巻ノ百拾八 時空警察 の巻
深夜、ふとした気配を感じて大作は目を覚ました。テントの中はまだ真っ暗だ。しかし暗闇に慣れた目には外からのほのかな明るさが感じられた。
チラチラと赤い光が明滅している。まるでハイメディック救急車の前方上部に付いているLED警光灯みたいだな。
大作は夜中に近所のお年寄りが倒れて救急車がきた時のことを思い出す。夜間は住宅地ではサイレンを鳴らさずに来てくれたりすることもあるのだ。
もしかして急病人でも出たんだろうか。いやいや、救急車なんてくるわけないやん! 大作は寝ぼけ眼を擦りながら体を起こした。
「どうしたの、大佐。まだ、真っ暗よ」
「ごめんごめん、起こしちゃったかな? ちょっとトイレに行ってくるよ」
「暗いから足元に気を付けてね。厠に嵌ったりしないでよ」
大作の頭がだんだんとはっきりしてきた。念のためにスタンガンと催涙ガススプレーを懐に忍ばせる。
テントから出ると小屋の扉が開けっ放しになっているのが見えた。
不用心な話だな。くノ一連中は何をやっとるんだ。大作は心の中で突っ込む。
恐る恐る外の様子を伺うと意外な物が目に飛び込んできた。
「ブレードランナーのポリススピナーだ!」
驚きのあまり、大作は思わず声に出してしまった。あの映画の舞台は確か2019年のロサンゼルスだったっけ?
その途端、ガルウィングのドアが大きな音を立てて開く。中から二人の人影がゆっくりと現れた。
二人ともロボコップみたいな鉄仮面を被り、曲面で構成されたメタリックに輝くコスチュームを身に纏っている。何なんだこの滅茶苦茶な世界観は。大作は頭を抱えたくなった。
「これはバックトゥザフューチャー2のフューチャーカーですよ。色が黒いでしょう」
背の低い方が穏やかな口調で答える。身長は大作より少し低いようだ。
二人を観察した大作は左胸に階級章らしき物を見つけた。背の低い方は桜の花の下に線が三本、背の高い方は線が一本引かれている。
どうやら背の低い方が上司のようだ。
何者なのかさっぱり分からん。だが、敵意剥き出しってわけでは無いらしい。とりあえずは言葉のジャブだ。
「失礼しました。ポリススピナーはもっと青かったですよね。夜だったので見間違えました」
大作は愛想笑いを浮かべながら深々と頭を下げた。何に因縁を付けられるか分からん。とりあえずは謝っといた方が無難だ。
ブレードランナー関連商品は権利上の問題で商品化が難しかった。なのでこんなアクロバティックな権利処理をやったんだとか何とか。
「バックトゥザフューチャー2の舞台は2015年でしたっけ。あなた方もそちらからこられたのですか?」
「いやいや、これは君たちを驚かせないための配慮なんだ。僕たちは三十世紀から……」
背の高い方が得意げに答えようとする。それを背の低い方が手で制した。
「余計なことは言わんで宜しい。さて、あなたがここの責任者でしょうか?」
背の低い方が口角を上げて愛想笑いを作った。だが、鉄仮面で隠された目は笑っていないような気がしてならない。大作は警戒レベルを引き上げる。
「その前にあなた方はどちら様ですか? こんな夜中に何の騒ぎかと思いましたよ」
「これは申し訳ない。我々は時空警察の方からきました」
「方から? ジェイデ○カーとかそんなのですか?」
大作は6○○万ドルの男のテーマ曲っぽいメロディーを著作権に引っ掛からない程度にアレンジして口笛で吹いた。
「それは勇者○察でしょう。もしかしてヴェッ○ーのことを言いたかったんですか?」
背の低い方が苦笑しながら答える。
ジェイデッ○ーやヴェ○カーには突っ込んだのに6○○万ドルの男はスルーかよ。1990年代のアニメや2000年代の特撮には詳しいけど1970年代のアメリカ製ドラマは守備範囲外ってことなんだろうか? 大作は次の手を模索する。
って言うか、チーム桜の時みたいに名前を言う言わんで時間を浪費するのもアレだ。さっさと進めよう。
