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巻ノ百伍拾壱 シマウマとシウマイ の巻

 夕飯を食べ終えた大作たちは麦焦がしを食べながら麦湯を飲んで寛いでいた。


「すまんなあ、こんなお土産しか無くて。次はちゃんとした物を買ってくるから勘弁してくれよな」

「これ、とっても美味しいわよ。そんなことよりお園と未唯が耳に着けているのはいったい何なのかしら?」


 気になるのはそこなんだ。ほのかから鋭い視線を向けられた大作は一瞬、虚を突かれる。


「こ、これはオモチャのピアスだよ。お前らにやった金の指輪と比べたら屁みたいな物だぞ」

「お園はともかく、何で未唯が貰えて私たちは貰えないのかしら」

「そ、それはアレだよアレ。三人は今度の旅で苦楽を共にした戦友なんだ。旅の思い出、みたいな?」


 大作は咄嗟の口から出まかせで強行突破を図る。だが、ほのかにそんな言い分けが通用する筈も無い。

 こういうのは理屈で納得できる物では無いのだ。そもそも理屈にもなっていないし。


「だったら私たちだって山ヶ野で苦楽を共にしてたわよ。どうして私たちには何も無いの? ねえ、どうして?」

「いやいや、共にして無いやん。でも、すまんかったな。今度、代わりに何か買ってくるから許してくれよ」

「ふぅ~ん。確と言ひ期したわよ。忘れたら承知しないんだから」


 ほのかがようやく笑顔を浮かべたので大作はほっと胸を撫で下ろす。


「それで? 大佐たちは此度の旅で海まで行ったんでしょう。魚とか食べたの?」


 ほのかからバトンタッチしたかのようにメイが口を開く。その顔は羨ましさを隠そうともしていない。

 こいつにまで食いしん坊キャラが感染したのか? 対応を誤ると修羅場になるかも知れん。大作は頭をフル回転させて必死に言葉を選ぶ。


「鮃だか鰈だったか忘れたけど平べったい魚を食べたぞ。アニサキスだかクドア・セプテンプンクタータだったかに当たって酷い目にあったけどな」

「いったいどっちだったのよ~! どうして大佐は何でもかんでもうろ覚えなのかしら」

「しょうがないじゃんか。下痢と嘔吐で死ぬ思いだったんだぞ。あそこまで行ったらある意味デトックスだよな」


 そんな無駄話に興じていると桜が突如、真剣な顔で音もなく立ち上がった。そして目にも止まらぬ速さで戸口に向かう。

 それを見たみんなの間にも緊張感が広がる。耳を澄ますと遠くから馬の蹄の音が聞こえてきた。

 忘れてた~! 大作の背筋に冷たい汗が流れる。


「みんな、サットンの法則って知ってるか? 蹄の音を聞いたら、シマウマじゃなく馬だと思えっていう奴だ。あれは多分、シマウマじゃないぞ」

「しまうま?」

「哺乳綱ウマ目ウマ科ウマ属。縞々の馬だよ。と思いきや、本当はロバの仲間なんだけどな。ちなみに横断歩道のことを英語でゼブラゾーンって言うんだぞ」


 大作はスマホでシマウマの写真を探して表示させた。何でもかんでも良くもまあこれだけスマホに溜め込んである物だ。大作は我ながら感心する。

 って言うか、シマウマってシウマイと似てるよな。何だか知らんけど猛烈に崎○軒のシウマイが食べたくなってきたぞ。昭和三年から変わらぬレシピを守り続ける伝統の味!


「シウマイが食いたい、食いたい、食いたいぞ~!」

「大佐、さっきから何を言ってるの? 私、ちっともわけが分からないわ」

「これは防衛機制って奴だよ。人間は不都合な現実に直面すると目を背けたくなる物なんだ。だって、人間だもの」


 あれは絶対に又五郎と愉快な仲間たちだ。大作は確信にも似た思いがあった。でも、あいつらにどんな顔をして会えば良いんだろう。

 助けを求めるようにお園の顔色を伺う。だが、我関せずといった顔で麦焦がしを頬張っている。


 しょうがない。ここは桜を切り倒したジョージ・ワシントンみたいに正直に打ち明けるしかないか。まあ、あれは作り話らしいけど。大作は捨て鉢気味の覚悟を決める。

 そう言えば、コロンブスの卵の話も作り話なんだっけ。ラヴォアジエのギロチンとか、パンが無ければブリオッシュとか歴史上のエピソードって嘘ばっかりだよな。


 そうだ! 一休さんの硯と水飴の話はどうだろう? 死んでお詫びをしようと思い、水飴を食べましたって奴だ。

 でも、室町時代に水飴なんてあったんだろうか?

