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→花:裏切り


「詳細は省きますが、このままだと貴方は死ぬわよ」

「……そこは、省いていいのか?」

「そこでメフィストに貴方の護衛をして貰おうと思って。衣食住は提供してくれる?」

「ドマ公子、彼女は人の話を聞くという習慣がないのか?」


 ルイス・ロートンはなぜだか私に対して不審な目を向けた。


 私はミッションを成功させるために、まずルイス・ロートンの生存ルートの確保が必要だと考えた。けれど嵐の擬人化のようなルシウス・コルヴィナス相手にどこまでちゃんとやれるのか心配だ。そこでメフィストが「ようは、あいつを死なせなきゃいいんだろ」と面倒くさそうに言いつつも、ルシウスの撃退を提案してくれた。曰く、殺せないだろうが怪我をさせて追い返すくらいならできるだろう、と。いや、殺さないでほしい。


「衣食住……だがここは、公爵家の嫡男を迎えられるような場所じゃないぞ」

「貴方だって公爵家の人間じゃない」

「俺は次男だ」


 扱いが違うものだろうとルイスは言う。しかしメフィストはズカズカとルイスの寝起きしている部屋に入り、窓やベッドの位置などを確認して首を傾けた。


「もう一人分くらいならベッドが入るだろ」

「こんな所で寝起きする気か!?」

「男が寝るのに一々天蓋付きのベッドなんて必要なのか」


 ベッドの硬さに拘りもない、なんなら床で寝てもいいぞ、とメフィストは言う。


「ドマの公子が……?」

「貴方、自分が他人と寝起きするのは嫌じゃないの?」

「……元々、卒業したら騎士団の宿舎に入る予定だったんだ。そういうものに抵抗はない。どちらかといえば、ドマの公子の方が潔癖症な印象があったんだが」


 なんとなく言わんとしていることはわかるが、潔癖症な人間は死体とか触らないと思う。






「飽きちゃった?」


 ルシウス・コルヴィナスが部屋に戻ると、いつやってきていたのか長い耳をしたエルフの知己が貴族の部屋で酒を飲んでいた。


「……」

「動いて笑って喋ってるヴィクトリアの姿を見ていたら君の憎しみは薄れただろうね」

「あれはヴィクトリア様ではない」

「でもとてもよく似てる」


 人間というものはいつまでも憎しみの心を抱いていられないものだとマーカスは指摘した。炎のように嵐のように一息にこの王都の連中を焼き尽くさなかったルシウスが悪いとも言う。


 エルフは友人の心境の変化を本人以上に察していた。そもそも元来が人を憎しみ続けられるような気質の男ではない。たとえばマーカスが、クリフトン伯爵家にて毒々しい華のように振る舞った赤い髪に青い令嬢の姿を見て「ちょっとすっきりした」と感じたものを、ルシウスが一ミリも感じていなかったとは思えない。


 憎悪はあるのだろう。怒りも同じく。だが、ルシウスの中でカッサンドラと名乗っている少女、ヴィクトリアの姿をした生き物が堂々と「お前たちの罪を裁きに来たぞ」と舞台に上がり、彼女を見くびった連中に指を突きつけていくのを「阻止する」「邪魔する」選択肢が薄れている。


「それどころか君はあのヴィクトリアが戦う姿を観たいと思ってる」

「あれはヴィクトリア様ではない」


 失った、もう二度と蘇らない存在であることを、ルシウスは唇を強く嚙みながら繰り返した。


「君は怒っていたし憎んでいたし、その勢いは凄かっただろうね。でも、今は違う。君は怒り続けることができなくて、勢いを失った炎は次に君を傷つけた。違う?」


 ようは、ここにきてやっとルシウスは悲しむ時間ができたのだとマーカスは告げる。自分自身が傷ついていることを、善良なラ・メイ伯爵夫妻がむごたらしく殺されてショックを受けた自分を、名付け子をこの腕の中で見取った悲しみを、何もできなかった自分自身の無力さを、ここにきてやっと感じる時間が出来ただろう、と。


 ルシウスは膝を付いた。違うと何度も首をふり、そんなことをしている暇はないと、そんなことに耽るつもりはないとマーカスの言葉を否定する。


 ぽんぽんとエルフは友人の肩を叩いた。


「でも君は今、暖かい部屋で柔らかい絨毯の上にいる。泥まみれになって報復に駆けずり回る悪鬼じゃないじゃないか」




GWいかがお過ごしでしたか。私は仕事でした。

それはそれとして、この時代ではないですが

ドマ家のご令嬢が主人公の「千夜千花物語~呪われた王弟殿下と飛んで火にいる夏の悪女(旧なろうタイトル:不貞を理由に離縁されたら王弟殿下が間男だと名乗り出ました」)の書影が出ました。

書籍書き下ろしはドマ当主も出てきます。やったねドマ家。商業デビューだ。

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