1話 ボクのお話
この物語は、とても小さな世界の、とても小さな家族のお話です。
けれど、小さな世界の中にも、深くてあたたかい気持ちや、ちょっぴり痛くなるようなさみしさがあって、そんな日々をひとつずつ並べてみました。
スーッと目を開けたら、部屋の中が少しだけ明るくなってた。カーテンのすきまから光がちょっと入ってて、ボクはそれを見てすぐ思った。
――ママ、もうすぐ起きるかな?
そしたらほんとにママがそばに来て、にっこりして言った。
「モカ、お散歩行こ」
その声だけで、ボクのしっぽはバタバタしちゃう。
ボクはモカ。たぶんポメラニアン。
ママのお家に来て長くなるけど、
でも、ずっとママと一緒にいるよ。
ママの家に来る前のことはあんまり覚えてない。
ガラスのお家にいて、いっぱい人が見に来るけど、誰とも遊べなくて、ちょっとつまらなかった。
赤ちゃんだったから、細かいことはもう忘れちゃった。
でもね。
ママに初めて会った日のことは覚えてる。
その日、雨だったか晴れてたかは忘れちゃったけど、ママがドアから入ってきたのだけは覚えてる。
ゆっくり一人ずつ見て、ボクのところの少し手前で止まった。
その時、目が合ったんだ。
ママはちょっとビックリした顔をして、すぐに笑った。
それから隣のお部屋を越えて、まっすぐボクの前まで来てくれた。
赤ちゃんだったボクは、ママが何を言ってるか分からなかったけど、ガラスの向こうでママの口がパクパク動くのがおもしろくて、つい前足でカリカリってした。
なんだか遊んでるみたいで、もっと見たくなっちゃった。
その日から、ママはよく来るようになった。
前は入り口から順番に見てたのに、三回目くらいからは、いちばんにボクのところに来てくれた。
ボクと少し遊んだあと、いつもご飯のお姉さんと何かお話ししてた。
その時はよく分からなかったけど、きっとボクのことなんだろうなって思う。
そしたらね、ある日、ご飯のお姉さんが言ったんだ。
「もうすぐお迎えに来るよ」って。
ご飯を食べて、お昼寝して、ぱちって目を開けたら、ママがそこにいた。
どうやらボクが起きるまで待っててくれたみたい。
ママに初めて抱っこされたとき、ちょっと怖くて体がブルブルしちゃった。
でもすぐにママが頭をなでてくれて、
「大丈夫だよ。一緒にお家に帰ろうね」って言ってくれた。
ママのお家に着いたら、ボクのお部屋があったんだ。
ガラスの部屋じゃなくて、ちゃんと囲われてるやつ。
ボクは小さいから、そのお部屋はすっごく広く感じたよ。
ママといっぱい遊んで、つかれたらそこに戻って眠るんだ。
それがボクの新しい毎日になったんだよ。




