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ヒカリ

作者: ゆーゆー

 高校に入学して一ヶ月が経ち、新たしい生活にも慣れ、友人も出来た。

俺、カオルは高校生活で上々のスタートを切っていた。いつも明るく友人も多い俺はクラスの中心的存在だ。

 そんな俺と対照的に、いつも一人で本を読んでいるのがヒカルだ。話しかけられても一言二言しか返さない無口なやつで、おまけに返す言葉にも態度にも愛想がない。俺も本を読むのは好きなので、何を読んでいるのか気になり話しかけてみても、別になんでもいいだろうだの、うるさいだの取り合わない。メガネを掛けていてその上いつも俯いているのでどの様な顔をしているのかさえよく分からない。そんな奴だ。

 そんなヒカルに少々の苛立ちと不気味さと興味を持っていた俺はヒカルが席を立った隙に机の中に入れてある本を勝手に見てやろうと計画した。早速休み時間にヒカルが席を立ったので実行に移すことにした。何を読んでいるのか教えたがらないなんて、さてはエロい小説でも読んでいるのか…。そんな期待を持ちつつ机の中を漁っていると例の本を発見した。

「さて、どんなエロエロな小説なのか見てやる」

そんな期待を裏切って、はたしてその本はただの小説であった。

 少しばかり落胆しつつぱらぱらと本をめくっていると、内容に見覚えがあった。

「ん?この本は…」

胸が高鳴るのを抑えブックカバーをめくってみると、そこにはカオルが一番好きな推理小説の題名が印刷されていた。

「おい、何をしている」

低く冷たい声がカオルの背中を突き刺した。

「あ、いやなんでもないなんでもない!」

慌てて本を隠そうとしたが

「何を隠した。…僕の本じゃないか!返せ!」

見つかってしまった。

 自分のこと僕っていうのか、なんだか可愛らしいな。などと考えているうちにカオルの手からは本が消えていた。

「中を見たのか?」

「ああ…ごめん見たよ」

俺は素直に白状し、

「でも推理小説なら隠すことないじゃないか。あまりに取り合わないんでエロい本かと思ったよ」

「別に隠しているつもりはなかった。ただ面倒臭かっただけだ」

「なんだよ、その本俺大好きなんだ!語り合おうぜ!」

あまりの興奮に少々の苛立ちなどどこへやら、肩を掴んで語りかけていた。その時初めてヒカルの顔がはっきりと見えた。前髪が少々長く目に掛かる程だったが不気味さや暗い印象はなくむしろ前髪を切って顔をあげたら人並み以上の顔であるなと、カオルがそんなことを思っていると、

「断る。まだ読んでいる途中だからな」

断られてしまった。


 例の一件からヒカルに益々興味が湧いてきたカオルは事あるごとにヒカルに声をかける様になった。

「なあヒカル、あの小説の作者の他の本は読んでるか?俺あの作者の本全部好きなんだよ!」

「ああ、読んでいるが語り合うつもりはない」

「なんだよー!」


「なーなーあの本読み終わった?語り合おうぜー!」

「読み終わったが語り合うつもりはない。あまり僕に構わないでくれ」

「いいじゃんかよー!あの本好きなやつ居なくてさー。やっと見つけたんだからさ!」

「嫌だ。断る。」


「ヒカルー!一緒にご飯食べようぜ!」

「何で僕が君とご飯を食べなくちゃならない?第一いつも友人と食べているだろう」

「俺はヒカルと食べたいの!一緒に食べようぜー!」

「嫌だ。僕は一人で食べる」

「なんだよケチー!いいから一緒に食べようぜ!」

「しつこいなあ君は。嫌なものは嫌だ」

「じゃあいいよ、勝手に此処で食べるもん!」


 しつこくヒカルに絡むカオルと鬱陶しがるヒカルは、最早休み時間の定番の光景となっていた。



 

 僕は人と接するのが面倒くさい。一人で居たほうがずうっと気が楽で心地いい。ずっとそうやって生きてきたしこれからもそう生きていくのだと思っていた。そんな僕の世界にカオルが入ってきた。

 休み時間になる度に僕の席へ来て語り合おう語り合おうとしつこく話しかけてくる。それだけでなくお昼を一緒に食べよう、一緒に帰ろう、挙句に一緒に登校しよう、と事あるごとに僕に干渉して来る。迷惑で腹立たしかったがとうとう根負けして休み時間に少しだけ話してやった。すると見事に趣味が被っていたことが分かった。好きな本、作者、好きなバンド、好きなゲーム、恐ろしいくらいに丸かぶりだった。最初は面倒で仕方なかった会話が段々と楽しくなっていった。それと同時にカオルに対する興味も湧いてきた。一言二言返すだけだった会話もいつしかこちらからも話題を振るようになった。

 なんだかこんな生活も悪くないな、とカオルを受け入れつつある自分に少し驚いた。

 

