巻ノ百拾四 お口にチャック の巻
翌朝、大作は例によって寝坊した。いやいや、寝たのが遅いんだから仕方ない。大作は誰ともなしに心の中で言い訳をする。
テントを畳んでいると、ほのかが意地の悪そうな笑顔を浮かべながら近付いてきた。
「ゆうべはおたのしみでしたね」
大作の耳元でそう囁くほのかはとっても嬉しそうだ。正直、そんなに楽しくはなかったのだが。とは言え、マジレスする空気でも無い。
「同じネタを二回繰り返すのを天丼って言うんだ。何でか知ってるか。天丼には海老の天麩羅が二本乗ってるからだぞ」
「てんぷら? なにそれ、美味しいの?」
もう、完全に食いしん坊キャラが板に付いたお園が横から話に割り込む。
「ポルトガル語で調理って意味のtemperoが訛った物だな。奈良時代だか平安時代には米粉を付けた揚げ料理が中国から伝わってたらしい。だけど、一升の油が百文もするんじゃ気軽には食べられんか。安い油が作れるようになるまで我慢してくれ」
「しょうがないわね~ 美味しい料理は時間が掛かるのよね。楽しみにしてるわ」
お園があっさり引き下がったので大作は安堵の吐息を付く。まあ、肝付で貰った食料が大量にある。暫くはあれで機嫌を取れるだろう。
「そうそう。お園、指輪を寄越してくれ。ほのかとメイの指輪を貰ってきたぞ」
大作は二人の手を取ると指輪を嵌めた。ふわふわと柔らかく、少し暖かい女の子の手の感触にドキっとする。思わず頬が緩みそうになるが必死に真面目な顔を崩さない。
「うわぁ~ ありがとう、大佐」
「うれしいわ。大事にするね」
ほのかとメイがうっとりした顔で指輪を見詰める。それを横目で睨みつけているお園の表情が怖い。もしかして妬いてんのか? 何か話題をそらさねばと大作は焦る。
「ところで、あの小屋はどうしたんだ?」
「今井様が横川から寄越してくれた大工さんが立て直したのよ」
舞が横から割り込んで答える。大工さんが一晩でやってくれましたってか? それはそうと、大工の日当って一日銭百文くらいだっけ。高額の請求書を想像して大作は顔を顰めた。
「それで、今井様はどこに行ったんだ?」
「また横川に行かれたみたいね。人を集めるって申されてたわ」
そのために先に労働者の住宅を整備したわけか。逃げたんじゃないかと疑っていたけど、ちゃんと仕事してくれてたんだ。大作は心の中で宗久の評価を二段階ほど引き上げた。
そんな話をしている間に娘たちがゾロゾロと集まって整列する。
「あれ? 愛、また人数が増えたみたいだな」
「私も入れて巫女は二十五人よ。お園様を入れると二十六人になるわ。孤児院の噂を聞いて遠くからきた娘もいるわよ」
愛が手振りで何人かの少女を指し示した。大作は精一杯の自然な笑顔を浮かべて会釈する。娘たちもぎこちなく笑い返す。
もう運命に抗うのは止めよう。別に巫女軍団が千人になろうが一万人になろうが知ったこっちゃ無い。大作は考えるのを止めた。
「そんじゃあ、朝礼にしようか。今回、蒲生と肝付の視察旅行によって新たな知見を得ることができた。その成果は皆にも追って伝えるつもりだ。さて、巫女軍団の人数も増えたことだ。これを三つの小隊に分けようかと思う。愛、あとで小隊長を選んでくれ。それと舞。お前は今日からチーフマネージャー補佐として愛の副官を務めてくれ。未唯、お前には連絡将校を頼む。ヒトラー総統も若いころは伝令兵をされておられた。チーム内の情報を共有するための大事な役目だ」
「はい大佐、気張ってお勤めいたします!」
