巻ノ百弐 どっこいの大作 の巻
「知らない天井だ……」
翌朝、大作の目に飛び込んできたのは化粧石膏ボードだった。あの、何とも形容し難い虫食い模様はトラバーチン模様って言うんだっけ。
この板は吉野石膏のジプトーンだろうか? 大作には石膏ボードの見分けなんて付かない。でも、吉野石膏のシェアは八割だ。きっとそうなんだろう。
ミミズがのたくったような模様は吸音のためだって聞いたことがある。タッカーやビスが目立たないという効果も大きいという話だ。
天井にはいろんな物がへばり付いていた。半透明なカバーが掛かった蛍光灯。火災報知器のセンサーやスプリンクラー。館内放送の丸いスピーカー。格子状のカバーの付いた換気口。
これはアレだな。病室の天井で間違いないだろう。予定通りの展開に大作は思わず胸を撫で下ろす。
二十一世紀に戻った先がシリアの戦場だったりしたら目も当てられない。
左右をキョロキョロと見回すが四畳半ほどの狭い部屋には誰の姿も見えない。ベッドが一つしか無いってことは個室のようだ。
トイレも冷蔵庫も無いので個室としては最低グレードらしい。こんなチンケな部屋でも差額ベッド代は五千円くらい取られるんだろうか。
まあ、費用はトラックの自動車保険から支払われるはずだ。俺が心配してもしょうがない。大作は考えるのを止めた。
それはそうと、想定していた展開では枕元にお園がいるはずだった。どうやらシナリオに変更があったようだ。
大作はナースコールで看護師を呼ぶかどうか暫しの間、逡巡する。
とは言え、急に扉が開いてお園が駆け込んで来るという展開もあり得る。段取りをぶち壊すのは不味い。ちょっと待った方が良さげだ。
待つこと数分。大作は早くも退屈してきた。テレビでも見ようかな。そう考えてテレビに目をやるがカード式みたいだ。
一分一円とは言えテレビを見るのに金を払うなんて勿体無い。だったらスマホのワンセグで良いか。
ベッドサイドテーブルの上にはテレビのリモコンしか乗っていない。大作はとりあえず引き出しを開けてみることにした。したのだが……
「あれ? 手が動かない。ってか、足の感覚も無いぞ」
もしかして首から下が動かないってパターン? 話が違うじゃないか! おのれ、謀ったな。スカッド!
「ス…… スカッドの…… ウ・ン・コ・タ・レ・ゾ・ウ…… 俺は俺の意志で動く ざまあ見さらせスカッド!! 俺はどっこい! 俺は最期の最期までどっ○い大作!!」
大作はここが病院だということも忘れ、声を限りに絶叫する。その瞬間、部屋全体が大きく揺れた。このタイミングで地震だと?
「そろそろ起きて、大佐! また変な夢を見たのね。今日はどこかへ行くんじゃなかったの?」
お園に肩を揺さぶられて大作は目を覚ました。
寝ぼけた顔で雑炊を食べている大作にお園が声を掛ける。
「いつにも増して大きな寝言だったわね。ど○こい大作って誰なの?」
「田舎から集団就職してくる若者が金の卵なんて呼ばれてたころの古いドラマだよ。主役は青影の人だ。あれの最終回はどうなったんだっけ……」
いやいやいや、そんなことよりこっちの最終回だ。もしかして放送延長なのか? 大作は頭の中からどっ○い大作を張り手で追い払う。
一旦、打ち切りが決まった後に放送が延長された作品は結構ある。ミン○ーモモとかマク○スなんかがそうだ。そんなに珍しい話でも無い。
もしかするとスカッド流の交渉テクニックだったのかも知れない。たとえばダイナスティと言うアメリカのドラマがあった。
出演者のギャラが高騰し過ぎたのでシーズン5の最終回では結婚式に乱入したテロリストに出演者全員が蜂の巣にされる。
この時点ではシーズン6に誰が生き残るのか出演者は知らされていなかった。それどころか製作スタッフすら決めていなかったそうだ。
ギャラ交渉の結果、死んだのは準レギュラー二人だけ。残り全員は軽傷で、何事も無かったかのようにストーリーは続いたのでした。めでたしめでたし。
脳死には至っていなかった沖○艦長かよ! そんなんで良いのか? Why American People?!
