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巻ノ百四拾四 巨大ナメクジの恐怖 の巻

 保食神社で暦を見ることができたので今日が土曜日だと確認できた。これでもう残る不安要素はゼロだ。

 大作たちは舟木村へとUターンする。行きと違ってみんなの足取りは軽く、表情も非常に明るい。


「それにしても、大佐。今日が土曜日で真に良うございましたな」


 それまでほとんど口を開かなかった菖蒲が明るい表情で急に話題を振ってきた。

 どういう風の吹きまわしなんだろう。黙っていては台詞が貰えないってことがようやく分かったんだろうか。

 大作はちょっと緊張しながらも平静を装いつつ相槌を打つ。


「そうだな。本当にラッキーだったよ。知ってるか? 世の中には毎日が日曜日な人もいるんだぞ。羨ましいんだか可哀想なんだか良く分かんないだろ? かと思うと旧日本海軍みたいに月月火水木金金なんてのもいるしな。ちなみに月月火水木金金の著作権は切れていないぞ」

「そ、それは難儀なことでございますな」


 分かったような分からんような顔をしながらも菖蒲が相槌を打ってくれる。

 これってもしかして一気に心の距離を詰めるチャンスなのか? 今やらんでいつやると言うのだ! 今でしょ!


「それはそうと、アンソニー・ホプキンスってお方を知ってるか? 世界最速のインディアンの人だ。あの人は日付を聞いただけで曜日が分かるそうだぞ。便利だよな~ いやいや、糞や尿のことじゃ無いんだけどな」


 大作は当たり障りの無い話題を振ったつもりだった。だが、菖蒲が思いっきり怪訝な顔をしている。

 ヤバイ! 何とかしてリカバリーせねば。大作は灰色の脳細胞にオーバーブーストを掛ける。


「このお方は1981年の『ヒトラー最期の日』って映画ではヒトラーを演じておられたんだ。しかもベジタリアンで酒も飲まんらしい。嵌まり役だと思わんか?」

「さ、左様にござりますな……」


 菖蒲が大きなため息をつきながら目を反らす。その顔からは何の感情も読み取ることができない。


 失敗した、失敗した、失敗した! 私は失敗した! 折角、会話が膨らみかけていたのに墓穴を掘ってしまった。数少ないチャンスだと思って焦り過ぎたのが敗因か?

 まあ、どうせ二人っきりにならないとイベントは発生しない。今日のところは会話が成立しただけでも良しとしよう。大作は考えるのを止めた。


「よいしょ」


 空回りする大作を他所に、菖蒲が麦の詰まった叺を重そうに抱え直した。

 ふと横を見ると藤吉郎も随分と疲れた様子だ。そろそろ交代した方が良いかも知れん。


「よし、一旦休憩だ。じゃん拳で次の荷物持ちを決めよう」

「じゃんけん?」


 未唯が不思議そうに鸚鵡返しする。お園、藤吉郎、菖蒲もお互いに首を傾げて顔を見合わせた。

 何となく予想していたが戦国時代にじゃん拳は無かったようだ。そう言えば、大河ドラマや時代劇でも見た記憶がまったく無い。

 とは言え、ルールは驚くほど簡単だ。説明すればすぐに分かって貰えるだろう。映画の戦国○衛隊でも村人にじゃん拳を教えるシーンがあったっけ。


「ごめんごめん、知らなくても無理は無いな。石、紙、鋏の形を手で作って勝ち負けを決める遊びなんだ」

「そんな拳遊びは聞いたことも無いわよ。でも、虫拳(むしけん)みたいな遊びかしら」

「むしけん?」


 今度は大作が呆けた顔で鸚鵡返しする。それを見たお園、未唯、藤吉郎、菖蒲がここぞとばかりに揃って半笑いを浮かべた。

 一瞬の沈黙の後、未唯が軽く頷くと説明を始める。今度は未唯のターンってことらしい。


「塩嘗め指が(へび)、大指が(かえる)、小指が蛞蝓(なめくじ)の三すくみで(きし)ろふのよ。蛙は蛞蝓より強い。蛞蝓は蛇より強い。蛇は蛙より強いの」

「え~~~! 蛇より強い蛞蝓ってどんなんだよ。そう言えば、ノストラダムスの大予言って映画に一メートルくらいある巨大蛞蝓が出てきたっけ。そんなんだったら蛇に勝つかも知れんな」


