表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
126/516

巻ノ百弐拾六 ウーマン・リブの秘密 の巻

 重朝の思い付きにより急遽、久見崎(ぐみざき)で建造中の船を視察することが決定した。

 何て行き当たりばったりな奴なんだよ。大作は自分のことを棚に上げて心の中で嘲り笑う。とは言え、決して顔には出さない。


 お園はと言えば美味しい魚が食べられるという話なので上機嫌の様子だ。

 回避できないイベントなら割り切って楽しむしか無いか。そうだ、一つ大事なことを確認しておかなければ。

 大作は重朝に向き直ると居住まいを正す。


「岩見守様、恐れながら申し上げます。久見崎と言えばここから七、八里はございます。今からでは途中で夜になりませぬでしょうか?」

「ご案じ召されよ。船を使わば日暮れまでには着くじゃろう。千手丸、支度をいたせ」

「御意」


 幼い小姓は顔色一つ変えずに走り去る。

 人の言うことにはおとなしく従う。それがあの子の処世術なんだろうか?

 いやいや、それが仕事なんだからしょうがない。


 それはそうと夕方まで船に乗りっぱなしかよ。お尻が痛くなりそうだぞ。まあ、歩くよりは遥かに楽だけど。

 とりあえず乗る前にトイレを済ませといた方が良いな。大作は心の中で小さくため息をついた。




 屋敷の門前で待つこと暫し。大作たちの前に口取りが牽く馬に乗った重朝が現れた。お前だけ馬かよ~! 大作は心の中で突っ込むが声には出さない。

 馬の背に揺られる重朝を先頭にして一行は南へ向かってゆっくりと歩く。大作、お園、未唯、千手丸。他にも護衛か御付きの者か知らんけど三人の若い侍を加えて合計九人と一頭の行列だ。

 何で北に向かわないんだろう。もしかしてこのおっさん、ボケてきてるんじゃね? 道を間違えていないかなんて聞きにくいな。大作は不安感で胸が一杯になる。

 通りの左右には武家屋敷と言うには貧相だが農家よりは遥かに立派な家が立ち並ぶ。

 たいして広くもない道を二百メートルほど進むと川に行き当たった。重朝はひらりと馬から飛び降りる。


 もしかして歩いた方が楽だったんじゃね? 大作は心の中で突っ込むが決して口には出さない。

 って言うか、樋脇川から船に乗るのかよ! ここから舟に乗れるんなら前回、東郷を訪ねた時にも乗せて貰えばよかったな。次からは使わせて貰おう。

 川岸には先日のセーリング・ディンギーも帆を畳んで放置してあった。確かバウンティー号だったっけ? しかし、今回乗るのはこれでは無いらしい。

 菅笠を被り、地味な茶色い法被(はっぴ)のような物を着た年配の男が頭を下げる。もしかして。いや、もしかしないでもこいつが船頭なんだろうか。


今日(けふ)はこちらの高瀬舟にお乗り下さりませ」

「高瀬舟ですと! 森鴎外の? あれって江戸時代の京都が舞台ではござりませぬか?」


 大作が興奮気味に食い付く。船頭は一瞬だけ驚いた顔をしたが、すぐに我に返るとにっこり微笑んだ。


「た、高瀬とは浅瀬のことにござりますれば、浅い川でも障りなく操ることが叶いまする。先年、吉備国より参られたお坊様が伝えられし物にて、これは十五石積みにござります」

