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巻ノ百四 シュレーディンガーの殿様 の巻

 大作たちが材木屋ハウス(虎居)から表に出ると空は一面の曇り空だった。今にも降りそうといった感じでは無いが先のことは分からない。傘なんて無いので雨が降ったら簑を使うしか無いだろう。


 大作たちはまずは青左衛門の鍛冶屋に向かった。

 昨日、今生の別れみたいな挨拶をしておいてすぐに会いに行くのは格好が悪い。とは言え、背に腹は代えられない。


 鍛冶屋では朝も早くから若者たちが忙しそうに働いていた。大作たちが近付くと青左衛門が声を掛けてくる。


「大佐様、このように朝早くから如何なされました」

「急な話で申し訳ありませぬが蒲生様のところに鉄砲を売り込みに行くことになりました。何丁かお借りできますかな」

「それは骨折りなことにございますな。先行量産型で試射の済んだものが三丁ございます。それと、試作型も三丁残っております」


 そう言いながら若い鍛冶屋は鉄砲を並べて行く。こんな変てこな鉄砲でも六丁並ぶと壮観な眺めだ。大作はささやかな満足感を覚える。

 三の姫に一丁やったんだっけ。あれってやっぱ、俺が買い上げたことになるんだろうな。って言うか、一丁いくらなんだろう。


「この鉄砲、拙僧で買い上げさせて頂いて宜しゅうございますか。一丁いくらになりましょう?」

「向こう三年で千丁作るとして…… 手前どもの儲けも含めて銭三貫文で如何にございましょう?」

「銭三貫文で宜しいのですか? まあ、鉄の値が上がるようなことがあれば価格改定いたしましょう。日高様と三の姫様の分を合わせて八丁で銭二十四貫文ですな。申し訳ありませんが今日は持ち合わせが御座いません。掛け払いでお願い致します」

