巻ノ百四拾六 アッと驚く又五郎 の巻
「お訪ね申す。和尚は大佐殿ではござらぬか?」
大作が率いる国民突撃隊の眼前に突如として現れた馬上の若侍が繰り返す。
こいつはいったい何者なんだろう? 何もないところから急に出現したように見えたので一瞬、スタンド使いかと驚いた。だが、良く見ると単に脇道から現れただけのようだ。
相手が人間なら戦いようはいくらでもあるか。徐々に平静を取り戻した大作は注意深く男を観察する。
年齢は二十台前半といったところか。祁答院の大殿よりは若く見える。
大殿に弟がいたっていう情報は目にしたことが無い。ってことは、そっちの線は消えたな。だとすると祁答院の重臣かも知れん。
肩衣袴っぽい着物を着ているが結構な高級品みたいだ。背は大作より少し低いが、着物の上からでも鍛え抜かれた筋肉が良く分かる。おそらく戦闘力はかなりの物だろう。
そう言えば馬も随分と立派に見える。馬借が引いているような駄馬とは大違いだ。
着物を良く見ると胸の辺りに丸に十字の家紋が入っていた。十字のそれぞれの先端が二つに別れて丸まっている。
何だか見たことあるような無いような。丸に十字だと島津だな。もしかして島津の縁者なんだろうか? だったら厄介だぞ。
馬を引いている男もそれなりに立派な格好だ。歳は大作と同じくらいだろうか。
ベトコンやお遍路さんみたいな傘を被り、一間半ほどの槍を抱えている。腰の刀は実用品らしい地味な作りだ。戦闘力は五ってところだろう。
「お訪ね申す。和尚は大佐殿ではござらぬか?」
返事も忘れて観察に没頭する大作に若侍が三度同じ質問を繰り返す。こいつもRPGのNPCかよ! 大作は心の中で毒づくが決して顔には出さない。
何せ敵か味方かさっぱり分からないのだ。それに、そこそこ偉い奴みたいだし。
とりあえず言葉のジャブだ。いやいや、まずは名乗らねば。なんせ、三回も聞かれている。三顧の礼じゃあるまいし、そろそろ答えないと怒り出しかねん。
「如何にも、拙僧は大佐にございます。して、貴台は何方様でいらっしゃいまするか?」
「此れはしたり。まだ、名乗っておらなんだな。儂は又五郎、これは弥助じゃ」
若侍は聞いてもいないのに馬の口取りまで紹介してくれた。って言うか、今なんて言った? 大作は思わず自分の耳を疑う。
「や、や、弥助殿と申されましたか!」
「如何にも。某は弥助と申します。それが如何なされましたか」
主人をさて置き、自分の名前が注目を浴びるとは思ってもいなかったのだろう。馬の口取りがちょっと引いている。
「弥助殿と申さば織田信長に仕えた黒人と同じ名前にございます。何たる偶然か。されど、お手前はちっとも黒くないようですな」
「国人?」
「いやいや、黒人にございます。ネグロイド? 全身が真っ黒な大男…… いや、女もおりますな。それにしても弥助殿と同じ名前とは奇遇なことで。是非、握手して下さりませ」
そう言うや大作は弥助の答えも待たずに手を取って激しくシェークハンドした。わけも分からず弥助は目を白黒させている
「ねえ、大佐。真っ黒ってどういうことなの。それって煤で汚れてるんじゃないかしら? 川で洗ってみたら落ちると思うわよ」
「お前なあ。信長と同じようなこと言うなよ。って言うか、それって人種差別だぞ。黒人を洗濯したら中国人になるって洗剤のCMを知ってるか? ラッツ&スターが顔を黒く塗るのですら海外では大問題なんだぞ。紅白の海外配信がそこだけ放送されなかったとか何とか。いや、ちょっと待てよ。これって使えるんじゃね? 日本で初めて人種差別したのは信長だ。その記録を大幅に塗り替えられるかも知れん。今井様にお願いして南蛮から黒人を招聘しよう」
