小説家になろう的 勇者召喚
「宰相よ、いよいよだな」
「ええ、古文書にありましたとおり、勇者召喚の準備が整いましてございます」
とある国の首都にある城で語り合うは、王様と宰相。
圧倒的な戦力によって一気に人間界に攻め入った魔王軍により、一年以内に全面降伏しない場合は人類を根絶やしにすると宣戦布告をしてきた。
危機に瀕した人類は、とある国の古文書の記述に従い、世界を救い得る存在として異世界から勇者を召喚することにしたのだ。
滅亡まで一年(365日)、人類は異世界の勇者にすべてを託し、最後の抵抗が今始まる。
~小説家になろう的 勇者召喚~
「して、宰相よ。勇者の召喚はどこで行うのだ?」
「はっ、万が一勇者が暴れても問題無いように、地下深くの実験室にて行う予定です」
「たしかにそうであるな。では、ワシもそこに行って勇者召喚について説明すれば良いか?
それとも、第一印象を良くするために王女に向かわせるか?」
「いえ、まずは勇者が異世界の病を持っている可能性がございますので、検疫をおこないます」
「そ、そうか。たしかに勇者によって疫病が蔓延したら洒落にならんからな。それはどれくらいの期間行うのだ?」
「船舶への検疫を基に考え、40日間ほどは必要となります」
「40日!? そんなに待たなければならぬのか!?」
「いえ、まだこれは始まりに過ぎません」
「え? はじまり?」
「ええ、その後は身体検査ならびに精神状態に問題が無いかを確認するための精神鑑定を行います。その結果が専門機関で出るまでに30日ほど掛かります」
「30日……長くないか?」
「いいえ、万が一なんらかの精神疾患が生じていた場合、我が国を、ひいては人類を害する危険もあるのです。ここは引けません」
「うむむ……仕方ないの。それが済んだらようやくワシの出番か」
「いいえ。精神状態に異常が見られなければ、次は面接をおこないます」
「面接だと? それこそワシが居たほうが良いのではないか?」
「これは我が国にとって有益な人物であるか見極めるためのものです。『俺は自由にさせてもらうぜ』なんて言って国を出ていかれては元も子もありません。
ましてや王様がいきなり出て行っては、襲い掛かられる可能性もありますので許可は出来ません
こちらの面接も、面接官を身分毎に分け5次面接までおこない、協議の上、合格となります」
「……それはどれくらい掛かるのだ?」
「それぞれの面接に相当な期間を置くことで、面接の回答に矛盾が無いかなどを確認する必要がありますし、その後の結果について検討する必要があるのでおよそ20日は見ていただきたいです」
「む、むうう……しかし、これでようやくワシへの謁見というわけじゃな?」
「いいえ、最後にマナー講習を受けてもらいます」
「マナー講習だと!? そんなものはどうでも良いではないか!!」
「なりませぬ! 古の書によれば、謁見に際して王様にため口を使うなど無礼な態度をとったばかりに国と対立し、出奔した者もいると言われております。
更に言えば、各大臣や上級貴族の揃う謁見の間でございますれば、それなりのマナーが無ければ勇者が侮られてしまいます」
「そうか……やむを得んか……して、それはどれほどの時間が掛かるのだ?」
「は、最高級のマナー講師をつけるとして、10日もあれば良いかと存じます」
「それが終わればワシは勇者と謁見できるのであろうな?」
「ええ、もちろんですとも」
「勇者と謁見するまでに100日も掛かるのか……手間が掛かるものだな」
「これも確実に人類を救うためでございます、耐えてください」
「そうだな。では宰相、今日の勇者召喚、必ずや成功させてくれ」
「かしこまりました」
~それから70日後~(残り295日)
「宰相よ、召喚した勇者の様子はどうだ?」
「そのことですが、先の勇者は送り返しました」
「なんだと!? なぜそのようなことになった!!」
「疫病検査は合格したのですが、精神鑑定に引っかかりまして。手元の資料によれば、なにやら『奴隷ハーレムキタコレ』『ケモミミ幼女モフモフ』などと意味の分からないことを言っていたとのことです」
