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次章

「順を追って説明するから、その物騒なものはしまってくれないかな」

男の子はそういうとナイフを指差した。

彩香はまだ得体の知れない男の子にナイフを向けていた。男の子は手を前で合わせて、拝むようなポーズをとった。

「お姉さんには何の危害も加えないって約束するからさ」

彩香は静香にナイフをポーチにしまった。

「よかった、これでやっとお話が出来るね」

「話ってなに?」

「早々、まずは焔から。焔っていうのは火の塊みたいなものなんだ」

「火の玉のこと?」

「半分正解で半分間違い」

「なにそれ」

「焔っていうのは人が人を殺すと殺した人の体の周りに現れるんだ」

「えっ、な・・なにそれ」

彩香の表情が硬くなる。男の子は悪びれもせず話を続けた。

「別にお姉さんのことを悪く言っているわけじゃないよ。昔からそうなんだ。でね、焔の付いてる人を焔人と呼ぶんだけど、僕はその焔人を探しているんだ」

「何で探すの?」

「焔を食べるために決まってるでしょ」

「食べる?」

男の子はニコニコして答えた。

「そうだよ。焔を食べないと僕、消えちゃうから」

「消える?」

「僕は式神なんだ」

彩香はぽかんと口を開けて男の子を見つめた。

「式神ってなに?」

今度は男の子の口がぽかんと開いた。

「えーと、陰陽師ってわかる?お姉さん」

「知らない」

男の子は頭を抱え、髪の毛をかきむしった。

「えっとね・・・昔の日本にいた御まじないをする人が陰陽師で、まじないで作られたのが式神。わかる?」

「なんとなく・・・」

「式神にも2通りあって、紙に呪詛を施したものと、物に呪詛を施したもの。僕は物の方だけど」

「ふーん」

彩香はわかったようなわからないような感じだった。

「お姉さん、ちゃんと聞いてよね。普通、式神は陰陽師が亡くなると消滅するんだけど、僕は焔を食べることで今まで生きてきたんだ」

「今までって、どのくらい前から?」

「大体、千年ぐらい生きてる」

「千年?そんなわけないでしょう」

彩香は顔の前で手を振った。

「まあ、式神だから生きているというよりも動いているといったほうが正しいのかな」

男の子は顎の下に手をやって、つぶやくように言った。

彩香はそんな男の子を見て微笑ましくなったのか少し笑ってしまった。

「で、その式神さんが私に何のようなの?」

男の子ははっとした顔で答えた。

「そうだ、忘れてた。実はお姉さんにも焔があるんだけど、色が珍しいなーと思って声をかけたんだっけ」

「色?」

「そう、焔にも色があるんだ。どんな風に人を殺したかで色が変わるんだ」

「私の焔は何色なの」

「紫色」

「それって珍しいの?」

「僕は始めて見るよ」

「他にはどんな色があるの?」

「赤や黄色、青、緑なんかがあるよ」

「赤い色はどんな殺し方をすると出来るの?」

男の子はベンチから足を投げ出して、ぶらぶらと動かした。

「色はね、喜怒哀楽によって変わるんだ。喜は青色で殺し屋とか軍人なんかに多いんだ。怒は赤色でヤクザみたいなのに多いかな。哀は緑。自分の身代わりに人が死ぬ時に出るんだけどあんまり多くない。最後に楽。これはいじめたり騙したり、とにかく悪いことをして人を殺すと出てくる。結構多いんだ」

「じゃあ、私の紫色は何?」

男の子は少しモジモジしながら答えた。

「たぶん、『焔喰い』だと思う」

「焔喰い?それ何よ」

「僕もよく知らないけど、何でも鬼の焔を食べるらしい」

「鬼?私そんなもの食べたことないわよ」

男の子は背中に背負っていたリュックを下ろし、その中から古い本を取り出して説明を始めた。

「ここに手を置いて」

それはテレビでよく見る昔の書物だった。藍色の表紙が紐で閉じられていて、別の白い紙になにやら題名のようなものが書かれているが、彩香にはそれは読めなかった。

「さあ、早く手を置いて」

「わかったわよ、これでいいの」

彩香はその本の表紙に手を置いた。そして、男の子はその上から自分の手を添えて口の中でごにょごにょと何かをつぶやいだ。

一瞬、自分の体が宙に舞ったのかと錯覚する彩香だった。周りの景色は薄暗い霧のようなものに変わっていき、今自分が何処に居るのかさえわからなくなっていた。

「これはこれは遠路はるばる、ようこそ御出でになられた」

少し声の高い男が目の前に立っていた。


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