「左様にござりまするか。此度は宜しゅうお頼み申しまする」


 大作は深々と頭を下げる。背後でお園と未唯が見事にシンクロしている気配がした。


 十五石ってことは2.25トン積めるってことだろう。だとすると2トントラックに匹敵する。

 ちなみに2トントラックというのは通称だ。車両総重量5トン未満、最大積載量2~2.9トンのトラックを指している。新型普通免許で運転できちゃう便利なトラックなのだ。

 この船の全長は十二、三メートルといったところだろうか。こんな物で二十頭の馬に匹敵する荷物を運ぶとは。やはりこの時代は水運が最強だな。

 って言うか、川沿いの戦場ならばこいつで大砲と砲弾が余裕で運べるぞ。荷物の積み下ろしは大変だろうけど。


 それはそうと高瀬舟って高瀬川を下るから高瀬舟なんじゃ無かったのかよ。いやいや逆だ。高瀬舟で賑わったから高瀬川って言うんだっけ。


 そんなことより安楽死を手伝うって嘱託殺人なんだろうか? 喜助の弟は確固たる意志を持って死のうとしていたんだっけ。こういうケースで嘱託殺人になった判例って無いんじゃなかろうか。自殺の準備を手伝ったわけじゃ無いので自殺幇助では無いのも確実だ。やはり承諾殺人が妥当だな。現行法なら執行猶予が相場だろう。

 そもそも喜助の弟はスイスに行って自殺すれば良かったんじゃね? まあ、そんな金があれば自殺なんてしないか。大作は考えるのを止めた。


 大作はさり気なくお園の手を取って舟に乗るのを手伝う。小さいころから萌に叩き込まれたレディーファーストの習慣は簡単には抜けないのだ。

 だが、そんな二人の仕草に千手丸が眉を吊り上げて口を挟む。


「大佐殿、岩見守様を差し置いて先に舟に乗るとは無礼が過ぎまするぞ。お控え下され」

「良い良い、誘ったのは儂じゃ。客人(まろうど)を持て成すのは主の務め。遠慮せず乗るが良いぞ」


 固い表情の重朝が鷹揚に頷く。機嫌は悪く無いみたいだけど良くも無さそうだ。何か適当な言い訳は無いかな? 大作は頭を捻る。


「これはご無礼を仕りました。されど拙僧が女性(にょしょう)を先に舟に乗せたるは御為と見込喉ひまする。南蛮ではレディーファーストと申しまして何かにつけて女性を先にやらせるそうな。南蛮船を呼ぶからには入来院様でもレディーファーストを導入してみては如何にござりましょう」

「れでぃ~ふぁ~すとじゃと? 何でも女に先にやらせよとは珍妙な習わしじゃな」

「まあ、古い習慣など大抵は訳の分からん物にござります。理屈を考えてもしょうがありませぬ。日本の総氏神であらせられる天照大神(あまてらすおおみかみ)様も女神様だと申しますぞ」

「天照大神は大日如来じゃぞ。それが女神じゃと? そのような話は聞いたことも無いぞ」


 重朝は今一つ納得が行かない様子で顔を顰める。って言うか、またもや話が脱線しかけてるんじゃね?


「safetyもfirstじゃなかったかしら。どっちが第一なの?」


 お園も怪訝な顔で口を尖らせた。って言うか、気になるのはそこなんだ。大作はちょっと呆れる。


「そこはTPOに応じて…… いやいや、安全が何よりも最優先だな。女性を先に行かせたせいで危ない目に遭ったら本末転倒だろ」

「ふぅ~ん」


 大作は恭しく未唯の手を取って舟に乗せる。千手丸の顔色を窺うといまだに少し不満気な様子だ。これは機嫌を取っておかねば。

 素早く脇に寄ると片膝を着く。揉み手をしながら上目遣いに卑屈な笑みを浮かべた。


「大変お待たせ致しました、岩見守様。ささ、どうぞお乗り下さりませ。残り物には福があると申しますぞ」

「お、おぅ」

「千手丸様もお先にどうぞ。お足もとに気を付けて下さりませ」

「忝うございます」


 効いてる効いてる。ちょっと居心地が悪そうな千手丸の顔を見て大作はほくそ笑む。

 大作が舟に飛び乗ると船頭が舳先の舫い綱を外す。思っていた通り口取りと馬は舟に乗らないらしい。あんな物が舟に乗ったら狭くてしょうがない。大作はほっと胸を撫で下ろした。