「真っ黒な大男なんて怖いわ。そんなのを連れてきて大事無いのかしら」
未唯の瞳がちょっと不安そうに揺れる。まあ、無理も無いか。真っ黒な大男なんて見たこともないんだから。大作は心の中で禿同する。
「まあ、怖がるなって言う方が無理かな。メラビアンの法則って知ってるか? 人の第一印象は見た目で九割決まっちゃうとか何とか。でも、歌川国芳の『みかけハこハゐがとんだいゝ人だ』みたいなのもあるじゃん。人は見かけによらぬもの。会ってみると意外と良い人だったりするかも知れんだろ?」
大作はスマホで歌川国芳の絵を探すが見つからない。仕方ないのでアルチンボルドのだまし絵で代用した。その画像をお園たちが輪になって覗き込む。
「これは草片ではないか。見るからに希代なる絵じゃな。和尚が描かれたのであろうか?」
若侍はいつの間にか馬から降りて大作の背後に立っていたようだ。肩越しにスマホを覗き込みながら疑問を口にする。
「いやいや、拙僧ではありませぬ。南蛮はイタリアのジュゼッペ・アルチンボルドと申す者が描きし絵にござります。今時分はミラノでステンドグラスでも作っておることでしょうな」
「さ、左様であるか。南蛮人は絵を描かせても傾いておるな。このような絵を目にするのは初めてじゃ」
「まあ、アルチンボルドは南蛮人の間でも変わり者扱いですがな。時に又三郎様、拙僧に何か御用がおありでしたか?」
大作は気になっていたことを直球で聞いてみる。腹の探り合いで時間を浪費している暇は無いのだ。
このおっさんは大作のことを知っているらしい。しかも山ヶ野の方向を目指していたのだ。何者か分からんが山ヶ野の偵察を目的としてやってきた可能性は高い。
だが、馬の口取りが声を荒げて口を挟む。何だかちょっと怒っているみたいだ。眉を吊り上げ、鋭い目つきをしている。
「大佐様! 若殿は又五郎様にござりまする。間違えるとは無礼に過ぎますぞ」
「いやいや、拙僧はちゃんと又五郎様と申しましたぞ。とは申せ、又五郎又五郎又五郎又五郎又五郎って言っているとそのうち五郎又になってしまうやも知れませぬな。お互い用心致しましょう。して、話を戻しますが五郎又…… 又五郎様は拙僧に何か御用にござりましたか?」
「近頃、大佐殿の高名を良う耳にしてな。何ぞ有難いお話でも聞かせては貰えぬかと罷り越したのじゃ」
俺の無駄蘊蓄が聞きたいだと? 大作はほんの一瞬、狂喜乱舞したくなる。だが、素直に信じて良いものなんだろうか。
まさかとは思うけど、こいつが島津貴久とか島津義久って可能性は無いのか? いやいや、義久の線は無いな。年齢が合わん。それに家紋が違ってたし。
大作は上目遣いで顔色を窺う。その視線に若侍が怪訝な顔で首を傾げた。
まあ、どうでも良いか。もしもスパイなら始末するのみ。単独行動中の小部隊なんて証拠隠滅は簡単なのだ。大作は考えるのを止めた。
「左様にござりまするか。我が寺ではビジター様も大歓迎しておりますぞ。ところでこの荷物、馬の背に載せて頂いても宜しゅうございますか? 手がくたびれてしまいましてな」
「おお、それは気が付かなんだ。遠慮なく載せるが良かろう」
「これは忝うございます。さあ、みなも有難く載せて頂こう。お礼に馬の餌はこちらで用意致しましょう」
麦や火薬、鉛弾の入った叺が次々と馬の背に載せられて行く。そのたびごとに馬が露骨に嫌な顔をする。
馬ってこんなに表情豊かなんだ。大作はちょっと感心していた。良く見ると鼻の穴が大きく開いている。
次の瞬間、耳が後ろにペタンと倒れた。これってヤバい合図なんじゃね?
