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巻ノ百四拾七 命令一元性の原則 の巻

 どうにかこうにか四十丁の鉄砲へのナンバリングが終わった。

 大作はくたびれ果てた手をブラブラさせながら考える。こんなにたくさん手で文字を書いたのは久々だ。堺でデータ集計をやったとき以来だろう。

 もし腱鞘炎にでもなったら大変だぞ。戦国時代には労災なんて無いんだから気を付けねば。


 もしかしてこれはアレなのか? 何でもかんでもスマホで済ませようとする現代人へ向けられた大自然からの警鐘だったのかも知れん。

 だったら何とかせねばならんな。閃いた! 人足たちが安心して働けるよう、俺が労災保険制度を整備すれば一石二鳥じゃね?


 そんなことを考えていた大作にお園から声が掛かる。


「これでようやく山ヶ野に帰れるのね。早く立ち出でましょうよ」

「いやいや、ここからが本番だぞ。鉄砲の授与式をやらなきゃいけないんだ。そうだ! 巫女軍団はお園の直轄じゃん。お園の手で渡してやってくれよ。その方がみんなもきっと喜ぶぞ」


 大作は言葉巧みに面倒ごとを押し付ける。

 だが、お園は大作の真意を瞬時に読み取ったようだ。やれやれといった顔で小さくため息を付くと巫女軍団に向き直った。


「それじゃあ、私から鉄砲を授与するわ。舞、副隊長の貴方からよ。前に出なさい」

「はい、お園様!」

「銃! 201!」


 お園が鉄砲を高く掲げてシリアルナンバーを大声で読み上げる。


「銃! 201!」


 舞も鉄砲を受け取ると番号を確認して復唱した。

 その後は第一小隊の小隊長から始まって巫女たち全員に次々と鉄砲が授与されて行く。


 少し離れたところからその様子を高みの見物しながら大作は考える。

 鬼に金棒って諺があるけど巫女に鉄砲ってのもありかも知れんな。デザインを工夫した巫女専用モデルを作ってみるか? カラーリングのバリエーションを増やすのも良いかも知れん。指揮官専用モデルとかスナイパーカスタムとか。夢が広がリング!


 そんな益体も無いことを考えている間にも巫女への鉄砲授与が終わる。


「お待たせ、大佐」

「そんじゃあ残った鉄砲は国民突撃隊にでも配るか。え~っと…… 藤吉郎、指揮官はお前に頼むな」

「そ、そ、某にござりますか? 某が指揮官ですと!」

「初陣にはちょい若過ぎかも知らんけど古来十五、六歳の出陣もあったような無かったような? まあ、お前の手腕に期待してるぞ」


 大作は目を白黒させる藤吉郎の肩を叩きながら気楽に言葉を掛ける。

 巫女軍団の戦力は圧倒的だ。ここで敢えて藤吉郎に戦力の一翼を担わせて出方を探って見るのも一興だろう。


「銃! 726!」


 藤吉郎が鉄砲を高く掲げてシリアルナンバーを金切声で読み上げる。

 先程のお園の仕草をちゃんと見ていて覚えたらしい。なかなか感心なことだ。大作は藤吉郎の評価を心の中で一段階アップした。


「銃! ???」


 だが、鉄砲を受け取った静流が言葉に詰まる。暫しの沈黙の後、困った顔で首を傾げた。


「藤吉郎様。恐れながらお尋ね致します。これで七二六と読むのでしょうか?」

「さ、左様。これは『あらびあ数字』と申す南蛮の文字にござる。で、ありますな? 大佐」


 そう答えたものの、藤吉郎も不安気に大作の顔色を窺う。


「そ、そうだな。でも、本当はインド人が発明したんだぞ。まあ、英語でもArabic numeralsって言うんだからしょうがないか。と思いきやアラビア語ではインド数字って言うんだってな。そう言えば、アラビア語の文字は右から左に書くけど数字だけは左から右に書くって知ってたか? 頭が変になりそうだろ? 話は変わるけど……」