「いやいや、いつでも結構にございます。入来院様、東郷様に加えて蒲生様にまで鉄砲の口利きをして頂けるとは喜びに堪えませぬ。相構へていざ給へ」


 玉鋳型、火縄、メンテナンス用の椿油、計量用の(さじ)、木を削ったり竹筒で作った早合の試作品もいくつかサービスで付けてくれた。

 弾と火薬は一丁当たり百発を用意して貰う。火薬は大作たちが作った物なので今回は弾代と相殺となった。

 時期を見て弾や火薬の原価計算もきっちりやらなければ。大作は心の中のメモ帳に書き込んだ。


 油紙を貰って鉄砲を一丁ずつしっかりと包み、一人ひとりが一丁ずつ抱える。火薬は油紙で包んだうえに大きなジップロックに入れた。


「これが鉄砲なのね。随分と重いわよ」


 お園が不満そうに口を尖らせる。メイやほのかは文句の一つも言わずに運んだというのに。大作はちょっとイラっとくる。

 だけど、ここで拗ねられてもかなわない。無理やりに笑顔を作る。


「俺が二丁持つよ。弾はくノ一が交代で運んでくれ」

「そんなつもりで言ったんじゃ無いわ。私も持つわよ」

「巫女頭領のお園様に荷物など運ばせるわけには参りませぬ。我らにお任せ下さりませ」


 桜がすかさず口を挟む。胡麻すりか? 自然に気遣いが出来るのは素晴らしいけど、笑顔くらい作れば良いのに。

 って言うか、チームのリーダーは俺だぞ。俺には荷物運びさせても良いのか? 大作は心の中で突っ込むが口には出さない。


 鉄砲が一丁で二キロ、弾薬が百発で二キロ。結構な荷物だ。

 虎居城までならともかく、蒲生城まで半日もこれを抱えて歩かねばならんとは気が重い。

 歩兵の携行弾数を増やすためにも小口径高速弾の実用化を急がねばならんな。大作は心の中のメモ帳に書き込んだ。




 虎居を後にした大作たちは未来の国道二百六十七号線を南下する。周囲には青々とした田畑が広がっていた。


「この道は途中までは入来院の清色城を訪ねた時にも通った道だよな。あの時も行き当たりばったりのアポ無し突撃訪問だったっけ」

「どうなるか分からないから人生は面白い。だったわよね?」


 お園の少しタレた大きな目が悪戯っぽく微笑む。こいつも胆が座ってきたな。大作は素直に感心する。

 それに比べてくノ一の四人は表情が硬い。特に楓と紅葉の緊張ぶりはちょっとアレだ。まだまだ経験不足なんだろうか。

 まあ、こういうのは場数を踏んで慣れるしか無いのかも知れん。大作は緊張を解き解すため、適当な話第を探す。


「今から行く蒲生(かもう)について簡単に予習して置こうか。まずは『がもう』じゃ無いぞ。人の名前を間違えるのはとっても失礼なことだから気を付けろ」


 大作が視線を感じて楓と紅葉に目をやると二人とも怖い顔をして睨んでいる。あれ? 紅葉と楓だっけ。まあ、どっちでも良いか。


「蒲生の十六代当主は越前守(えちぜんのかみ)茂清(しげきよ)って奴で今年に四十六歳で亡くなるってWikipediaに書いてある。でも、何月に死ぬかは分からん…… 何だと! 参ったな。今、生きてるかも分からんのかよ」

「日高様か安部様に聞いておけば良かったわね。でも、心構えが出来ただけましよ。行ってから気付いたら大事だったわ。道すがら人に聞いたらどうかしら」

「いや、着いてからのお楽しみにしておこう。今は五月だから茂清が生きてる可能性は六分四分ってところか。シュレーディンガーの猫みたいだな。俺たちが蒲生に着くまで半分生きて半分死んだ状態が重なり合っているんだ」


 お園はまたいつものが始まったのか、といった顔で軽く聞き流している。

 さり気なく、くノ一たちの顔色を伺ってみるが例によって仏頂面を崩さない。

 こいつらを何とかして爆笑させられんだろうか。よし、今回の旅のテーマはそれに決めたぞ。大作は心の中のメモ帳に書き込んだ。


「それにしても、うぃきぺでぃあって案外と頼りないのね」

「失礼なこと言うもんじゃ無いぞ。Wikipediaは独立性を守るために一切の広告を掲載しないんだ。寄付金だけでサーバー維持費やシステム管理費を賄っているそうだ。ちなみに日本人による寄付は最低水準らしいな。いやいや、俺は毎回ちゃんと寄付してるぞ。ジミー・ウェールズからお願いメールが届くんだ」


 ケチな奴と思われたくなかったので大作は咄嗟に嘘を付く。本当は一回しか寄付したこと無いのだ。あの広告が出るたびに鬱陶しいなと思いながらそっ閉じしていることは秘密だ。


「話を戻そう。蒲生の先代当主、充清には男子がいなかった。そこで茂清を婿養子にした。実の父は種子島忠時だ。鉄炮記に出てくる種子島時尭は茂清から見て甥っ子にあたるな。ところが茂清が婿入りした後に充清の妻が清親ってのを産んだらしい。蒲生に居場所が無かった清親は入来院を頼り、島津方に付いたんだと。うわ~、面倒臭い家族関係だな」

「私、だんだん行くのが嫌になってきたわ。誰か代わりに行ってもらうわけには行かないのかしら」


 お園が渋い顔をしている。失敗したか? 掴みで失敗すると盛り返すのは至難の業だ。大作は頭の中で情報を整理する。


「去年の戦では肝付氏庶流の肝付兼演って奴が島津方の吉田城を攻めたんだっけ? 蒲生や渋谷三氏も味方に付いた。伊集院、樺山、北郷、菱刈は島津に付く。なのに言い出しっぺの肝付が最初にギブアップした。でも、四年後の戦では菱刈は反島津だよな。こいつら、何のために戦ってるんだ? わけが分からないよ。まあ良いか。そんで、茂清の跡を継いだのは十七代範清(のりきよ)って奴なんだけどWikipediaに項目すら無いような雑魚中の雑魚だ。いやいや、それは流石に失礼か。世の中の大抵の人はWikipediaに項目なんて無いもんな。信長が野望を抱くゲームでは大永四年(1524)生まれになってるらしい。ってことは二十六歳だから大殿より少し年上だな」

