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【番外編】貴方の名探偵はどこから?私は悪魔から。


「ア?舐めてんのかテメェ、脳みそトマス・ウォールかよ。どう見ても他殺じゃねぇか。証拠?は?死亡推定時刻が×××でズレて、あっちの〇〇〇のアリバイが崩れんだろ。あとはそっから▽▽で引っ張ってこいや。ったく、素人か?」

「メ、メフィスト……相手は国家公務員……刑事さんだからね、言葉遣いは丁寧に……穏便に……」


 君、不法滞在者でしょっ引かれるぞ、と、明智進はびくびくしながら自分の助手の服を引っ張った。明智の収入と、そもそもメフィストに支払っている月給ではどう考えても購入できない上等のスーツを纏った青年はッチと舌打ちして明智を振り払う。


 さて、毎度毎度、事件現場に遭遇するよ、明智探偵事務所。この一年そろそろ警察の方々に「お前たちが事件を呼び込んでいるんじゃないか」と疑われても仕方ないが、顔なじみになった刑事に対しメフィストのようになれなれしくはなれない明智はいつでもびくびくしている。


 今回の事件はふとメフィストが前々から目を付けていた「若い女性に人気の純喫茶店」に二人がやってきたことで遭遇してしまった。この店の店長がふと姿をけして、スタッフたちは訝りながらも店をオープンしないといけないと通常営業。午後二時半にスタッフの一人が遅れて届いた食用品を地下の倉庫にしまおうと向かい、悲鳴が上がった。倉庫の奥で店長が首を吊っていたという。


 どう見ても自殺だったのだが、遺書がない。念のため事件性はないかと調査し、荒らされた痕跡や争ったような跡もなし。店は毎日店長が最後まで残るが、スタッフたちは出るときに自分の持つ鍵で店の出入口を閉めて帰る。当然警察は「念のため」と店の鍵を持つ従業員にも聞き込みを行う。この時点で自殺だろうとある程度の見当がつけられていた。司法解剖の結果はまだだが、スタッフたちの話によれば、SNSで人気になったものの長居する客の多い喫茶店では利益が出しづらく、駅から近い場所にある店舗の賃料も上がり、最近の物価高の高騰により収支のバランスが崩れて店長はスタッフに何人か辞めてもらうことになるかもしれないとこぼしていたという。


 遺書はないが、店長の個人的なSNSのアカウントらしいものは見つかった。そこには映えを重視する若者が純喫茶の本来の良さを理解していない不満や、そんな若者たちに依存しなければならない自分への嫌悪感などが綴られていた。それを知ったスタッフたちはショックを受け、店長は本当はもっとゆっくりと、珈琲を味わう空間を大事にしたかったのかと、若者に受けるようなメニューや発信を行っていたスタッフたちは後悔に見舞われた、とそういう状況。


 純喫茶を愛する故の葛藤と、苦悩、店長の孤独、これは完璧な自殺だな、とそういう空気になっていたころ「おいおい、いつになったら俺のストロベリーサンデーは来るんだ?」としびれを切らしたメフィスト・ドマが乱入した。


 一応明智の目を通して一部始終を見ていたメフィストは「うちの引っ込み思案な先生の代わりに、ちょいと聞きますがね」と一人一人にアリバイ確認をした。自分が疑われるのかなど、本来なら非協力的になりそうなものだが、不思議なことに容疑者にされたスタッフたちは皆「メフィストさんが知りたいなら」と初対面であるはずのこの外国人に、とても親切丁寧に自分の行動を語った。


 と、まぁ、これは明智にとっては驚くべきことではない。この一年、こんなことでは驚かなくなった。そして警察の方も心得ている。明智進と、このどこの国の人間だかわからない、黒い髪に黒ぶち眼鏡の長身の男性が「おいおい、てめぇらの目はお飾りか?」と金の目を光らせて介入すると、何か起きるのだ。


「うっ、う、うぅっ……仕方なか……仕方なかったんです……だって!店長……奥さんと別れて私と結婚してくれるって……!!」


 そうして今回も、やはりというかなんというか。暴かれた真相。暴かれた真犯人の独白は、素知らぬ顔で聞き流すメフィストと、その犯人の隣に寄り添い「そうか、辛かったんだね……愛していたからなおさらだよね……」と傾聴する明智が生まれる。警察は「あー、他殺だったのかー。間違えなくてよかったなー」という派と「いい加減あの探偵どもを出禁にしろ」面目丸つぶれ派にわかれ、事件は事後処理がされていく。