「それはたしかにおかしいな……。奴隷ハーレムとは、奴隷を囲うということか? 奴隷などという前時代的な制度があるわけがなかろうに。それに『ケモミミ幼女』とはいったいなんのことだ?」
「ええ、そのとおりです。『ケモミミ幼女』は恐らく獣の耳を持つ幼女かと思われる、とのことです。以上のような発言から、おそらく今回の者は精神錯乱状態、もしくは誇大妄想の持ち主と思われます」
「うむむ、精神鑑定をおこなっていて正解だった、ということだな。して、次の勇者召喚は可能なのか? というか送り返せるのだな。それが驚きだ」
「ええ、古文書によれば、召喚後100日はチェンジ可能ということですので、存分に試すことが可能です」
「なるほど、それも考えての調査期間なのだな。では宰相、次こそ頼むぞ」
~それから85日後~(合計155日、残り210日)
「宰相よ、勇者召喚は順調か?」
「いえ、昨日送り返しました」
「またか!? 今度はいったいどんな問題があったのだ!!」
「特に問題は無かったのです。とんでもないイケメンの上、若いだけあって身体検査の結果も非常に良好、精神状態も問題なし。面接もハキハキと答えており、非常に高評価でした」
「では良いではないか。なぜ返したのだ」
「それは、とんでもないイケメンだからです」
「それの何が問題だというのだ?」
「もしですよ、彼が勇者になって謁見したとします。間違いなく王女様は惚れてしまうでしょう」
「はぁ!? 宰相よ、お前はワシの王女がそんな惚れやすい尻軽女だと思っておるのか!!」
「ええ、王女様は類を見ないイケメン好きですので。王様には子どもが王女様しかおりませんので、後継ぎを得るためには婿を招くしかありませんね」
「王女は類を見ないイケメン好きなのか……パパ初めて知ったぞ……。それならば、婿に招けば良いではないか」
「そうは上手くいきますまい。人類の希望たる勇者の元には、あらゆる国の王たちが関係を結ぶために自分の娘を嫁に出そうとするでしょう」
「であろうな」
「そんな中、我が国だけ婿に迎えると言っても、ましてや王様似で顔面偏差値40の王女の元に来るとはとても思いません」
「おいこら宰相、表出ろや」
「そうして勇者に振られたとしても王女はおそらくアイドルのおっかけよろしくいつまでも勇者を追い求め、結婚も危うくなる危険性があるのです。
実現不可能なことよりも適当なところで済ますという考えが出来ないでございましょう」
「……すっごく不快感あるけど、たしかに一理あるな。そうなればやむを得ないか……次こそは期待しておるぞ」
「かしこまりました」
~それから90日後~(合計245日、残り120日)
「宰相よ、勇者はどうなっておる」
「ええ、ちょうど今送り返したところです」
「またか! またイケメンだったか!?」
「いいえ、前回の反省を踏まえ、今度は女性でございました」
「女であれば問題なかろうが。どうして送り返すことになったのだ」
「今度は美しすぎたのです。その髪は黒曜石のように輝き、瞳はまるでダイヤのように輝き、肌は大理石のように白く、スタイルもボンキュッボンの完璧なものでしたね」
「なんだと!? なぜそれが問題なのだ! というか、なぜワシに見せる前に送り返したのだ!」
「それでございます」
「それとはどれだ?!」
「王様が現を抜かす危険があったのです」
「そんなことは無いぞ」
「いいえ、きっと見たらバカみたいに鼻の下を伸ばしてデレデレしたでしょう。もしもそれを女王様が見たらどう思うでしょうか?」
「なんか宰相、ワシへの発言がトゲあるよな……まぁしかし、女王な。あいつはたしかに嫉妬深いから怒り狂うかもしれんな」
「ええ、女王様は独占欲が強くていらっしゃいますから。自身は防衛大臣と隠れてあんなことやこんなことをしてはいても、王様が他の女性に目を向ければ大変です。
場合によっては、勇者に対するイビリが原因で勇者が謀反を起こす危険性があるのです」
「ちょっと待て、ちょっと待て。良からぬ発言があったが詳しく聞かせてもらおうか」
「今はそれどころではございません! もう魔王軍が攻めてきて幾年月、一刻も早く勇者召喚を成功させなければならぬのです!! では私は失礼します!!」