「どうどう、落ち着いて大佐。無駄蘊蓄は山ヶ野への道中でゆっくり聞いてあげるわ。今は鉄砲を配りましょうね」


 暴走しかけた大作にお園がブレーキを掛ける。その口振りはまるで駄々っ子をあやす母親のようだ。

 大作はちょっとだけイラっとした。だが、あんまり遅くなると夕飯に差し支えるかも知れん。涙を呑んで話を切り上げるしかない。


「アラビア数字に関しては頃合いを見て追々と覚えて貰う予定だ。今日のところは黙って復唱してくれるか」

「黙ってたら復唱できないんじゃないかしら」


 横から未唯がボソっと鋭い突っ込みを入れた。その顔はまるで勝ち誇るかのように挑戦的な目をしている。


「そ、そうだな。黙っていないで普通に復唱してくれ」


 大作はちょっと不貞腐れた顔で未唯を睨みつけながら言い直す。

 そんなやりとりを又五郎と弥助は珍しい物でも見るかのように黙って見つめている。だが、空気を読んで何も話し掛けてはこなかった。




 村人たち一人ひとりに鉄砲が手渡される。少し離れたところからその様子を眺めながら大作は考えていた。

 こんな阿呆なイベントを思いつきでやるんじゃなかったな。まるっきり時間の無駄じゃないか。胸中に激しい後悔の念が募る。


 そんな空気を読んだのだろうか。藤吉郎が手早く国民突撃隊に鉄砲を配って行く。

 その速さたるや超スピードみたいなチャチなもんでは断じてない。ほとんど右から左へスルーパスだ。

 大作はチャップリンのモダンタイムスという映画を思い出して吹き出しそうになったが空気を読んで我慢する。

 って言うか、授与式ってもうちょっと荘厳な雰囲気でやるものなんじゃないんだろうか。

 まあ、どうでも良いか。大作は考えるのを止めた。


「さて、全員に鉄砲が行き渡ったようだな。この鉄砲は畏れ多くも畏こくも天皇陛下より賜りし物だ。なればこそ、たとえ転んで怪我をしたとしても鉄砲にだけは疵ひとつ付けてはならんぞ!」

「え~~~! この鉄砲って青左衛門様のところから持ってきたわよね? 青左衛門様って天子様とお知り合いだったの!」


 隣で聞いていた未唯が素っ頓狂な叫び声を上げて振り返る。やれやれといった顔で苦笑しているお園とは対照的だ。


「冗談に決まってるだろ~! でも、なるべく丁寧に扱ってくれよ。テストの名目で借りてきたけど大殿に納品しなきゃならんのだからな。とは言え、ちゃんと注意して取り扱ってくれていれば万一、落として壊しても弁償しろ何て言わんから安心してくれ。労基法第十六条とか二十四条とかに触れそうだからな。だけど、故意又は重大な過失があれば別だぞ。その時は給料天引きで弁償して貰うぞ」