 船頭が竿で川岸を軽く押すと川上を向いていた船がゆっくりとUターンする。高瀬舟は滑るように樋脇川を下り始めた。




 舟は平底で幅は二メートルくらいだろうか。意外と広々とした感じだ。舟の中には横方向に三本、突っ張り棒のような梁が側面の板を支えている。この梁によって船は前後に四つの区画に分割されていた。


 さっき話をした年配の船頭は舳先で竿を操っている。船尾ではガタイのいい若者がリズミカルに艪を漕ぐ。その側に小柄な若者が暇そうにしていた。交代要員か何かだろうか。その三人が船頭ということらしい。

 中央の二区画には筵が敷いてある。その前寄りの区画には風除けのように三人の侍が並ぶ。その後ろに重朝と千手丸が座る。梁を挟んで後寄りの区画に大作、お園、未唯が並んだ。


 川の流れに乗った舟はみるみる加速する。重朝が乗ってるんだから危険運転の心配は無いだろう。安定して走り出すのを待ちかねたようにお園が口を開く。


「ねえ、大佐。もりおうがいって何なの?」

「石見国出身の陸軍軍医総監だな。鴎って字は本当はメじゃなくて品って書くんだ。JIS第三水準の文字だぞ」

「ふぅ~ん。字はともかく、何をされた方なのかしら」

「何か知らんけど本を書いてたんだっけ? 文学者としての評価はともかく、医者としては最低最悪のクズ野郎だな。ありもしない脚気菌を妄信して疫学的調査に基づいた海軍の高木兼寛を徹底的に否定したんだ。鈴木梅太郎がオリザニンを発見しようが、海軍が麦飯で脚気罹患者を激減させようが意固地になって陸軍は麦飯をガン無視。おかげで日露戦争では二十五万人も脚気になって二万七千人が死んだ。フランケ○シュタインの誘惑でネタにして欲しいくらいのクズ野郎だろ?」


 大作は心の底から憎々し気に吐き捨てる。その、あまりの剣幕にお園がちょっと引いている。


「どうどう、大佐。麦飯さえ食べれば大事無いんでしょう?」

「そ、そうだな。それに蕎麦なんかも良いらしいぞ。そのうちに美味い蕎麦を打ってやるから期待しておけよ」


 お園の『じゅるる~』という心の声が聞こえたような気がする。だけど蕎麦つゆはどうしよう。まあ、味噌味でも食べれんことは無いだろう。大作は考えるのを止めた。




 五月雨の時期なので川の水嵩は普段より増しているようだ。舟は左手に武家屋敷もどき、右手に田んぼを眺めながら滑るように川を下って行く。

 時速十キロくらいだとすると到着まで三時間ってところだろうか。距離も速度も正確には分からないので大作は漠然と想像する。

 新幹線のぞみなら東京から姫路まで行けるぞ。このままだと着くころには退屈で死人が出るかも知れん。どげんかせんといかんな。

 ポク、ポク、ポク、チ~ン。閃いた! 大作は居住まいを正すと正面から重朝の目を見つめる。


 だが、大作の機先を制して重朝が一瞬早く口を開いた。


「大佐殿、さきほど申されておった『かっけ』とは何ぞや? 和尚らは麦や蕎麦掻きを食しておるのか?」


 大作は盛大にズッコケそうになるが何とか踏みとどまる。いきなり話の腰を折られたぞ。

 って言うか、ショックで何を話すつもりだったか忘れちゃったじゃないかよ。大作は心の中で絶叫するが顔には出さない。

 無理矢理に笑顔を作るとタカラ○ミーのせ○せいに『脚気』と書いた。


「白米ばかり食べるておるとビタミンB1不足で足が浮腫んだり痺れたりするそうですな。放置すると死に至る病にござります」

「第拾六話ね。第十二使徒レリエルよ」


 お園は耳元に顔を寄せると小声で呟いた。アニメネタが通じないのも困るけど、ここまで執拗に拾われるのも困るよな。大作は誰にも聞こえないほど小さくため息をつく。


「白米ばかり食べておると病になるとな。そも、和尚らは病になるほど白米ばかり食べておられるのか?」


 重朝の視線は呆れているのか驚いているのか良く分からない。だが、良い感情は抱いていないように見える。誤解は早いうちに解かねば。


「いやいや、我が寺では玄米を食しておりまする。胚芽や米糠は栄養の塊。それをすてるなんてとんでもない! 美味いからといって白米ばかり食べておる奴は阿呆ですぞ。それどころか我らは今、麦飯の導入に向けて動いておるところにござります。そうだ! 入来院様も押し麦プロジェクトにご賛同を頂けませぬでしょうか?」

