四章
今、目の前にいる式神のナオキは美味しそうにチョコレートパフェを食べている。
なぜこうなったのか?
彩香とナオキは新幹線に飛び乗って、京都に着いた。タクシーに乗り、ナオキの説明する住所にいった。
タクシーを降りて目にしたものはファミレスの煌々とした明かりだった。
「ちょっと、ここが御霊神社?」
「そうだよ」
「そうだよじゃないでしょ。これのどこが神社なのよ」
「しょうがないよ。千年もたてばいろいろと変わっちゃうからね」
「あんたこのこと知ってたの?」
「千年も生きてるといろんなところに行くからね」
「じゃあ、烏石はどこにいっちゃったの?」
「知らない。それよりもパフェが食べたいよ、お姉さん」
「何がパフェよ、まったく」
夜も更けてきた。こんなところで言い争ってもしょうがないと思い、彩香達はファミレスに入っていった。
店員の女の子が笑顔で二人を迎える。
「いらっしゃいませ。お二人でよろしいですか?御煙草はどうなされますか?」
なんだか、無性に腹が立ってきた。
「ねえ、ナオキ。これからどうするのよ」
パフェを食べ終わったナオキは満足そうな顔をしている。
「わかんない」
「あんた、その烏石ってやつを守っていたんじゃないの?」
「べつに」
頭を抱える彩香だった。顔を上げるとちょうど珈琲の御代わりを注ぎに来た店員と目が合った。
「ちょっと聞きたいんだけど」
「はい、なんでしょうか?」
夜のファミレスには似合わない清楚な感じの女の子。
「ここに、昔、御霊神社っていうのがあったらしいんだけど知らない?」
「さあ、上御霊神社ならもう少し上がったところにありますが・・」
彩香はナオキに向かって問いただした。
「ねえ、もしかしてあんたの記憶違いじゃないの、ここは」
「そんなことないよ。確かに場所はここだもの」
彩香は店員に続けて聞いた。
「烏石って知らない?」
「烏石ですか」
少し考え込むようにして店員は答えた。
「私自身は京都の出身ではないので関係あるかどうか知りませんが、昔、私の先祖が烏石をこの京都で御守りしていたと聞いたことがあります」
「それほんと?」
「はい、そのせいなのか知らないのですが、私の苗字は烏守というんです」
なるほど、名札にも「烏守」の文字が書かれている。
つまらなそうにしていたナオキが何かを思いついたようだ。
「ねえ、お姉さん。もしかして、体のどこかに痣がない?」
びっくりしたのは烏守と名乗る店員のほうだ。
「なに、急に。あの・・・」
「ねえ、あるの?」
「・・・あるにはあるけど」
「もしかして、三本の足跡みたいな」
「何でそれを知っているの」
彩香は黙って2人の会話を聞いていたが、徐にナオキの頭をぽかりと殴った。
「わけのわからないナンパなんてしてないで、説明しなさい」
ナオキは頭をさすりながら彩香に説明を始めた。
「たぶん、烏石はこのお姉さんの体に封印されているんだと思うんだ」
「封印?」
烏守と彩香は大声を上げた。
「何のことが説明してくれませんか?」
今度は烏守が険しい顔で尋ねた。
彩香は自分の鬼成り狩り以外をかいつまんで説明した。
彩香の説明を聞いていた烏守は時計をちらりと見て言った。
「あと、10分ぐらいで仕事が終わるのでそのあともう少し詳しく聞かせていただけませんか?」
彩香たちは頷いた。
15分ほどして烏守は黒いワンピースに黒のカーディガンといういでたちで現れた。
「お待たせしました。改めて自己紹介を。私は烏守美紀といいます」
彩香は慌てて姿勢を正し、それに答えるように自己紹介をした。
「え、私は巫と書いてかんなぎ、巫 彩香」
「巫女と何か関係があるのですか?実は私の実家は神社なんですよ」
「いや・・・何の関係もないと思うよ。ごく普通の会社員の娘だから」
「そうなんですか・・・それにしても珍しい苗字ですね」
「子供の頃はよくそれでいじめられそうになったけれど、返り討ちにしてやったらそれ以来、友達も出来なかった」
「なんか複雑ですね」
美紀は腕組みをして頷いていた。
「それはそれとして、ナオキ、どうするの?」
ナオキはあくびをしながら言った。
「僕は知らないよ。主人の卜部清里様は石を人の体に封印するなんて出来るはずないよ。そんなに有名な陰陽師じゃなかったし」
「じゃあどうするの」
そこに口を挟んできたのは美紀だった。
「私の家というか神社に古くから伝わる歌があるんですが、聞いてくれますか?」
やたさん、やたさん、どこ行くの
神さんの使いで都まで
やたさん、やたさん、都の着いたら何するの
火雷神をお隠し申す
やたさん、やたさん、かくれんぼ
錠の足跡一つ常世に残す
やたさん、やたさん、鍵はどこ
鍵は焔の剣なり
刺して引けば扉が開く
「こんな、歌なんですが」
「やたさんってもしかして八咫烏のこと?もしかして、これって、封印の開けかたじゃないの」
ナオキは喜々としていった。
彩香は頭を抱えていった。
「じゃあ、錠はどこにあるのよ」
「だから、美紀お姉さんの痣だと思うよ」
「ちょっと待ってよ。もしかして、私のナイフで痣を刺すということ?」
「そうそう」
ニコニコしてナオキは言った。美紀は少しうろたえている。
「ナイフで刺すんですか?」