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巻ノ百四拾伍 突撃隊は敵地を進む の巻

 大作たちと村人、合わせて二十人の集団が青左衛門の鍛冶屋に着いたのは午前十時を少し回ったころだった。

 唐突に現れた謎の集団を前に若い鍛冶屋は茫然と立ち尽くしている。


「た、大佐様。此度は如何なる用向きにござりまするか? 某は藤吉郎殿とふれきそいんさつの続きをやるのかと思うておりましたが」

「申し訳ござりませぬ。その件は一旦ペンディングとさせていただきます。我らは急な用事にて、これより山ヶ野に戻らねばなりませぬ。ついでと言っては何ですが、鉄砲四十丁をお預かりして宜しいか? 大殿への納品前に徹底的な製品検査を行いとうございます」

「さ、左様にござりまするか。さすれば、弾や火薬も入用でしょうな。すぐに用意いたします。お待ち下さりませ」


 青左衛門は露骨にほっとした表情を浮かべると奥へ消えて行った。きっと、新たな厄介ごとを押し付けられるんじゃないかと警戒していたんだろう。


 さて、これからどうした物じゃろか。大作は首を傾げて無い知恵を絞る。

 これだけで帰ったら阿呆みたいだな。何でも良いから一つくら笑いを取らないと無粋な奴だと思われる。

 会話の中で駄洒落の一つも言わないような商人は本当に退屈な奴だと思われたんだそうな。そんなことを江戸風俗研究家の杉浦日向子さんが言ってたような言ってなかったような。


 待つこと暫し。奥から現れた若者たちが次々と油紙に包まれた鉄砲を運んできた。鍛冶屋の弟子だか手代だか良く分からんがそんな奴らだろう。

 ずらりと並んだ紙包みが暴力的な威圧感を放っている。その様子はまるで芥川龍之介の芋粥みたいだ。

 徐々に増えて行く鉄砲を見ているだけで大作は胸が締め付けられるような気がして落ち着かない。


 これってもしかしてアレか? 集合体恐怖症(トライポフォビア)って奴なのかな? そう言えば、前から思ってたんだけどハイドラ70のロケット弾ポッドなんかも気持ち悪いような気がしないでもない。

 とは言え、みんなの前で格好悪いところは見せられん。こうなったら曝露療法(エクスポージャー)しかないな。大作はガマガエルのように冷や汗を流しながら紙包みを凝視する。


「どうしたの、大佐? 眉間に皺なんか寄せて」

「俺は今、戦ってるんだ。自分の中に潜む弱い心とな」

「そう、良かったわね」

「そ、そのリアクションは無いんじゃね?」


 大作は情けない声を上げながら肩をがっくりと落とした。それを見た未唯、藤吉郎、菖蒲がどっと笑い声を上げる。

 少し離れた静流は興味深そうな顔をしているが話には入ってこなかった。




 そんなことをしているうちに四十丁の鉄砲と鉛弾や火薬の用意が整った。奥から再び青左衛門が姿を見せる。


「お待たせ致しました、大佐殿。それでは製品検査のほど、宜しゅうお頼み申します」

「鉄砲四十丁、確かにお預かりいたしました。ところで量産型の鉄砲でいくつか改良を試みたいところが……」

「チッ!」


 大作がそう言いかけた途端に青左衛門が顔を顰めて目を逸らす。って言うか今、舌打ちしなかった?

 こいつまで俺を疫病神扱いかよ! 大作は心の中で絶叫するが決して顔には出さない。

 ごく自然な動きで目線の先に回り込む。そして揉み手をしながら精一杯の作り笑顔を浮かべた。


「そのようなお顔をなされますな、青左衛門殿。折角の美人が…… じゃなかった、二枚目が台無しですぞ。もう少しだけ我らの鉄砲に手を加えてみませぬか? ほんの僅かな工夫で画期的な改良ができるのに勿体ないとは思われませぬか?」