「おしむぎじゃと?」

「湯気を当ててふやけさせた麦粒を圧延機…… ローラー? 丸い筒で押しつぶせば炊きやすく柔らかくなりまする。美味しく食べられる上に薪も僅かで済む故、森林資源保護や地球温暖化対策にも役立ちましょう」


 大作はバックパックを漁って押し麦を取り出そうとした。したのだが…… 無い! しまった~! 重いから材木屋ハウス(虎居)に置いてきちゃったぞ。

 まあ良いや。押し麦なんて話の接ぎ穂に過ぎん。俺の華麗なトークスキルに掛かればちょちょいのチョイだ。さぁ、ふるえるがいい!


「時に岩見守様、鹿児島では珪藻土と申す軽い土が採れるそうですな。藻が長い年月を経て土に還った物にござります。これを用いて七輪(しちりん)を作ってみては如何にござりましょう? この辺りですと中津川か藤本の辺りにあるそうな」

「しちりんじゃと? 中津川は祁答院、藤本は伊集院の領地じゃな。入来院でそのような土が採れるなど、聞いたことも無いぞ」


 いきなり不発かよ。って言うか、中津川って山ヶ野と虎居の間じゃね? 俺達で採掘して窯元に持ってく方がよっぽど早いな。大作は次の話題を探す。


「では、こんなのは如何にござりましょう。え~っと…… そうだ! 艪! 艪を改良してみては如何でしょう? 艪を右から左、左から右へと返す折に発生する乱流は大きな有害抵抗となりまする。艪臍(ろへそ)を工夫して艪を裏返してサインカーブを描くように漕げば無駄な乱流を起こさずに済みましょう」

「艪を改むるとな? 大佐殿は船頭にでもなるおつもりか?」


 いつにも増して急激な話題の転換に重朝が付いてこれずに目を白黒させる。


「いやいや、入来院様で作られては如何かと申しておりまする。楽しゅうござりますぞ~ Let's try!」

「やり方を知っておるのならば何故、儂に勧めるのじゃ? 艪くらいなら和尚が作れば宜しかろうに」


 ですよね~! 大作は心の中で激しく同意する。とは言え、決して顔には出さない。何とかして話を繋がなければ。


「だったら…… だったらもう、いっそのこと皆でアイディア…… 考えを一つずつ出して行けば如何にござりましょう? ちょうど八人乗っております故、船中八策にござりますぞ」

「何を申しておる、大佐殿。この舟には十一人乗っておるぞ」


 重朝が呆れた顔で肩を落とす。『十一人いる!』だと? 大作はアニメやマンガを広く浅く守備範囲としている。だが、少女マンガに関しては知識がすっぽり抜けているのだ。正直言ってタイトルしか知らない。

