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大分市内を青いアウディ・R8が走る。その助手席に座った南野朱里は綾瀬に聞く。
「そろそろ昨日のメールの真意について教えていただけませんか。時間もないですし」
「あの女が犯罪計画を売ったそうです。その購入者は天王州高校の生徒もしくは教師の中にいる。君にはあの女から犯罪計画を買った購入者を特定してもらいたい。その購入者は亡霊風水と名乗っています」
「亡霊風水。あの女の操り人形。ところであの女は何を考えているのでしょうか。態々犯罪計画を売って」
「あの女の復讐心を抱く人物を特定する嗅覚は素晴らしい。亡霊風水に犯罪計画を売って何かを企んでいるのは一目瞭然。あの方からの命令です。あの女の内情を探れ」
「仕事を間違えていませんか。私は……」
「確かにそうだ。だがこれはあの方からの推薦でもある。事件が天王州高校で起こるのなら君が適任だと」
「分かりました。亡霊風水。少し心当たりがあるかもしれません。その名前から連想できるのは風水占い。つまり占い同好会のメンバーの中にいるかもしれませんね。丁度占い同好会の顧問にならないかと誘いを受けているので潜入捜査しますよ」
「空振りだったとしても天王州高校内部に亡霊風水がいるのは変わりないということか。もうすぐ天王州高校ですよ」
青いアウディ・R8が天王州高校の校門の前に駐車する。その校舎の回りにはハーレーダビッドソン・CVOで通学するはずの南野朱里を待つ男子生徒たちが集まっている。
その男子生徒たちは驚いたことだろう。初老の男性が運転する青いアウディ・R8から南野朱里が降りたのだから。
南野朱里が周囲にいる男子生徒たちに挨拶すると、アウディ・R8が走り去る。
午前八時。田辺秀一及び南野朱里ファンクラブのメンバーたちは一年三組の教室で話し合う。
「誰だよ。あの初老の男は」
「普通に考えて執事の類ではないか。彼氏はいないと言っていたし、彼氏にしては歳が離れすぎている」
「執事って。資産家なのか。朱里さんは資産家の社長令嬢でもあるのか」
その会話を有安虎太郎は鞄を机に置きながら聞いていた。
「只者ではなかったよね。青いアウディ・R8に乗っていたから」
その言葉を聞いた有安虎太郎は、鞄から筆箱を取り出す手を止める。
青いアウディ・R8。有安虎太郎の顔が青ざめていく。それを心配した倉崎優香は彼に声をかける。
「虎太郎。どうしたの」
倉崎優香の言葉に耳を貸さない虎太郎は南野朱里ファンクラブのメンバーに加わる。
「どこで青いアウディ・R8を見た」
「なんだよ。バイクには興味がないけど、自動車には興味があるのか。今日俺たちは朱里さんのハーレーダビッドソン・CVOと写真を撮るために張り込みをした。そしたらこの高校の校門前に青いアウディ・R8が止まって、助手席から朱里さんが降りてきたんだ」
男子生徒から聞いた証言。九年前有安虎太郎の父親が殺害された事件。その周囲に停車していた不審な自動車こそ、青いアウディ・R8だった。
偶然か。それとも南野朱里と九年前の殺人犯とは繋がりがあるのか。有安虎太郎は後者と解釈するしかなかった。
そうさせたのは父親を殺された恨みによる。有安虎太郎は確認するしかなかった。九年前の殺人犯が動き出したのか。南野朱里との関係。
以降有安虎太郎は南野朱里を探っていく。九年前の殺人事件の真相が明らかになると信じて。