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婚約破棄したあとでずっと君がおれのことをどうでもいいと思っていると思っていたんだ。だからもっと意識してほしくて、わざと仲良くしているふりをしたんだと言われたけれどキスはフリじゃなかったので普通にアウト

作者: リーシャ

「ロズミィ、お願いだ! 別れたくない!」


 目の前で、国随一の公爵家嫡男であり元婚約者であるベッツ・モニュメリが床に膝をついて泣き叫んでいる。色素の薄いブロンドの髪は乱れ、空を閉じ込めたかのような青い瞳は涙でぐちゃぐちゃ、モデル顔負けのスタイルも今はひどく情けなく見えた。


「ベッツ様、もう終わったことです」


 冷たく言い放ち、一歩距離を取た。婚約は、すでに破棄されているのと、つい先日「好きな人ができたから」と切り出したのだが、今になり彼は別れを惜しんで泣いているが涙は苛立たせるだけ。なぜなら、泣く資格なんてこれっぽっちもないから。


 転生して早十八年、前世は、しがないお茶汲み係、気がつくと、伯爵令嬢ロズミィ・エイクチムになっていた。前世でハマっていた乙女ゲームの世界でベッツの婚約者としてヒロインをいじめる悪役令嬢で最終的にベッツに婚約破棄され国外追放される運命。


 運命を避けるため、ベッツとはつかず離れずの関係を築いてきた彼が他の女性と遊んでいても、見て見ぬふりをし。冷たくても、気にするそぶりを見せなかった。努力は、報われた、と思っていたけれど、ベッツとこの国のヒロインである聖女プリディアが森の奥で密会しているのを見てしまったのだ。


 二人は、楽しそうに笑い、手を取り合っていたベッツは、プリディアに優しくキスをした光景は、あまりにも美しくあまりにも残酷で。その場で二人に声をかけることはできなくて逃げるように家に帰った。家に帰ってからもベッツとプリディアの姿が頭から離れない、ひどく傷ついた。


 婚約をどうにか良いものにしたいとずっと考えていたし、優しくしてくれるたびに、もしかしたら、この婚約は、政略結婚なんかじゃないのかもしれない、と思っていたけど、違ったらしい。


 婚約を、ただの枷だとしかとしか思っていなかったのだろうけど、もう隣にはいられないとベッツに、婚約破棄を申し出た。聖女プリディアと結ばれることを願う。


「ベッツ様、私には好きな人ができました」


 ベッツは、驚いたような顔をして、好きな人のことを尋ねてくるから少し考えて、嘘をついた。


「騎士団長補佐の方です」


 ベッツは、目を丸くして、固まって言葉を信じ、婚約破棄に同意し、自分との婚約を破棄をして別の男と結ばれることを、悲しんでいるけど、婚約をどれほど軽く考えていたか知っていたからこそ、何も言わず場を後にした。


 騎士団長を好きな人にしたことと、嘘をついたのは深い理由がある。ゲームのシナリオ通りに、ベッツがヒロインと結ばれることを望み、国で自分の力で生きていくことを決め、始めたのは前世の知識を活かした、香水作り。

 様々な花やハーブを使い、オリジナルの香水を作ってしまうと、作る香水はすぐに評判になり、店は連日多くの客で賑う。店に、見覚えのある人物がやってきたのは騎士の男。


「ロズミィ様、ベッツ様から、お話をお聞きしました。貴方が私のことを、お好きだとか」


 顔が熱くなった。


「騎士様、それは、誤解です。私は、ベッツ様との婚約を破棄するために、嘘をついたのです」


 騎士は、少し残念そうな顔をした。


「そうですか……ですが、ロズミィ様、貴方の作る香水が好きです。貴方ともっとお話がしたいです」


 手を握り、真剣な眼差しで見つめ、優しさに触れて、心が温かくなって、それから店に頻繁に顔を出すようになった彼は仕事を手伝ってくれたり、話を聞いてくれたりした。

 過ごす時間が、とても楽しかったし、惹かれていき意外なことに、店にベッツがやってきたら静かに香水を眺めていた。


「ロズミィ……君は、本当に、おれがいなくても、幸せなんだな」


 ベッツは、寂しそうな声で言った。


「ベッツ様、貴方と別れたから、幸せになれたのです」


 目を丸くして、こっちを見た。


「ロズミィ、どうして……君は、おれのことが、好きじゃなかったのか?」


 思わず笑ってしまった。


「ベッツ様、貴方は、本当に、自分のことしか見えていませんね。貴方は、聖女プリディア様と、幸せになったのではなかったのですか?」


 ベッツは、顔を真っ赤にして、俯いた。


「ロズミィ……プリディアとは、もう、別れたんだ。彼女は、おれの地位や財産ばかりを気にする女性だった。おれは……君が、一番だったんだ」


 驚きと怒りを感じた。


「貴方は、聖女プリディア様と、楽しそうに笑っていました。貴方は、聖女プリディア様に、キスをしました。それなのに、今更、何を言っているのですか?」


 ベッツは、泣き崩れた。


「ロズミィ……ごめん。おれは、ずっと、君が、おれのことをどうでもいいと思っていると思っていたんだ。だから、もっと意識してほしくて、わざとプリディアと仲良くしているふりをしたんだ。でも……プリディアは、本当に、おれのことが地位も含めて好きになってしまったと脅してきた……逃げられなくなった」


 呆然とした。振り向いてほしくて、浮気をしたふりをした、というのだと身勝手さに怒りを通り越して、呆れる。


「ベッツ様、貴方は、本当にひどい人です。でも、貴方のおかげで、私は自分の力で生きる道を見つけることができました。本当に大切な人にも、出会うことができましたし」


 ベッツは顔を見て、絶望的な表情を浮かべた。


「ロズミィ……君は、本当に、おれのことなんか、好きじゃなかったんだな」


 泣きながら、店を去って行った後ろ姿を見て、複雑な気持ちになった。行動は、本当に身勝手だったけれど彼もまた、孤独だったのかもしれない男の涙に、もう心は揺らがなかった。


 その後、真剣にお付き合いを始め、女が仕事をすることにも理解を示してくれ、心から大切にしてくれて、やがて結婚することになり結婚式の日はこの国で、一番の幸せ者だ。

 ベッツは結婚式には来なかったが、手紙が届く。


「ロズミィへ。君が幸せそうで、本当に良かった。君の幸せを、心から願っている。ベッツより」


 手紙を読み、静かに微笑んだのち、彼の両親の方の家に送った。これを読んだ彼の親達は顔面蒼白か、顔面憤怒に彩られるだろう。


 ベッツは、もう心の中にはいないし生まれてくる子供と、幸せに生きていく。

 あの日のベッツの浮気は、己にとって人生を変えるきっかけだった涙ももう過去を振り返る必要はない、と教えてくれたのだから感謝したい。

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