 大作は大真面目な顔で全員の顔をゆっくりと睨め付けた。村人たちが首を竦めて震え上がる。


「き、肝に銘じます」


 暫しの沈黙の後、村人を代表するように静流が答えた。って言うか、何でこいつが村人代表みたいになってるんだろう。

 とは言え、爺さん婆さんを相手にするより可愛い女の子の方がずっと良いか。大作は考えるのを止めた。




「整列! 休め」


 大作が号令を掛けると巫女軍団は機敏な動きで三列の縦隊を作った。それを見た村人たちも見よう見まねで慌てて列を作る。


「立て銃!」

「たてつつ?」


 みんなの顔に疑問符が浮かぶなか、舞が遠慮がちに疑問を口にした。


「説明しなかったっけ? 言って無い? こりゃまた失礼いたしました! え~っとだな、右足の横に銃を立てるんだ。銃身を手前にしてな。やってみ?」


 大作はそう言いながらパントマイムのように見えない銃の銃身を右手で掴む。そしてバットプレートを右足の横にそっと置く振りをした。

 それはそうと、何で俺は銃を持っていないんだろう。激しく後悔するが今ごろ気付いても後の祭りだ。


 みんなが言われた通りに真似しようと銃を立てる。だが、そのままでは地面に届かない。

 しまった~! この鉄砲は全長が三十五センチくらいしか無いブルパップ式の短小銃だった。

 巫女と老人、総勢四十人が揃いも揃って中腰に屈んでいる。何とも奇妙な光景だ。


「銃口に手を被せないように注意してくれ。弾が込められていなくても銃の先には気を付けなきゃならんのだ。そんじゃあ次は、担え銃!」


 大作は見えない銃を持ち上げると体の正面でくるっと持ち替えた。バットプレートを右手に載せて銃身を肩にもたれかけさせれば完了だ。

 それを全員が真似しようとする。だが、全長三十五センチの鉄砲は肩まで届かない。脇をしっかり締めていないと胸と肘の間をすり抜けそうだ。


 野中少佐なら絶対に『この鉄砲、使い難し』って言うんじゃなかろうか。まあ、旧軍では服や靴に体を合わせるって言うぐらいだから頑張って貰うしかないだろう。

 これはもうアレか? 『ソビエトロシアではあなたが鉄砲に合わせる』みたいな倒置法ジョークってことで流してもらうしかないんだろうか。

 そうだ、閃いた! こんな時にぴったりの名台詞があったぞ。


「俺は一番美しいものを作った。これが俺の考えたデザインだ。使い勝手に関して文句を言う奴がいるかもしれん。でも、それは使う奴に合わせて貰うしかない。銃身はこれ以上長くしたくない。本体もこれ以上は重くしたくない。引き金の場所も狙ったもの。これが仕様。これは俺が作った鉄砲だ。そういう仕様にしてるんだ。しっかりとしたポリシー基づいて作った物だ。間違ったわけじゃない。世界一の格好良い鉄砲を作ったと思う。有名建築家が引いた設計図を見て扉の場所が変だとか文句を言う奴なんていないだろ? それと同じことなんだ!」


 大作は目をギラギラと輝かせ、腕を振り回しながら熱弁する。気分は地下壕のヒトラーだ。

 巫女軍団と国民突撃隊が揃って首を傾げる。大作は心の中でほくそ笑んだ。


「下げ銃!」


 そう言うと今度は三点式スリングを頭に通してエア鉄砲を下向きに肩からぶら下げる振りをした。

 これは大丈夫っぽい。みんな上手い具合に右の脇腹に鉄砲を吊るしている。

 だけど、弾を込めた状態でこれをやったら行進しているうちに落っこちてしまうな。止めた方が良さげだ。


「吊れ銃!」


 次は三点式スリングを纏めて持つと銃口を上にして肩に担ぐ。これなら大丈夫っぽいか? うん、これで行こう。


「そんじゃあ、山ヶ野に向かおうか。号令したら左足から歩き始めてくれ。速度は一分に百十四歩だ。巫女軍団、前へ進め!」

「ちょっと待って、大佐! 巫女軍団は私の直轄じゃなかったかしら! そんなの越爼(えっそ)の罪だわ!」


 さっきまで黙って横に立っていたお園が突如として目を吊り上げて声を荒げる。何か知らんけど逆鱗に触れてしまったようだ。

 その、あまりの剣幕に一瞬動き掛けた巫女たちがフリーズしている。


 またいつもの瞬間湯沸かし器(死語)かよ! 大作は心の中で『Oops!』と呻き声を上げながら脇を閉めて両手のひらを差し出す。


「え、ESSO? エッソはエネオス、モービル、ゼネラルと統合してエネオスに纏まったんじゃなかったっけ? たしか、JXTGエネルギー株式会社だよな。わけが分からないよ……」

