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終末ヒロイン 乙とZ  作者: 王様もしくは仁家
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プロローグ(新)

※プロローグを新しく作り変えたので、以前のプロローグだったまどかの寮日誌6日分は第一章・1の冒頭へ移動しました。

 街は沈んでいた。

 見渡す限りの霧の底へと。

 まるで水槽の中に白い絵の具を垂らしたかのように、白く濃い霧は何重もの層となって街中の隅々までを侵食していた。


 白い闇――

 まさにそんな表現が相応しい。

 昼日向にも関わらず上空に輝く太陽の光は厚い層に遮られていて、地上には曇天の日の朝焼けのように弱弱しい光しか届かない。


 この街は死んだように静まり返っている。

 いや、霧の中で微かに何かが蠢いていた。

 低いうめき声と引きずるような足音が、微かに霧の中から聞こえてくる。

 人のようなそれは一体ではなく無数にいたが、この濃い霧がそれらの姿を白い闇の中へと閉じ込めていた。


 そして四つの人影が同じように霧に紛れて道路上に乗り捨てられた車の列の間で身を潜めて、周囲の霧に神経を張り巡らせていた。

 その四つの人影は見るからに小さくて、細くて、弱弱しく、そして異様だった。


 全員が同じ赤色の学校指定のジャージを着て、その上から白色のマントのようなポンチヨのような白い大きな布を纏っている。そして頭にはこれまた白色に塗られたバイク用のジェットタイプのヘルメットを被っていた。

 その四つの白い塊が車の影に隠れて固まっていると、周囲の霧と同化してしまい判別が難しくなる。


 そして四つの白いヘルメットの透明シールド越しに見える顔は皆幼くて、十三歳から十六歳くらいの少女ばかりだった。彼女たちの姿を異様に見せていたのはヘルメットの装飾にも理由がある。それぞれにフェルト生地で作られたイヌ耳、ネコ耳、ウサ耳、一角獣の角が付いているからだ。


 更にその彼女達の傍らにはリヤカーが置かれていて、その中にはステンレス製ドアやベニヤ板、アルミ缶などが雑多に積まれていた。彼女達は車の陰で一列に並んで身を潜めていて、その並び方から役割分担されていることが窺い知れた。一番先頭で松明を構えているイヌ耳が斥候兼リーダーで、ネコ耳とウサ耳がリヤカーを担当、殿の一角獣が後衛と言ったところか。

 車の陰から半分身を乗り出して前方に広がる霧を注視していたイヌ耳が、さっと片手で合図を出した。


「――左斜め前方二つ」


「はい!」


 その合図を元に殿の一角獣が持っていた刺又(さすまた)を地面に置いて、肩にぶら下げていた弓と矢を構えると、今度はそれに合わせてウサ耳が用意していたガムテープで矢に防犯ベルを巻き付けて、さっとヒモを引く。


 と、同時に一角獣が浅い角度で矢を放った。

 けたましいベルの音を響かせながら矢が霧の中へと吸い込まれていくと、一角獣はすぐさま同じように防犯ベルが巻き付けれられた矢を、今度は同じ方向に高く放つ。


 一方向の近くと遠くで防犯ベルの音がけたましく鳴り響いていると、霧の中から聞こえていたうめき声や足音がその音に引き寄せられて移動して行った。

 引き潮のように周囲から不穏な気配が消え去って静寂に包まれると、


「前進駆け足――」


 と、すかさずイヌ耳が掛け声と共に車列を飛び出していき、その後をリヤカーを引っ張るネコ耳とウサ耳、最後を一角獣が続いて霧の中へと消えていった。

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