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参章

目の前に現れた男は色白で細身。背は彩香よりも少し高いくらい。神主のような、まあ、それに似た白い着物を纏っている。頭には烏帽子のようなもの。手にはしゃく。まるで平安朝の貴族そのもの。

「ささ、こちらへどうぞ」

その男に案内されるままに廊下のようなところを歩いている。

「あなたは誰なんですか」

彩香は強い口調で聞いた。

「まあ、こちらでゆっくりとくつろいでくだされ」

見ると、目の前にある部屋の中に座布団のような敷物のような物が置かれている。

男はゆっくりと座り、手招きしている。

「まあ、立って話をするのも疲れよう。ささ、こちらへ」

彩香はその男の言う様にそこへ座った。

「まずは突然の誘いの無礼をお詫びいたします。私は卜部清里と申すもの。そなたの生まれる前の時代、平安の世に生きていた者でございます」

「平安?千年も前の人がなぜここに?」

卜部清里と自己紹介した男は笑みを浮かべている。

「いやいや。これは気の強そうな女子じゃ。簡単に説明するならば、私はすでに死んでいる者であり、呪詛によって本の中に残る残留思念のようなものです。あなたが手を添えたあの本です」

「幽霊?」

「まこと、面白いことを言う女子じゃ。名はなんと申す」

「名前。名前は佐々木彩香」

「ほう、彩香殿か。いやいや、やっとであった」

「やっと・・・なに」

「そなたが焔喰いということは私の式神から聞いたと思うが、私はそなたが現れるのを今か今かと待っていたのだ」

「待っていたって・・・なぜ」

「もうすぐ、そなたの時代に悪しき影が現れる。それはこの世を混沌に満ちたものにするものだ。今はまだ封印が解けていないが、もうすぐ、それも解け、おぞましいものがそなたの世界に這い出していく」

「おぞましい?封印?あなた千年前の人間でしょ。何でそんなことがわかるの?」

卜部清里は少し暗い顔をした。したように見えた。

「悪しき物の名前は『蝕』と呼ばれているものだ。形などはなく、あえて言えば影。そなたの前に焔喰いとなったものが、彼の地に封印したものだ」

「私の前にも焔喰いがいたの?」

「悪しき物が現れると、焔喰いが現れて、これを封印する。太古の昔から延々と続いていることだ」

彩香はネットが氾濫し、電話がケイタイに変わった自分の世の中に、昔の妖怪が現れるなんて信じることも出来なかった。

卜部清里は「蝕」について彩香に語り始めた。

最初は人が人を殺すことで現れる焔についてだ。焔とは人の魂が炎の形に具現化した物。人を殺せば殺すほど殺した側の体の周りにまとわり付く。

ある程度の数の焔が集まると飢餓が生まれる。そして、焔人同士での殺し合いに発展する。

焔の数が108を超えるとその色が黒く変色する。これを「鬼成り」という。

「鬼成り」になると焔はますます、飢餓がひどくなり、宿主を食らいはじめ、最後には黒い焔だけが残る。これが「蝕」である。

「蝕」は他の人に取り付き、その身を食らう。

「蝕」になった焔を倒すすべはない。「双面の鏡」というものに封印するしかないのだという。

話を聞いていた彩香は卜部に尋ねた。

「黒い焔は大体わかったけど、私の紫の焔は何なの?」

「まあまあ、せっかちな女子よのう。それはこれから話すつもりでおったのに」

卜部は苦笑しながら話を進めた。

「焔喰い」が喰う焔とは「鬼成り」の黒い焔だ。喰うといっても口でバリボリと喰うのではなく、刃物によって焔と人とのつながりを絶ち、刃物を通して自らの焔に変えることだという。

そして、出来た紫の焔を使って作り出すのが「双面の鏡」であり。これは合わせ鏡のことであり、そこには無限の空間が閉じ込められていて「蝕」を封印することが「焔喰い」の使命だと卜部は言った。

一通りの説明が終わったあと、彩香は卜部に向かって不機嫌な顔で言った。

「で、私に何をしろというの」

卜部は困った顔で答える。

「だからの、『蝕』を見つけ出して封印して欲しいのだ」

「じゃあ、私が殺していた人は何なの?」

「あれは『鬼成り』だと申したではないか」

「うーん、まだよくわかんないなー」

「詳しいことは式神の持っている本に書いてある。それを読めばわかるはずだ」

「だから、あの本に書いてある宇宙語みたいな文字は私にはわからないんだってば」

「なんと、宇宙語なんぞではない。れっきとした日本語だ」

「私あんまり頭よくないから、日本語でも古くなるとわからないんだよ」

依然、困った顔の卜部だったが、不意に顔をほころばせた。

「そうじゃ、そうじゃ、忘れておったわ。焔玉を渡せばいいのだった」

「焔玉?」

「前の焔喰いが身に着けていたもので、代々の焔喰いの記憶が封じ込められた宝玉だ。京都にある御霊神社の境内にある烏石の中に封じてある。そなたの刃物を当てれば中から取り出せるはずじゃ。すぐに行って取ってまいるがよいぞ。さすれば、後の事は本を読めばわかるはずじゃ」

卜部は満面の笑みで煙の彼方に消えていった。私はまた霧に包まれたあと、あのベンチの前に戻っていた。

「ちぃ、食えないおっさんだな」

彩香は思ったことがつい口に出てしまった。

本の世界から戻った彩香は目の前にいる式神の男の子に名前を聞いた。

すると「そんなものないよ」と笑いながら答えた。それでは何かと都合が悪いから彩香は思いついた名前で式神を呼ぶことにした。

「今日からあなたの名前はナオキにするわ」

「へー、ナオキか。いいねそれ。うん、いいな」

「で早速だけど、京都にある御霊神社の場所、知っている?」

「うん、知ってるよ。あそこは今も道が碁盤の目のようになっているからわかると思う」

「それじゃあ、道案内をお願いするわ」

「えっ、今からいくの?」

「当たり前でしょ、今なら京都行きの最終の新幹線に十分間に合うでしょ」

「行き当たり、ばったりの人生を歩んできたの?」

ぼかっと頭を殴られる式神だった。


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