「こっちこそ、大佐が何を言ってるのかこれっぽっちも分からないわ。だけど、巫女軍団は私の直轄よ。これだけは決して譲れないわ」

「ご、ごめんな。俺が悪かったよ……」


 指揮命令系統を無視してしまったのはこっちのミスだ。ここは素直に謝るしかないだろう。大作は深々と頭を下げる。

 その謝罪を受け入れてくれたのだろうか。お園は軽く頷くと巫女たちを振り返って声を上げた。


「巫女軍団、足踏み始め! 左、左、左右! 前へ進め!」


 お園の号令を受けて巫女軍団が一糸乱れぬ見事な働きを見せる。

 何だかさっきまでのダラけた動きとは偉い違いだ。もしかしてみんな内心では不満に思ってたんじゃなかろうか。いやいや、もしかしないでも普通に不満だったんだろう。

 『巫女軍団には手を出すな、触れたるものは滅びる』と大作は心の中の古き戦闘マニュアルに書き込んだ。


 それを見送りながら大作は藤吉郎に向き直る。そして『ヒトラー最後の十二日間』を思い出しながら肩を叩いたり耳たぶに優しく触れた。

 言うまでも無いが腰の後ろに回した左手はパーキンソン病のようにプルプルと震えている。


「国民突撃隊の指揮官はお前だ、藤吉郎。号令を掛けてくれるかな?」


 大作は心の中で『いいとも!』と絶叫するが決して顔には出さない。そんな心の声が聞こえていない藤吉郎は大作の冗談を真に受けたようだ。


「畏まりました。気張って勤めまする。国民突撃隊、足踏み始め! 左、左、左右! 前へ進め!」


 村人たちが目を泳がせながら狼狽える。ゾロゾロと歩いては止まりを繰り返し、すぐに団子になってしまった。挙動不審も良いところだ。

 って言うか、手と足が揃い踏みじゃないかよ! 所謂、ナンバ歩きって奴だな。そこから矯正しないといかんのか? まあ、藤吉郎にはせいぜい頑張って指揮して貰おう。


 大作はその場に立ち止り、細長く伸び切った行列を最後尾まで見送った。そして脱落者がいないのを確認すると脇を小走りで走り抜ける。

 お園は行列の先頭で舞と並んで歩いているようだ。大作はそれに追い付くと遠慮がちに小声で話し掛けた。


「さっきはすまんかったな。悪気は無かったんだ。でも、トップの俺が命令一元性の原則を破ってたんじゃ話にならん。もう絶対にしないよ。絶対にだ!」

「何だか大佐らしくも無いわね。退かない、媚びない、省みないなんじゃなかったの?」

「酷い言われようだな。反省だけなら猿でも出来るんだぞ」


 大作は右手を差し出すと頭を深々と下げる。だが、その口調は勝利宣言のように自慢げだ。そのアンバランスさにお園はがっくりと肩を落とす。


「それって偉そうな顔して言うことかしら。それはそうと、命令一元性の原則って何なの?」

「そ、それはアレだな。指揮権者は直属上司一人? ってことだよ。一遍に二人から別々のことを言われたら困っちゃうだろ?」

「そんな時は偉い方に従えば良いんじゃないかしら?」


 当然といった顔でお園が即答する。その表情には一切の迷いが無い。

 まあ、その気持ちは分からんでもないか。大作はどう説明したら分かって貰えるか頭を捻る。


「どっちが偉いか分からなかったらどうするよ? 分化大革命時代の人民解放軍なんて階級が無かったんだ。だから指揮命令系統が無茶苦茶だったらしいぞ」

「それは人民解放軍が阿呆なんだわ。誰が偉いかはっきりと次第を定めておけば良かったのよ」


 お園は退かない、媚びない、省みない。それにしても言うに事を欠いて毛沢東を阿呆呼ばわりとはちょっとヤバいんでね? 大作は怖くなって首を竦めた。


「だからそれは失敗例なんだって。むしろ命令一元性の原則が重要だという反証に過ぎん。それには確かちゃんとした理由があったはずなんだ。今は重い打線けどな。軍隊だろうが民間企業だろうが直属の上司の命令は最優先とされる。世の中の大抵の組織はそうなってる筈なんだけどなあ……」

「だからその故を聞いているのよ。偉くない方に従えなんて道理に合わないわ。だったら殿様は家来に従わないといけないの? その家来にはだれが命じるの? わけが分からないわよ……」