 大作は早速、スマホで情報を探す。どれどれ…… 日本書紀によると『神武天皇が東征に際して大和高尾で水無飴を作った』だと!


 神武天皇が即位したのって紀元前六百六十年だよな? それって縄文時代末期じゃん。そんな昔から水飴があったとは。縄文人侮りがたしだな。

 ところで、大和高尾ってどの辺りなんだろう? 地図を調べると堺のすぐ南にあることが分かった。もしかして今井宗久なら伝があるかも知れん。


 大作は眉間に皺を寄せて小さく唸る。そんな益体も無いことを考え込んでいるとお園が心配そうに声を掛けてきた。


「大佐、空知らずしてても何にもならないわよ。ふつごうなげんじつとやらを確っと見てちょうだい」

「そ、そうだな。麦芽にはジアスターゼっていう酵素あるんだ。これと炭水化物を反応させれば麦芽糖が作れるかも知れん」

「ばくがとう?」

「ご飯をずぅ~っと噛んでると甘くなるだろ。唾液の中のアミラーゼっていう酵素が澱粉を分解して麦芽糖やブドウ糖ができるんだ。それと似たような原理じゃね? 知らんけど。とにもかくにも澱粉と麦芽を混ぜて暫く放置。汁を搾って煮詰めれば水飴のできあがりだ。そもそも飴の語源は甘いからきてるって話もあるんだぞ。水飴ビジネスで大儲けだ。夢が広がリング!」


 その瞬間、引き戸がガタガタと音を立てて開いた。

 妄想世界へ逃避していた大作は否が応でも厳しい現実に引き戻される。何だか十二時の鐘の音を聞いたシンデレラの気分だ。

 だが、開いた戸口から意外な人物が顔を覗かせた。それは誰あろう。今井宗久だった。


「大佐様、ただいま戻りましてございます。横川からの帰り道にて入来院の若殿をお見掛け致しました故、お連れ致しましたぞ」

「これはこれは今井様。丁度良いところにお帰りで。水飴の作り方を…… え? 入来院様? 又五郎様ではなくて?」


 大作は震える手でスマホを操作する。入来院の十三代当主は重嗣(しげつぐ)加賀守。通称は又五郎だと!


「え~~~!」


 大作の絶叫にお園が顔を顰めた。






「申し訳次第もござりませぬ、加賀守様」


 大作は重嗣に向かって土下座を繰り返していた。もう何回目だったかも良く分からない。

 俺の一生はこうやって謝り続けるだけで終わってしまうんだろうか? まあ、それも悪くないな。いくら頭を下げても腹が減るわけじゃ無し。

 そんな大作の本音を読み取ったのだろうか。重嗣がちょっと困った顔で首を傾げる。


「大佐殿。詫びはもう良い故、早う夕餉に致さぬか?」

「さ、左様にござりますな。お園、すぐに夕餉の支度だ。みんなも腹が減ったよな。な? な?」

「何を言ってるの、大佐? 夕餉ならさっき食べ……」


 大作は必死の形相でウィンクしながらほのかの口を押えた。突然のことにみんな目を白黒させている。

 とは言え、若殿の存在すら忘れて夕飯を済ませちゃったなんて気付かれるわけにはいかないのだ。


「加賀守様のご恩に報いるため、腕に寄りを掛けてご馳走を振る舞わせて頂こう。さあ、みんなも手伝ってくれ。quickly! 加賀守様、すぐにご用意致します故、それまで麦焦がしでも食べてお待ち下さりませ。弥助殿もご遠慮なくどうぞ。藤吉郎、御馬様に飼い葉を差し上げてくれ」