「入来院のお殿様なんていつ生まれたのかも分からなかったわよね。いつお亡くなりになるかは分かるの?」


 相槌は打ってくれるがお園の興味は引けていないようだ。大作の目にはどこか上の空に見える。


「祁答院の岩剣城が落ちた後も蒲生は三年に渡って徹底抗戦した。だけど菱刈が壊滅的な敗北を喫して菱刈重豊も自刃する。弘治三年(1557)四月二十日、遂に範清は蒲生城に火を放って祁答院に亡命。祁答院が滅んだ後は入来院で居候生活して下青木門で病死って書いてあるぞ。隈之城大源寺に葬られたらしいけど二十一世紀には墓も残っていないそうだ」

「お気の毒ね。でも、うぃきぺでぃあが無くてもそれだけのことが分かるのね」


 お園が感心してるんだか呆れてるんだか分からないような反応を返す。

 とりあえず退屈はしていないらしい。大作はちょっとでも面白い話が無いかとスマホの中を探し回る。


「蒲生の始祖、上総介(かずさのすけ)舜清(ちかきよ)は山伏だったって仮説を司馬遼太郎は立ててるな。こいつの父親、藤原教清は宇佐八幡宮留守識だとか鎌足から数えて十五代目だってことになってる。そんで母親は大宮司の娘だ。でも、そんな凄い奴が蒲生みたいな僻地に飛ばされて来るって変だろ? まあ、何かわけありなんだろうな」

「山伏と大宮司の娘の身分違いの恋ね。とって『ろまんちっく』だわ」


 お園がうっとりした表情で呟く。こいつも年頃の乙女なんだな。恋愛絡みの話になった途端に食いつきやがった。

 でも、そんな良い話だったんだろうか。どっちかと言うと結婚詐欺の(たぐい)じゃね? 大作は心の中で突っ込みを入れるが空気を読んで口には出さない。


「え~っと。教清が父親だと主張している従三位藤原通基(みちもと)って奴は関白太政大臣藤原教通(のりみち)の次男なのか。後三条天皇の生母が藤原じゃ無いから藤原摂関家が衰退したんだっけ? 怪しさ大爆発だな。まあ、四百年も前の話なんて死ぬほどどうでも良いか」

「それより今の蒲生はどうなっておられるのでしょうか?」


 今まで黙って聞いていた桜が急に話に割って入る。相変わらずの無表情だ。この話題で笑いを取るのは難しいかも知れん。大作は必死になって面白そうな話を探す。


「島津が守護としてこの地にやって来るのは源頼朝の時代だな。蒲生は大人しく島津の支配に従ったようだ。十一代の清寛は薩摩・大隅守護、奥州島津家の七代元久と八代久豊の家老を務めたらしい。でも、島津宗家の内紛をチャンスだと思ったんだろう。それに、茂清が家督を継いだ後に清親が生まれてきた影響もあったのかも知れんな。とにかく、今は反島津で一致団結してるのは間違いなさそうだ」

「信じるに足るお方にございましょうか?」

「信長が野望を抱くゲームでは義理が一桁だったな。でも、島津は三州統一の野望を隠そうともしていない。蒲生も島津の支配を受け入れるつもりは毛頭無い。先のことは分からんが薩摩を倒すまでは仲良く出来るだろう」


 桜が納得したように深く頷く。くノ一たちの表情も僅かに綻んで見える。

 笑いを取るという目的は果たせなかった。だが、ちょっとは心の垣根が低くなったようだ。大作は胸を撫で下ろした。






 小一時間ほど歩いたところで道を左に逸れて山道を東に進む。しばらく行くと南北を山に挟まれた狭い平地が細長く広がっていた。

 川内川の支流の久富木川に沿って歩く。両岸に歪な形の小さな水田がジグソーパズルのように並んでいる。青々とした稲がそよ風に揺らめく姿が牧歌的だ。

 稲の成長具合から見て二期作をではなさそうだ。って言うか、二期作っていつごろから始まったんだっけ?