良い返事だけど本当に分かってるんだろうか。まあ、ちょっくら鍛えてやろう。大作は考えるのを止めた。
ラジオ体操を済ませた一同は輪になって朝食をとる。干し鰹で味付けした雑炊の美味しさに大作は感動を禁じ得ない。お園の機嫌も一気に直ったようだ。
「鰹出汁って美味しいわね。味噌や塩とは比ぶべくも無いわ。もしかして、高いのかしら」
「鰹っていくらくらいするんだろうな。一匹で十二文とか二匹で八十文とか見たことあるから安くは無さそうだぞ。とは言え、肝付がくれたんだ。手が出ないほど高いってことも無いんじゃね?」
「これは何としても手に入れねばならないわ。必ずよ」
お園が真剣な顔をして何度も頷く。鰹出汁は和食の原点だから無理も無い。大作は鰹節に関する記憶を辿る。
室町時代、すでに鰹節の原型のような物はあったらしい。だが、紀州で燻製が作られるのは江戸時代に入ってからだ。
表面のカビは当初、人為的に付けられていたわけでは無かったんだとか。悪いカビが発生しないよう、わざと良いカビを生やすという思い切った発想が画期的だ。
そのためにはカツオブシカビっていう特別なコウジカビが必要になる。
Wikipediaにはカビが何種類あるか書いて無い。前にネットで見た情報によれば三万種類だとか七万種類だとか。二十万種類以上とか六十四万種類なんていうのまであって何を信じて良いか分からない。コウジカビだけでも百五十~百六十種類くらいあるらしい。
例に寄って膨大なテストを繰り返すしか無いんだろうか。間違ったカビを生やして失敗作を量産する未来しか見えない。
とは言え、上手くやればペニシリンみたいに有用な副産物が得られるかも知れん。早急にもプロジェクトの立ち上げ……
「大佐、いつまで食べてるの。みんなとっくに食べ終わったわよ」
メイに声を掛けられた大作は我に返る。慌てて雑炊を掻き込むと食器を洗いに川原へ向かった。
連絡将校の未唯を残して巫女軍団が五平どんの村へ作業に向かって去って行く。それと入れ代わりに五平どんを先頭に老婆たちがやってきた。大作は揉み手をしながら頭を下げる。
「お久しゅうございますな、五平どん。相変わらずお元気そうで何よりで」
「これはこれは、大佐様。無事にお戻りになられて何よりにございます」
当り障りの無い挨拶しながら大作は五平どんの顔色を窺う。頼みごとをしても大丈夫だろうか。大作はダメ元で頼んでみる。
「実は折り入ってお願いがござります。お手伝いをお願いしております嫗の方々に読み書きを覚えて頂きとうござります。勿論、日当はお支払い致します」
「大佐様の仰せのままに。しかしまた、如何なる由にてそのようなことを?」
「男女共同参画社会を作るためにござります。五平どんはリー・ヴァン・ヴェーレンの赤の女王仮説をご存知かな? 鏡の国のアリスにおいて赤の女王は申された。『その場にとどまるためには、全力で走り続けなければならない』と。いつ終わるとも知れぬ戦国乱世において、ぼ~っと突っ立っておっては生き残れません」
大作は言葉を一旦区切って五平どんの目を真正面から覗き込む。ギリギリ話に食らい付いているようだ。大作の悪戯心に火が付く。これは何としても振り落としてやらねば。
「ご存じの通り、人という生き物は有性生殖を行っておりますな。ゆえに無性生殖に比べて繁殖効率は半分にすぎません。しかるに、世の男どもは子育ても手伝わず、その労力を性選択へ振り分けております」
「へ、へぇ……」