「あ、あの、探偵さんと助手さん、ありがとうございます……私の罪を暴いてくれて……!最後に、私にストロベリーサンデーを作らせてください!」

「いや、そうはならんだろ」

「え、駄目だろ〇〇〇ちゃん、君、めちゃくちゃ犯行にストリベリーサンデー作って利用してたんだよね??」

「試作品だって店長に食べさせたそれで血糖値上がって眠くなった店長をやっちゃったんだよね??」

「それ食べさせるって正気??」


 最後に喫茶店スタッフとしてお仕事したい!と希望と誇りに満ちた目で名乗り出る犯人に、警察、スタッフが突っ込みを入れるが、明智は首を傾げて隣の助手を見た。


「どうする?メフィスト」

「あ?そりゃ当然食うだろ。この〇〇〇が作ったってやつがバズってんだからよ。写真撮って食って感想用意するまでが目的だ」

「だよねぇ~」


 うんうん、と明智は頷き、そうして殺人犯の〇〇〇が最後に丹精込めて作成したストリベリーサンデーを二人は堪能した。





 そうして犯人が連行され、明智達も事務所に帰ることになる。メフィストは様々な角度から撮った写真の確認に余念がない。


「ちゃんと撮れた?」

「おう、ばっちりよ」


 嬉々としているメフィストは、何も甘党というわけではない。彼自身は珈琲はブラックを好むし、食べ物も素うどんや掛けそばのようなものを良く食べている。


「これでいつでも俺のカッサンドラに「えー、メフィストすごい!ここのお店いった事あるんだ!いいなぁ!」って話ができるぜ。こっちの若い女ってのはこういうのが好きなんだろ?」

「まぁ、フルーツパフェを憎んでる女性は少ないんじゃないかな」

「鼠の国の海の方にゃまだ行ってないが、あの辺も制覇しとかねぇとな」

「あぁ、ちゃんとエスコートできるように練習か……さすがに僕は付き合わないぞ」

「そりゃねぇだろ、雇用主。俺の頼りはアンタだけなんだぜ?」


 都合のいい時だけ雇われ人、孤独な異世界人の顔をするメフィストに明智はくらっと、ほだされかける。だが一年の付き合いだ。この美貌の男は自分の言動、目くばせ指先の動き全部、意図があって行っていることをわかってる。


「君、あれだろ。そのカッサンドラちゃんに「他の女と行ったんだ……ふーん」って思われたくないから僕を誘うんだろ」

「そりゃそうだろ。なんで俺が他の女と夢の国に行くんだよ」


 ははっ、とメフィストが笑った。笑うと少年のような顔になる。明智は「んんっ」とほだされそうになる自分をぐっと堪えた。


 と、そこにスマホの通知。


「誰からだ?」

「従妹だよ。さっきのパフェの写真、送ったんだ。あんまり家から出ない子だからさ、こういうので興味を持って外に出ようって考えてくれたらいいんだけど……」

「ふーん」


 メフィストは興味がなさそうである。

 まぁ明智もメフィストに可愛い従妹が興味を持たれたくはないし、そもそもカッサンドラとかいう女性のことしか頭にないので、それもないだろうが。


 従妹からは「わぁ、カロリーの暴力。お兄ちゃん頭いいもんね。そういうの食べて推理とかはかどるんだ?」と返って来た。


 それに何か返信をして、明智は繁華街の夜道を進むメフィストの背中を見る。


 突如として明智の前に現れた得体の知れない男。

 自分はこの世界の人間ではないと言い、実際にいくつか手品とも思えない技を披露してみせた。明智は幼いころから「名探偵に僕はなる!」と憧れ、一流大学を卒業し大企業に勤めたのをあっさり退職して構えた探偵事務所。浮気調査か迷子のペット探しくらいしかなかった自分にまるで小説のような日常をもたらすようになった悪魔のような男。


 明智はメフィストを「探偵助手」にし、メフィストはその目で多くの真実を容易く暴いた。時には暴くべきではなかった人の心の闇まで無遠慮に暴き、ずかずかと土足で踏み荒らすこともあったが、それらのフォローは全て明智が行って来た。


 メフィストの目的はただ一つ。カッサンドラという、彼に最愛の女性を見つけることだという。

 この世界にいるらしい女性。本名も外見もわからない。ただ「絶対にいる」「だから見つけ出す」という。そのために情報収集ができる明智の元に身を置いているようだった。


 そうしてメフィストに自分の人生をひっちゃかめっちゃかにされて一年。明智は「いつかカッサンドラちゃんが見つかったら」とその時のことを考える。


 異世界人で、この世界に身よりもなく、戸籍もない、何一つよりどころがないというのに、堂々と世界を歩き、他人に関わり、あっさり離れていく男。


 明智は善良な人間だった。善行を当たり前に行いたいと思う人だった。だから、メフィストがカッサンドラを見つけられるといいと思う。それは間違いない。

 ただその時、ちょっとだけ、自分は寂しいな、と、そう思うくらいはいいだろうかと、一年こうして相棒をしているのだから「見つかってよかったね、おめでとう」と、言いながら「君がいなくなると、寂しくなる」と言おうと、そう思っていた。





2026年1月17日、KADOKAWA様より改題し本作「ドマ家の悪魔」が発売です。

活動報告に特典情報記載しましたのでよければご確認ください。

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2026年1月17日 KADOKAWA 電撃の新文芸より 改題頂き「ドマ家の悪魔 ~ドマならば一度はやりたい国家転覆~」として書籍化の運びとなりました。 ドマ家
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