 普段とは逆に大作が大袈裟に驚く。って言うか、そんな蛞蝓に勝つ蛙も怖いぞ。やっぱり戦国時代は油断ならないな。


「いちめ~とるって三尺くらいよね。大佐の生国にはそんな蛞蝓がいるの? 私、怖いわ……」


 未唯が青い顔をしながら大作の僧衣にしがみ付く。


「そんなんいたら俺だって怖いぞ。まあ、どんなにでかくても所詮は蛞蝓だ。お湯か塩をかければイチコロさ。って言うか、アレは映画の中の話だし」


 ノストラダムスの大予言では自衛隊が焼き払っていたような。でも、害虫駆除に火を使ったせいで火事を出すって事例は結構多いらしい。

 スティーブン・キング原作のミストって映画でも酷いことになってたっけ。

 やっぱ、泡消化剤の開発は急務だな。大作は心の中のプライオリティ・リストに書かれた泡消火剤の順位を引き上げた。




 厳正なる虫拳の結果、負けたのは大作と藤吉郎だった。蛇より強い蛞蝓という印象が強烈すぎて判断を誤ったのが敗因だろう。


「続けて荷物持ちになるとは運が無いな、藤吉郎」

「そう言う大佐も運がありませぬぞ」

「まあな。とは言え、いまだに俺は蛞蝓が蛇に勝つってのが納得行かんぞ。そうだ! 次はじゃん拳にしよう」

「それが宜しゅうございますな。某も負けませぬぞ」


 藤吉郎の瞳にメラメラと闘志の炎が灯る。

 それはそうと、どうせ戻ってくるんなら村に置いとけば良かったんじゃね? 今ごろ気付いても完全に後の祭りだ。


 そうこうするうちに舟木村が見えてきた。村の中央に近付くとさっきとは比ぶべくもない程の人だかりが出来ている。

 ちなみに『比べるべくもない』って書いちゃう人の方が多いようだ。でも、これは間違った日本語なのだ。


「お早いお帰りで、大佐殿」


 さっきとは別人のように上機嫌な名主から声が掛かる。その視線の先には老若男女様々な人々がたむろしていた。


「この方々が寺で働いて頂けるのでございますか? 思っていたより多いようにございますな」

「いやいや、千人でもと申されたのは大佐殿ですぞ」

「あ、あれは言葉の綾と言うか何というか。まあ、これくらいなら問題はござりませぬ。それでは一緒に参りましょう。Let's go together! と思ったけど忘れておりました。みなさま、椀と箸や匙をお持ち下さりませ。急なこと故、食器が足りぬかも知れませぬ。四十秒で支度して下さりませ」


 それを聞いた途端、村人たちが蜘蛛の子を散らすように駆け出して行った。




 待つこと暫し。一人、また一人と食器を抱えた村人が戻ってくる。何人くらいいるんだろうか。大作はそれを指折り数える。

 だが十人を超えても村人の流れが絶えない。もう指が足りないんだけど。どうすれバインダー!


「藤吉郎、数えてくれ。あの人が十一人目だ」

「は、はい。では、あの方が十二人目にござりますな」

「大佐、みんな揃ってから数えれば良いんじゃないかしら」

「そ、そうかも知れんな……」


 結局、寺に手伝いに来てくれる人は十五人にもなってしまった。大作たち五人と合わせると二十人もの大集団だ。


「それでは皆様へ最初の仕事をお願い致します。これよりじゃん拳で荷物持ちを決めますぞ。宜しゅうございますか?」

「お坊様、じゃん拳とはどのような物にござりましょう?」


 大作は声のした方に目をやる。質問を発したのは未唯と同じくらいの年格好の娘だった。

 結構可愛い顔をしているな。お園には負けるけど。まあ、こんなチビッ子はどっちにしろ攻略対象外だからどうでも良いか。


「石、紙、鋏のどれかを手で表して勝ち負けを決める遊びにございます。そうだ! じゃん拳は初めての皆様のため、必勝法をレクチャー致しましょう。人間は緊張するとグーを出しやすいと言われております。よってパーを出せば勝つ確率が上がります」