「ダーウィンは人の性淘汰を調査し、男が女を性選択したと考えたそうな。さりながら性的二形、実効性比、全世界のY染色体やミトコンドリアDNA分布を調べると女が男を性選択したとする説が有力にございます。しかれども昨今は男が女を性選択しておるのではござりませぬか?」
五平どんが死んだ魚のような目をしている。振り落としには成功したけれど、ここからどうやったらリカバリーできるんだろう。大作は頭を抱えたくなった。
「つまるところ子供を産むのは女。されば性選択も女が行うが道理にございましょう。教育水準の向上に伴って女性は社会に進出。生活の自立が促進されまする。出生率は三に近付く。ばんざ~…… まあ、読み書きの話はどうでも宜しかろう。それと、もう一つお願いしたい。近々、横川からも人が大勢参ります。五平どんには総括安全衛生管理者を務めて頂きたい。勿論、手当もお支払い致します」
「そのような大役、儂に務まりましょうか」
「五平どんの丁寧な仕事ぶりにはいつも感心するばかりにござります。今まで通り、手順がしっかり守られておるか目を光らせて頂くだけで結構。人手が足りぬようなら言うて下されば手伝いを出しましょう」
本当を言えば五平どんの仕事ぶりなんて全然知らない。まあ、使えんようならすぐに首だ。大作は五平どんの肩を軽く叩いて話を打ち切った。
「それじゃあ幹部要員は集まってくれるか。いまから幹部会議を開く」
「誰がかんぶよういんなの?」
ほのかが小首を傾げる。首が左に傾いていると右脳を使っているんだっけ。ってことは知覚や感性を働かせているってことか?
それはそうと頸動脈が通っている首筋を相手に晒すという行為は相手を信頼している証だって話もある。たかが首を傾げるだけで命懸けかよ! 大作は心の中で突っ込む。
「それくらい察しろよ。リーダー継承権を持つ者だ。お園、ほのか、メイ、サツキ、桜、愛、藤吉郎だな。しまった~! 愛は村に行っちゃったぞ。参ったな」
「走って追い掛けましょうか?」
くノ一の中から女が一人進み出る。こいつ誰だっけ? 大作は記憶を辿る。菫だったかな? 足に自信があるとか何とか。
「日向までご苦労だったな。菫? せっかくだけど遠慮しておこう。そんで何だっけ? そうそう、幹部要員はさっき言ったメンバーだ。あと、未唯。お前は連絡将校だから同席してくれ。今回はくノ一も同席してもらおうか。ただしオブザーバーだぞ。議決権は無い」
「心得ました」
なぜだか菫がくノ一を代表するように返事をする。本当に分かってんのかよ? 大作は心の中で突っ込んだ。
「それでは、ただ今より第一回幹部会を開催します。え~っと、今日は何日だっけ?」
「五月二十五日よ」
お園が間髪を入れず即答した。大作はスマホの西暦和暦変換アプリを起動する。
「天文十九年五月二十五日はユリウス暦で1550年6月10日だから火曜日か。来週からは月曜朝に幹部会を開こう。全員出席してくれ」
「げつようびね。分かったわ」
どいつもこいつも本当に分かってるんだろうか。大作は適当に返事されてるような気がしてならない。
って言うか、タイムスリップから二ヶ月と十日しか経っていないのかよ! こんな調子だとアメリカ日本化計画に何十年掛かるんだろう。大作は早くも気が滅入ってきた。
「まずは悲しいお知らせからだ。サツキや桜たちにはすでに話したことだが五日前からスカッドとの連絡が取れなくなっている」
「すかっどって誰?」
ほのかの首が大きく傾く。今度は右に首が傾いている。ってことは左脳を使っているのか? でも、思考や論理を働かせているようには見えない。