「土佐で二期作が始まったのは1761年って書いてあるから江戸中期だな。追い詰められた百姓が切羽詰まって始めたらしいぞ。その気にさえなれば九州南部でもやれんことは無さそうだ。でも、土地が痩せそうだよな」

「それって二百年ほど先よね? 年に二度お米を作れるようになるのは四百年先だって言ってなかったかしら」


 例によってお園が細かいことに食いつく。そんなこと言ったっけ? さっぱり重い打線。でも、完全記憶能力者が言ってるんだからそうなんだろう。大作は考えるのを止めた。


「そうだっけ? たぶんそれは沖縄の話だよ。それはそうと糞尿を発酵させて肥料として使いだしたのは鎌倉末期からだよな。おかげで農業生産性は飛躍的に伸びたらしい。だったら二期作もチャレンジする価値はあるかも知れんぞ。台風シーズンを避けるってメリットも期待できるのか?」

「稲刈りのすぐ後に田植えをするの? お百姓さんは大層な骨折りね」

再生茎(ひこばえ)って言って稲刈りした切り株からもう一回生えてくるのを育てる手もあるぞ。肥料をちゃんとやれば一回目の半分くらいは採れたんだって。稲刈り機や足踏み式脱穀機で省力化できればワンチャン狙えるぞ」

「秋から冬に稲が育つのかしら。いくら筑紫島でも冬は寒いんでしょう?」


 お園が小さく首を傾げる。この話題は駄目っぽいな。大作は強引に話題の転換を図る。


「そもそも五月雨前に田植えするから育ちが悪いんだ。三月に田植えすれば日当たり良好で良く育つ。夏の早い時期に稲刈りすれば冬までに何とか育つんじゃね? ちょっと待てよ。戦国時代って小氷期だっけ」

「しょうひょうき?」


 八世紀から十三世紀、日本が平安時代だったころの気温は二十一世紀より三度くらい温暖だったそうだ。

 おかげでヴァイキングがグリーンランドやヴィンランドに入植したり、モンゴル帝国が急激に拡大できたんだとか何とか。

 それが室町時代に入ると急変する。大坂夏の陣から一月ほど後の江戸で雪が降ったなんて話も残っているくらいだ。

 氷床コア中のベリリウム10濃度を測定すれば過去の気候は詳しく分かるらしい。十四世紀から十九世紀の太陽活動は大幅に低下していたそうだ。


「小さな氷河期ってことだ。もっと長いスパンでみると最終氷河期は一万年前に終わって今は間氷期なんだけどな。1420~1570年はシュペーラー極小期って言って太陽活動が低下してたんだ。1645~1715年にはマウンダー極小期って言うもっと凄いのも来るぞ。太陽磁場が四極化とか何とか」

「どういうことかしら。二十一世紀は今より暖かいってこと?」


 お園が眉間に皺を寄せて考え込む素振りを見せる。この話題も駄目なのか? 追い詰められた大作は少し早口になる。


「地球温暖化だからな。他にもミランコビッチ・サイクルって言うのもあるぞ。地球軌道の離心率の変化、地軸の傾きの変化、歳差運動の変化が入り混じったややこしい計算だ。過去八十万年では十万年周期で起こっているらしい」

「随分と長い年月の話ね。どれくらいなのか皆目見当も付かないわ」

「もっとスケールの大きな物もあるんだぞ。たとえば太陽系は一億四千万年周期で星の密度が高いスパイラルアームを出たり入ったりしている。コズミックフ○ントで萩原さんが言ってたんだ。星の密度が高いと超新星爆発も多いから宇宙線も増える。すると宇宙線が大気中の水蒸気に衝突して雲が増える。雲が太陽光を反射するから地球が寒冷化する。ばんざ~い! ばんざ~い! 銀河系内を恒星が動く速度を観測した結果、地質学的な調査結果と一致したそうだ。そんなんと比べたら小氷期なんて日々の天気の移り変わりみたいなもんだ」


 お園の大きな瞳に好奇心の炎が灯る。やっぱ、こいつには天文学関連の話題に限るな。大作は良好な反応に胸を撫で下ろす。

 しかし、くノ一四人組の顔色を窺うと全く話に付いてこれていないようだ。

 これは不味いな。垣根を下げるどころか超大型の巨人ですら越えられない壁が出来た気がするぞ。

 まずは、そのふざけた壁をぶち壊す!!