「総員退避ィ~!」
大作の絶叫と同時にみんなが馬の周囲から蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。一人、弥助のみが必死の形相で手綱を掴んで必死に馬を押さえている。
「大佐様! 急に大きな声を出すのは止めて頂きとう存じます。馬は大層と臆病な生き物なれば驚かすと真に危のうございますぞ」
「これは失敬失敬。されど今のは本当に危のうございましたぞ。馬のキック力は凄いそうですな。体重百キロの人を五メートルも吹っ飛ばすとか飛ばさないとか。そう申さばプロシアのボルトキーヴィッチは騎馬隊で馬に蹴られた死んだ兵を数えて平均を出したそうですぞ。その数なんと0.61人だとか」
「ご安堵下さりませ。この馬は大層と大人しゅうございます。人を蹴り殺すような憂いはありませぬ」
弥助はそんなことを言っているが信用して良いんだろうか。大作は機嫌悪そうな馬を見ているだけで近付く気になれない。
やっぱ、去勢していない馬はアレだな。南蛮か中国経由で去勢技術を入手せねば。大作は心の中のメモ帳に書き込んだ。
鉄砲以外の荷物を馬の背に載せることができた。お陰で大作の両手はフリーだ。
せっかくだから久々に何か吹こうかな。大作はバックパックからサックスを取り出す。
「おお、それが噂に聞いた『さっくす』じゃな。見よ、弥助。真に金色に光輝いておるぞ」
「目も眩まんばかりの眩さにございますな。いったい如何なる調べを奏でるのやら」
又五郎が目の色を変えて食い付き、弥助が大袈裟に驚く。静流や村人たちも目をギラギラさせている。
勝手にハードルを上げるのは勘弁して欲しいぞ。後でがっかりされると悲しいし。
って言うか、これは予防線を張った方が良いかも知れん。大作はみんなに向き直ってサックスを掲げた。
「これは正しくはアルトサックスと申す南蛮の吹き物にございます。金色をしておりますが金ではありませぬぞ。真鍮と申しまして銅と亜鉛の合金にございます。まったくもって高価な物ではありませぬ。便器の給水スパッドに使われておるくらいですからな」
「さ、左様であるか。じゃが、黄金と見紛うばかりにきらびやかであるな。早う吹いて進ぜよ」
全員から物凄い期待の目を向けられた大作は柄にもなく緊張する。
いったい何を吹けバインダー! そうだ。『突撃隊は行進す』君に決めた!
ちなみに作詞はヘルベルト・ハマー、作曲はヘルマン・アルベルト・フォン・ゴルドンだ。
そう言えば叔父さんから聞いたことがあったっけ。大学生のころ、ドイツ旅行で田舎の酒場に立ち寄ったそうだ。
すぐに陽気な酔っ払いのおっちゃんたちと盛り上がったんだとか。そんで、お前も何か歌えとか言われた叔父さんは知ってる唯一のドイツ語の歌を歌ったんだそうな。よりにもよって『突撃隊は行進す』を!
すぐに警官が飛んできてそれはそれは酷い目に遭ったとか遭わなかったとか。
だけど今は戦国時代。そんなの関係ね~!