「拙僧は大佐と申します。ところでお二人は『ミリンダ王の問い』をご存じですか。人間の細胞はどんどん生まれ替わっています。胃腸は五日くらい、皮膚で一月、骨だって三年くらいで入れ替わるんですよ。脳や神経、心臓なんかはそのままですけど」
「何を言いたいんですか。大佐は階級に過ぎないから特定の人物では無いと言うことですかな? それにしても立ち話も何でしょう。車の中で話を聞かせてもらえませんか」
低い奴が手振りで車の方へ追い立てようとする。高い奴がさり気なく小屋の側に回って大作の退路を断つ。とは言え、決して腕や服を掴んだりはしない。
大作は素早くスマホの録音アプリを起動した。後で言った言わんの話になったら厄介だ。記録を取っておかねば。
「この取り調べは任意ですか?」
「いやいや、そんなに警戒しないで下さいよ。ちょっとお話を聞きたいだけですから」
「応援を呼びましょうか、主任」
高い奴がちょっと困惑気味に口を挟む。左手で咽喉マイクを軽く押さえ、右手は腰のホルスターに掛かっている。
ホスルターから飛び出しているグリップはどこからどう見てもスタートレックTOSのフェイザー銃だ。
何だか知らんけど世界観の混沌っぷりが半端無いな。って言うか、こいつら本物の警官か。大作の脳裏に仄かな不安が浮かぶ。
「落ち着いて、二人とも。銃から手を離さんか、新米!」
低い奴がドスの利いた声で制する。その剣幕に高い奴は急に大人しくなった。
こっちも応援を呼んだ方が良いんだろうか。大作は迷う。って言うか、くノ一連中はこの騒ぎに気付かず爆睡してるんだろうか。
任意同行なら理屈の上では拒否することは可能だ。とは言え、この手の手合いが『嫌です』の一言で素直に諦めるはずも無い。
それに任意同行を拒否したせいで『逃亡・証拠隠滅の恐れあり』として逮捕の根拠にされることもあり得ないでは無い。
「主任さんでしたっけ? 拙僧は善良な一般市民です。ご質問があれば何でも正直にお答えしましょう。ただし、場所はここでお願いします」
「分かりました。こちらこそ無理を言って申し訳ありません。ご協力いただければすぐにでもお暇しますんで」
主任と呼ばれた奴が愛想良く答える。その穏やかさが大作を反って不安にさせる。こういうタイプこそ用心せねば。
「それでは何なりとお尋ね下さい。分かる範囲でお答えしましょう」
「この人物をご存じですかな?」
主任が左手首に嵌めたブレスレットのような物を操作する。その途端、空中にホログラム映像が浮かび上がった。
そこに表示された立体映像はカーネル・サンダースに良く似たおっさんだ。大作は思わず息を飲む。
その様子を見た主任が大袈裟な身振りで手を広げた。
「おやおや、この人物をご存じでしたか?」
「いいえ、こんな男は初めて見ましたよ」
大作は必死にポーカーフェイスを作った。人は嘘をつく時に右上を見るとか言う話を聞いた気がする。
大作は無理に眠そうな目を装って主任を真正面に見詰めながら大きな欠伸をした。
だが、主任はそんな演技はお見通しだとでも言いたそうに口元を歪ませて笑う。
「ほほ~う、なぜ男だと分かったのですか?」
「ぎくぅ! いやいや、どっからどう見ても男でしょう。バースにちょっと似てるじゃ無いですか。こんな女がいますか?」
大作は必死に言い訳を考えるが良いアイディアが出てこない。
でも、まだ嘘は付いていない。覚えていないとか分からないとかなら偽証にならないはずだ。
「実は拙僧は失顔症とか相貌失認という病を患っております。カーネル・サンダースとランディ・バースの見分けも付かないんですよ」
「それはお気の毒ですね。なのに男と女の区別は付くと。不思議ですね。これっておかしくありませんか? 小さなことが気になるのが私の悪い癖でしてね」
主任の口元がさらに歪む。大作は猟師に追い詰められた獲物の気分だ。何とか立場を逆転できないものだろうか。
ちょっと待てよ。そもそも黙秘権や弁護士を呼ぶ権利について説明を受けていないぞ。この取り調べは無効だ。だったら何を話しても俺の勝手なんじゃね?