「どうしたの、大佐。何か困りごと?」
心配そうな顔のお園に声を掛けられて大作は我に返る。
「いやいや、何でも無いよ。これからどこに行くか考えてたんだ」
「え~~~! 本当に考えて無かったの?」
「いまさらそれくらいで驚くなよ。マジカルでミステリーなツアーだと思えば良いじゃん」
お園は呆れてはいるが怒ってはいない様子だ。最終回にしてようやく俺のペースを理解するとは。手遅れにも程があるぞ。大作は心の中で突っ込みを入れた。
朝食を終えた大作は丁寧に食器を洗って返す。そして普段より時間を掛けて念入りに歯を磨いた。
別れ際のキスみたいなイベントがあるかも知れん。用心に越したことは無いだろう。
「さて、お園。そろそろ出掛けようか。サツキと桜も一緒に来てくれるか?」
最終回直前に投入されて出番が無いキャラにも活躍の機会を与えてやろう。そう考えた大作は二人に声を掛ける。
「御意。どちらへ参られるのでござりましょう」
「だから今からそれを考えるんだよ! 聞いてなかったのか? 言っとくけど、ただ何も考えて無いわけじゃ無いんだぞ。スターリンって知ってるか? 奴は自分で車を運転したらしい。そんで、その日の気分でルートを変えた。何でだと思う? 待ち伏せされないためだ。それはそうと、くノ一を二人ほど連れて行きたい。人選は桜に任せるよ」
「じんせんにございますか?」
桜が首を傾げる。来たばかりのこいつらとは意思の疎通すら困難だな。大作は心の中で顔を顰めつつも無理矢理に笑顔を作った。
「誰を連れてくかってことだ。桜が決めてくれ」
「御意。楓、紅葉。大佐にお伴いたすぞ。急ぎ支度せよ」
四十秒で支度しな! 大作は心の中で付け加えた。
「ほのか。後のことを頼んだぞ。大事なことはみんなで話し合って決めろ。困ったことがあれば工藤様や若殿、大殿、堺の会合衆、百地様。誰でも良いから助けて貰え。お前らなら大丈夫だ。そんじゃあ、みんな達者でな」
「何だか今生の別れみたいね。いつごろ帰って来るの?」
ほのかが不安そうな顔で大作の着物の裾を掴む。
「俺にも分からん。明日かも知れんし四百年後かも知れん。でも、絶対に帰ってくる。絶対にだ! それまでしっかりここを守ってくれ」
二十一世紀に戻ってここを訪ねたらほのかの墓が建ってたりして。そんな想像をした大作は思わず吹き出しそうになる。だが、空気を読んで精一杯の真剣な表情を作った。
「そんじゃあ、Hasta la vista, Baby!」
大作は親指を立てて眼前に突き出す。気分は溶鉱炉に沈んで行くシュワルツェネッガーだ。
当分、もしくは二度と会わない別れの挨拶はこれで良いらしい。とは言え、ネイティブでこれを使う人はあまりいないそうだけど。
ぽか~んとする一同を残して大作、お園、サツキ、桜、楓、紅葉の六人は山ヶ野を後にした。
大作たちは通り慣れた虎居への道を西に進む。どこに行くか決めて無いなんて言ったけど、行くとしたらまずは虎居だろう。横川はアレだし。
昨日はあんまり急だったんであまり深く考えられなかった。でも、ここからいなくなる以上は最低限の引き継ぎをして置かねば。それが社会人としての常識だろう。
とは言ったものの今後の展開が全く読めない。正直言って大作は不安でしょうがない。ファイナルディスティネーションで飛行機に乗り損なった六人もこんな気分だったんだろうか。
もしかするとトラックの代わりに暴れ馬とかが突っ込んで来てタイムスリップするのかも知れん。そう考えると気の休まる暇が無い。
「さっきからどうしたの。また考え事? 今日の大佐はいつにも増しておかしいわよ」
眉間に皺を寄せて考え込む大作にお園が声を掛ける。これ以上、隠し通すのも面倒臭いな。大作はニーチェの名言を思い出す。