大作はまずサックスで曲を三回吹いた。続いてアカペラで歌を歌う。
「覚えたか、お園?」
「お園、覚えた!」
「お園様、それって未唯の真似? あんまり似てないわよ」
「そんじゃあ、歌おうか。覚えたらみんなも付いてきてくれ」
そう言うと大作はみんなの方に向き直ってサックスを吹く。
初めは声を出しているのはお園だけだった。だが、藤吉郎や未唯がそれに続く。やがて菖蒲や静流、村人たち、五郎又? 又五郎? 弥助までもが歌い出す。
戦国時代の田舎道にまったくもって不似合いな明るい歌声が鳴り響く。国民突撃隊は一糸乱れぬ…… とは言い難いがそれなりの隊列を組んで東へ東へとひたすら突き進んだ。
そうこうするうち、山ヶ野まであと数キロというところまで近付いた。大作たちは直行するルートを外れて南東への道を進む。十五時を少し回ったころ、五平どんの村が見えてきた。
部隊を小休止させた大作は望遠鏡を取り出すと慎重に村の様子を観察する。
田畑では少人数の老人が黙々と農作業をしていた。何だか知らんけど随分と閑散としている。まあ、この時期にやることといったら草抜きくらいしか無いんだろう。
村の外れでは巫女軍団が床下祓いをしているようだ。こっちは農作業とは違って物凄く賑やかに見える。遠くて声までは聞こえないが何か歌を歌っているらしい。
近付いても危険は無さそうだ。大作がそう判断して望遠鏡から目を話すと興味津々といった顔の又…… 五郎? と目が会った。
「大佐殿、もしやそれは『ぼうえんきょう』ではござらぬか? ちと儂にも覗かせては貰えぬ……」
「五郎…… 又? 若殿。こんな物を覗いたところで幸せは手に入りませぬぞ。成功と幸福は別物。アドラーもそんなことを申されておりますな。それよりも我らに合力をお願い致しとうございます」
「合力じゃと? 和尚のようなお方がお困りとは余程のことなのじゃろうな」
合力という単語に若殿が食い付く。大作はその一瞬の隙を見逃さず素早く望遠鏡を仕舞い込んだ。
それにしても危ないところだった。スパイかも知れん奴の前で重要機密を見せてしまうとは。大作はちょっとだけ後悔する。
このおっさんが俺より阿呆で助かった。そんな失礼なことを心の中で考えるが決して顔には出さない。
「お恥ずかしい話ですが、実は山ヶ野においてクーデターが現在進行形にございます。そこでこれより、あれに見える巫女軍団を隷下に組み込みまする。若殿にはこの馬の機動力を利用して敵の退路を封じて頂きたい」
「たいろ?」
「逃げ道を塞ぐの意にござります。無論、タダでとは申しません。今晩の夕餉と明日の朝餉をサービスさせて頂きます。あぁ! 弥助殿の分もですぞ」
馬の口取りが怪訝な顔をしたので大作は慌てて付け加える。
だが、ほっとひと安心する間も無く今度はお園が不満げな声を上げた。
「巫女軍団を隷下に入れるってどういうことかしら? 巫女頭領は私のはずよ。それに巫女たちはちゃんと鉄砲の稽古もしたわ。寄せ集めの国民突撃隊なんかとは比ぶべくもないわ。それなのに隷下に入れるですって! そんなの神掛けて許さないわ! 努努忘れまじく……」
「どうどう、落ち着いて。国民突撃隊は予備戦力にすぎん。もちろん主力は巫女軍団さ。そんで、その指揮官はお園に決まってる。当たり前のことだから言わなかったんだ。言葉が足りなくて悪かったな」
「分かれば良いのよ。今度からは気を付けてね」
お園はまだ、むすっとした顔をしているがとりあえず機嫌は直ったようだ。
「大佐殿。儂はたいろとやらを塞げば良いのじゃな。相分かった。弥助、良いな」
「心得ました」
若殿と馬の口取りが安請け合いしてくれた。大作はほっと胸を撫で下ろす。
本音を言うとこいつらに何の期待もしていないのだ。
ただ、肝心な時に邪魔をされないように少しでも遠ざけておきたい。馬鹿どもには丁度良い目眩ましだろう。
大作たちが村に近付いて行くと巫女たちもこちらに気が付いたらしい。仕事の手を止めると次々と集まってきた。
あっと言う間に巫女たちが素早く整列する。何だか知らんけど訓練された見事な動きだ。
全員が揃ったのを確認すると舞が不思議そうな表情を浮かべながら向き直った。
「どうしたの、大佐。今ごろこんなところに」
「詳しいことは後で話すよ。ところで、愛はいないのかな?」
「愛姉さまなら山ヶ野に残ってるわよ。今日は幹部会だからって」
やはり事態は完全に想定の範囲内のようだ。大作は小さく安堵の吐息を付く。
愛は間違い無くクーデターに参加していない。そうでなければ最大戦力である巫女軍団を丸ごと手放す筈が無い。
「やっぱりな、思った通りだ。天は我々を見放し…… じゃなかった、天は我々に味方した!」
「どういうことなの、大佐?」
「私は生須賀大佐だ。クーデター勢力によって山ヶ野が制圧された。緊急事態につき私が臨時に指揮を執る。現時刻を以って巫女軍団はお園の指揮下に入れ。これより全員に鉄砲を授与する。順番に受けとれ」
あまりの唐突なできごとに全員が口をぽか~んと開けている。だが、今は考える余裕を与えないことが重要だ。大作は油紙を開いて鉄砲を取り出すと一人ひとりに手渡そうとした。
「銃! あれ?」
大声でシリアル番号を読み上げようとした大作がフリーズする。この鉄砲、シリアル番号が付いて無いやん!