「ぐう? ぱあ?」


 未唯が分からない言葉に食い付く。大作は手でグー、チョキ、パーを作りながら説明する。


「グーは石、チョキは鋏、パーは紙だ。んで、続き良いかな? 人はグーを出しやすいって話と矛盾するんだけど『最初はグー』をやると次は違う手を出しやすい。グー以外ってことはチョキかパーだ。ってことはこっちがチョキを出せば勝ちか引き分けにできる」

「ふ、ふぅ~ん」


 ちょっと納得が行かないといった顔で未唯が首を傾げた。だが、大作にとっては完全に思惑通りの反応だ。

 オーバーリアクション気味にチョキを目の前に翳すと勝ち誇ったように宣言する。


「だったら俺はチョキを出す。そう宣言すると相手はどうすると思う。それを信じるならグーを出して勝ちを狙う。信じない場合は裏をかいてチョキで勝ちを狙う。そうなるとこっちはグーを出せば良い。勝ちか引き分けで敗けにはならない」

「それが大佐の必勝法なのね。でも、それをみんなに教えてしまって良いの?」


 半笑いを浮かべたお園が鋭い突っ込みを入れる。

 良かった、拾ってくれて。大作は安堵の吐息を漏らす。

 もし誰も指摘してくれなかったらどうしよう。実を言うと内心ではドキドキだったのだ。


「しまった~! な~んて冗談だよ。このレクチャー自体が心理戦の一環なんだ。これでみんな何を出せば良いか分かんなくなっただろ。そんじゃあ行くぞ。最初はグー、じゃん拳ぽん!」

「あいこね」


 大作の心理戦は不発だったらしい。結果はグー、チョキ、パーと綺麗に別れてしまった。

 お園がちょっと呆れた顔で呟く。


「そも、二十人で拳遊びするが無茶なのよ。あいこになる確率を求めようと思ったら…… あいこにならない確率から余事象を求めた方が早いわね。二十人の手の出し方は三の二十乗でしょう。そのうち、あいこにならないのは二の二十乗引く二の三倍でしょう?」

「なんで二を引くんだ?」

「みんなが同じ手を出したらあいこだからよ。とにかく計算してみましょう。え~っと…… あいこになる確率は千分の九百九十九より大きいわ」

「え~~~! 千回もじゃん拳しないと決着が付かないってことかよ。それって一時間くらい掛かるんじゃね?」


 一回四秒として四千秒も掛かることになる。偉いことになったぞ。大作は頭を抱えたくなった。

 だが、お園は眉間に皺を寄せて首を傾げている。


「ちょっと待って、いま計算してるから。そうね、あいこが続く可能性が五分を切るのは七百六十八回目だわ」

「大佐、二人ずつ組みを作ってじゃん拳すれば宜しいのではござりませぬか?」

「ナイスアイディア、藤吉郎。じゃあ、適当に二人ずつ組みを作ってじゃん拳だ。俺と組もう、藤吉郎」

「さすれば、どちらか一人は荷を持たずに済みまするな」


 そう言うと、藤吉郎はニヤリと笑った。相手にとって不足なし。大作もニヤリと笑い返す。


「藤吉郎、俺はグーを出すぞ! じゃん拳ぽん!」

「勝った~~~!」


 勝利の雄叫びを上げる藤吉郎。大作は悔しさに唇を噛み締めながら自分の出したチョキを見つめる。

 人間は緊張するとグーを出しやすいんじゃなかったのかよ!

