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巻ノ百拾九 信秀長生き作戦 の巻

 虎居へと続く山道を大作はお園、藤吉郎、菖蒲(あやめ)、未唯を引き連れて西に向かって進む。

 無駄話をしている間に数キロほど進んだが前途は果てしなく長い。大作は新たな話題を探して頭を捻る。


「こうやって菖蒲と話をするのは初めてだな。いずれが菖蒲か杜若(かきつばた)って言うけど菖蒲(あやめ)菖蒲(しょうぶ)の違いを知ってるか?」

「いいえ、存じません」


 菖蒲が素っ気なく返事を返す。嘘でも良いから関心を持つ振りくらいしても良いのに。このキャラも手強そうだ。大作は気合いを入れ直した。


「花菖蒲(しょうぶ)菖蒲(あやめ)杜若(かきつばた)はどれもアヤメ科アヤメ属なんだ。でも、菖蒲(しょうぶ)湯に入れる菖蒲はサトイモ科だぞ。水芭蕉や蒟蒻芋とかの仲間だな」

「左様にございますか」


 駄目だ、まったく会話が成立せん。大作は助けを求めるようにお園と藤吉郎の顔を交互に見比べる。しかし返ってきたのは『さっぱり分からん』という視線だった。


 やっぱ、ヒロイン攻略は自力でやるしか無いのか。大作は心の中で小さく溜め息を付く。

 定番の夢の話から入るか? いやいや、あれは上手く行った試しが無い。俺にだって学習能力はあるのだ。

 まあ良いか。みんなで世間話でもしながら徐々に心を開いて貰おう。どうせ時間は有り余っているし。


「話は代わるけど日本中から侍を一掃したらどんな政治形態を作ったら良いと思う? ちょっと気が早いかも知れんけど面白そうな話題だろ。アメリカは真珠湾を奇襲された直後には日本占領政策の策定に入ったらしいぞ。こういうのは計画を立ててる時が一番楽しいんだ」

「ちょっとどころじゃないわよ。島津との戦でも三年先なんでしょう。一体、何年先の話なのかしら」


 いきなりの話題転換にお園が呆れた顔をしている。だけど、話には乗ってくれるつもりらしい。


「普通にやったら三十年は掛かるところだな。もし本能寺で信長が死んでいなければ1582年の数年後には天下統一できただろう。尾張統一の十年や美濃攻略の七年、信長包囲網のロスタイムを省けば二十年くらい短縮できるかも知れん。それに俺たちには知識チートもある。とは言え、島津を倒しても占領地を安定させるのに一、二年は掛かりそうだ。伊東や相良、大友は烏合の衆だから瞬殺できるだろうけど無駄に大きい。占領統治には手間が掛かるぞ。龍造寺は小さいうちに叩いた方が良さそうだな。仮に五年で片付けるとしても九州統一だけで十年も掛かるのか」

「そこからが大変なんでしょう? 九州って日本の六分の一くらいなのかしら」

「だからって六倍掛かるってわけじゃ無いのは分かるよな。こういうのはレベルが上がるほど楽になる物なんだ」

「昨日の晩にも言ってたわよね。それって本当の話なのかしら。ちっとも楽になった気がしないんだけど」


 お園が思いっきり胡散臭そうな顔をしている。とは言え、目の奥が笑っているので本気で怒っているわけでは無さそうだ。


「あの時にも言っただろ。限界効用逓減の法則は絶対だ。間違いなく楽にはなっている。でも人間って生き物はそれに慣れてしまう。人間だもの…… いくら何でも四人の時よりしんどいはずは無いんじゃね?」