もちろん脅迫や犯罪予告の類いは駄目だ。でも、適当な話を延々とした挙げ句に勘違いだったって逃げるのはありなんじゃね?
いつ終わるとも知れないのらりくらりとした取り調べで被疑者の精神力を削るのは連中の常套手段だ。
でも、どうせこっちは三年後の戦まで暇を持て余している。だったら逆にこっちが引き伸ばせるだけ引き伸ばしてやろうじゃないか。
大作は邪悪な笑みを浮かべるとその場に腰を下ろした。
「結局のところ、あなたはこの人物を知っているのですか? それとも何も知らないのですか? せめてそれだけでも教えて貰えないでしょうか」
東の空が白み始めたころ、主任が心底から疲れ果てた様子で呟いた。
鉄仮面で見えないがきっと死んだ魚のような目をしているに違いない。
大作は内心でほくそ笑むが決して顔には出さない。
「その人物をその人物たらしめているのは結局のところ何なのでしょう。WANDSやC.C.ガールズ、モーニング娘は結成時のメンバーが途中で全員いなくなってしまいました。それでもグループ名は変わりません。大事なのは名前なんですよ。バイクや車なら車台番号、船舶ならIMO番号。その人の名前を教えて頂けませんか?」
大作は何十回目になるか分からない質問を繰り返した。そのたびに主任は苦虫を噛み潰したように口元を歪ませる。
なぜだか分からないが主任と新米は絶対にスカッドの名前を明かさない。
もしかして連中はスカッドの名前を知らないのかも知れない。あるいは大作の口からその名前を出させようとしているのだろうか。
所謂、秘密の暴露と言う奴だ。それを警戒して大作も絶対にスカッドの名前を出さない。
「あなた方が知りたいのはこの人のことだけでしょうか? もし他にも何かあるのなら一旦脇に置いといて別の話をしませんか。このままでは時間の無駄でしょう」
大作は迷った末に本音をぶつけてみた。本当なら向こうがギブアップするまで待ちたいところだ。
でも、もうすぐみんなが起きてくる。いくら時間がたっぷりあるとは言え、無限では無いのだ。
いつ終わるか分からない話で精神力を削られているのは向こうも同じこと。
こっちがホーム、向こうはアウェイなのだ。余裕のあるところを見せた方が優位に立てるかも知れん。
長い逡巡の末に主任が大きなため息をついた。苦悩に満ちた声で答えが返ってくる。
「分かりました。本音を言いましょう。この人物には時空法第百五十九条三項に違反した容疑が掛けられているのです」
「それって本当の話ですか? スティーヴン・ホーキングの時間順序保護仮説ってありますよね。過去へタイムトラベルなんてしたら量子力学的に場のエネルギーが無限大になるとかならんとか」
「スティーヴン・キングってホラー小説家の? そう言えば『11/22/63』はタイムトラベル物のSFでしたよね」
新米が小首を傾げながら相槌を打つ。
こいつ、時空警察のくせにホーキング博士も知らんのか。モグリじゃね? 大作は心の中で突っ込むが決して顔には出さない。
だが、続いて主任の口から出た言葉に大作は驚愕する。
「もしかしてあなたは他の時代から無理やり連れてこられたのではありませんか? 時空警察には別時代の人間を本来の時代へ強制送還することが認められています」
主任は大作の顔を真正面から見詰めて視線を外さない。斜め後ろに控えた新米も偉そうにふんぞり返る。