 これって裏の裏を掛かれたってことなのか? いや、裏の裏の裏? さぱ~り分からん。


 十人の敗者で適当に二人組を作って二回戦が始まる。お園は一回戦で勝ち抜けたらしい。大作の相手は菖蒲だった。


「大佐、私はグーを出します」

「この俺に心理戦を挑もうっていうのか? その勇気だけは認めてやろう。いくぞ、じゃん拳ぽん!」

「勝った~~~!」


 嬉しさを全身で表すかのように菖蒲が飛び跳ねる。

 それを恨めしそうに眺めながら大作は考える。なんで素直にチョキを出しちゃったんだろう。とりあえずこっちもグーを出すのが正解だったのか? 分からん、さぱ~り分からん! やっぱ、俺には心理戦なんて無理なんだろうか。


 残った五人の敗者が丸く輪になった。どうやら山ヶ野のメンバーで残っているのは大作だけらしい。婆さんが二人に爺さんと若い娘だ。


「ここからは五人で勝ち抜けだ。心理戦は無しだぞ。じゃん拳ぽん!」






 数分後、大作たち一行は北に向かって歩いていた。叺に入った麦の重量感は時間の経過とともに増すばかりだ。

 立ち止まって抱えなおしてみる。だが、どんな風に持ち替えても重さは変わらない。やっぱ、猫車を作るしかないんだろうか。

 そんなことを考えていた大作の意識は唐突に掛けられた声で現実に引き戻される。


「大佐様。随分とお辛そうにございますが大事ありませぬか?」


 声の方を振り向くと見覚えのある娘がいた。これって、じゃん拳のことを聞いてきた娘だっけ。少し心配そうな顔でこちらの様子を窺っている。

 さっきは未唯と同じくらいの年齢かと思った。でも、良く見るとちょっと小柄なだけでお園と同じくらいかも知れない。

 だったら十分に攻略対象じゃね? そうなると真面目に相手をせねば。大作は気合を入れ直す。


「No problem! ところで、拙僧のことは大佐で結構。様は要らないよ。あと、言葉遣いもタメ口で頼む。それで、君の名は?」


 そう口に出した瞬間、大作は一瞬だけ後悔する。新(かい)誠に文句言われたらどうしよう。

 いやいや、それは大丈夫だ。そんなこと言い出したら新海(まこと)だって菊田(かず)夫のパクリってことになる。


(わたくし)静流(しずる)と申します」


 戦国時代にそんなDQNネームってありなのか? またまたスカッドの奴が暴走している予感がプンプンするぞ。大作は警戒心を新たにする。


「って言うか、シズルってホイラーの公式じゃん。ステーキを売るな、シズルを売れって奴だろ?」

「わ、私は売られてしまうのでありましょうか?」


 静流と名乗った娘はちょっと不安そうに麦の詰まった叺を抱きしめた。その瞳が不安気に揺れている。


「いやいや、sizzleって言うのはステーキを焼く時のジュージューっていう音のことだよ。食欲をそそる色合いとか良い匂いとか付加価値が付いた方がずっと美味しそうだろ。サイエンスゼ○でやってたけど鼻をつまんでワインを飲むと赤ワインと白ワインの区別も付かんらしいぞ」

「美味しそうってことは、すて~きっていうのは食べ物なのね。そう言えば、第拾弐話『奇跡の価値は』でミ○トさんが『すて~きおごる』って言ってたわよね」


 お園のセンサーが敏感に食べ物の匂いを嗅ぎつける。大作にはじゅるる~と言う声が聞こえたような気がした。


「結局はラーメンになっちゃったけどな。そういや庵()監督も菜食主義者だって知ってたか? そんで、話を戻すけどステーキの語源は古ノルド語らしいな。元々は棒に刺した肉を焼いたんだそうな。スティックとかステッキとか言うだろ?」

「言うだろって言われても知らないわ。それよりも美味しいの? 美味しくないの? それが問題よ!」


 お前はハムレットかよ! 目をギラギラ輝かせたお園に詰め寄られた大作は思わず一歩退く。


「どうどう、落ち着いて。今じゃ棒に刺したりはしないんだ。串に刺して焼くとバーベキューになっちゃうだろ。牛の肉を平べったく切って鉄の板の上で焼くんだよ。まあ、どっちかっていうとバーベキューよりかステーキの方が高級料理なんじゃね?」