「四人にはちょっと分かり辛かったかな? 一年が春夏秋冬を繰り返すみたいに氷河期と間氷期も繰り返しているんだ」

「つまるところ、(いにしえ)の寒暑を尋ぬれば先々の風気も推すことが叶うのでございましょうか?」


 やっと桜が話に加わって来るが相変わらずの仏頂面を崩さない。何でも良いから笑える話題を出さねば。大作は頭をフル回転させる。


「いやいや、突発的な気候変動もあるぞ。超新星爆発によるガンマ線バースト、巨大隕石、巨大火山噴火、エトセトラ、エトセトラ。氷床コアとかサンゴ骨格とか地層解析とか調べる方法はいろいろあるらしい。気候変動って言っても規模はピンキリだな。史上最大の大量絶滅と言われるP-T境界。人類を破滅の淵に追い込んだトバ・カタストロフ。時にはそんな超大物もあるから油断できん」


 この話題はいったいどこに向かっているんだろう。大作はちょっとだけ心配になる。

 とは言え、ここから無理に話を戻すのも大変だ。むしろ脱線させ切れば一周回って元に戻って来るかも知れん。

 大作は例によって考えるのを止めて流れに身を任せることにした。






 山道を南に一時間近く歩くと平地が広がっていた。西に見える山の向こうには藺牟田池があるはずだ。大作はセーリング・ディンギーで盛大に引っ繰り返ったことを懐かしい思い出す。


「それでは未来永劫に渡って暑さ寒さは繰り返されるのでございましょうか?」


 桜が眉間に皺を寄せて考え込みながら何十回目かの疑問を口にした。


「いやいや、太陽は一億年に一パーセントほど光度が増して行くそうだ。長い目で見れば暑くなる一方だな。十億年かそこらで地球は生命が存在できない環境になるらしいぞ」

「さすれば冬でも寒さを憂えることはございませぬな」

「そう思うだろ? ところがどっこい現実は真逆だ。やがてすべての恒星は燃え尽き、ブラックホールに吸い込まれる。そのブラックホールも長い時間を掛けてホーキング輻射で蒸発する。宇宙はひたすら膨張を続け、絶対零度に向かって冷え続けるんだ。寒い時代だと思わんか?」


 大作はそこで言葉を区切ると首を竦めた。桜の顔色を横目で伺うが表情が読めない。そもそも、この話題で笑いを取ろうというのが無謀だったんだ。


「そんな顔すんなよ。ミチオ・カクが言ってたぞ。全宇宙のエネルギーを利用できるタイプIVの文明なら人工的インフレーションで別の宇宙を作ることも出来るだろう。ヤバくなったらみんなで脱出しよう」

「俺たちの戦いはこれからだ! じゃなかったの? 戦う前から逃げることを考えるなんて大佐らしいわね」

「お言葉にございますがお園様。そのようなことはございませぬ。三十六計逃げるに如かず、と申します」


 今まで黙って聞いていたサツキが急に話に割り込む。もしかして話題に入れなくてイライラしてたんだろうか。

 って言うか、桜とばっか話してサツキを放置してたぞ。楓だか紅葉だかなんかは存在すら忘れてた。どげんかせんといかん。


「そうだ! 話は全然変わるけど『1420年から1601年に起こった広域飢饉と要因』って資料に面白いことが書いてあるぞ。弘治三年(1557)から弘治四年(1558)にかけて京都、奈良、紀伊、越後、上野、常陸で干ばつが起こるらしい。米が絶対に値上がりするはずだ。上手くやれば大儲けできるぞ」

「大佐、さっきから喋り通しで疲れたんじゃ無い。いつにも増してわけが分からないわよ。少し休んだ方が良いわ」


 お園が腫れ物に触るように優しく声を掛ける。だが、遠回しに戦力外通告を受けたような気がして大作のテンションは一気に下がった。


 くノ一四人組を一気に攻略なんて欲をかき過ぎたのが敗因か?

 遺憾ながら楓と紅葉は放棄しよう。サツキもペンディングだ。この旅での攻略対象は桜に絞るぞ。大作は邪悪な笑みを浮かべる。


 その後姿をお園がちょっと呆れたような目で見つめていた。


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