 そんなある日のこと、カオルが休日に出かけようと誘ってきた。

「どこに何をしにに行くんだ?」

「それは当日のお楽しみ!」

「気になるな…」

「日曜九時に駅でね!またねー!」

「ああ分かった。またな」

少々の不安と初めて友達(と呼んでいいのかわからないが)と休日に出かける期待で初めて眠れない夜を過ごした。

 寝不足のまぶたをこすりつつ駅に着くと、既にカオルは来ていた。

「おはよう。早いな」

「ヒカルが遅いんだよ!ささ、速く行こう!」

「一体どこに行くんだ?」

「髪を切りに行こう。前髪もう少し短くするといい感じだと思うんだよね。それと眼鏡もオシャレなヤツにしよう!俺が選んであげるよ」

「えっ!そんな急に!何で早くに言ってくれないのさ!」

「言ったらヒカル来ないかと思ってー。さ、行こう行こう!」

「持ち合わせあまり無いから高い店は無理だぞ」

「任せといて!安くていい店知ってるから!」

カオルにされるがまま眼鏡を変え、そして、初めての美容室。カオルが何やら美容師さんと話していたが、緊張し過ぎて覚えていない。


「ヒカル、背筋のばして顔上げて」

「こうか?んっ…」

眩しさを感じ、一瞬目を閉じてしまう。

「おー!カッコイイよヒカル」

「そ、そうかな?なんだか少し眩しい感じがする」

「前髪のカーテンがとれたんだから当たり前だよ。ずっとそのままで居なよ?」

「努力してみるよ」

「じゃあ少し街を見て回ってから帰ろうか」

「うん、そうしよう」

それから街を見て回りながら様々な話をした。不思議と退屈はしなかった。それどころか時間がすぎるのが速く感じた。


「今日は楽しかったねカオル」

帰り道、自然とそんな言葉が漏れた。

「俺も楽しかったよ!やっぱりヒカルといるのが一番楽しいや」

「…でもいいのか?僕ばっかり。他の友達との付き合いは大丈夫なのか?」

「…俺ね、本当は他の皆といる時ってすごく無理してるんだ。俺、弱いから…無理して人一倍明るく振る舞って…。皆に嫌われて孤独になるのは嫌だからさ…」

「カオル…」

意外だった。カオルの明るさの裏にこんな弱さがあったとは。

「でもヒカルにちょっかい出して、話してみるとすごく気が合ってさ。ヒカルといるときはすごく居心地がいいんだ」

「僕もだよ、カオル。君といるとすごく楽しい」

「ヒカル…ずっと友達で居てくれよ…」

友達…か…。

「うん、僕たちはずっと友達だ」

「ありがとうヒカル。…湿っぽいのは苦手だなっ。さあいつもみたいに楽しい話して帰ろうぜ!」

「そうだな!」




 僕は初めて出来た友達のお陰で楽しい学校生活を送っていた。入学したばかりの頃には考えられなかった毎日を送っている。本当にカオルには感謝している。カオルが居なかったら今も一人で俯いて本を読んでいただろう。

 そんな日々が、少しずつ変わっていった。

 クラスの中心だったカオルが、無視され始めたのだ。最初は一部の人間から始まった。

「あはは…なんか俺無視されてるみたい。参ったね…」

「カオル…元気だしなよ!そのうち又前みたいに話してくれるよ!」

「そうだよな…」

なぜカオルが無視されるようになったのか、僕にばかり構っていたのが気に入らなかったのか、明確な原因は分からない。ただ、日に日に無視をする人は増えていって、とうとうカオルはクラスから孤立した。

「ヒカル…俺もう駄目だ…もう明るく振る舞えない」

「カオル…僕がいるよ、僕は絶対にカオルを無視したりしない」

「ヒカル、ありがとう…ずっと…友達だよな…」

「ああカオル…ずっと友達だ」


 やがて幸いな事にカオルに対する無視は無くなっていった。だがカオルは片時も僕の傍を離れようとしなくなった。話しかけられても生返事、まるで以前の僕のようだ。僕の方はカオルのお陰で明るくなり、少しずつではあるがクラスメイトと話ができるようになったのに、これでは以前と逆ではないか。今度は僕がカオルを助ける番だ。


「カオル、ちょっと話をしよう。」

カオルを連れ出し、話を切り出した。

「カオル、君は今のままじゃ駄目だ。このままじゃ君のためにならない」

「ヒカル…俺はヒカルさえ居てくれればいい…」

「それじゃあ駄目なんだカオル。君は僕に沢山の経験をさせてくれた。初めて出来た友達だし、友達とショッピングしたのも初めてだった。暗かった僕を変えてくれた。一人で閉じこもっていた世界に入り込んできてくれて、僕の世界を照らしてくれた。君が居なかったら今でも一人俯いていただろう。君は僕の恩人で、友達だ。僕の最高の友達だ。だから僕は今の君を見ていられない。救ってあげたい。でも、僕が一緒にいると君は僕に依存して駄目になってしまう。だからカオル…僕達距離を置こう」

「そんな…!嫌だよヒカル!ずっと友達だって言ったじゃないか!」

「友達だよ。友達だからこそ、今は離れなければいけないんだ」

「嫌だよヒカル!ヒカルがいなくなったら僕はどうすればいいんだ!」

「いなくなりはしないさカオル。言ったろう?ずっと友達だって。離れていても僕は君のそばにいる。太陽が照らすように、星が瞬くように、僕はずっと君を見ている。ずっと一緒だ」

「ヒカル…」

「無理して明るく振る舞うんじゃなく、素のままの自分で皆に接してみなよ。大丈夫、なんとかなるさ。僕は素の君といてとても楽しかった」

「だから…ちょっとだけお別れだ、カオル」

「ヒカル…また、遊ぼうぜ」

「うん、また遊ぼう。…またね、カオル!」

「またね、ヒカル!」




 

 僕は県内の大学に進学し仲の良い友達も出来、それなりに充実したキャンパスライフを送っている。

 薫は県外の大学に進学した。薫とはたまに連絡を取り合っている。あっちも新たに友達ができたらしく

元気な声を聞かせてくれる。

 薫と話していると薫の元気な姿が見たくなってくる。それは向こうも同じようで、今度の休みにこちらに帰ってくるそうだ。

また昔みたいに語り合えるのだろうか。物凄く楽しみだ。

 

                      <END>


読了ありがとうございます。稚拙な文で読み難かったかもしれません。申し訳ないです。

誤字・脱字、あるいは日本語がおかしかったりするところがあれば、ご指摘よろしくお願いします。

また、感想もお待ちしております。

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