偉いこっちゃ~! 強制送還って言ったよな? 大作は内心の動揺を必死に隠す。
でも、俺が罪に問われているわけでは無さそうだ。座して死を待つより打って出ろだ。大作は決死の覚悟で逆襲に出る。
「他の時代? おっしゃる意味が良く分かりかねます。そもそもその時空法とやらが制定されたのはいつの話ですか?」
「宇宙暦 0401.7272ですね。西暦だと2323年になります」
「それって八百年近い未来ですよ。法律は専門外なんですけど法って遡及適用できないんじゃないですか? 事後法の禁止って罪刑法定主義の根本原則だとか何とか」
「いや、あの、その……」
そもそもこいつらが法治国家なのかどうかも怪しいけどな。大作は心の中で突っ込む。
しかし大作の意に反して凸凹コンビが動揺を見せる。やっぱり詐欺の類なのか? そもそも『時空警察の方から』って時点で怪しかったぞ。
「失礼ですが警察手帳を見せて貰えますか?」
「け、け、警察手帳? アレはアレですね。今日はちょっと…… 事務所、じゃ無かった、署に置いてきちゃって今は持っていないんですよ」
「時空警察には警察手帳規則五条みたいなのは無いんですか? 疑いたくはありませんが、身元を証明できる物を拝見したいのですが」
「そ、そ、そうですね。時間も時間ですし、次はちゃんと準備を整えてからお邪魔します。それでは、これを見て貰えますか」
主任は腰に吊っていた銀色の棒を手に取る。それを目の前に翳すと人差し指で示した。
これってMIBに出てきた記憶を消す奴だぞ。ニュートロンジャマー? じゃ無いな。ニュートロンジャマーキャンセラーでも無い。何だっけ。ニュートロジーナ……
眩しい光に包まれた瞬間、大作の意識は唐突に途切れた。
「そろそろ起きて、大佐。朝餉の支度ができたわよ」
翌朝、大作はお園の声で目を覚ました。何だか分からないけど酷く眠い。全然、寝た気がしない。
テントを畳んで食卓についた大作は考える。それにしても変な夢だったな。いやいや、本当に夢だったんだろうか?
そう言えば胸のあたりに異物感があるぞ。大作が懐を探るとスタンガンと催涙ガススプレー、そして録音アプリが起動した状態のスマホが出てきた。
夢だけど夢じゃ無かったのか? 画面を見ると四時間以上も録音データが溜まっている。
「お園、俺が夜中にトイレに起きたの覚えてるか? あれって何時ごろかな」
「そんなの知るわけないでしょう。夜の夜中だったわよ」
ですよね~ 大作はアホなことを聞いたと反省する。
それはともかく、これを再生すれば真相が分かるかも知れん。大作はwktkしながらPLAYボタンを押した、押したのだが…… 何も録音されていないやん!
これはひょっとしてアレか。ロバート・ゼメキス監督のコンタクトみたいなパターンかも知れんぞ。
やっぱり時空警察はいたんだろうか。そう思った瞬間、突如としてスマホから大音量で鼾が轟き響く。
全員の注目を浴びた大作は恥ずかしくて消えてしまいたくなった。
朝食をとりながらも大作の頭の中は時空警察で一杯だった。
あいつらは本当にいたんだろうか? もしいたとして本物なんだろうか? 仮に本物だとしたら時間順序保護仮説をどうやって回避したんだ? 奴らは法を遡及適用するつもりなのか?