「大佐は人が増えると楽になると思ってたのかしら。かえって手間が増えるってこともあるのよ。それはそうと、九州から先はどうするの?」


 この話を追及しても時間の無駄だと悟ったのだろう。お園はあっさり話題を変えた。

 どうしたら良いか分からんから相談してるんだろ! 大作は心の中で絶叫するが決して顔には出さない。

 ゆっくりと勿体ぶって四人の顔を見回すと、人差し指を左右に振りながら舌打ちを三回した。


「最大の問題は宗教団体…… 寺社勢力? だな。今一度日本を洗濯致そうと思ったら避けては通れん課題だ」

「お寺や神社がどうかしたの?」

「中央集権体制を確立するためには寺社勢力を政府のコントロール下に置かねばならん。とは言え、一向宗を根切りにしたり比叡山を焼き討ちするのは真っ平御免之助だ。別に仏罰が怖いとか人道主義を気にしてるわけじゃ無いぞ。目的は手段を正当化するからな。だけど俺は信長の劣化コピーみたいな真似は嫌なんだ」

「大佐は信長とやらが余程お嫌いのようですな」


 興味深そうに話を聞いていた藤吉郎が相槌を打つ。ちゃんと話題に付いてきているようだ。大作は胸を撫で下ろした。


「憎しみは考えを誤らせるわよ。大佐は何でそんなに信長が嫌いなのかしら?」

「俺は基本的に判官贔屓なんだ。負けたってだけの理由でナチスやヒトラーを応援したくなるだろ? もし桶狭間で信長が死んでたら応援してたかも知れんぞ」

「負けてる方に合力したいなんて難儀なことね。そんなんじゃ、どうやったって勝てないわよ」

「いやいや、お気持ちは良う分かります。お話を伺っておる内に某も信長とやらが憎うなって参りましたぞ」


 藤吉郎が調子の良いことを言う。お前は太鼓持ちかよ! 大作は心の中で突っ込むが顔には出さない。


「って言うか、タイムスリップや転生のオリ主は判で押したみたいに根切りと焼き討ちだろ。バカの一つ覚えかよ! たまには一向宗や比叡山が天下を取る話を見てみたくないか? 俺の探しかたが悪いのかも知れん。いやいや、きっとそんな小説は誰も書きたがらないんだろうな」

「だったら大佐が書いてみたら?」

「だからやってみようって言ってんだよ。キャッチワールドって知ってるか? クリス・ボイスってイギリスの作家が1975年に書いたサイバーパンクSFの先駆的作品だ。その中では二十一世紀の日本は法華宗が支配する宗教国家になっている。イギリス人にできたことが俺にできんわけが無い!」


 大作は拳を握りしめて断言する。ちょっと待て、趣旨が変わってるぞ。

 政教を分離する理由は何があるんでしょうか? 国教制度じゃダメなんでしょうか?


「そもそも戦後の日本が政教分離したのはGHQの神道指令からだろ。まずは、そのふざけた妄想を吹っ飛ばす! 二十一世紀にだって宗教国家は一杯あるんだ。イスラム圏は勿論、先進工業国でもノルウェー、アイスランド、フィンランド、ギリシア、エトセトラエトセトラ。国教制度を持った国なんて珍しくも無い。だったら俺が、俺たちが宗教団体を立ち上げよう!」

「いまさら何を言ってるの。大佐は僧だし、私は巫女よ」


 憮然とした様子でお園が呟く。ちなみに憮然という言葉の本来の意味は『失望してぼんやりする』ことらしい。

 しかし大作の目にはお園が呆れて驚いているように見えていた。今時、本来の意味で憮然という言葉を使う奴の方が遥かに少数派だ。誤用してる奴の方が多いんだからしょうがない。


「そ、そう言やそうだっけ。いやいや、本当に宗教法人化するんだよ。それはそうと、何で一向宗って言うか知ってるか?」

「一向上人様が創められたからじゃないの?」

「ひたすら念仏を唱えるからではござりませぬか?」


 お園と藤吉郎が相槌を打つ。だが、菖蒲の様子を伺うと首を傾げて怪訝な顔をしている。


菖蒲(しょうぶ)…… じゃなかった、菖蒲(あやめ)はどう思う? なんでも良いから言ってみ」

「一向宗の方々は自らを一向宗とは申されぬようにございます。浄土宗の方々が真宗の門徒をそのように呼んでおるのを聞いたような」

「素晴らしいよ菖蒲くん、大変な正解だよ。バンバンカチカチ、あら?」


 意外なところから返ってきた答えに大作は大袈裟に驚いた振りをする。


「蓮如は自分たちは真宗だから一向宗って呼ぶなって言ったらしい。守らんやつは破門だって言ったとか言わんとか。ってことはアレだ、商標登録? 一向宗って名前を使っても文句を言ってくる奴はいないってことだ。だったら俺が、俺たちが一向宗だ!」

