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平成十六年六月九日。大分県大分市。一発の銃声で七歳の少年が目を覚ました。時計は深夜二時を指している。その少年有安虎太郎は父親が刑事ドラマを観ているのではないかと思った。
有安虎太郎は目を覚ました次いでにトイレに出かける。この家は平屋のためトイレは一か所しかない。
居間を通り過ぎた先にトイレがある。その瞬間有安虎太郎は違和感を覚える。
妙に近所が騒がしい。居間に漂う血の匂い。
血まみれになって倒れている父親。
有安虎太郎は慌てて父親に駆け寄る。父親の呼吸は荒い。もうすぐ死期が迫ろうとしているのではないかと有安虎太郎は感じた。
「父さん。死なないで」
有安虎太郎は泣くことしかできなかった。
一方父親は死期を悟り呟く。
「アカトリエル」
この言葉を最後に彼の父親は絶命した。
七歳の少年が絶望に浸っていた頃、黒い影が青いアウディ・R8に乗り込んだ。
その影が後部座席に座ったことを確認した運転手は自動車を発信させる。
「ご苦労様です。本来なら私の仕事だったのですが」
「構わない。あの男とは因縁があったからね。お前に殺されたら後味が悪くなる。それよりいいのか。あの男の家族も殺さなくても」
「家族は関係ない。生かしておいてもデメリットがない。というのがあの方の指示ですから」
「なるほど」
「シートベルトをしてください。久しぶりに飛ばしますから」
「了解」
それから青いアウディ・R8が大分市内を走り去る。
平成二十五年四月九日。午前六時。有安虎太郎は目を覚ました。あの日からフラッシュバックのように父親が殺害された日のことが蘇る。
その悪夢を有安虎太郎は久しぶりに見た。彼がベッドから跳ね起きると、突然一人の少女が有安虎太郎の部屋に入ってきた。
「あれ。虎太郎。もう起きていたの。いつもは午前七時に起きているのに」
その少女の髪型は黒色のセミロング。低身長。貧乳。その少女の名前は倉崎優香。有安虎太郎の隣の家に住む幼馴染である。
「久しぶりにあの日のことを思い出した。九年前父さんが殺された事件。やっぱり犯人が捕まらないと忘れることはできない。不審な自動車が走り去ったという目撃証言が挙がって以降捜査は進展しない。その自動車のナンバープレートは偽装された奴だから仕方ない。このまま時効が成立するのではないかと疑う」
「忘れられないのは分かるけど、今日は天王州高校の入学式だよ。だからその事件のことは少し忘れて、一度きりの高校生活を楽しもう」
「それもそうだな。ところでなぜお前がここにいる」
「伯母さんがイギリスに出張中だと聞いたから、朝食の準備をしようと思って。毎日インスタント食品を食べていたら健康上よくないでしょう」
「優香。ありがとうな」
倉崎優香は朝食の準備として、食パンを焼くと、隣の自宅に戻る。
この時二人は知らなかった。九年前この家で発生した殺人事件が静かに動き出そうとしていることに。