「御意!」


 お園が食べ残しの雑炊を水増しする。適当な具材を放り込んで大急ぎで煮込む。欠けていない一番マシな碗を探して盛り付けた。


「ささ、どうぞ。何もございませぬが、温かい内にお召し上がり下さりませ」

「和尚らは如何なされた? 何故にそのように僅かしか食べぬのじゃ。もしや、食い物に事欠いておるのではあるまいな?」

「我らは皆、ダイエット中にございます。先日の健康診断で中性脂肪が高いと言われましてな」


 夕飯の後に麦焦がしまで食べたので腹一杯でお腹がはち切れそうなんて言えない。大作は苦しい言い分けを捻り出す。


「さ、左様か。されど、この雑炊は本に美味じゃな。お園殿はなかなかの料理上手であられるぞ」

「やはり空腹は最高の調味料ですな。斯様な田舎料理に過分なお褒めの言葉を頂き恐悦至極にございます。宜しければ後でレシピを差し上げましょう」


 そんな当たり障りの無い会話で場を繋ぐ。弥助も美味そうに食べているのでお世辞では無いようだ。大作は胸を撫で下ろす。

 今井宗久と山師も部屋の隅っこで雑炊を啜っているが空気を読んで話には入ってこない。こいつらは放置で良いだろう。


 さて、問題はここからだ。重嗣はいったい何をしにここへ来たんだ? 大作は必死に記憶を辿る。だが、タイムスリップのドタバタもあって細かいところが曖昧にしか重い打線。

 出会った時には話を聞きたいとか何とか言ってたような気がする。だけど、何万石もある国人領主の嫡男が確たる目的も無くこんなところまでやってくるものだろうか?

 とは言え、大作たちだって物見遊山で渋谷三氏や蒲生、肝付なんかを巡っているのだ。こいつが暇人ならあり得ん話ではない。分からん、さぱ~り分からん。




 Wikipediaによれば重嗣は天文十五年(1546)八月ニ十四日に初陣を果たしたんだとか。その軍功により島津貴久から褒美を賜ったそうな。

 ところが、父の重朝はその前年には貴久に対し反旗を翻しているのだ。その一方で嫡子の重嗣は永禄二年(1559年)にも貴久から感状を賜っている。

 蒲生が蒲生城から撤退したのが弘治三年(1557)だから、その二年後になる。

 父親が島津に逆らっているのに嫡男が褒美や感状を貰うってどういうことなんだ? やはり重朝の妹(雪窓夫人)が島津四兄弟の上から三人を産んだという縁戚のお陰なのか?


 別の資料によると元亀元(1570)年一月五日に領地を島津に献上し、同年十二月二日に没したんだそうな。

 ただし、永禄十三年が元亀に改元されたのは四月二十三日だ。たぶん、Wikipediaに書いてある通り永禄十二年(1569)十二月ニ十八日に東郷重尚と同じタイミングで降伏したんだろう。


 そうなると気になるのは1559年から1569年にわたる十年間の謎だ。いつごろ重朝が亡くなったのかは分からない。だが、降伏したってことはどこかの時点で反旗を翻した筈なのだ。

 こればっかりは本人に聞いてみるしかないんだろうか? だけど、本人に面と向かって『あんたは何年後に島津に歯向かうんですか?』なんて聞き辛いなあ。


 今さらだけど、そもそもこいつが重嗣だっていう確証も無いんだけど。

 とは言え、仮に間者だとしても入来院の若殿を騙ったりするだろうか? いやいや、直虎に出てきたほっしゃんみたいな例も十分にあり得るぞ。

 これはもう、下手な考え休むに似たりだ。どうとでも取れるような話で煙に巻くしか無いな。大作は考えるのを止めた。


 いきなり本題から入るのは無粋かも知れん。まずは、スモールトークだ。ちょっとしたプライベートな話から入ろう。

 そう言えば、Smalltalkっていうオブジェクト指向言語があったっけ。


「加賀守様。拙僧は御父上、岩見守様に懇意にして頂いております。つい先日もお園や未唯を連れだって舟で久見崎までご一緒したり、平佐城で湯を編んだり致しました。誠にお世話になりっぱなしで感謝に堪えませぬ」