「え~~~~!」


 全員が見事にタイミングを揃えて驚きの声を上げた。効いてる効いてる。大作はほくそ笑む。


「九州には一向宗の勢力は及んでいない。一向一揆も無いからそんなに評判は悪く無さそうだろ? 金山労働者から始めて、農業改革や床下祓いで巫女を使って地道に布教活動しよう。一向一揆は指導部が弱いし統率も取れていない。長島一向一揆の証意とか越前一向一揆の七里頼周とか適当なタイミングで要人を暗殺。分裂させては吸収を繰り返す」

「そんなに上手く行くのかしら」


 例によってお園が半笑いで疑わしそうな顔をしている。しかし大作は少しも慌てず自信満々で次の一手を放つ。


「貴種流離譚って知ってるか? 日本武尊からハリポタまでフィクションの王道だぞ。例えば俺が一向俊聖の生まれ変わりって後付け設定を出すなんてどうじゃろ?」

「良くもそんな罰当たりなことを思い付くわね。いまさらだけど大佐には呆れるわ」

「惚れ直したか? 何か問題でもあるかな。死者に対する名誉毀損とか? でも、死んで二百六十年以上経ってるんだぞ。さすがに遺族とかいないだろ。仮にいたとしても本気で訴えると思うか? 平成の高橋是清って言われた財務金融相が高橋家に訴えられたら笑うぞ」


 こういう時は根拠の無い楽観主義だ。大作は胸を張って自信満々に言い切る。

 お園は呆れ果てて突っ込みを入れる気力も無いようだ。その沈黙を大作は同意だと解釈した。


「ところで未唯、話についてきてるか? いるのかいないのか黙ってたら分からんぞ」

「ごめんなさい、大佐。私、ちっとも話が分からないわ」


 これは不味いな。大作は焦る。未唯のレベルで分からんのか。ってことは一般の農民への布教も難しいかも知れん。何か良い方法は…… 閃いた!

 大作は、とある画像を探してスマホに表示させる。


「いま思い付いたんだけど、これなんてどうじゃろ。漢委奴国王印だ。言ってみりゃあ、失われた聖櫃(アーク)とか聖杯みたいな物だな。こいつを持ってる奴こそが真の日本国王だぞ。博多の北に志賀島ってのがあって、そこの金印公園に埋まってるそうな。巨大な石の下に匣みたいに石が置いてあったらしいから探すのも簡単だ」

「この印判は金で作られているのかしら。随分と大きいわね」


 写真を食い入るように見詰めていた未唯が目を丸くして驚く。


「いやいや、これは写真だから。本物は一文銭くらいしかないな。これに比べりゃ二十一世紀の御璽(ぎょじ)国璽(こくじ)は凄いぞ。三寸四方の大きな金印だから重さも一貫目近いんだ」

「ふぅ~ん。そんなに重いと押すのが大変そうね。それはそうと、一向宗は良いとして比叡のお山はどうするの?」


 お園が急に真顔を作ると強引に話を戻す。もしかして時間潰しの雑談を本気にされてたのか。大作は内心の焦りを必死に隠した。

 って言うか、比叡山なんかより石山本願寺の方が遥かに厄介なんだけど。その他にも出羽三山、興福寺、高野山、根来寺、エトセトラエトセトラ。面倒臭!


「それはアレだな。国内法にしたがって粛々と対応するんだ。破壊活動防止法に基づいて破壊的団体の規制、または解散の指定を行う。寺社勢力って極端な侵略拡張はしなさそうなイメージがあるだろ。たぶん、宗派を超えて手を組んだりもしない。だったら後回しにして脅威判定の高い大名から先に片付けちゃおう。史実では秀吉が天下統一したらみんな素直に刀狩りに従ってる。一千万石くらいまで勢力を拡張すれば動員兵力もニ十五万人くらいになるはずだ。そんなのに逆らおうって馬鹿はいないよ」

「きょういはんていの高い大名とはどちらのことにございましょう。そう申さば、こんどる軍団の話は進んでおりましょうや?」


 藤吉郎が目を輝かせて相槌を打つ。コンドル軍団って何の話だっけ? 大作は必死に記憶を辿る。

 いやいや、コンドル軍団は知ってるぞ。フランコ将軍の国民戦線軍を支援するためナチスが派遣した義勇軍だ。その話が何でこのタイミングで出てくるんだ? さっぱり重い打線!