「かいりょう? にございますか。いったいどのようなことでございましょう?」

「鉄砲に脚を付けてやるのでございます。九九式短小銃には短脚(モノポッド)が付いておったそうな。これが役に立ったという話はついぞ聞いたことがありませぬ。されど64式小銃や89式小銃にも二脚(バイポッド)が付いております。きっと、重量増に見合うだけの効果はあるやも知れませぬぞ。って言うか、あったら良いですな。ちなみに三脚はトライポッドですぞ。トライポフォビアとちょっと似ておりませぬか? そう言えば、大阪人はトライポッドをどうやって倒したのでしょうな」


 そんな話をしながら大作は89式小銃の写真を探してスマホに表示させた。朝霞駐屯地の基地祭で写した物だ。

 怪訝そうな顔をしながらも青左衛門はそれを覗き込む。だが、その口から出た疑問は意外な物だった。


「この鉄砲は何故に鎖で繋がれておるのでござりましょうや?」


 え~~~! 気になるのはそこなんだ~! 大作は心の中で突っ込みを入れる。いやいや、無理も無いか。戦国時代にはそんな習慣は無さそうだし。


「つ、繋いでおかないと誰かが持って行ってしまったら困るからでしょうな。警官だってニューナンブを吊り紐で繋いでおるでしょう? 真田信繁やデッカードもこうしておけば鉄砲を落とさずに済んだでしょうに。いやいや、そんなことより二脚をご覧下さりませ。これがあれば伏撃(ねう)ちの時に依託射撃できるので命中率の向上が期待できます。長時間の待ち伏せも随分と楽になることにござりましょう」

「うぅ~む。某は鍛冶屋なれば『いたくしゃげき』とやらのことは良う分かりませぬ。されど、鉄砲に通い給いける大佐様がそう申されるならそうなのでありましょう。大佐様の中では」


 そう言うと青左衛門が小馬鹿にしたような薄笑いを浮かべた。

 何なの? この微妙な空気は。大作は助けを求めるようにお園の顔色を窺う。


「ねえ、大佐。別に鉄砲に脚なんて生やさなくてもライフルレストを使えば良いんじゃないかしら? 兵だって小物を入れるのに袋くらい持ってるでしょう。それに土でも詰めて土嚢にすれば良いわ。敵の矢玉も防げて一石二鳥よ」

「いやいや、いちいち土嚢を作れってか? とは申せ、第七騎兵隊の全滅を描いた映画でもやたらと銃座を掘っておりましたな。タイトルは何だっけ? そうそう、ビッグ・アメリカンでした。それはともかく、SIGやガリルだって二脚は標準装備ですぞ。やっぱ、何か良いところがあるのでしょうな。それに地べたに鉄砲を置く時にも便利…… じゃなかった、宜しゅうございますぞ」

「……」


 一同の間に重苦しい沈黙が漂い、みんなが揃ってわざとらしく視線を反らした。

 賛成票はゼロかよ! 大作はがっくりと肩を落とす。二脚の何がそんなに気に入らないんだよ。

 何だかどうでも良くなってきたぞ。ギブアップするなら傷の浅いうちに限るのか?

 とは言え、このまま折れたら阿呆みたいだな。双方痛み分けみたいな妥協案は無いのか…… 閃いた!


「ならば、こう致しましょう。フォアグリップの辺りにピカティニー・レールを付けて下さりませ。二脚はオプション扱いにするのです。付けるか否かはユーザの選択に任せれば宜しい。依存はござりませぬな?」

