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序章

そのとき、彩香は日課のジョギングをしていた。いつものコースを走り、いつもの公園のベンチで休憩をとっていた。水分補給のためのスポーツドリンクを飲み終わったとき、目の前に子供が立っていた。見た目は10歳ぐらい。小学校高学年か。じっと彩香を見つめていた。ベンチには彩香1人。周りを見ても他に人はいない。

「迷子?」

そんなことを考えている彩香に男の子が笑い顔で話しかけた。

「お姉さん、今までに何人殺した?」

それがナオキとの最初の出会いだった。

彩香の顔から表情がなくなった。すばやく、ウエストポーチに手をいれ身構える。

男の子の姿は消えていた。周りを見回すがどこにもいなかった。彩香はウエストポーチから手を取り出した。

「なに、あの子」

まさに、狐につままれたようなそんな出来事だった。

彩香はベンチから立ち上がり、また走り始めた。周りを注意深く探ったが、その日はもう、その男の子には会うことはなかった。

彩香は仕事場に戻った。彼女の仕事はカスタムナイフの製作者。世界的にも有名な作家だった。洗練されたデザインはもとより、その切れ味のよさが人気の秘密だった。特にさやかのナイフを世界中に知らしめたのはアメリカで起こった16人連続殺人の犯人が愛用していたという噂が流れてからである。いまや、彩香のナイフは一本百万から二百万の値段がついている。

彩香とナイフの出会いは大学生の頃。付き合っていた彼氏が大のナイフ好きでよくナイフの専門店に顔を出していた。

そのうち、自分で作れるキットがあることを知った彩香は彼氏へのプレゼントにしようと一つ作ってみたのが、ナイフ作りの最初だった。わからないところは店の店長が教えてくれた。出来上がったナイフはごくありふれたものだったが、店長がいたく気に入ってくれて、その後、店長の手ほどきを受けながら、ナイフ作りの世界へとのめりこんでいった。

注文や販売はその店がバックアップしてくれたので彩香はますます、ナイフ作りにのめりこんでいった。

彩香のナイフがとてもよく切れるのには理由があった。実地試験をしていたからだ。

つまり、彩香は自分の作ったナイフで人を試し斬りしていた。

彩香が始めて人を切ったのはいつのことかもう覚えてはいなかった。ただ、大学を卒業する年に子宮癌を患った。早期だったが、子宮全摘出。

そして、彩香は女でなくなった。無論男でもない。人間でもなくなったと感じた。

心のどこかにぽっかりと穴が開いたようだった。その穴に何かが入り込んだ。そう何か得体の知れないものが。

それに気が付いたのは病院を退院して三ヶ月ほどしてからだった。あるはずのない生理前のイライラや不快感。痛みこそなかったが、なにかを体が求めているようだった。

数日は我慢していたが、ある日の夜、彩香は自分の感覚が薄くなっていくのを感じた。まるで体と魂が離れていくような。けれども、体は彩香の意志に関係なく動き続けた。

暗い夜道を女が歩いている。さやかの右手には自らの作ったナイフが握られていた。

すれ違いざまに女の首筋に一条の光が走った。女は声も上げずにその場にたたずむ。首から赤い血が噴出すのを彩香の魂がぼんやり見つめていた。

それからは月に一回はそんな状態が続き、彩香は心に開いた穴にすむ鬼に支配されてしまったことを実感するのだった。

謎の男の子に会った次の日。彩香はまたあの公園に来ていた。昨日座ったベンチに腰掛けて辺りを探る。

「お姉さん、また来たね」

声のほうに振り返るとベンチの端にちょこんと座っている男の子がいた。

「あなた何者?」

「僕?そうだな・・・正義の使者かな」

笑いながら男の子は答えた。

彩香は腰のポーチに手を入れて自分の作ったナイフを取り出す。次の瞬間、男の子の姿はなかった。

「どこ、どこに行ったの」

「僕はここだよ」

声はさっきと反対のほうから聞こえる。

「そんなに殺気立たなくてもいいよ、お姉さん」

男の子はベンチのの反対側に座っていた。

「僕はお姉さんの焔に興味があってきただけだから」

「焔?」

それが何のことなのか、まだ彩香にはわからなかった。


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