「それはアレだな。ひとまず延期しよう。検討の結果、より優先度の高い案件が発生した。確かな情報によると今年の六月(1550年7月)に大雨が降って富士山の北で洪水が発生するらしい。七、八月にも大雨と洪水があって飢えて死ぬ者が大勢出るそうな。八月三日には甲府でも洪水になる。これを利用して何でも良いから面白いイベントを発生させられないかな?」

「富士のお山の北って言うと吉田の辺りかしら。そこだって武田の領国よ。そこから砥石城は北に三十里くらいだわ。どうにもならないのかしら?」


 砥石城…… 思い出した! 信玄だか晴信だかを殺すんだっけ。大作の頭がようやく回り出す。

 ここで奴を殺すのって甲相駿の軍事バランスを考えた場合、ヤバくね? 何とかして無かったことにできないか。大作は必死に頭を捻る。


「話は変わるけど、ぶっちゃけ信長が天下を取れたのは濃尾平野って立地が大きいよな。たいして広くも無いけど、とっても豊かで人も多い。京の都に中途半端に近いもの良いし」

「左様にござりますな。某は尾張に生まれ育ちましたが伊賀も筑紫島も山ばかりで驚きました」

「そうね。甲斐も平地は少ないし川は荒れるしで難儀なところよ」


 藤吉郎とお園が相槌を打つ。こんなに簡単に話題反らしが成功するとは。大作は心の中でガッツポーズ(死語)を取る。


「だけど立地だけで天下は取れん。って言うか、現時点で最大の勢力を誇る三好は百五十万石を超え、数万の兵を動員可能だ。しかし奴らには天下を盗るという野心が欠けている。将軍暗殺なんて大それたことをやりながら…… いやいや、あれって長慶が死んだ後だっけ?」

「私に聞かれても分からないわよ。殺された公方様って籤引き将軍のことかしら」

「まあこの際、将軍はどうでも良いよ。ともかく、この時代に本気で天下を狙っていたのって信長くらいなんじゃね? 他の連中はみんな建前でも幕府再興とか言ってるんだもん。そういうわけで現時点の脅威判定トップは文句なしに信長だ」

「では、信長を討つのでござりますな。某にお任せ下さりませ」


 藤吉郎が目をキラキラと輝かせて食いつく。勝手に暴走するなよ! ってか、どう考えてもお前には無理だろ。大作は心の中で突っ込む。


「お前は一を聞いて十を知る早とちり野郎だな。このタイミングで信長暗殺はリスクが高すぎるだろ。俺が考えてるのは逆だぞ。信長の父親、信秀の長生き作戦だ。これが上手く行けば焼香をぶち撒ける信長っていうドラマで定番のエピソードも葬り去れる。諸説あるけど信秀は来年の三月三日に急な流行り病で死ぬってのが定説らしい。高血圧とか脳卒中、心筋梗塞なんて説もあるけどな」

「それをどうやって変えるの? 歴史には復元力があるんでしょう」

「バタフライ効果って知ってるか? まずは堺の商人を使って信秀や信長はもちろん、信友や斯波義統に積極的に贈り物攻勢を掛ける。三月に死んだってことは風邪をひいたのかも知れん。だったら綿入れとか羽毛布団とか防寒具だな。急病なんてちょっとした行動の変化で回避できるかも知れんだろ。できんかも知れんけどな。もし信秀が長生きしたら信友は信長の謀殺なんて計画しない。義統は死なずに済むから結果的に信友も長生きする。弾正忠家の尾張統一も後ろにズレる。どうよ?」