「逃げやがった……このモヤモヤ、どうすれば良いというのだ……」
~それから19日~(合計264日、残り101日)
「宰相よ、今度の勇者はどうだ? 問題ないか? 早めに教えてほしいのだが」
「ああ、そのことなら今送り返しているところです」
「なんだと! まだ検疫の段階ではないか! 何か病気を持っていたのか?」
「ええ……狂犬病でして……可愛らしいワンコだったのですが、惜しいことをしました」
「なんで勇者召喚で犬が出るんだよ! 召喚の儀式間違ってるんじゃないのか!!」
「いいえ、そのようなことは決してございません。『バーサーカーですよ~』とか言って誤魔化そうとも思ったんですが、バレて怒られると不味いかな~なんて思ってきちんと報告だってしたじゃないですか!」
「宰相よ、お願いだから口閉じてくれ、もう喋ってくれるな……」
「では、すぐに勇者召喚を始めますので」
「もう何も言わん。何も言わんから、きちんと勇者召喚をしてくれ、本当に」
~それから100日~(合計364日、残り1日)
「王様! 王様! お喜びください! ついにすべてクリアした勇者が召喚出来ました!」
「誠か! 本当に大丈夫なんだな!」
「ええ、検疫も合格し、身体検査も精神鑑定も問題なし。イケメンでも美女でもなく、面接もすべてクリアしました。
マナーに関しては若干不安な部分もありますが、やむを得ないと判断して合格としております」
「うむ、うむ。魔王軍攻めてくるまであと1日しか無いからな。そこは諦めよう。して、謁見の準備は出来ておるか」
「は、すぐにでも玉座に来ていただければと」
「分かった、すぐ行く!」
~謁見の間~
「王様のおな~り~!!」
「ぜぇぜぇ、はぁはぁ……ふぅ……さて、待たせてしまったようだな。勇者よ、表を上げよ」
「へへぇ~、おめぇ様が王様でごぜぇやすか。なんだかよくわからんのですが、あっしみたいなジジイでよければ牛舎くらい幾らでも任してくだせぇ」
「……宰相よ」
「なんでございましょう、王様」
「あの跪いているご老体は何者ぞ」
「勇者にございます」
「牛舎と言っているようだが?」
「おそらく聞き間違いかと。勇者であられる田吾作殿は、なんでも農業に対してチート知識を持っているとのことですよ。それに独り身とのことですので、異世界に戻らなくても問題ないようです」
「して、魔王軍と戦えるのか?」
「老人ですから無理でしょうなぁ」
「なぜそのような者が採用された?」
「身体検査はしたけど、体力測定はしておりませんでしたからね、テヘペロ★」
「……」
「宰相、ちょっとドジっ子★」
「……うがああああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「王様! どうしました、王様! 王様がご乱心だ! 誰か医者を呼べ!」
「もーいやだ! 娘はイケメン好きの尻軽女で妻は浮気中、おまけに宰相はロクデナシ!
もう誰も頼らん! ワシが魔王軍倒してくる!!」
「王様! お待ちください王様! ああ、国宝の剣を持って走り去ってしまった……」
「あのぉ、あっしはどげんかすれば良いんでやしょうか……」
かくして、1年の猶予期間を終えて攻め入ってきた魔王軍であるが、驚くことに一人の男によってすべてが滅ぼされることになった。
その姿はさながらバーサーカーと言っても良いほどの鬼の形相であり、「お前らのせいで! お前らのせいで!」などと泣きながら魔王軍を瞬く間に滅ぼしていったという。
かくして人類は再び平和を取り戻した。人類は喜びに沸きあがり、世界中が幸せに包まれた。
とある国では異世界からの勇者によって農業改革が行われた結果、飢饉になることも無くなったという。
そのような功績から、勇者は高齢ながらも王として選ばれ、その傍らには常に超優秀な宰相がついていたと言われており、ますますの繁栄を迎えていくのであった。
そのうち王様が次の魔王となって復讐するんでしょうね。
前作のテーマは『ステータスオープン』
今回のテーマは『勇者召喚』でした。
次回のテーマは『内政チート』で来週末あたりの投稿予定。