「おお、そのことならば親父殿より聞いておるぞ。何やら珍し気な軍船を作っておるそうじゃな。心ときめく話じゃ」


 重嗣が上機嫌な顔で相槌を打つ。これなら本題に入っても大丈夫だろうか? 大作は上目遣いで卑屈な笑みを浮かべ、揉み手をする。


「ところで加賀守様は岩見守様と仲違いされておられるのでしょうか? もしや、仲違いは偽りではござりませぬか? 拙僧は東国から参りました故、入来院様と島津様の間柄が良う分かりませぬ」

「偽りじゃと? 何処で斯様な空言を耳にされたのじゃ? 儂と親父殿はもう五年も軋ろうておるのじゃぞ」


 そう言うと重嗣は急に不機嫌な顔になって黙り込む。そのまま残った雑炊を掻き込むと静かに碗を置いた。

 いやいや、たったいま親父殿から話を聞いたって嬉しそうに言ったやん。大作は心の中で突っ込むが口には出さない。って言うか、わけが分からないよ…… 話の接ぎ穂を失った大作は上目遣いで卑屈な笑みを浮かべる。


 暫くの間、重嗣は居心地悪そうに視線を泳がせていた。だが、長い沈黙に耐えかねたのだろうか。とうとう、根負けしたように重嗣が小さくため息をつくと苦笑を浮かべた。


「やはり和尚の目は誤魔化せぬか。如何にも、仲違いは空言じゃ。親父殿が島津と争うて討ち死にしても入来院が滅することが無いように。そう思うて儂は島津に従うた振りをしておるのじゃ」

「それって真田で言うところの『犬伏の別れ』的なエピソードでございますな。良かった~! あのお話まで嘘っぱちだったらどうしようかと肝を冷やしておりました」

「さ、左様であるか。それは何よりじゃな」


 左様であるか? それだけなんですか? 左様であるかだけで、それだけでおしまいなんですか? 大作は心の中で突っ込むが顔には出さない。

 微妙な空気をぶち壊そうとでもいうのだろうか。未唯がやってきて空になった食器を下げる。入れ代わりにお園が麦湯と麦焦がしを並べた。


「何じゃこれは? 奇特なる色の茶じゃな」

「平安貴族も飲んだという麦湯にございます。麦焦がしと良く合いますぞ。時に加賀守様はスポンサード・リンクという言葉をご存じでしょうか? 拙僧はこれをスポンサー・ドリンクだと勘違いして恥を掻いたことがありますぞ。あは、あはははは……」

「勘違いじゃと? 和尚の如き才深き者ですら斯様な思い違いをすることがあるのじゃな」


 一瞬だけ重嗣が口元を緩めて苦笑いする。だが、すぐに真顔に戻ってしまった。

 スモールトークって何を話せば良いんだよ~! 大作は心の中で絶叫するが決して顔には出さない。

 助けを求めるようにお園の顔を伺ってみると美味しそうに麦焦がしを頬張っていた。お前の胃袋は底なしかよ!


 そんなことを考えていた大作の意識が重嗣の声に引き戻される。


「これもすべて叔母上が若くして身罷られたからじゃ。親父殿が日新公に叛かれたのも叔母上が身罷られた翌年じゃったな」

「Wait a minute. 叔母上と申されるのは雪窓夫人のことにございますな。天文十三年(1544)八月十五日没。へぇ~! 島津義弘を経由して今上天皇と血が繋がっておられるのですか。まあ、そんなん言い出したら蜂須賀小六や石田三成、秀吉のお姉さんなんかも血縁者でございますぞ。ちなみに釈由美子は蜂須賀小六の子孫ですな。ってことは今上天皇とも遠い親戚ってことになりますか」

「そも、現世人類はみな、たった一人の女性(にょしょう)と血が繋がっているんでしょう?」

「トバ・カタストロフで遺伝子の多様性が失われた影響も大きいんでしょうね」


 お園の相槌にメイが乗っかり話が完全に脱線した。話に付いてこれない重嗣が首を傾げる。


 しょうがない。スモールトークは終わりにして、そろそろ本題に入るしかないか。大作は腹を括る。

 ビジネス会話をスムーズに進めるには5ピースが重要だ。最初に結論、それから理由を三個、最後にプラスアルファ。


「半世紀…… 五十年以上も続く戦乱の世。田畑は荒れ、民は飢えに苦しみ、疫病に怯えております。今日ご覧になった巫女たちもみな親同胞を失った者たちにございます。拙僧はこの戦乱の世を終わらせんが為に立ち上がりました」