「順を追って説明するよ。俺がこの時代にやってくる切っ掛けを作ったカーネル・サンダースみたいなおっさんだ」
「そのお方も大佐だったわね?」
「悪いけど一通り説明するまで黙って聞いてくれるか? お口にチャックだ」
大作は口を閉じ、唇の端から端までスライダーを動かすジェスチャーをする。その途端、ほのかが目を輝かせた。
「ちゃっくって何?」
「線ファスナーのことだよ。アメリカでは速いって意味の擬音、ジップからジッパーって呼ばれてる。日本のチャック・ファスナー社が巾着と掛けてチャック印で商標登録したらしい。そ・れ・で・だ・な。質疑応答は後ほど受け付けます。質問の際には必ず挙手の上、許可を得てからお願いします。次に許可なく発言した人は退席して頂きます」
大作に鋭い目で睨みつけられたほのかが身を縮めている。ちょっとは空気を読めよ! 大作は心の中で毒づいた。
「話を戻そう。スカッドと連絡が付かん。最終回の件が立ち消えになったのか、延期になっただけなのか、はたまたスカッドの存在自体が俺の夢だったのかすら不明な状況だ」
全員が真剣そうな視線を送ってくる。だが、先ほどの一言が効いているのか誰も口を挟まない。とは言え、相槌すら無いのは寂しいぞ。大作は身勝手なのを承知で心の中で愚痴る。
「もし延期なら、ほっといても勝手に終わる。夢ならどうしようも無い。問題は宙ぶらりんの状態だな。今まで受けられていた支援が受けられないとか何とか。イージーモードがノーマルモードになっちまったかも知れん」
みんな相変らず口を噤んでいる。これは寂しいぞ。って言うか、間が持たん。大作は早くもギブアップした。
「ごめん、さっきのは無しな。みんな言いたいことがあったら好きに話して良いぞ。って言うか、頼むから何か言ってくれ」
「分かったわ。でも大佐、夢か現かも分からないんじゃあ、どうしようもないわよ。考えてもしょうが無いんじゃない?」
待ちに待ったという顔でほのかが口を開く。
「exactly! 考えるだけ無駄だ。別にハードモードになるわけじゃ無し。ケセラセラだな。この話はおしまい。問題はこれから何をするかだ。さ~、みんなで考えよう!」
「金山を大きくして島津との戦に備えるんでしょう? 鉄砲に火薬や弾、ジエチルエーテル。いろいろ作るって言ってたわね」
少し間を置いてお園が相槌を打った。その顔には『しょ~がないわね~』と書いてあるようだ。
「いやいや、それは手段であって目的じゃ無いだろ。何て言ったら良いのかな。ヒッチコック監督の作劇術にマクガフィンってのが出てくる。作中人物の動機となる物だな。エ○ァンゲリオンの人類補完計画とか、ルパンにとってのゴート札とか。今の俺たちにとってのマクガフィンって何だ? チーム全員が一丸となって目指すべき目標、目的、夢。壮大な計画にはグランドデザインが必要なんだ。それが無いとどこへ向かって良いか分からんだろ」
「アメリカ日本化計画かしら。これも手段かも知れないわね。大佐は何だと思うの?」
「知らん! って言うか、分からんから聞いてるんだろ。もともとこの時代の人間だったお前らなら良いアイディアが出るんじゃね?」
がっくりと肩を落とす一同を目の前にして大作の心は折れそうになる。
マキャベリは君主論で『愛されるより怖れられる方が良い』とか書いていたっけ。だけど大作はそんな生き方は真っ平御免なのだ。
それに『憎まれないようにしろ』とも書いてあった気がする。それって無理ゲーじゃね?