分からん。さぱ~り分からん。いや、そんなことより……
「思い出した! ニューラライザーだ!」
大作はご飯を頬張ったまま大声で叫んだ。あまりに唐突だったので、みんながぎょっとした顔で睨む。大作はその視線を鋼の心臓でスルーした。
思い出せたってことは奴らはインチキだったんだろう。今度から、ああいう手合いが現れたら最初に警察手帳を見せて貰おう。大作は心の中のメモ帳に書き込んだ。
「今日は水曜日だよな。幹部会は月曜だし、次に水銀を蒸発させるのは来週の木曜か。いよいよもって本格的に暇になってきたぞ。とりあえず虎居にでも行ってみるか? 野鍛冶とか紙漉きとか金管楽器とか、いろいろ手配しなきゃならんし」
「私も一緒に行くのよね? 大佐一人じゃ心配だわ。ここには愛や今井様がれば大事無いわよ」
お園が完全に規定事実のように同行を主張する。大作としては巫女やくノ一、老婆への教育係を期待していた。でも、そんなことを言い出せる雰囲気では無さそうだ。
「藤吉郎と菖蒲も一緒にきてくれるか。愛、小隊毎に日替わりで鉄砲の訓練を受けさせてくれ。愛と舞も交代で受けるんだ。サツキと桜は教官を頼む。怪我にだけは注意してくれ」
「はい、大佐」
くノ一と巫女が声を揃えて機嫌よく返事する。大作はお園、藤吉郎、菖蒲を引き連れて山ヶ野を後にした。したのだが……
「未唯を忘れてた~!」
連絡将校がいないと困るじゃん。大作は未唯を呼ぶために駆け戻って行った。
虎居に続く山道を一行は西に向かって進む。その距離は約二十キロ。もう何回歩いたか分からないが、とんでもない距離だ。
これから先、いったい何回行ききしなきゃならんのかも分からん。もっと効率化する方法は無いんだろうか。大作は頭を捻る。
「せめて鉄道があったらな。地面の凸凹が無いと転がり抵抗が少ないだろ。新幹線なんて贅沢は言わん。トロッコで十分だ」
「とろっこ?」
「芥川龍之介やインディー・ジョーンズも乗った由緒正しい乗り物だ。確か語源はトラックが訛った物だったかな。新幹線を通すわけじゃないんだから60kgレールなんていらない。トロッコ用の6kgレールで十分だな。二十キロ敷くと…… 二百四十トンだと! 国内の年間消費量の一割くらいじゃね?」
「一貫目の鉄が銭一貫文だと銭六万四千貫文にもなるわよ」
間髪を入れずにお園が呟いた。お前は暗算の達人かよ! 大作は心の中で突っ込む。
「枕木だって三万本くらい必要だしな。下手したら鉄道が完成するより天下統一の方が先に終わっちゃいそうだぞ」
がっくりと肩を落とした大作は深い溜め息を付く。それを見た藤吉郎が怪訝な顔をする。
「鉄道でなければ駄目にござりますか? 木道ではいけませぬか?」
「そうだな。この時代のイギリスにはすでに馬車軌道ってのがあったらしいぞ。道に板を敷いてその上を馬車が走るんだ」
「道に板なんて置いてたら誰かが持って行っちゃうわよ」
お園が呆れた顔をする。そりゃそうか。大作も納得した。この時代の板はまだまだ高価なんだっけ。
大量発注したからといってディスカウントも無いだろう。仮に一メートル当たり銭百文としても二十キロだと…… 銭二千貫文かよ!
「やっぱ、こんな長距離を陸路っていうのが無理なんだ。アメリカだって長距離の移動には鉄道や自動車より飛行機を使うもんな。グライダーなんてどうじゃろ? この時代のテクノロジーでも合板モノコックや帆布張りで滑空比二十くらい出せないかな? ライト兄弟みたいにバラストを使ったカタパルトで高度五百メートルくらいまで打ち上げれば十キロくらい一っ跳びだ」
「ふぅ~ん」
お園の反応が酷く薄いので大作はがっかりする。まあ、どう考えても無理だよな。五百メートルまで上げようと思ったら千メートルくらいのロープが必要だ。
綿や麻でそんな物が作れるとは思えん。絹なら何とかなるか? いやいや、どんだけ金が掛かるんだよ。
それに、全長一キロもの地上設備を整備しなけりゃならん。数百メートルの滑走路に木製のレールが必要だな。
そもそも、戦国時代の技術で作ったグライダーに乗るなんて命が幾つあっても足らんぞ。やっぱ歩くしか無いのか。
大作は考えるのを止めた。