「風が吹けば桶屋が儲かるみたいな話ね。まあ、やるだけやって見ましょうよ」


 お園が鷹揚に頷く。その瞳には僅かに憐れみの情が込められているような気がしないでもない。だが、大作の織田対策プランは百八式まであるのだ。


「これが失敗した場合はプランBだ。伊賀の傭兵、じゃなかった義勇兵を使って義統に軍事援助を行う。もし信友を返り討ちにできれば尾張は大混乱すること間違い無しだ」

「信友って人を討つの? 信長は放っておいて良いのかしら」

「信友が義統を殺したから信長に大義名分ができたんだぞ。もし義統が信友を討てば状況はまるっきり変わるはずだ。尾張守護としての権威を取り戻すかも知れん。積極的に軍事援助を行って尾張を泥沼の内戦状態に引きずり込む」

「大佐がやりたいことってそんなことだったの? 戦乱の世を終わらせるって言ったわよね。民草を助けるんじゃなかったの?」


 急にお園の声が低くなった。もしかして本気で怒ってるのか? 大作は思わず背筋を震わせる。藤吉郎、菖蒲、未唯がさり気なく離れて行く。


「おいおい、何を逃げようとしてるんだ。俺一人に喋らせ過ぎだぞ。お前らも何か代案を出せよ」

「そ、そ、某などには大佐の深いお考えには遠く及びも尽きませぬ。何卒ご容赦下され」

「私にも難しいお話は分かりかねます。お許し下さいませ」

「ごめんなさい、大佐。私もこれっぽっちも分からないわ」


 三人が揃って情けない顔をする。大作はほくそ笑む。こいつらに代案なんて期待していない。誰も代案を出せないってことが重要なのだ。


「なんだよ。お前らだって代案は無いんじゃないか。よく覚えておけ。『批判をするなら代案を出せ』は反対意見を封殺する最強の便利ワードなんだ」


 お園が『ぐぬぬ……』って顔をしている。あんまり追い詰めるのは不味いな。大作は咄嗟に話を反らす。


「それじゃあ代わりに三好長慶を殺そう。奴は来年、天文二十年(1551)三月七日と十四日に暗殺されそうになる。こいつを後押しするんだ。一回目の暗殺者は名前も分からん。動きを怪しまれ、捕まってすぐに殺されたって書いてある。素人だったのかも知れんな。二回目は進士賢光とかいう将軍の近臣が長慶を襲撃して手傷を負わせたんだと。でも、失敗してすぐに自殺したそうな。こいつに手を貸すんだ。射程の長い鉄砲やジエチルエーテルの火炎瓶を提供しよう」


 みんな黙って話を聞いているが、お園は今一つ納得が行かない顔だ。とは言え、とりあえず最後まで聞いてくれるらしい。


「ちなみにこの混乱に乗じて将軍方の三好政勝と香西元成が次の日に丹波宇津に攻め込んだらしい。それと、五月五日には長慶の岳父、遊佐長教って奴も殺されたんだと。ご愁傷様だな。ともかく、この時点で長慶を殺せれば嫡男の義興はまだたったの九歳。元服すらしていない子供だ。まあ、弟が四人も生き残っているので簡単には崩壊せんだろうけどな。さすがの松永久秀でもまだ手が出せないか?」

「まつながひさひで? 東大寺大仏殿に火をかけたり九十九髪茄子を銭千貫文で買ったって言ってたわよね。いったいどんなお方なの?」

「日本一有名な爆弾男だよ。でも、爆死したって話はフィクションだぞ。川角太閤記には久秀の首と平蜘蛛茶釜を火薬で砕いたって書いてあるだけなんだ。映像作品ってのは派手なシーンを欲しがるだろ。だからどんどんエスカレーションして今じゃ天守を大爆破する羽目になってる。黒色火薬にそんな破壊力があるかってんだよ。それでも久秀なら…… 久秀ならきっと何とかしてくれる…… きっと畿内の勢力図を無茶苦茶にしてくれるに違いないぞ」


 wktkを隠し切れなくて思わず頬が緩む。全員の『何言ってんだ……』という視線を大作は努めて無視した。


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