たいていの人が正直なことを言うのはなぜか。それは神が嘘を禁じたからではない。嘘をつかないほうが気楽だからだ。
「実はこの番組は打ち切りが決まってる。たぶん今日でお仕舞いなんだ」
「お仕舞いってどういうこと? あめりかはどうなるの?」
お園が怪訝な顔で首を傾げる。くノ一たちも不安気に顔を見合わせた。
「心配はいらないぞ。お園は大丈夫だ。いやいや、もちろんみんなもだ」
嘘をつかないと決めて数十秒で大作は躊躇無く嘘をついた。やはり俺はサイコパスなんだろうか。藤吉郎のことを悪く言えんな。
そうじゃない。これは優しい嘘って奴だ。ライフイズビューティフルのお父さんも同じ気持ちだったんだろう。大作は心の中で言い訳する。きっとニーチェだって許してくれるに違い無い。
「番組が終わったら打ち上げがあるって言ってたぞ。食べたことも無いような旨い物が食べ放題だ。みんな期待しとけ」
四人のくノ一たちの表情が目に見えて綻んだので大作は胸を撫で下ろす。
スカッドはお園も呼ぶって言ってたけど、あと四人くらいなら何とでもなるだろう。いざとなったら俺が払えば良いんだし。どうせ大した店じゃ無いはずだ。
「ばんぐみって何なの?」
「江戸から始まった俺たちの旅を見てる人がいるそうだ。千人くらい。まあ、実際には登録だけしてもう見てない人も大勢いるんだろうけどな」
「どこから見てるのかしら? 私、ちっとも気付かなかったわ」
お園がきょろきょろと辺りを見回す。くノ一たちの目付きも鋭くなる。
「気付かれんような仕掛けがあるんじゃね? クリンゴンのクローキングデバイスみたいに。いやいや、あれってもとはロミュランが開発したんだっけ」
「ふぅ~ん。天狗の隠れ蓑みたいな物かしら」
「どっちかと言うとプレデターの光学迷彩みたいな物だろ。実際、米軍では本気で開発してるみたいだぞ」
光学迷彩はともかく、普通の迷彩服ならこの時代でも作れるかも知れん。
史実では普仏戦争のころまでは派手な軍服を使う国が多かったらしい。だが、ライフル銃の登場で交戦距離は飛躍的に伸びる。また、無縁火薬によって戦場の視認性が向上した結果、軍服は地味なグレーやカーキ色になって行く。
そして第二次大戦中に武装親衛隊が世界初の迷彩服を着用するのだ。
だとすると迷彩服の開発にも早めに着手した方が良いかも知れんぞ。
模様はやっぱフレクターパターンだろうか。デジタル迷彩も捨てがたい。でも、戦国時代で使うにはSFチック過ぎて場違い感が半端無いぞ。
いやいやいや、この番組はもう最終回なんだった。大作は考えるのを止めた。
六人は打ち上げで何を食べたいかを話し合いながら西へ進む。そうこうするうちに結論が出ないまま虎居へ着いてしまった。
至って平和な様子の城下を見て大作は胸を撫で下ろす。内心では三の姫が大殿を射殺してたらどうしようと心配で堪らなかったのだ。
大作は手始めに青左衛門の鍛冶屋を訪れた。入り口で男が二人、立ち話している。近付くと向こうもこちらに気が付いて振り返る。青左衛門と慎之介だった。
「ご無沙汰しておりました。大殿へ鉄砲をお披露目して以来にございますな。慎……」
こいつの苗字は何だっけ? 大作は必死に思い出そうとする。だが、まるで記憶がブロックされているように苗字が出てこない。かと言って、ファーストネームで呼び合うほど親しくも無いような。不味いぞ。焦ると余計に重い打線。まあ、良いか。
「今日は如何されましたかな?」
「実は安部殿に頼みごとをしておりました。されど、なかなか首を縦に振って貰えず難儀しております。大佐殿からもお口添えをお願いできませぬか」
青左衛門の苗字って安部だったっんだ。大作はすっかり忘れていたのでちょっと驚いた。