失敗した! 失敗した! 失敗した! 私は失敗した!
「何で番号を付け忘れちゃったんだよ…… 青左衛門に頼むって心の中のメモ帳に書かなかったっけ? 書いて無い? うわ~! どうすれバインダー!」
「どうどう、落ち着いて大佐。番号なら今、付ければ良いんじゃないの?」
「そ、そう言えばそうだな。んじゃあ一丁目は201っと」
何とか落ち着きを取り戻した大作はバックパックからボールペンを取り出す。そして、ずらりと並んだ鉄砲のストックにいそいそとボールペンで番号を書き込んだ。
だが、そこに又五郎から鋭い指摘が入る。
「大佐殿。何故に一丁目が二百一なのじゃ?」
「え~! 気になるのはそこでござりまするか? 何でと言われましても、これは海軍の習わしみたいな物でしてな。今回は三菱で作られた零戦を参考に致しました。一号機から九十九号機は一の位の数に一を加えた物を百の位にセットします。一号機は201、二号機は302といった案配ですな。百号機からは四桁で頭に一から五を繰り返します。百号機は1100、百一号機は2101。5104の次は1105にござります。ちなみに零戦三二型以降は三千から始まる通し番号になっておりまする。中島飛行機で作られし機体は…… それはまた時間のある時にお話致しましょう」
「それって、もし鉄砲が敵の手に渡ったとしても、こちらが何丁作ったのか分からなくする工夫じゃないかしら?」
お園が首を傾げながら相槌を打つ。相変わらず鋭い奴だ。大作はちょっと関心する。
すぐ隣でそれを聞いていた又五郎は大袈裟に感心した素振りを見せた。
「そんなわけで201、302、403、504、605、706、807、908っと。その次は009だな。サイボーグかよ! そんで110っと。こいつは警察だな。その次は211か」
「ねえ、大佐。それを総ての鉄砲に書かないといけないの? 今度からは青左衛門様に頼んでおいた方が良いわね」
ボールペンは水性の細字なので木のストックに文字を書くにはイマイチ向いていない。
油性マジックでもあれば良かったのだが生憎とそんな物は持っていないのだ。
村長の家で墨と筆でも借りた方が良かったかも知れん。
「そうだな。やっぱお園は賢いなぁ。そんで211と…… あれぇ? 間違えた~! 211が二丁できちゃったじゃんかよ。時蕎麦じゃあるまいし、変なタイミングで話し掛けないでくれよ……」
「時蕎麦! それって美味しいの?」
お園の口からもうすっかりお約束となった例の台詞が飛び出す。
まあ、蕎麦の実なんて簡単に手にはいるはずだ。俺も食べてみたいし。そのうち作ってやろう。大作は心の中のメモ帳に書き込む。
「味は出汁によるんじゃね? それよりも蕎麦は手繰るって食べ方が粋なんだよ。喉ごしで味わうって言うか何と言うか。いやいや、それより211をどうすれバインダー!」
「大丈夫よ、大佐。211の真ん中の1を4に書き換えて241にすれば良いわ。山ヶ野にも二丁あるから、それを241と342にすれば良いでしょう」
「そんじゃあ次は312だな。どんどん行くぞ!」
大作は夢中になって鉄砲にシリアル番号を振る。それを又五郎や村人たちは遠巻きに見守っていた。