「……」

「イエスかノーか!」


 大作は声を荒げて握り拳をテーブルに叩きつけるように振り下ろす。だが、ここにはテーブルなんて無い。拳は虚しく空を切った。


「まぁ、今日のところはこれくらいにしておきましょう。然らばこれにてご免。みなさま、一人二丁ずつ持って下さりませ」


 大作は鷹揚に頷くと逃げるように鍛冶屋を後にした。






 鉄砲二丁の重さは四キロくらいだろうか。死ぬほど重いってほどではないが結構重い。ケチケチせずに馬借に頼めば良かった。例に寄って後悔先に立たずだ。

 大作と静流は麦も担いでいるので本当に大変だ。鉛弾や火薬を運んでいるお園、未唯、藤吉郎、菖蒲たちも随分と辛そうな顔をしている。


「そろそろじゃん拳で荷物持ちを交代しないか? 腕が攣りそうだぞ」

「もう、じゃん拳は止めにしない? 代わり番こに持ちましょうよ」

「某もそれが宜しいかと存じます」


 大作はゲーム感覚で荷物持ちをやったらレクリエーションになるかと思っていた。だが、みんな本音では不満を持っていたようだ。

 だったら早く言えよ~! 大作は心の中で絶叫するが決して顔には出さない。

 ゆっくりと後ろを振り返ると芝居がかった様子でみんなに呼びかけた。


「それじゃあみんな、交代で荷物を持って貰えるかな~?」

「いいとも~!」


 村人たちが大きな声で唱和する。みんな本当に良い奴らだ。誰一人、文句も言わずに荷物を持ってくれた。大作は柄にもなくちょっとだけ感動する。

 って言うか老人と子供ばっかりだけど、どいつもこいつも元気な奴らだ。昔の日本人は小柄だけど意外と力持ちらしい。


 そう言えば、女丁持(おんなちょうもち)の五俵担ぎとかいう写真があったっけ。さすがにあれはイベントか何かで撮られた物らしい。だけど、普段から女が米俵を担いで運んでいたのは本当っぽい。

 それにしても、何で昔の人は猫車を作らなかったんだろう。やはり何としても猫車を作らねば。

 頼むとすれば車輪の部分は轆轤師になるな。荷台は材木屋、車軸や軸受けは青左衛門で決まりだ。

 タイヤはサブで作れないだろうか。さすがに空気入りチューブは難しそうだ。でも、密度の低い粒状の物を混ぜてやれば適度な弾力が得らるかも知れん。たとえば……


「ねえ、大佐。こんなに重いのに何で鉄砲を山ヶ野に持って行くの?」


 不意に未唯から声を掛けられて大作の意識が現実に引き戻される。


「さっき言っただろ。敵は山ヶ野にありって。信頼できる情報によれば今現在、山ヶ野においてクーデターが進行している恐れがある。我々はこれを速やかに鎮圧せねばならん。そのために武器と兵を集めたんだ」


 大作は振り返って村人たちを目線で指し示す。その先にはくたびれ果てた顔の老人と子供がゾロゾロと続く。みんな重そうに鉄砲の包まれた油紙を抱えている。

 まるでベルリン攻防戦の国民(フォルクス)突撃隊(シュトゥルム)みたいだな。六十五歳の老人や十四歳の子供たちがパンツァーファウストを担いでT-34/85に立ち向かって行くなんて蛮勇というより無謀そのものだ。その姿を想像して大作は吹き出しそうになったが何とか我慢した。


「いまげんざい?」


 怪訝な顔で未唯が首を傾げる。って言うか、よりにもよって気になるのはそこかよ~! 大作はがっくりと肩を落とす。


「right nowみたいなもんだよ。『たった今』とか『今この瞬間』とか言うだろ。特別に強調したい場合にはある程度は語彙が重複しても良いんじゃね?」

「そ、そうなんだ。未唯には良く分からないわ」

「それはともかく、連中は言うなればヴァルキューレ作戦の国内予備軍みたいな物なんだ。この戦力差を見せつけられればクーデター勢力は戦わずして武装解除に応じるだろう」

「そんなに上手く行くのかしら。山ヶ野を出て五日にもなるのよ。どうなってるのか分からないわ」


 大作の根拠なき楽観論に対してお園が冷水を浴びせ掛ける。いったい何がそんなに気に入らないんだろう。

 もしかしてこれはアレなのか? 防衛的悲観主義とかセルフハンディキャッピングって奴なんだろうか。

 物事は悲観的に見た方が気楽だとか何とかいうオスカー・ワイルドの格言っぽいのは無かったっけ? いや、バーナード・ショウだったかも知れん。


「分からん物は分からん。専門家の予測は猿にも劣るって言うだろ? 考えたってしょうがないんじゃよ。ダニガンも言ってるぞ。『戦場から遠く離れると楽観主義が現実に取って代わる。最高意思決定においては現実という物は存在しない。負け戦においては特にそうだ』ってな。その結果が台湾沖航空戦の幻の勝利だ。あんな思いをしたく無いだろ? だから重いのを我慢して鉄砲を四十丁も運んでるんだぞ」