それはそうといきなり厄介ごとかよ。勘弁して欲しいぞ。大作は心の中でぼやくが顔には出さない。
「拙僧でお役に立てることなら何なりとお申し付け下さいませ。その前に少し宜しいでしょうか。堺から手伝いに呼び寄せたサツキと桜、それから…… 何だっけ?」
「楓と紅葉にございます」
桜が全く感情の籠っていない冷たい声で答える。くノ一の二人も能面みたいに無表情で怖い。
名前を覚えていなかったから怒ってるんだろうか。後でフォローしなきゃ。大作は心の中のメモ帳に書き込んだ。
「して、頼みごととは如何なる御用にございましょう?」
「先日、大佐殿が三の姫様に鉄砲を差し上げましたな。姫様は大層お喜びになられ、朝な夕な稽古に励んでおられます。されど、遠くの的になかなか当たらぬのが腹立たし気なご様子。そこへ大殿が『儂の弓なら五十間先の的とて外しはせぬぞ』などと揶揄われたのでございます」
大殿も子供相手に大人気無いことを言うもんだ。そう言えば奴は弓の名手なんだっけ。大作はWikipediaに書いてあったことを思い出す。
九十メートルなら当てられんこともないだろう。三十三間堂の通し矢なんて百二十メートル以上ある。
それに対して滑腔銃の有効射程はせいぜい五十メートルが良いところ。百メートル離れるとまぐれ当たりに期待するしか無い。
試作品の四丁にはプレスでライフリングっぽい溝が付けてある。でも、パッチに使う布を用意していなかったので現状は何の役にも立っていないのだ。
ようするに銃を改良しろって話なのか。最終回にこんなイベントを持ってくるなんてスカッドの奴は何を考えてるんだろう。
そうは言っても、ガンスミスとスナイパーが揃ったら銃の話になるのは当然かも知れん。そもそもこいつらの趣味とか知らないし。
眉間に皺を寄せて考え込む大作の耳元にお園が顔を寄せて囁く。
「ポジトロンライフルを作れば良いんじゃないかしら」
「あれは駄目だ。日本中の電力を集めなきゃならん。九州統一もまだまだな俺たちには早すぎる。腐ってるかも知れんぞ」
「それは、ポジトロンスナイパーライフルだわ。第九話でイスラフェ○を撃ったり第弐拾弐話でアラエ○を撃ったのがポジトロンライフルよ」
お園が挑発的な半笑いを浮かべている。エ○ァネタで突っ込みを入れられるとは屈辱の極みだ。大作は悔し涙を飲み込んで必死に笑顔を作った。
「あれじゃあ駄目だよ。どっちも使徒にはまるで歯が立たなかっただろ」
「そう言えばそうね。とっても口惜しいわ」
お園が悔しそうに唇を噛み締める。大作には『ぐぬぬ……』という擬音が聞こえたような気がした。
こいつがいると纏まる話も纏まらん。しばらくどっかに行ってて貰おう。
「そんな顔するなよ。エ○ァに出てくる通常兵器ってどれも役に立ったためしが無いんだ。それより笛職人からサックスのリードを貰ってきてくれないか。ついでに銀細工職人のところに行ってほのかとメイの指輪も受け取って欲しい。そうだ、巫女軍団の指輪も追加発注してくれ」
大作は懐から金塊を出してお園に手渡す。
「銀杏と銀杏だっけ? 二人はお園のボディーガードを頼む」
「楓と紅葉にございます」
「ごめんごめん。ちょっとしたジョークだよ。そんな鬼みたいな顔すんな。せっかくの美人が台無しだぞ。そんじゃあ、お園を頼むな」
「御意」
大作はあえて二人との会話に英語を混ぜた。だが、いちいち聞きなおしてこない。適当にスルーすることを覚えてくれたようだ。
三人を見送った大作は青左衛門と慎之介に向き直って頭を下げる。
「お待たせ致しました。して、鉄砲で五十間先の的に当てたいといったお話でしたかな?」
真剣な顔で慎之介が黙って頷いた。それを横目に青左衛門が意味深な笑みを浮かべて大作の耳元で囁く。
