たちも言うことを聞かんだろう。

 いやいや、十五年後の世界ではあんな豪邸に住んでたんだ。きっと上手く行くに違いない。って言うか、上手く行かんと困る。上手く行ったら良いなあ。


 そんなことを考えながら盥に水を張ったり竈に火を起こしたりといった準備を進める。鉄瓶を火に掛けてパイプの先端を桶に浸けたら全員で風上に素早く退避だ。


「このあとは水銀が蒸発するまで待つだけでございます。薪をくべたり水を足したりする他にはすることもございませぬ」

「さすれば銭の話をして宜しゅうございまするか?」


 待ちに待ったという顔で宗久が身を乗り出す。大作はバックパックから望遠鏡を取り出すと未唯に手渡した。


「鉄瓶の見張りを頼めるか。火加減と水加減を見ててくれ」

「未唯、分かった!」

「ず~っと見てなくても良いぞ。時々で大丈夫だからな」

「……」


 未唯は返事も忘れて真剣な顔で望遠鏡を覗いている。こっちは任せておいても良いだろう。

 大作は宗久に向き直ると愛想笑いを浮かべながら揉み手をした。


「お待たせいたしましたな。さすればお伺い致しましょうか。されど、二貫目の金なれば漬物石にしておった物をお渡しした筈にございますが」

「いやいや、某が申し上げたき儀は然に非ず。銭が足らぬと申しておりまする」

「え~~~! 二貫目の金と申さば銭千貫文に値する筈ではござりませぬか? それでも足りない? いったい何に使われたのでしょう?」

「で~す~か~ら~! 足りないのは銭にございます。銅銭、一文銭が足らぬが故に労しておるのです!」


 額に青筋を立てた宗久が鼻息を荒くして詰め寄る。そして懐から一文銭を取り出すと勿体ぶった手付きで眼前に翳した。

 大作が瞳を凝らすと洪武通宝の文字が何とか読み取れた。って言うか、縁は欠けてるし文字も擦り切れて酷いボロボロだ。


「これっていわゆる鐚銭(びたせん)でござりまするか? それにしても酷い代物ですな」

「いかにも。虎居や横川から銭を掻き集めておりますが、もうこのような物しか手に入りませぬ。二百もの人足に銭二十文の日当を配るには日に銭四千文が入用となりまする。一月に銭十二万文。とても手に入りませぬ」

「一文銭が十二万枚っていうと重さ四百キロにもなりまするな。そのうえ人足はまだまだ増える一方。とは申せ、島津を頼るというわけにも参りませぬか」


 大作はボロボロの洪武通宝に顔を近付けて穴の開くほど観察する。これって文字が擦り切れてるっていうよりはモールドが甘いんじゃね?

 もしかするともしかして、これって私鋳銭なんじゃなかろうか。この時代、京銭(きんせん)とか呼ばれて嫌われ、撰銭の対象となっていた通貨があったんだそうな。

 本来は明の時代に南京辺りで鋳造された私鋳銭のことを指すらしい。だけど、日本で鋳造された劣化コピーのこともそう呼んでいたんだとか。


 って言うか、通貨を自国で鋳造できず輸入に頼っているって国家としてどうなんだ? ジンバブエのことを笑えんぞ。大作はムガベ大統領のことを思うと切ない気持ちで胸が押しつぶされそうになった。


「今井様、これはもしや私鋳銭ではござりませぬか?」

「ほほう、ようお分かりになられましたな。如何にも、博多の辺りで作りし物と聞き及んでおりまする」


 大作が慌ててスマホで調べると確かに博多でも私鋳銭を作っているとの情報があった。

 それはそうと、そのうち加治木でも私鋳銭が作られるようになるんだそうな。永禄九年(1566)に倭寇が制圧されると銭の流入が激減。島津は大隈の加治木で洪武通宝の鋳造を開始。天正年間(1573~)には大量鋳造されていたらしい。


 大作は宗久の目を真っ直ぐに見据えながら満面の笑みを浮かべた。そして一呼吸置いてから急に真顔に戻す。


「今井様、拙僧が何も知らないとでも思っておられるのでございましょうか? 堺でも堺銭と申す銭を鋳造しておられるではありませぬか」

「いやいや、聞くところによれば此方では洪武通宝の方が好まれておるそうな。堺銭の大方は無文銭でござりますが畿内では精銭で通っております。されど、骨折りて筑紫島まで運びても鐚銭とされては適いませぬ。何卒ご容赦下さりませ」

「さすれば、拙僧に如何せよと申されまするか?」


 このおっさん、俺に何をさせたいんだ? 宗久の真意を計り兼ねた大作は首を傾げる。

 ネットで見かけた情報によれば平清盛の時代から約四百年に渡って輸入された渡来銭の総数は約二百億枚にもなるんだそうな。当時の人口を考えると一人当たり千枚ほどだ。

 今のペースで人足に銭を払い続けていては早晩この地域の銭を吸い尽くしてしまうだろう。いっそ、入来院や東郷、蒲生の辺りからも掻き集めるか?

 いやいや、そんなことしたら酷いデフレになって大騒ぎになりそうだ。こうなったらもう……


 例に寄って妄想世界に逃避していた大作の意識が宗久の声で現実に引き戻される。


「大佐様。ここ、祁答院様のご領内において洪武通宝の私鋳銭を作ることは叶いませぬでしょうか?」


 そうきたか~! 大作は助けを求めるようにお園の顔色を窺ってみる。

 だが、お園は退屈そうに望遠鏡で鉄鍋を監視していた。


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