「ふぅ~ん。焼いた肉なんて美味しいのかしら。常ならば肉は塩漬けにするか煮るところでしょう?」


 お園は追求の手を緩めようとしない。食べることが生き甲斐なんだからしょうがないんだろう。

 その時、ことの成り行きを黙って横で見守っていた静流が遠慮がちに口を挟んできた。


「お坊様が肉を食しても宜しいのでしょうか? 御仏の教えに障りはござりませぬか?」

「法然上人は肉を食べても良いって言ったんじゃなかったっけ? 親鸞上人や一遍上人も肉食OKだった筈だぞ。って言うか、食べ物が貴重なんだからしょうがないじゃん。1993年の『生きてこそ』って映画を知ってるか? 本当に良い映画だから機会があったら見てみ。生き延びるためなら人肉だって食べなきゃならない場合もあるんだ。それに、食べないと勿体無いじゃん。勿体無いお化けは怖いんだぞ」


 大作は麦の入った叺を胸元に抱え込むと手首から先をだら~んと下げてゆらゆらさせた。お化け屋敷でポピュラーな幽霊のポーズだ。

 って言うか、お化けと幽霊は別物だっけ。大作は自分で自分に突っ込む。


「何なのそれ? 手が疲れちゃったのかしら」

「幽霊のポーズだよ。『う~ら~め~し~や~』ってな」

「裏が飯屋なの!」

「だ~か~ら~! いい加減に食いしん坊キャラから離れろよ。初代スーパーマンの俳優みたいに他の役が付かなくなっちゃうぞ」


 彼はそれが原因で自殺したって話だ。もっとも、彼を本物のスーパーマンだと思った視聴者が目の前でビルから飛び降りたり、銃を撃ってきたりといった異常な目にあって精神を病んだって話もある。


 それはそうと、日本で初めて足のない女の幽霊を描いたのは円山応挙って話は有名だ。

 だが、それより古い花山院(かざんのいん)后諍(きさきあらそい)にもそんなのが出てくるとか出てこないとか。

 どっちにしろ、戦国時代にはそんな幽霊はいなかったんだろう。


 ふと視線を感じて横を向くと静流が嬉しそうに微笑んでいた。


「大佐は真に様々なことをご存じなのですね。山ヶ野に着くのが楽しみでありませぬ」

「そうか? そりゃあ良かった。山ヶ野は理想の国家、地上の楽園だ。実際に見て、気に入ったら静流も同志になれ。そうすればみんなも喜ぶ」

「はい、同志大佐」


 そう言うと静流は満面の笑みを浮かべた。その笑顔はさっきより数段は可愛く思える。お園には負けるけど。でも、かなりの僅差かも知れん。

 だが、大作の心は少しだけブルーになる。またもや名前のあるキャラが増えてしまった。正直言ってちょっと、いや、かなり痛い。


 とは言え、とっくの昔に管理限界は越えていたんだ。この先、百人増えようが千人増えようが関係ないや。

 古代ギリシアの哲学者エラスムスが言ってたような言ってなかったような。一人殺せば殺人者だが百万人殺せば英雄だって。

 チャップリンも独裁者、じゃ無かった殺人狂時代で似たようなことを言ってたっけ。

 大作は連続殺人犯みたいに捨て鉢気味の覚悟を決めた。




 大作たちと村人、合わせて二十人の集団はゾロゾロと北へ向かう。


「ねえ、大佐。私たちどこに向かっているのかしら。山ヶ野への道はあっちよ?」


 お園が首を傾げながら疑問を口にした。

 大作はニヤリと微笑むと芝居がかった口調で高らかに宣言する。


「我らはこれより鍛冶屋に向かう。敵は山ヶ野にあり!」


 それを聞いたお園はがっくりと肩を落とし大きなため息をついた。未唯、藤吉郎、菖蒲は黙って俯くと目をそらす。

 何故だか静流だけが大きな瞳をキラキラさせながら熱い視線で見詰めてくれた。


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