「乱世を終わらせるじゃと? 和尚があの巫女や人足を使うてか? 俄かには信じ難き話じゃな」


 さすがにスケールが大きすぎたんだろうか。重嗣の呆けた顔を見て大作は激しい後悔に襲われる。いやいや、これくらいの大風呂敷はありだろう。


「拙僧の見立てによれば貴久…… 陸奥守? あの変てこな椅子に座ったおっさん。アレが正式な守護として認められるのは二年ほど先のことにござりましょう。一方で実久…… 薩摩守? このお方も天文二十二年(1553)には病で亡くなられます。ちなみに、このお二人も今上天皇と血が繋がっておられますな」

「大佐、そのネタはそろそろ封印しましょうよ。話が広がらないわ」

「そ、そうだな。とにもかくにも、このまま手をこまねいておれば島津の……」

「こまぬくじゃ! こまねくではないぞ!」


 重嗣が急に話を遮って声を荒げた。その顔は不機嫌そうに歪んでいる。よりにもよって気になるのはそこかよ! 面倒臭いやっちゃな~! 大作は心の中で顔を顰める。

 そんで、何だっけ? そうそう、理由を三つだ。


「必ずや戦乱の世は終わります。って言うか、終わらせねばなりませぬ。理由は三つ。一つ。孫子曰く、兵久しくして国の利する者はいまだこれあらざるなり。これ以上戦い続けては人類そのものの危機でございます」

「うむ、便々と戦を続けても利は無い。早う終わらせねばなるまいな」


 真顔に戻った重嗣が素直に頷いた。これはつまらんぞ。何とか引っ掻き回してやらねば。大作の悪戯心が疼き出す。


「二つ。それにはすべての敵対勢力を打ち滅ぼさねばなりませぬ。常ならば兵はすべての敵がいなくなったら失業なのでそこまで本気で戦わぬもの。されど我らは手加減するつもりは毛頭ござりませぬ。七生報国、七度人として生まれ変わり朝敵を誅して国に報いる覚悟にござります」


 ぽか~んと口を開けた重嗣のアホ面に大作は吹き出しそうになったが何とか我慢する。代わりに『キミのアホ面には心底ウンザリさせられる』と心の中で呟いた。


「三つ。そのためにはアレクサンドロス大王やフビライ・ハーンですら成し得なかった世界帝国を作るしかありませぬ。バートランド・ラッセルやアルベルト・アインシュタイン、アルベルト・シュヴァイツァーらも賛同した世界連邦を結成するのです。そして軍備を全廃し、世界警察軍を設立すれば世界からすべての戦争は無くなります」

「せ、世界じゃと? 唐天竺の果てまでも攻め取ろうと申されるのか。和尚があの巫女や人足を使うて?」


 重嗣の声が裏返る。ようやく驚いた顔が見られたので大作は胸を撫で下ろす。これでダメだったらヤバかったな。


「信じようと、信じまいと、これは事実なのです。拙僧は戦国史と申すフリーゲームで『伊賀惣国一揆で天下統一する』というのを見たことがございますぞ。『天下統一』ってゲームでは富樫家で天下統一するなんてのもございましたな。AppleにしろFacebookにしろスタートは小さなところからですぞ」


 伊賀という単語にサツキや桜が顔色を変えた。また話を脱線させられたら厄介だ。大作は半笑いを浮かべてウィンクする。それを見たくノ一たちが小首を傾げた。


「大事なのは結果です。そうだ! 明日で宜しければデモンストレーションをお見せいたしましょう。そうとなれば早う休んだ方が宜しゅうございますな。本日はこちらにお泊り下さりませ」


 そう言うと大作は一人用テントを素早く組み立てる。その手際の良さには自分でも感動してしまった。初めての時とは偉い違いだ。


「ささ、どうぞお入なされよ。ご遠慮なくお使い下さりませ」

「こ、この中で横になれと申されるのか? この儂がか?」


 始めて見る一人用テントを目の前にした重嗣が露骨に狼狽える。お前それでも侍かよ! 大作は心の中で嘲り笑うが決して顔には出さない。


「こわくない、こわくない。一休み、一休み」


 大作は重嗣の背中を押して無理矢理にテントに押し込むと素早く入口を閉じた。


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