「ふ、ふぅ~ん。でも、山ヶ野にも鉄砲が二丁あるわよ」

「お前なぁ~! 四十対二だぞ。マトモな勝負になると思うか? ナントカの法則ってのがあるんだよ。ド・モルガンの法則だっけ? 四十の二乗から二の二乗を引くと…… 千五百九十六だろ。それの平方根を求めると…… 39.95くらいだな。つまり、二人の側が全滅するまで戦っても四十人の側には0.05人しか損害は出ない。『明日に向って撃て!』のラストみたいになるに決まってるんだ」


 何でこんな簡単な話が理解して貰えないんだろう。大作は幼稚園児を相手にしているつもりになって噛んで含めるように優しく解説する。

 だが、お園にはそんな思いはまったく通じていなかったらしい。ゆっくり振り返るとちょっと小馬鹿にしたような笑顔を浮かべた。


「ランチェスターの第二法則ね。でも、そのためにはこちらの鉄砲がみんな使えなくちゃあならないわ。それに相手はくノ一なのよ。待ち伏せして不意打ちを食らわせられたり、谷間で細長く広がったところを攻められたりするかも知れないでしょう。こっちの真っただ中に飛び込んでくるかも知れないわ。そうなると同士討ちが怖いから数の利が活かせないわよ?」

「そんなわけ無いだろ。その、何とかの法則は絶対なんだ。この時代、鉄砲の死傷率なんて0.5パーセントくらいしか無い。だとすると四十人の一斉射撃が誰にも当たらない確率は…… 約八十二パーセントだ。それを十斉射して一発も当たらない確率は十三パーセントくらいしかない。つまり八十七パーセントの確立で誰かに当たるってことだ。でも、二人の側が十斉射しても誰にも当たらない確率は九十パーセント以上にもなるんだぞ」


 痛いところを突かれた大作はスマホの電卓を叩きながら必死になって話をはぐらかす。


「そう、良かったわね」


 だが、お園にはまったく通じていないようだ。って言うか、相手にすらして貰えていないんじゃね?

 って言うか、鉄砲は四十丁あるけど肝心の人間が二十人しかいないんだけど。いったいどうすりゃ良いんだろう。

 まあ、どうでも良いか。結果さえ出せば連中も見直すだろう。大作は考えるのを止めた。




 一行は山ヶ野まで二十キロの山道を東に向かって進む。十五分おきに荷物持ちを交代する他はひたすら歩くだけだ。無駄蘊蓄を禁じられた大作は暇を持て余す。

 そんな大作の顔色を窺うようにお園が話し掛けてきた。


「ねえ、大佐。何でさっきから黙り込んでるの? 具合でも悪いのかしら?」

「だってしょうがないじゃんかよ~! 無駄蘊蓄を止めろって言ったのはお園だろ」

「え~~~! あれを真に受けてたの? あんなの戯れに決まってるじゃない。あんまり蘊蓄が煩わしいからちょっと締めてやろうと思っただけよ。大佐ったら己がいつも空言ばっかり言ってるから人の空言が分からないのね」


 お園の視線には憐みが込められているようないないような。まあ、そんなのどうでも良いか。蘊蓄さえ傾けられるんなら。

 抑圧から解放された大作の無駄蘊蓄はとどまるところを知らない。山ヶ野に着くまでの五時間に渡る独演会が始まった。




「五月雨の真っ最中だっていうのに良い天気だよな。これぞまさに五月晴(さつきばれ)だ。ところで五月晴(さつきばれ)五月晴(ごがつばれ)ってどう違うか知ってるか?」


 藤吉郎と菖蒲が黙って顔を見合わせる。暫しの沈黙の後、未唯が渋々といった顔で口を開いた。


五月(さつき)五月(ごがつ)も同じでしょ。何が違うの?」

五月晴(さつきばれ)は旧暦五月の晴れ間。五月晴(ごがつばれ)は新暦五月の晴れ間ってWikipediaに書いてあるぞ」

「ふ、ふぅ~ん」


 思ったほどインパクトが無かったようだ。みんなの気の無い返事に大作は失望を隠し得ない。何かもっと面白い蘊蓄は無いのか? ナウなヤングに馬鹿うけなキャッチーなネタは。閃いた!