パットン将軍は上官に嫌われ、部下に憎まれたそうだ。そんな人生の何が楽しいんだろう。絶対に勘弁して欲しい。
「まあ、いきなり言われても出てこないよな。次回までにオブザーバーのみんなも考えておいてくれるか。未唯、巫女軍団にも伝えておいてくれ」
「はい、大佐」
とりあえず責任転嫁できた。大作は一つ肩の荷を下ろした気分になる。とは言え、肩の荷はまだまだ残っている。
「じゃあ、次の議題。島津との戦は三年後を予定しているけど、それまでに何をするかだ。さっきと違って今度は具体的な話だ。必要不可欠な物と無くても困らない物に事業仕分けを行う。そしてプロジェクト毎に責任者を決めて細かいスケジュールを引くんだ。必要な物から上げようか。煙硝が千貫目くらい必要になる。担当は愛だ。硫黄と木炭は普通に手に入る。火薬の製造は藤吉郎に頼む。とても大事な仕事だぞ」
「心得ました。お任せ下され」
やっとセリフを貰えた藤吉郎が嬉しそうに答える。危険物取り扱いなんて女の子にはさせられん。そんな本音を大作はおくびにも出さない。
「硝石丘は三年後には間に合わん。とは言え、時間が掛かるからこそ早めに始めねばならん。悩ましいところだな。この件は伊賀からくる追加の忍びに任せよう。鉄砲と弾は青左衛門に任せとけば大丈夫だろう。スケジュール管理は茜に任せる」
大作はくノ一の名前なんて覚えていなかったので適当に言ってみる。
「御意」
予想外の方向から返事が返ってくる。だが、大作はポーカーフェイスを崩さない。こいつが茜だな。大作は心の中のメモ帳に書き込んだ。
「ジエチルエーテルは三年後に必須だ。そのためには硫酸も必須となる。まずはエタノールだ。窯元に頼んで蒸留塔を作って貰わねばならん」
ふと視線を感じて顔を上げるとくノ一の一人と目が合った。大作にはその表情がとても興味深そうに見える。
「君、名前は何だったかな?」
「牡丹にございます」
「いやいや、それは知っとるよ。苗字を聞いとるんだ」
大作はアナザーストー○ーズで見た田中角栄のネタを使ってみる。この方法なら名前を忘れたことを誤魔化せるのだ。
江戸時代の庶民は苗字を公に名乗れなかったって話は有名だ。だが、室町時代には中下層の農民も普通に名乗っていたらしい。こいつも古い秘密の名前を持っているに違い無い。いやいや、もしかしてこの時代なら名字なのか?
「山中と申します」
「そうそう、そうだった。良い名前だな」
「されど、我らはみな山中にございます。紛らわしい故、名でお呼び下さいませ」
が~んだな。出鼻をくじかれた。この話題は引っ張らない方が吉なようだ。
「牡丹は蒸留塔とエタノール担当だ。次に虎居に行く時に窯元に一緒にきてくれ。硫酸とジエチルエーテルは伊賀からくる忍びに任せる。アセトンは急がないな。雛罌粟に頼む」
「恐れながら雛菊にございます」
怖い目で睨まれた大作は震え上がる。って言うか、雛罌粟が渡来したのは江戸時代だっけ。また失敗してしまった。これでツーアウトか? 後が無いぞ。
それはそうと、まだ六人も残っているのか。楓と紅葉は区別が付かんけどペアなら分かる。菫も顔は分かっている。残り三人は顔も名前もさっぱり見当が付かない。大作は素直にギブアップした。
「え~っと。まだ、担当を決めていないのは誰だっけ?」
「我らにございます」
六人が少し前に進み出る。『名乗れよ~』と大作は心の中で念じる。だが、暫しの沈黙の後に全員が首を傾げた。しょうがない。手を変えるか。
「ぽ~ん。お客様の中にコークスを作ってみたい方はおられませんか? 筑前国遠賀郡では室町時代後期から燃料として石炭を使ってるらしい。焚石とか燃石とか焼石って呼んでるそうな。今井様に頼めば手に入らんことも無いだろう。史実ではエイブラハム・ダービーって奴が1709年にコークスで製鉄を行ったんだと。副産物として石炭ガス、軽油、コールタールが得られる。木材の防腐剤に使えるしトルエン、ベンゼン、フェノールも分留できる。石炭ガスを有効活用するために平炉でも併設しよう。やりたい人?」
六人が互いに牽制しあっているようだ。まあ、いきなり石炭からコークスを作りたいかって聞かれたら俺だって戸惑うな。大作は反省する。
とりあえず安全パイから行くか。
「菫に頼めるか?」
「心得ました」
短い返事と共に菫が軽く頭を下げる。楓と紅葉、そして名前も分からない三人のくノ一に見詰められた大作は額の汗を拭った。