 そう言うとお園は脇を閉めて両手を広げ、手のひらを上に向けた。

 さっきの俺のジェスチャーの真似じゃん。真似っこのマネリ○かよ! 大作は心の中で激しく突っ込むが顔には出さない。


「そんなん俺が決めたんじゃないんだもん、知らんがな! アンリー・ファヨールにでも聞いてくれ。たぶん、権限と責任の一致原則とかそんなんじゃね?」

「故も無いのに道理に合わないことを聞けって言うの? そんなの、とんと合点が行かないわ」

「大佐殿、儂もお園殿の申される通りじゃと思うぞ。世の道理に合わんことを無理強いしても良いことはござらぬぞ」


 突然の声に振り返ると五郎…… 又? 若殿が怪訝な顔をしていた。

 俺の後ろに立つな~! 大作は心の中で絶叫するが決して顔には出さない。


「いやいや、理由ならちゃんとありまぁ~す! 無い筈が無い。思い出せぬ拙僧がいけないのでございます。そ、そうだ! こんな実例がございますぞ。後の天下人、ジョン・F・ケネディ大統領がまだ海軍中尉だったころの話にございます。彼のお方は魚雷艇PT-109の艇長としてソロモン諸島沖を哨戒しておったそうな。草木も眠る丑三つ時、そこへ駆逐艦『天霧』が突如として眼前へと現れたのでございます。びっくりしたのは天霧の艦橋も同じこと。乗艦していた第十一駆逐隊司令の山代大佐は取舵を指令したそうな。されど、艦長の花見少佐は咄嗟に面舵って号令してしまわれました。どうすれば良いか操舵員は途方に暮れます。艦長はすぐに気付いて取舵と訂正するも時すでに遅し。そうこうする間にも天霧はPT-109に衝突して真っ二つに引き裂いてしまいました。めでたしめでたし」

「その話のどこが目出度いのじゃ? 儂にはさっぱり分からんぞ」


 話の急転回についてこれない若殿が眉根を落とした。いや、これは眉を寄せるか? 眉を顰める? 眉をしかめる? こっちの方がさぱ~り分からんぞ。大作は大きくため息をつく。


「話は最後まで聞いて下さりませ。急いては事を仕損じる。慌てる乞食は貰いが少ないと申しますぞ」

「若殿を乞食呼ばわりとは聞き捨てなりませぬぞ!」


 弥助が血相を変えて詰め寄った。お前も瞬間湯沸かし器(死語)かよ! 大作は頭を抱えたくなる。


「いやいや、慌てる乞食は貰いが少ないと申しておるのです。この命題の対偶は『慌てない乞食は貰いが少なくない』ですな。あわてない、あわてない。一休み、一休み。さて、話を戻しましょう。魚雷艇を避け損なったにも関わらず天霧は戦果を賞賛され、新聞にも載ったそうな。一方、ケネディの父君ジョセフもここぞとばかりに政治力を駆使。彼に勲章を授与させたり雑誌で記事にしてもらったりしたそうな。要はWin-Winな関係だったわけでございます」

「うぃんうぃんとやらは良う分からぬが両雄相立つということじゃな。それは良うござった」

「みんなが良かったんならそれで良いんじゃないの。命令一元性なんて要らないわよ」

「私もお園様の申される通りかと存じます」


 隣で黙って聞いていた舞までもが勝ち馬に乗るかのように相槌を打つ。

 孤立無援とはこのことか。まさか、誰一人として賛成意見を述べてくれないとは。大作の胸中に寂しい風が吹き抜ける。

 とは言え、ここまで頑張ったんだ。もうちょっとだけ粘ってみよう。大作は新たな屁理屈をこねくり回すために頭をフル回転させる。閃いた!


「どなたかが歴史番組で申されておりましたぞ。戦国時代の合戦は全員でボールを追っかける小学生のサッカーみたいな物だと。現代サッカーの戦術はかつてのポジション分業から全員攻撃全員守備へと変化を遂げております。あれ? だったら全員でボールを追っかけても良いんじゃね? でも、さすがにキーパーは別か」

「さっか~って蹴鞠みたいな物だったわね。みんなで一時に毬を蹴ったら文無(あやな)きことになるわよ。知らんけど」

「和尚よ、弘法も筆の誤りと申すぞ。考えを改められては如何じゃ?」


 もう駄目だ。ギブアップするなら早いうちに限るな。ってか、もう手遅れみたいな気もするけど。大作は考えるのを止めた。


「さ、左様にござりますな。皆様方の申される通り。もういっそのこと、戦艦大和の森下少将の如く艦長が自ら舵輪を取るのが宜しゅうござりましょう」


 そう吐き捨てるように言い放つと大作は両手の人差し指と中指を二回曲げた。


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