「そんじゃあ、空は何で青いか知ってるか?」

「空が青いのに(ゆえ)なんてあるのかしら?」


 未唯が首を傾げながら相槌を打つ。藤吉郎や菖蒲、静流もさっきよりは興味深そうな顔だ。

 だが、お園はこのネタを知っているらしい。聞こえてはいるようだが話に乗ってこない。意味深な笑みを浮かべている。


「聞いて驚け。空が青いのは太陽光線が大気で散乱されるからなんだ。だから月の上では昼でも空は真っ暗だ」

「え~~~! 昼なのに真っ暗なんておかしいわよ。それって夜じゃないの?」

「いやいや、太陽は明るいし地面も暗くないんだよ。空だけが真っ暗なんだ。それは何でか? 大気中の窒素や酸素の分子は光の波長よりずっと小さい。そういうのに当たると波長の短い青い光が強く散乱されるんだ。これがミー散乱だったかレイリー散乱だったかのどっちかなんだ」


 大作はうろ覚えだったので適当に誤魔化す。五分五分のギャンブルなんて危険なことをする気は毛頭無いのだ。だが、未唯はそこに食らい付く。


「どっちかってどっちなの?」

「そんなんどっちでも良いじゃん。どうせグスタフ・ミーもレイリー卿も三百年先の人間なんだし。もういっそ未唯散乱とお園散乱で良いんじゃね?」

「空が青いのや夕焼けが赤いのはレイリー散乱のせいよ。雲が白いのはミー散乱。大佐、蘊蓄を傾けたいんならちゃんと覚えてからにしてね」


 見るに見かねたのだろうか。お園が横から口を挟む。その口調はとっても優し気だが、何だか馬鹿にされてるような気がしないでもない。

 どうしてみんな俺の蘊蓄を素直に感心してくれないんだろう。大作はちょっと悲しくなった。


「あのなあ、お園。お前だってスマホに書いてあったことを読んで覚えただけだろう。何でそんなに馬鹿にしたような言い方するんだ?」

「ばか?」


 お園が首を傾げて不思議そうな顔をする。

 もしかして通じていないのか? 馬鹿って言葉は元々は仏教用語だったような。確か太平記の中に馬鹿者って単語が出てくるはずだ。でも馬鹿がfoolって意味で使われるようになったのは江戸時代だったかも知れん。


「語源は良く分からんけど阿呆ってことだよ。ちなみに人間爆弾『桜花』に米軍はBAKAってコードネームを付けたんだぞ」

「ふ、ふぅ~ん。でも、私は大佐のことを阿呆だなんて思ってもいないわよ。ただ、もうちょっと(しっか)と考えて欲しいの。大佐はやればできる子なんだから。頑張れ! 頑張れ! できる! できる! 大佐なら絶対できる!」

「それって、やらないとできない子ってことか?」

「やらないとできないのは当たり前のことよ。やってないのにできてたら怖いわ」


 大作たちは相も変わらず阿呆な話題で盛り上がる。おかげで周囲のことがまったく目に入っていなかった。

 そんなわけで例に寄って不意に背後から掛けられた声に大作は飛び上がるほど驚く。


「此れ申し、其処なお坊様」

「うわらば!」


 血相を変えた大作が振り返ると馬に乗った若侍が目に飛び込んできた。

 あ、頭がどうにかなりそうだぞ。断じて催眠術とか超スピードみたいなチャチな物では無いようなあるような。凄く恐ろしいものの片鱗を味わったような味わっていないような……

 パニックに陥った大作の意識が若侍の声に引き戻される。


「お訪ね申す。和尚は大佐殿ではござらぬか?」


 うわぁ~! ただでさえクーデター鎮圧に猫の手も借りたいくらいなのに、またもやこのパターンかよ……

 大作は助けを求めるような視線をお園たちに向ける。みんなもこの突然の来訪者に驚いているようだ。


「Take it easy!」


 半笑のお園は何故だか英語で答えてくれた。


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