「ミニエー弾の玉鋳型なら出来ておりますぞ。日高様にお見せしてもよろしいでしょうか?」
「日高だ~~~!」
なんで忘れてたんだろう。ワシントン・リポートの日高さんと同じ名前じゃないか。もう忘れんぞ。大作は心の中のメモ帳に書き込む。
大作が我に返ると全員が顔を顰めて大作を睨んでいた。慎之介が目を白黒させている。
「そ、そ、某が何か?」
「いやいや、天下一のスナイパーと名高い日高様なら雑作も無いことにござりましょう。拙僧はYouTubeで四千二百十ヤードの超長距離射撃を見たことがありますぞ」
.375 CheyTacで三十六インチの標的を狙って着弾まで十秒半も掛かるというとんでもない射撃だ。
この上を目指そうと思ったら弾丸自身に軌道修正能力を持たせるしか無いだろう。って言うか、それはもはやスマート砲弾って奴だな。
「そもそも普通の鉄砲は少し離れるとほとんど当たりません。そこで各国の軍は密集陣形を組んで一斉射撃する戦術を取ったのです。独立戦争におけるイギリス軍も御多分に漏れず密集横隊を組んで行進しました。ところがアメリカ軍のライフル兵による散兵戦術に酷い目に遭います。その苦い経験からベイカー銃が作られました」
「べいか~じゅうにございますか?」
大作はスマホを起動するとベイカー銃の情報を探して画像を表示した。三十インチの銃身は大作には随分と長く感じられる。だが、これでも滑腔銃より短いそうだ。
「そもそも丸い弾丸で遠距離狙撃は無理なのでしょうか? そんなことはございません。この前装式ライフルは口径15.9ミリと申しますから六匁半といったところでしょうか。油を染ませた柔らかい布で弾を包んで打つそうな。ベンチレストなら二百ヤードでも百発百中、風さえ無ければ三百ヤードでも当たったと申します。それどころかトーマス・プランケットと申す兵は六百ヤード、五町も離れた将と副将を二発で倒したそうにござります」
「ご、五町と申されましたか? 俄かには信じがたい話にござりますな」
慎之介はとっても疑わし気な口ぶりだ。自分は三十間先の的に当てるのがやっとなのだ。実戦で十倍も離れた敵に二発撃って二発とも命中なんて大作から見ても人間技とは思えん。
「百発百中とは参りませぬが、もっと遠くにも撃っておったそうにございますぞ。後継のブランズウィック銃では弾に帯状の膨らみが付けられました。これを二条のライフリングに合わせて装填したそうな。口径も一回り大きくなってさらに射程も伸びました。他にもネジ規格で有名なホイットワースも銃を作っております。六角形の銃身とぴったりフィットする六角柱の弾を使って飛躍的に威力と精度を向上させました」
「ほほう。では、そのような鉄砲を作れば宜しいのでございますな」
青左衛門は期待に胸を膨らませているようだ。慎之介も昔の少女マンガみたいに目をキラキラと輝かせている。
ジャイロ効果がいつ頃から知られてたのかは分からんが独楽回しなんて四千年前からあったらしい。
昔の人たちも弾を回転させれば弾道が安定することには気付いていた。そのために散々と試行錯誤を繰り返していたのだ。
大砲だと四斤砲で有名なライット・システムなんていうのもある。砲弾の側面に突起を付けてライフリングに噛み合わせる仕掛けだ。
「止めておいた方が宜しゅうございましょう。残念ながらどちらも欠点が多過ぎます。後世にトンデモ兵器扱いされるのがオチです」
大作は半笑いを浮かべながら冷たく言い放つ。二人の表情が目に見えて曇り、肩ががっくりと落ち込む。
「そのような顔をなされますな。上手いやりようはいくらでもございます」
今日は最終回スペシャルだ。大作は余った知識の在庫整理をすることにした。