 とりあえず弱みを見せたら負けだ。大作は内心の不安をおくびにも出さず余裕の笑みを浮かべる。


「船頭の方々は舟の備品みたいな物にござりましょう。普通は頭数にはいれませぬ。そもそも船中十一策なんて語呂が悪くはござりませぬか?」

「御仏の教えは遍く衆生を救うのでは無いのか? 船頭は人に非ずなどと大佐殿らしからぬ物言いじゃな。見損のうたぞ」


 心底から憎々し気に重朝が言い捨てる。そんなつもりは全然無かったのに何だか酷い言われようだ。レイシストみたいな扱いに大作はちょっと悲しくなった。


「いやいや、我ら一向宗の教えによれば念仏さえ唱えておれば悪人でも往生できうるのでございます。商人(あきびと)は言うに及ばず海賊、非人、女でさえ」

女性(にょしょう)でさえって何だか嫌な言いようね。私たち見貶(みおと)されてるのかしら?」


 未唯が不服そうにお園と顔を見合わせる。彼方立てれば此方が立たぬか。上手く行かんもんだ。大作は心の中でため息をつく。

 だが、どうやって立て直すか頭をフル回転させる大作に向かって重朝からも突っ込みが入る。


「和尚よ。先の『れでぃ~ふぁ~すと』は空言か?」

「ぽりてぃかるこれくとねすを甘く見たら痛い目を見るわよ」


 とうとう、お園までもが尻馬に乗ってくる。もう駄目だ。これは無条件降伏が吉だな。大作は素早くギブアップを決断した。

 逃げ場の無い舟の上で全員を敵に回すなんてそれこそ阿呆のすることだ。


「分かった分かった。俺の負けだ。先ほどの発言において不適切な表現があり、お二人に不快な思いをさせてしまいました。大変申し訳ございません。おわびして訂正いたします。これで良いか?」

「それで謝ったつもりなのかしら? 何だか揶揄(からか)われてる気がするわ」

「本当に悪かったと思ってるんならちゃんと謝って欲しいわ」


 女性陣の二人が意地の悪そうな笑みを浮かべる。これはアレか? 土下座しろってか? 肉焦がし骨焼く鉄板の上で! それだけは勘弁して欲しいぞ。大作は必死に逃げ道を探す。


「い、一休宗純和尚は申された。『(おなご)をば (のり)御蔵(みくら)というぞ()に 釈迦(しゃか)達磨(だるま)も ひょいひょいと生む』ってな。岩見守様も千手丸殿も船頭の方々もみんな女から生まれたんだぞ。俺は心の底から女性を尊敬してるんだ。本当だから信じてくれよ。これくらいで勘弁して下さい。お願いします、お園様、未唯様……」


 恥も外聞も無い。お礼とお辞儀はタダなのだ。大作は額を筵に擦り付ける。


「和尚もこう申されておるぞ。それくらいで許してやったらどうじゃ?」


 ちょっと遠慮がちに重朝が口を挟む。ナイスアシスト! 大作は心の中で謝意を捧げる。とりあえず矛先を反らさねば。


「時に岩見守様。ウーマン・リブ運動はユダヤの陰謀だという説をご存じでしょうか? ロスチャイルドやロックフェラーが莫大な資金を提供したとかしなかったとか。何故にそのようなことをしたかお分かりでしょうか?」

「う、う~まんりぶじゃと? そのような話は聞いたことも無いぞ。儂に分かろうはずも無かろう」

「さもありなん。知らざあ言って聞かせやしょう。理由は二つ。一つは女性の社会進出が進めばGDPが増えて税収も伸びまする。財政健全化は国家の最重要課題。今一つは国家による児童教育です。両親が揃って仕事をすれば子の教育は学校に頼ることになりましょう。さすれば教師を通じて国家が児童を洗脳することも叶いまする。家族や村ではなく国家への忠誠心を持った国民が育つと国民国家が成立します。ナポレオン軍が何故に強かったのかお分かりでしょうか? 自らの意思で戦う兵は強うござりますぞ」

「お、おぅ……」


 精一杯に分かりやすく説明したつもりだったが重朝はさっぱり分からんって顔をしている。だが、話を反らすという目的は達成されたらしい。大作は胸を撫で下ろした。




 大作たちが無駄話で時間を潰している間にも高瀬舟は進む。川は深い谷間に沿って曲がりくねっているが船頭は器用に艪を操る。太陽が真上に登るころ、樋脇川が川内川に合流した。

 良く分からんけど三分の一くらいは進んだんだろうか。ってことは残り二時間? 新幹線のぞみなら静岡を過ぎた辺りかな。


 そろそろほとぼりも冷めたし、新しい話題でも考えようか。大作は性懲りもなく新たな話題を探して頭をフル回転させ始めた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